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第一章
第28話 暴かれた真相
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ノオンが見せてくれたのは手紙の内容を入れ替える呪術だった。
しかも例の特殊性癖魔女が教えてくれたというもの。
意外に良い事も教えてくれているじゃあないか。
「【シャンカナ】って確か、夜伽の時に使う香料油だよねぇ。確かに、それじゃあまず皇国兵は使わないだろうなぁ」
「うん。これなら魔法探知にも掛からないし、術式が複雑だから誰も見つけられない。こういうシチュエーションには持って来いの伝達法だろう?」
だから部屋がこんなに甘い香りで充満していたのか。
通りでさっきから胸がゾワゾワする訳だ。
にしても確かに、これなら真実を伝えるのに都合良い手段だろう。
兵士が仕事中に媚薬香を焚く訳にもいかないしな。
ただこれって……もしかしてだが。
魔女はドゥキエル家の祖先と添い遂げたかったんじゃないか?
だとすると、なんだか魔女伝説の流れが予想出来るんだが。
例えばこう。
魔女はドゥキエル家の祖先の男と添い遂げたくて懇意になった。
色々尽くしたり、こんな呪術で気持ちを伝えたりで。
だけどその恋が叶わず発狂し、挙句の果てに特殊性癖に目覚めて。
その末に男しか産まれなくなる呪いを掛けた、と。
だとしたら魔女よ、不憫だったな。
結ばれなかった原因は今なお一族に受け継がれている様だぞ。
「おまけにこの方法は父上とボクだけしか知らない。小さい頃よりこの方法で父上から何度も愛していると伝えられてきたのさ!」
「今はその話はよそうか」
ほら、こうしてな。
だがなノオンよ、そうやってドゥキエル家の特殊性癖設定を増やすのはよせ。
しかもそれ、一歩間違えていたら世間的に色々と不味い事実だろう。
俺の考え過ぎであればいいな、ほんと。
「さぁ出来てきたよ。これが父上の伝えたかった真実みたいだ」
そんな思考を巡らせている間に、とうとう真実の形へと戻ったらしい。
それで早速ノオンが読み上げてみれば―――
「〝我が愛しのラブリープリティーマイスィートノオンちゃんへ〟ほらね?」
開幕からおかしい。
あとノオンよ、だからって歯を輝かせてサムズアップするのはよせ。
なんでお前はここでそう自信満々になれるんだ。
「いいから続きはよ」
「んもうアークィンは相変わらずせっかちだなぁ。どれどれ――」
もう耐性が付いてきたからな。
悪いが遠慮なくスルーさせてもらう。
今は大事な時というのもあるし。
それで、肝心の真文を読み上げる。
けど、その続きには誰も予想にもしていなかった事実が書かれていたんだ。
俺達が想像していた以上にずっと深刻で複雑な真実が。
〝前置きは仮文に述べた通りだ。
しかし今、皇国は第一皇子ヴェルストに乗っ取られつつある。エルナーシェ姫の死後、皇帝陛下が病に伏せたのを良い事に裏で動き回っていたらしい。
しかもその影にはお前の兄、長男ラターシュと次男カイオンが付いていたのだ。
三人は遂にはツァイネルをも甘言で謀り、忠誠心を利用して間者として青空界へと送り出している。このままでは先国との軋轢が生まれるのも時間の問題だろう。
だがもう誰にもヴェルスト達を止める事は叶わぬ。気付いた時が遅過ぎたのだ。今や陛下と第二皇子は幽閉され、私や宰相も自宅監禁状態だ。
それにヴェルストは三日後の【訪陽日】に密かと戴冠式を強行し、正式に皇帝となる。そして陛下と我々穏健派は偽りの責任を取らされ、処刑される事になるだろう。
だからノオンよ、お前は今すぐここから立ち去るのだ。そしてもう帰って来るな。自分だけの生き甲斐を見つけ、どうか幸せになっておくれ。
こんな手紙のやり取りで最後となる事を許して欲しい。 父ファウナーより〟
これだけで全てが把握出来た。
今起きている事、起きようとしている事の全てが。
そして、俺達がどういう状況にいるのかという事も。
「これは完全にしてやられたな……俺達はもう既に後手だ」
「待ちなってぇアークィン、一体どういう事なのさ?」
「つまり、俺達がツァイネル達を倒す事も、ヴェルストの奴等には想定済み――いや、計画路線の一部だったんだよ……!」
「「「!?」」」
俺達は嵌められたんだ。
青空界に〝内静かなる戦争〟を起こす様な事をさせるのも。
それを止める様な行動を起こす事さえも奴等の計画の内だった。
奴等は青空界に責め立てられる事を狙っていたのだ。
現皇帝が失政を犯すその瞬間をな。
そして、ヴェルストが反旗を翻して政権を奪う為に。
すなわち、今起きているのは〝内静かなる戦争〟ではない。
決して産業組合との内戦でもなければ、法改正などでもない。
「今起きているのは〝内静かなる反旗〟だったんだ……!」
そう、今起きているのははヴェルスト達の反旗なんだ。
現皇帝勢力を一網打尽にして乗っ取る為の。
その末に、自分達にとっての理想の国を造り上げるつもりなのだろう。
そうなった場合、もはや先は予想出来ない。
好戦的で狡賢い王のやる事など、もう想像するにも堪えがたいからな。
しかも例の特殊性癖魔女が教えてくれたというもの。
意外に良い事も教えてくれているじゃあないか。
「【シャンカナ】って確か、夜伽の時に使う香料油だよねぇ。確かに、それじゃあまず皇国兵は使わないだろうなぁ」
「うん。これなら魔法探知にも掛からないし、術式が複雑だから誰も見つけられない。こういうシチュエーションには持って来いの伝達法だろう?」
だから部屋がこんなに甘い香りで充満していたのか。
通りでさっきから胸がゾワゾワする訳だ。
にしても確かに、これなら真実を伝えるのに都合良い手段だろう。
兵士が仕事中に媚薬香を焚く訳にもいかないしな。
ただこれって……もしかしてだが。
魔女はドゥキエル家の祖先と添い遂げたかったんじゃないか?
