29 / 148
第一章
第27話 魔女が教えてくれた伝達法
しおりを挟む
たかが手紙、されど手紙
届けば誰でも嬉しく思うものだ。
その真意までもが届けば尚更に。
「アークィン! 起きてくれ! 父上から手紙が届いたぞ!」
故にこの街へ辿り着いて翌日。
お陰様でこうして早朝から叩き起こされる羽目に。
朝っぱらからこんな大声上げてドアを叩くのは如何なものか。
嬉しいのはわかるが、そのパワーで他人を不幸にするのはよしてくれ。
しかし出なければもっと酷くなりそうなので即座に扉を開く。
不機嫌さを若干押し出し気味で。
「起きるからもうやめるんだ。他の宿泊客に迷惑だろう」
「ウッ、すまない! それで準備が出来たらボクの部屋に来て欲しいんだ。それと寝癖はちゃんと直すんだよ! 耳が三つになっているからね!」
「ならばお前も同じ様にしてやろうか。アフロ風味なんてどうだ?」
おまけにこうやって半ば追い払う感じでやり過ごす。
三つ目のトンガリを強引に公開させた罪は重い。
それで少し余計に時間を掛けつつ、準備を整えてノオンの部屋へ。
「遅いじゃないか、待ちくたびれたよ!」
それで早速こんな苦情が聴こえてきた訳だが、この際スルーしておこう。
今はほんの少し機嫌悪いからな。
この時見えたのは机を囲う四人で。
更に、机の上には液体燃料ランプが何故か置かれている。
先日の空いた時間にノオンが買っていた物だ。
最初は手紙を書く時のお供なのかと思っていたんだがな。
けれど今も炎が灯っていて、何だか意味深に感じる。
それにお香の匂いだろうか、少し部屋が甘ったるい。
これ、換気した方がいいんじゃないか?
「アークィンも適当に座っておくれ。それでは早速手紙を開くよ」
しかし今はそれどころではないか。
少し息苦しさもあるが、仕方ないので頷きで返す。
ノオンが持っていたのは至って普通の封筒だ。
検閲される事を前提としてなのか、封蝋さえ付いていない。
ただし、検閲済みを示す皇国印が代わりに押されている。
それをレターナイフを使って開き、中身を取り出して。
早速、ノオンが手紙の内容を読み始めた。
その手紙の内容はと言えばこう。
〝拝啓、我が娘ノオンへ。
良く帰って来たな。家族一同、お前を歓迎したい。
しかしそんな久しい凱旋に、父として迎えに伺えなかった事がとても残念に思う。
もしかしたら知っているかもしれんが、いま皇国では現代に合わせた法律の改正と刷新を急ぎ執り行っている。
かくいう私もその業務に追われ、とても外に出れる様な状況ではない。戒厳令が敷かれたのもこの一環なのだ。故に再会が叶わぬ事をどうか許して欲しい。
ただ心配はするな。家族は皆、元気にやっている。母もこの手紙が届いてからというものの会いたいと何度も漏らしていたぞ。
だからまた機会が訪れたならばもう一度顔を見せに来てくれ。待っているぞ〟
実に至って普通な内容だ。
皆がほっこりと微笑みを漏らす程にな。
けど陰謀の証拠どころか、今の状況の理屈合わせにしかなっていない。
これではますます身動きなんか取れはしないな。
「……これはやっぱり怪しいね」
と、思っていたのだが。
ノオンだけはこの手紙を前にして何だか深刻そうな顔をしている。
今の文面のどこに怪しさがあるって言うんだ?
