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第三十二節「熱き地の再会 真実は今ここに 目覚めよ創世」
~蒼天を放ちし者の唄~
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「ギッザッマ!! ゴロズッ!! ゴロズゥ!!」
怒りを露わにし、鼻息を激しく荒立てる異形。
握り締めた拳は持てる全ての力が篭められ、凄まじい筋肉の凝縮音がギリギリと滲み出ていた。
その視界は目の前に居る怒りの根源だけを捉え、それ以外などもはや眼中には無い。
その対象は当然……勇だ。
対する勇は……冷静だった。
今にも襲い掛からんとする異形に対し、ただ見つめながら息を整えるのみ。
その瞳に浮かぶのは……悲哀。
「すまない……もっと俺が早くこの力に目覚めていれば、君にこんな苦しみを味合わせる事は無かったかもしれない……」
勇は知っていた。
目の前に居る異形が誰なのか。
ア・リーヴェを通して彼の正体を知ったから。
だからこそ彼は今……哀れみをも力と換える。
「……必ず救う。 君を家族の下に必ず返すから……後少しだけ耐えてくれ……!!」
その決意の呟きをきっかけに……勇の体がゆらりと動く。
仲間達が静かに見守る中で、その身をそっと身構えさせた。
その時……遥か遠くで瀬玲に肩を貸していたイシュライトが驚きの余り絶句する。
「あ、あの構えは……!!」
彼の眼に映るのは、勇の取る構え。
それがいつかの対決の時に見せた自身の型と似ていたから。
左肩を前に、曲げた肘から左拳を前に伸ばし。
右手は腰部に沿える様に下げ。
僅かに腰を落とし、相手の出方に備えて力を蓄える。
それこそ、イ・ドゥールの里に伝わりし反撃の型。
相手が強大な力を持つ相手であればあるほど真価を発揮する型なのである。
オリジナルは僅かに退け気味、相手との距離を僅かでも保つ為に背が直立するのが特徴だ。
しかし勇のそれはイシュライトが見せたものと比べ、僅かに異なっていた。
左肩を前面に押し出し、前屈みの様に深く腰を落とす……前衛的な姿勢。
反撃と突撃……防御を捨てた、完全なる特攻の型。
相手は剣聖をも圧倒する力の持ち主だ。
例え勇であろうと相手の攻撃が直撃すれば死は免れない。
それでも防御を捨てて相対するという事……それは食らわないという絶対的自身の成せる技。
正気の沙汰とは思えぬ勇の判断に、イシュライトはもはや絶句する他無かったのだ。
その間にも、勇は異形を前に思考を重ねる。
自身に秘められた可能性に探りを入れるかのように。
彼が持つのは知識。
だが経験では無い。
だからこそ、今彼は試そうというのだ。
己に秘められた真の力を。
「救う為に……力を使うぞ、ア・リーヴェ!!」
その時、勇の体に力が沸き上がる。
祈りでも、願いでも、想いでも。
信念でも、覚悟でもない。
己自身の力―――天力。
全てを知った今……彼の力はもう、彼のモノ。
そこに秘めたるコトなど、もはや何も無い。
その顕現を……茶奈達は見た。
神々しくも凄まじき空色の光を全身からとめどなく打ち放つ男の姿を。
まるでその姿は、全身から光の剣を吹き出しているかの様に激しく荒々しく。
背後へ向けて烈風が如き光の波動が常に轟々と弾け飛び、空を突く程に激しく放出されていた。
茜差し始めた藍空に空色を取り戻させるほどの……強き力。
茶奈のフルクラスタを彷彿とさせつつも……それすらをも凌駕する力の放出量。
そこで彼女達は改めて気付く。
今まで見えなかったその力が見えているという事実に。
そして当然、勇自身にもまた力の在り方がしっかりと視界に映っていた。
命力と天力……似て非なる力。
ずっと勘違いして認識していた。
でもやっと心で気付けたから。
こうして彼は今、自分の力を可視化させる事が出来る様になったのだ。
見える様になった力はもはや彼のモノ。
どの様に扱うかも自由自在。
無限の可能性を秘めし天力……その力はアストラルエネマすら遥かに超える。
「ガアアアアアッ!!!!!」
その時、異形がとうとう痺れを切らして飛び掛かった。
遠く離れていたはずの勇へと、あっという間に肉迫する程の速力で。
凄まじい慣性と、重量と、凶悪なまでの腕力。
全てが合わさった拳の一撃を勇へ向けて撃ち放ちながら。
もはや直撃……逃げられぬと思える程にまで拳が迫る。
だが……その瞬間の出来事に、茶奈達がその目を疑う。
飛び掛かっていたはずの異形が……空高く打ち上げられていたのだ。
何が起きたのか彼女達にはわからなかった。
遠かったのもあったのかもしれない、夕刻で見えにくかったのかもしれない。
何よりも、それ程までに一瞬の出来事だったから。
全ては勇の早業からなる所業だった。
体を逸らして拳を躱しながらも、その力を利用し……弱点とも言える腰と背中を叩き付け、跳ね飛ばしたのだ。
そうする事で異形の力は地面へと向けられ、一瞬にして大地にぶつかり、その勢いのままに空へと跳ね飛んだという訳である。
異形は無様にも間も無く落下し、大地へと沈み込む程に激しく打ち付けられていた。
勇は視線を外す事無く、その場に立ったまま異形を睨みつける。
彼にとって今のは相手の動きを止める為だけのもの。