だとすると、なんだか魔女伝説の流れが予想出来るんだが。
例えばこう。
魔女はドゥキエル家の祖先の男と添い遂げたくて懇意になった。
色々尽くしたり、こんな呪術で気持ちを伝えたりで。
だけどその恋が叶わず発狂し、挙句の果てに特殊性癖に目覚めて。
その末に男しか産まれなくなる呪いを掛けた、と。
だとしたら魔女よ、不憫だったな。
結ばれなかった原因は今なお一族に受け継がれている様だぞ。
「おまけにこの方法は父上とボクだけしか知らない。小さい頃よりこの方法で父上から何度も愛していると伝えられてきたのさ!」
「今はその話はよそうか」
ほら、こうしてな。
だがなノオンよ、そうやってドゥキエル家の特殊性癖設定を増やすのはよせ。
しかもそれ、一歩間違えていたら世間的に色々と不味い事実だろう。
俺の考え過ぎであればいいな、ほんと。
「さぁ出来てきたよ。これが父上の伝えたかった真実みたいだ」
そんな思考を巡らせている間に、とうとう真実の形へと戻ったらしい。
それで早速ノオンが読み上げてみれば―――
「〝我が愛しのラブリープリティーマイスィートノオンちゃんへ〟ほらね?」
開幕からおかしい。
あとノオンよ、だからって歯を輝かせてサムズアップするのはよせ。
なんでお前はここでそう自信満々になれるんだ。
「いいから続きはよ」
「んもうアークィンは相変わらずせっかちだなぁ。どれどれ――」
もう耐性が付いてきたからな。
悪いが遠慮なくスルーさせてもらう。
今は大事な時というのもあるし。
それで、肝心の真文を読み上げる。
けど、その続きには誰も予想にもしていなかった事実が書かれていたんだ。
俺達が想像していた以上にずっと深刻で複雑な真実が。
〝前置きは仮文に述べた通りだ。
しかし今、皇国は第一皇子ヴェルストに乗っ取られつつある。エルナーシェ姫の死後、皇帝陛下が病に伏せたのを良い事に裏で動き回っていたらしい。
しかもその影にはお前の兄、長男ラターシュと次男カイオンが付いていたのだ。
三人は遂にはツァイネルをも甘言で謀り、忠誠心を利用して間者として青空界へと送り出している。このままでは先国との軋轢が生まれるのも時間の問題だろう。
だがもう誰にもヴェルスト達を止める事は叶わぬ。気付いた時が遅過ぎたのだ。今や陛下と第二皇子は幽閉され、私や宰相も自宅監禁状態だ。
それにヴェルストは三日後の【訪陽日】に密かと戴冠式を強行し、正式に皇帝となる。そして陛下と我々穏健派は偽りの責任を取らされ、処刑される事になるだろう。
だからノオンよ、お前は今すぐここから立ち去るのだ。そしてもう帰って来るな。自分だけの生き甲斐を見つけ、どうか幸せになっておくれ。
こんな手紙のやり取りで最後となる事を許して欲しい。 父ファウナーより〟
これだけで全てが把握出来た。
今起きている事、起きようとしている事の全てが。
そして、俺達がどういう状況にいるのかという事も。
「これは完全にしてやられたな……俺達はもう既に後手だ」
「待ちなってぇアークィン、一体どういう事なのさ?」
「つまり、俺達がツァイネル達を倒す事も、ヴェルストの奴等には想定済み――いや、計画路線の一部だったんだよ……!」
「「「!?」」」
俺達は嵌められたんだ。
青空界に〝内静かなる戦争〟を起こす様な事をさせるのも。
それを止める様な行動を起こす事さえも奴等の計画の内だった。
奴等は青空界に責め立てられる事を狙っていたのだ。
現皇帝が失政を犯すその瞬間をな。
そして、ヴェルストが反旗を翻して政権を奪う為に。
すなわち、今起きているのは〝内静かなる戦争〟ではない。
決して産業組合との内戦でもなければ、法改正などでもない。
「今起きているのは〝内静かなる反旗〟だったんだ……!」
そう、今起きているのははヴェルスト達の反旗なんだ。
現皇帝勢力を一網打尽にして乗っ取る為の。
その末に、自分達にとっての理想の国を造り上げるつもりなのだろう。
そうなった場合、もはや先は予想出来ない。
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