「ほら、ここを見てごらんよ。〝我が娘ノオンへ〟ってあるじゃないか」
「それが、どうかしたのか……!?」
「普通ならこんな書き方はしないんだ。いつもの父なら〝我が愛しい愛しいラブリーノオンへ〟って書くのさ」
「知ったことかよ」
むしろ俺はお前の着眼点の方が怪しく思うよ。
一番最初にそこを怪しく思えるお前達家族がよくわからん。
しかしどうやらノオン自体はふざけてなどいないらしい。
とても真剣な表情で俺に訴えて来る。
やめろ、指を差したまま手紙を顔に近づけるな。
真面目に取り合っても無駄だ。理解など出来んぞ。
「だとしたらやっぱりアレをやるしかないな」
「アレ、とは?」
「ちょっと待ってて。今見せるよ。ヘイッ!!」
そんな時、ノオンが奇声と共に己の前髪を一本引き抜く。
それで手紙と共に机へ預けると、今度は封筒の中身を覗いていて。
「……あった、やっぱりね」
すると何かを見つけたのだろうか、途端に中身へと手を突っ込む。
そうして取り出したのは、一本の青い毛髪だった。
「これをボクの髪と合わせてネジネジするのさ。よいしょ」
それを自身の髪と重ね、捻っていく。
入念に何度も何度も、一本となる程に。
で、次にランプの上へと手紙をかざし、水平に開いた状態を保たせる。
更に髪を炙り始めれば、淡い煙が立ち上り始める事に。
そして皆が手紙へと視線を向けた時――それはもう起きていた。
なんと、文字が動き始めていたのだ。
それも紙の上に浮き上がる様にして。
しかもそれだけではない。
今度は文字が紙の上を歩き始めている。
まるで意思を持った生物の如く、ウネウネと一生懸命に。
手紙の上で行進し、行き交い、遂には分裂までして。
次第に全く別の文章へと移り変わっていくではないか。
「これはね、先日話した魔女がドゥキエル家の祖先に教えた呪術の一つさ。男と女の髪を結って、【シャンカナ】花油の炎で炙った煙に晒すと発動する様になっているのさ」
まさか呪術にこんな使い方があったなんて。
相手を呪って貶めるだけかと思っていたが、意外に幅広いんだな。
だとすれば大いに期待出来そうだ。
これならもしかしたら事の真相に一気に近づけるかもしれない……!
届けば誰でも嬉しく思うものだ。
その真意までもが届けば尚更に。
「アークィン! 起きてくれ! 父上から手紙が届いたぞ!」
故にこの街へ辿り着いて翌日。
お陰様でこうして早朝から叩き起こされる羽目に。
朝っぱらからこんな大声上げてドアを叩くのは如何なものか。
嬉しいのはわかるが、そのパワーで他人を不幸にするのはよしてくれ。
しかし出なければもっと酷くなりそうなので即座に扉を開く。
不機嫌さを若干押し出し気味で。
「起きるからもうやめるんだ。他の宿泊客に迷惑だろう」
「ウッ、すまない! それで準備が出来たらボクの部屋に来て欲しいんだ。それと寝癖はちゃんと直すんだよ! 耳が三つになっているからね!」
「ならばお前も同じ様にしてやろうか。アフロ風味なんてどうだ?」
おまけにこうやって半ば追い払う感じでやり過ごす。
三つ目のトンガリを強引に公開させた罪は重い。
それで少し余計に時間を掛けつつ、準備を整えてノオンの部屋へ。
「遅いじゃないか、待ちくたびれたよ!」
それで早速こんな苦情が聴こえてきた訳だが、この際スルーしておこう。
今はほんの少し機嫌悪いからな。
この時見えたのは机を囲う四人で。
更に、机の上には液体燃料ランプが何故か置かれている。
先日の空いた時間にノオンが買っていた物だ。
最初は手紙を書く時のお供なのかと思っていたんだがな。
けれど今も炎が灯っていて、何だか意味深に感じる。
それにお香の匂いだろうか、少し部屋が甘ったるい。
これ、換気した方がいいんじゃないか?
