時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十六節「謀略回生 ぶつかり合う力 天と天が繋がる時」

~Sly sage femme <したたかな女> 瀬玲とパーシィ②~

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 アルクトゥーン内、命力供給室。
 そこに休憩中の剣聖達の姿が。
 【アデ・リュプス】の話題による熱も冷めやらぬ中で、二人だけの会話は続く。

 とはいえ、三人とも疲弊の色は隠せない。
 やはり相当消耗してい入るのだろう。

 バロルフに至っては床に溶ける様に横たわっていて。
 今にも床下に沈んで消えてしまいそうである。
 もう話に入る元気も無さそうだ。

「ま、不要な心配かもしんねぇし、俺らがどうこう言ったって何も変わりゃしねぇがな」

「そうね、あの子達なら何の心配もないわよ。 例えあの魔剣があったとしてもね」

 剣聖もラクアンツェも、勇達を既に仲間として認識している。
 弟子や後継人といった後追い人ではなく、肩を並べる者として。

 彼等にとっては力の上下など関係ない。
 同じ目的を持つ以上、全力で協力する気概があるのだから。
 でなければこうして燃料役になどなったりはしないだろう。

 とはいえ。

 やはり強い者を好む彼等なのだ。
 こんな自由時間ともなれば、話題に挙がるのは当然―――

「ところで気になったんだけども。 剣聖があの子達の中で一番強いと思ってるのって誰なの?」

 そう、強さ比べだ。

 二人ともこの艦に乗ってからそれなりに経っていて。
 その間に勇達の戦いや訓練を何度も見届けて来た。
 だから各自の強さを良く知っているし、時にはアドバイスを送る事も。

 ただ個人的観点という物はやはりわからないもので。
 もし自分が戦った場合の相性もあれば、見える世界も違う。
 例え二人が分身の様な者同士でも、わからない事はやはりあるのだから。

「やっぱり勇君かしら?」

「あーまぁ、あのガキは確かに強くなったが、手癖も何度かやり合やわかるもんだ。 それ程怖くはねぇよぉ。 ガチり合いてぇっつうのはあるけどな、へへ」

 故にこう語る事も嫌いという訳では無く。
 こう語る剣聖に不敵な笑みが浮かぶ。

 やはり勇の真の実力がどんなものか、気になる様だ。

「そういったぶつかり合いの強さって言やぁ、あのイシュライトとかいう小僧だってマヴォって熊野郎だって十分強ぇ。 ただぶつかるだけなら、俺にとっちゃ強いとは言えねぇ」

 剣聖もまた力押しを基とする魔剣使いだから。
 そういった力でぶつかり合う相手に、強さはさほど重要視しない。
 結局押し切れれば勝ててしまう、至極単純な世界だからだ。

 ではそんな剣聖が一番に選ぶ人物は一体誰なのか。
 


「俺が強いと思えるのは、そうだな―――あのセリとかいう女だ」



 その答えは余りにも意外で。
 ラクアンツェも思わず唖然とする程に。

「あの女は強いというかヤベぇ。 もしかしたら俺も本気出さにゃならん相手かもな」

「あら、そこまでなの?」

 続く言葉を前に、遂には笑みさえもが消えていて。

 やはり実際に戦う所を見なければわからない事があるのだろう。 
 ラクアンツェと違って、剣聖は既に二度も瀬玲と同じ戦場に立っているから。

 だから剣聖は読み取ったのだ。
 瀬玲に秘められた異常性を。

「おう。 あの女の戦いに向ける意欲は底無しだぜ、異常なまでにな。 死に物狂いで攻める癖に、常に冷静沈着クレバーだ。 しかもしたたかさがあって、更にはあの命力操作技術ときたもんよ。 才能なんてブチ抜いて何でも理解しやがる。 一瞬でな」

 かつてのウィグルイとの戦いで、瀬玲の死のタガは完全に崩壊した。
 それ以来、彼女の戦いに向ける姿勢は倒れんばかりの前のめりに。
 死と隣り合わせの戦いを繰り返す事さえ悦びとなってしまっている。

 その死を恐れない心が、戦場に置いて何よりも精神安定をもたらすのだろう。
 だから瀬玲は常に冷静でいられ、常に最善で動ける。

 加えて、天性の才能たる模倣力。
 これはもはや剣聖すら恐れる程に異様だ。

「仮にだ、もし俺とアイツが戦う事になったら……恐らくどっちかが死ぬまで止まらねぇ。 でも焦ってアイツに無暗に突っ込もうモンならこっちが逆に食われちまう。 そういう奴なのさ、あの女は」

「油断出来ない子って訳なのね」

「おぉよ。 気付いたら罠でがんじがらめにされてるかもしれねぇ。 特にあのガキみたいに突っ込む奴はカモだ。 ハッキリ言やぁ、絶対に勝てねぇ」

 そう言い切れる程に剣聖は瀬玲を買っている。
 出来る事ならやり合いたくない、と思える程に。

「相手が以前のおめぇみてぇな防御力有してるなら突破出来るだろうがな。 相性はやっぱり大事だぜ」
 
 ただ、苦手なモノを語っているにも拘らず、剣聖はどこか嬉しそうだ。
 「ガハハ」と笑い、潰れたバロルフを「バシバシ」と叩いて追い打ちする程に。



 そう、瀬玲はそれだけの実力を秘めている。
 剣聖が認め、ラクアンツェが納得する程の。

 それは戦闘能力よりも、身体能力よりも何よりも―――





◇◇◇





「そらそらそらァ!! どうしたのぉ!? 叩かれるの大好きなのォ!? ドマゾちゃんなのォ!?」

 瀬玲が防戦を続ける一方で、パーシィは調子づくばかりだ。

 先程までは打突によるヒットアンドアウェイを基本としていたのに。
 今では体術を駆使して、回転蹴りや旋棍打までをも加え始めている。

 その攻撃速度は時間を置く度に増し続け、次第に瀬玲本体へ届き始める。
 離れようとしても離れられない程の執拗な追撃が容赦無く。

「ぐぅぅッ!!」

 そのトリッキーな動きは、もはや馴れない防御で防ぎきれる領域では無い。
 その上で刀を振っても、牽制にすらなりはしないのだ。

ドッドドッ!!

 その上で射撃を見舞うが、当然当たらない。
 パーシィの速度は先程よりも加速しているのだから。

「次はどこに突っ込んで欲しい~!? ご希望あるならいくらでも聞くわよォ~!!」

「クッ!! アンタの口に咥えてろッ!!クソがあッ!!」

 その上で再接近し、再び打突を見舞う。
 命力の盾ではもはや防ぎきれぬ程に強力な連撃を。

 魔剣相手では自慢の針の一撃カウンターは通用しない。
 特性上、命力が内部まで届かないからだ。

 それにその反撃はパーシィも警戒している。
 だから魔剣打突に合わせて肉弾戦を用い、伏線を張る事で無効化しているのだ。
 それは単に、彼がその道の達人だからこそ出来うる事。
 後は相手の知識があれば、それだけで十分対応可能なのである。

 故に、今の瀬玲にその勢いを止める事は出来ない。

 当然それはパーシィには既にお見通し。
 だから攻めて、攻めて、攻めまくるのだ。
 考える時間も罠を張る時間も与えない。
 反撃も、追撃もやらせない。

 それが対瀬玲戦法。
 パーシィは既にその答えを導き出しているのである。

「ハッハー!! 足元がおぼつかないわよおッ!? もう腰振るの疲れちゃったかしらあッ!!」

 逃げ過ぎた所為だろうか。
 瀬玲が跳ねた身を着地させた途端、その膝がガクリと折れる。
 苦悶の表情を映して。

 そこに襲い来るはパーシィの旋棍。 
 深く抉る様にして繰り出された、横薙ぎの旋打である。

 それは瀬玲の足が限界を迎えたからこその一撃。
 あらゆる逃走手段を断ち切る為の。

 もし左右に逃げれば、たちまち旋棍に打ち抜かれるだろう。
 もし前に逃げれば、格闘戦の餌食になるだろう。
 もし背後に逃げれば、自慢の追撃力で追い込まれるだろう。

 そうなれば、進む道はもはや一つしかない。

 この時、瀬玲は―――跳ねた。
 その足の痛みを圧して、空高くに。

 そして構えるは、弓型魔剣。
 起死回生を狙い、その一撃を引き絞る。





「ウッフフゥ、なぁんちゃってぇ~」





 だが、その時―――パーシィは笑っていた。
 「ニタァ」とした笑みを浮かべて見上げていたのである。

 そう、今の攻撃はこの為に打ち放たれたのだ。
 瀬玲を跳ねさせる為に。

 空中という不自由なフィールドに、一瞬だけでも誘い出す為に。

「そこに行くのを待っていたのよォーーー!!!」

 全ては、パーシィの策略通り。

 瀬玲自身に飛行能力と呼べるものは無く。
 命力の糸という副動力は存在するが、一瞬で体を逃がせる程の俊敏性は無い。
 何よりここは農地であり、掴まれる様な場所が無いのだ。

 その上で空中に行けば、待っているのは無防備体勢。

 でもパーシィは違う。
 その手に握る魔剣は、慣性さえもコントロール出来るのだから。

「フッフゥー!! 空中は私の得意分野よォー!! 唸れ【ダジュリード】ッッ!!!!」

 その瞬間、パーシィの魔剣が強い紫光を解き放つ。
 まるでその身を空へと押し上げんばかりに。



 【ダジュリード】。
 パーシィがフララジカ前からずっと持ち歩いて来た相棒たる魔剣である。
 相当昔に造られた魔剣であり、その力はかの古代三十種にも劣らない。
 その内に秘めた能力は特に特筆すべきもの。
 それが【慣性制御能力】。
 打撃の慣性を無効化し、鋭い転進に繋げたり。
 「待機」させた慣性を跳躍中に解き放ち、軌道変更を行うなど。
 ありとあらゆる重量移動をコントロール出来るという驚異の能力である。



 本来格闘家とは下手に跳ねる事が出来ない。
 空中では自身を動かす事が出来ず、良い的にすらなりかねないからだ。

 でもこの力があるからパーシィは進んで空に跳べる。
 空中でも自由自在に体を動かす事が出来るから。

「さぁ、楽しい血祭りタイムよぉーーーーーーん!!!」

 嬉々とした笑みを浮かべ、パーシィが瀬玲を追う。
 彼女にはもう逃げ場が無いから。
 出来るのは、今構えた弓から矢弾を放つのみ。

 そんな物―――何の意味も無い事をパーシィは知っているから。





「アッハ、掛かったぁ♪」





 でも、それが最大のチャンスだと、いつから思っていたのだろう。
 いつから、思い込んでいたのだろう。

 その時、瀬玲の顔が構えた魔剣の影から覗く。



 そうして見えたのは―――先程のパーシィにも負けない不敵な笑みであった。



「んなッ!?」

「笑える。 ずっと自分のペースだって思い込んでるの、笑いを堪えるの大変だったんだからさぁ」

 太陽を背に笑うその姿、まるで黒い悪魔の如し。

 そんな瀬玲から放たれたのは、嘲笑を交えたゆるりとした声で。
 しまいには弓を退け、「ププークスクス」と笑い始める始末だ。

 けれどその間も、二人の距離は保たれたまま。
 どちらも空中から動いてはいない。

 動いていないのだ。

「カッ、そんな……これはッ!?」

 動けない。
 パーシィが空中で固まったまま、身動きが出来ない。
 まるで全身が磔にされたかの如く、暴れても微動だに出来ないのだ。
 精々目や鼻、口が動かせる程度で。

「あー無理無理、それ絶対動けないから。 そういうもんだから」

 対して瀬玲は―――パーシィにいた。
 空中を垂直に、大手を広げながら。
 何の警戒も見せないままで。



「血祭りタイム、とか言ってたっけ。 始めちゃう? ねぇ? アッハハ!!」



 それを成し得る瀬玲―――もはや鬼才。


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