これから繰り出すであろう救いの一撃の為に。
再び立ち上がろうとする異形。
勇はそれを前に決意を固め、右拳を強く握りしめるのだった。
怒りを露わにし、鼻息を激しく荒立てる異形。
握り締めた拳は持てる全ての力が篭められ、凄まじい筋肉の凝縮音がギリギリと滲み出ていた。
その視界は目の前に居る怒りの根源だけを捉え、それ以外などもはや眼中には無い。
その対象は当然……勇だ。
対する勇は……冷静だった。
今にも襲い掛からんとする異形に対し、ただ見つめながら息を整えるのみ。
その瞳に浮かぶのは……悲哀。
「すまない……もっと俺が早くこの力に目覚めていれば、君にこんな苦しみを味合わせる事は無かったかもしれない……」
勇は知っていた。
目の前に居る異形が誰なのか。
ア・リーヴェを通して彼の正体を知ったから。
だからこそ彼は今……哀れみをも力と換える。
「……必ず救う。 君を家族の下に必ず返すから……後少しだけ耐えてくれ……!!」
その決意の呟きをきっかけに……勇の体がゆらりと動く。
仲間達が静かに見守る中で、その身をそっと身構えさせた。
その時……遥か遠くで瀬玲に肩を貸していたイシュライトが驚きの余り絶句する。
「あ、あの構えは……!!」
彼の眼に映るのは、勇の取る構え。
それがいつかの対決の時に見せた自身の型と似ていたから。
左肩を前に、曲げた肘から左拳を前に伸ばし。
右手は腰部に沿える様に下げ。
僅かに腰を落とし、相手の出方に備えて力を蓄える。
それこそ、イ・ドゥールの里に伝わりし反撃の型。
相手が強大な力を持つ相手であればあるほど真価を発揮する型なのである。
オリジナルは僅かに退け気味、相手との距離を僅かでも保つ為に背が直立するのが特徴だ。
しかし勇のそれはイシュライトが見せたものと比べ、僅かに異なっていた。
左肩を前面に押し出し、前屈みの様に深く腰を落とす……前衛的な姿勢。
反撃と突撃……防御を捨てた、完全なる特攻の型。
相手は剣聖をも圧倒する力の持ち主だ。
例え勇であろうと相手の攻撃が直撃すれば死は免れない。
それでも防御を捨てて相対するという事……それは食らわないという絶対的自身の成せる技。
正気の沙汰とは思えぬ勇の判断に、イシュライトはもはや絶句する他無かったのだ。
その間にも、勇は異形を前に思考を重ねる。
自身に秘められた可能性に探りを入れるかのように。
彼が持つのは知識。
だが経験では無い。
だからこそ、今彼は試そうというのだ。
己に秘められた真の力を。
「救う為に……力を使うぞ、ア・リーヴェ!!」
その時、勇の体に力が沸き上がる。
祈りでも、願いでも、想いでも。
信念でも、覚悟でもない。
己自身の力―――天力。
全てを知った今……彼の力はもう、彼のモノ。
そこに秘めたるコトなど、もはや何も無い。
その顕現を……茶奈達は見た。
神々しくも凄まじき空色の光を全身からとめどなく打ち放つ男の姿を。
まるでその姿は、全身から光の剣を吹き出しているかの様に激しく荒々しく。
背後へ向けて烈風が如き光の波動が常に轟々と弾け飛び、空を突く程に激しく放出されていた。
茜差し始めた藍空に空色を取り戻させるほどの……強き力。
茶奈のフルクラスタを彷彿とさせつつも……それすらをも凌駕する力の放出量。
そこで彼女達は改めて気付く。
今まで見えなかったその力が見えているという事実に。
そして当然、勇自身にもまた力の在り方がしっかりと視界に映っていた。
命力と天力……似て非なる力。
ずっと勘違いして認識していた。
でもやっと心で気付けたから。
こうして彼は今、自分の力を可視化させる事が出来る様になったのだ。
見える様になった力はもはや彼のモノ。
どの様に扱うかも自由自在。
無限の可能性を秘めし天力……その力はアストラルエネマすら遥かに超える。
「ガアアアアアッ!!!!!」
その時、異形がとうとう痺れを切らして飛び掛かった。
遠く離れていたはずの勇へと、あっという間に肉迫する程の速力で。
凄まじい慣性と、重量と、凶悪なまでの腕力。
全てが合わさった拳の一撃を勇へ向けて撃ち放ちながら。
もはや直撃……逃げられぬと思える程にまで拳が迫る。
だが……その瞬間の出来事に、茶奈達がその目を疑う。
飛び掛かっていたはずの異形が……空高く打ち上げられていたのだ。
何が起きたのか彼女達にはわからなかった。
遠かったのもあったのかもしれない、夕刻で見えにくかったのかもしれない。
何よりも、それ程までに一瞬の出来事だったから。
全ては勇の早業からなる所業だった。
体を逸らして拳を躱しながらも、その力を利用し……弱点とも言える腰と背中を叩き付け、跳ね飛ばしたのだ。
そうする事で異形の力は地面へと向けられ、一瞬にして大地にぶつかり、その勢いのままに空へと跳ね飛んだという訳である。
異形は無様にも間も無く落下し、大地へと沈み込む程に激しく打ち付けられていた。
勇は視線を外す事無く、その場に立ったまま異形を睨みつける。
彼にとって今のは相手の動きを止める為だけのもの。
これから繰り出すであろう救いの一撃の為に。
再び立ち上がろうとする異形。
勇はそれを前に決意を固め、右拳を強く握りしめるのだった。
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