「アークィンも適当に座っておくれ。それでは早速手紙を開くよ」
しかし今はそれどころではないか。
少し息苦しさもあるが、仕方ないので頷きで返す。
ノオンが持っていたのは至って普通の封筒だ。
検閲される事を前提としてなのか、封蝋さえ付いていない。
ただし、検閲済みを示す皇国印が代わりに押されている。
それをレターナイフを使って開き、中身を取り出して。
早速、ノオンが手紙の内容を読み始めた。
その手紙の内容はと言えばこう。
〝拝啓、我が娘ノオンへ。
良く帰って来たな。家族一同、お前を歓迎したい。
しかしそんな久しい凱旋に、父として迎えに伺えなかった事がとても残念に思う。
もしかしたら知っているかもしれんが、いま皇国では現代に合わせた法律の改正と刷新を急ぎ執り行っている。
かくいう私もその業務に追われ、とても外に出れる様な状況ではない。戒厳令が敷かれたのもこの一環なのだ。故に再会が叶わぬ事をどうか許して欲しい。
ただ心配はするな。家族は皆、元気にやっている。母もこの手紙が届いてからというものの会いたいと何度も漏らしていたぞ。
だからまた機会が訪れたならばもう一度顔を見せに来てくれ。待っているぞ〟
実に至って普通な内容だ。
皆がほっこりと微笑みを漏らす程にな。
けど陰謀の証拠どころか、今の状況の理屈合わせにしかなっていない。
これではますます身動きなんか取れはしないな。
「……これはやっぱり怪しいね」
と、思っていたのだが。
ノオンだけはこの手紙を前にして何だか深刻そうな顔をしている。
今の文面のどこに怪しさがあるって言うんだ?
「ほら、ここを見てごらんよ。〝我が娘ノオンへ〟ってあるじゃないか」
「それが、どうかしたのか……!?」
「普通ならこんな書き方はしないんだ。いつもの父なら〝我が愛しい愛しいラブリーノオンへ〟って書くのさ」
「知ったことかよ」
むしろ俺はお前の着眼点の方が怪しく思うよ。
一番最初にそこを怪しく思えるお前達家族がよくわからん。
しかしどうやらノオン自体はふざけてなどいないらしい。
とても真剣な表情で俺に訴えて来る。
やめろ、指を差したまま手紙を顔に近づけるな。
真面目に取り合っても無駄だ。理解など出来んぞ。
「だとしたらやっぱりアレをやるしかないな」
「アレ、とは?」
「ちょっと待ってて。今見せるよ。ヘイッ!!」
そんな時、ノオンが奇声と共に己の前髪を一本引き抜く。
それで手紙と共に机へ預けると、今度は封筒の中身を覗いていて。
「……あった、やっぱりね」
すると何かを見つけたのだろうか、途端に中身へと手を突っ込む。
そうして取り出したのは、一本の青い毛髪だった。
「これをボクの髪と合わせてネジネジするのさ。よいしょ」
それを自身の髪と重ね、捻っていく。
入念に何度も何度も、一本となる程に。
で、次にランプの上へと手紙をかざし、水平に開いた状態を保たせる。
更に髪を炙り始めれば、淡い煙が立ち上り始める事に。
そして皆が手紙へと視線を向けた時――それはもう起きていた。
なんと、文字が動き始めていたのだ。
それも紙の上に浮き上がる様にして。
しかもそれだけではない。
今度は文字が紙の上を歩き始めている。
まるで意思を持った生物の如く、ウネウネと一生懸命に。
手紙の上で行進し、行き交い、遂には分裂までして。
次第に全く別の文章へと移り変わっていくではないか。
「これはね、先日話した魔女がドゥキエル家の祖先に教えた呪術の一つさ。男と女の髪を結って、【シャンカナ】花油の炎で炙った煙に晒すと発動する様になっているのさ」
まさか呪術にこんな使い方があったなんて。
相手を呪って貶めるだけかと思っていたが、意外に幅広いんだな。
だとすれば大いに期待出来そうだ。
これならもしかしたら事の真相に一気に近づけるかもしれない……!
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おこもり魔王の子守り人
曇天
ファンタジー
現代世界がわかれていた異世界と一つに戻ったことで、普通の高校生だった小森見 守《こもりみ まもる》は生活のため冒険者となる。 そして世界が一つになったとき現れた異世界の少女アディエルエと知り合い、アディエルエのオタク趣味に付き合わさせられる日常を過ごしていく。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる