上 下
12 / 148
第一章

第11話 姫亡き後、青の世界は涙に沈む

しおりを挟む
 まさか王国兵団が野盗ごときに倒されるとはな。
 確かにあの野盗どもは妙に戦術がこなれていたけれど。

 その影に一体何があったって言うんだ?

「君は三年前の事件を知っているかい? 第一王女エルナーシェ姫の滑落事故を」

「いや……すまん、理由があって世俗には疎いんだ。その人物が誰かという事もわからない」

「なら姫の事から説明しようか。フィー頼むよ」

「わかった~ま~かせて~」

 すると今度はフィーが得意げに錫杖を振り回していて。
 短い足でトテテと走りながら俺達の前に躍り出る。

 それも振り向き、後ろへ跳ね進み続けながら。

「エルナーシェ姫はこの国の第一王女で虹の象徴姫とも呼ばれて世界を束ねる人だったんだでも三年前に【陽珠】の下へと向かった際に足を踏み外して滑落事故を起こして帰らぬ人にそれで国民は嘆き悲しみ生きる気力も失って今に至るの」

「待って、なんで説明だけ口調が倍速なんだ?」

「しかも姫が各国の絆を繋いでたから彼女がいなくなった事で情勢が悪化その結果青空界と他国の関係は断ち切られる事になったのそれで青空界も助けを呼べずに自分達で何とかしなきゃいけないけど兵力は育たないし兵士も士気が落ちて支援も無いのでどうしようもなーいーてー」

 ……まぁ大体わかった。
 
 つまりだ、そのエルナーシェ姫とやらが居ない今、助けてくれる国は無い。
 国民もショックで落ち込んで成されるがまま。
 それで国力も落ちて、ますます貧困になっていく――という訳か。

 悪循環だな。
 このままじゃ賊に国ごと乗っ取られかねないぞ。

 だがこの話には若干、不可解な事もある。
 それはエルナーシェ姫が亡くなった後の動きだ。

「少し教えてくれ。エルナーシェ姫は象徴だったんだよな? 皆の手本になる様な人物だったのか?」

「そうさ。彼女はとても素晴らしい人だった。ボクも一度お逢いした事があるけれど、誰にでも優しく、聡明で美しい。混血にさえ愛を与えてくれる女神みたいな方さ。それでいて気高く気丈で逞しくもある。皆の憧れだったんだ」

「それだよ。それが何かおかしい」

「え?」

 普通、人とは憧れる者がいたら同じ様になりたいと思うものだ。
 俺が父に憧れるのも然り、ノオンが騎士に憧れるのも然り。

 だけど青空界どころか他の国でさえ同じ様な人物が出ていない。
 もし出ているなら青空界に手を貸す事も吝かではないハズ。
 国内で出たなら恥を忍んででも助けを乞いてもいいだろう。

「誰か姫の代わりに国を背負って立とうって奴はいなかったのか?」

「いないね~みんな委縮しちゃった~ね~」

 それすら無いのが何か不自然に感じてしょうがない。
 一般民ならともかく、国政周りでそういった人物が出ないなどとは。

 今の状況はまるで、姫が死んだ事を待っていたかの様な感じだ。
 それだけ姫の死をキッカケに全てが動いている様に思える。

 それが不可解に思えて仕方なかったんだ。

「実際そうなんだろう。だからもう誰にも頼れなくて流れ者に託すしか無かった。それでボク達が引き受ける事にしたのさ。それからテッシャに探ってもらって本拠地を見つけたんだ。そしたらそこから出兵した奴等がいて。それで追い駆けたら君を見つけたってワケ」

「なるほどな。そこから俺に目を付けてたって事か」

 ともあれ、これでノオン達が俺を誘った真の理由もわかった。
 確かにそれなら俺をどうしても引き入れたいって思うだろうな。
 奴等との戦いの実績もあり、個人的な戦闘経験も豊富で。

 そしてなりふり構わなかったのは、この戦いで確実に勝ちたいから。
 本気度が伺えるな、これはポイント高いぞ【銀麗騎志団】。

「しかしそうなると、まるで誰しもが諦めた感じだな。もう姫みたいな事は誰にも出来ない、みたいな」

「言われてみると確かにねぇ。でも事実、世界はそういう風に動いてしまっているのさ。姫の死は青空界だけじゃなく虹空界各地に大きな影響を与えてしまったから。それでも大きな争いが無いのだけは救いだけど」

「にしたって流され過ぎだ。なんだか思った以上に世間はずっとおかしくなっていたらしい。父よ、貴方もさすがにここまでは見抜けなかった様だな」

 きっと父ならこの状況を許さないだろう。
 存命なら恐らく一人ででも賊どもを根絶やしにしただろうから。

 なら、その意志を受け継ぐ俺が代わりにやりきるだけだ。

 正直な所、ノオン達がこの戦いを凌ぎきれるとは思えない。
 俺がいなければ恐らく、賊どもに掴まって奴隷の仲間入りだろう。

 では何故そう思ったか。
 それは今こうして呑気に話せている事に理由がある。
 
 実はここまでに、一七の探知魔法トラップに遭遇している。
 一七だ。尋常じゃない数だぞ。
 たかが賊がやったとは思えないくらいの。

 それを俺が解除魔法を当てて消し、お陰で平穏に進む事が出来ている。
 しかしノオン達からはその解除作業に気付いた節は見えない。

 恐らく罠に気付いていないのだろう。
 つまり、それだけの腕前しか無いという事だ。
 そんな者達があの賊どもに掛かった所で返り討ちの未来しか見えない。

 でも気のいい者達だから死なせたくはない。
 であれば俺だけで戦えば済む話だ。

 俺なら一人ででも奴等を倒せる自信があるからな。



 いや、絶対に成さねばならない。
 悪を滅する事が偉大なる父より全てを受け継いだ俺の使命なのだから。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

おこもり魔王の子守り人

曇天
ファンタジー
現代世界がわかれていた異世界と一つに戻ったことで、普通の高校生だった小森見 守《こもりみ まもる》は生活のため冒険者となる。 そして世界が一つになったとき現れた異世界の少女アディエルエと知り合い、アディエルエのオタク趣味に付き合わさせられる日常を過ごしていく。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

金眼のサクセサー[完結]

秋雨薫
ファンタジー
魔物の森に住む不死の青年とお城脱走が趣味のお転婆王女さまの出会いから始まる物語。 遥か昔、マカニシア大陸を混沌に陥れた魔獣リィスクレウムはとある英雄によって討伐された。 ――しかし、五百年後。 魔物の森で発見された人間の赤ん坊の右目は魔獣と同じ色だった―― 最悪の魔獣リィスクレウムの右目を持ち、不死の力を持ってしまい、村人から忌み子と呼ばれながら生きる青年リィと、好奇心旺盛のお転婆王女アメルシアことアメリーの出会いから、マカニシア大陸を大きく揺るがす事態が起きるーー!! リィは何故500年前に討伐されたはずのリィスクレウムの瞳を持っているのか。 マカニシア大陸に潜む500年前の秘密が明らかにーー ※流血や残酷なシーンがあります※

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

処理中です...