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第三十一節「幾空を抜けて 渇き地の悪意 青の星の先へ」
~渇望立曲〝稀代の殺戮者〟~
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命を奪う事が救いだと、誰がいつから思ったのだろう。
命を放棄したがる程に過酷なのならば、それも救いなのだろう。
ならば何故……彼等は命を放棄したがる世界を望むのだろう。
それはまるで世界と命と掛けた鶏と卵。
彼等が望むのは、世界か、命か。
世界を救う為に命を奪い。
命を救う為に世界を奪う。
どちらに傾いても、雛は居ない。
彼等の行動は……そこから既に、矛盾だったのだ。
「―――フッ……クックッ……」
「ッ!?」
「ックッハッハハハハ……ッ!!」
その時突然、アルディの笑い声が部屋中に響き渡った。
先程までの冷徹さ、熱烈さ……いずれにも見られなかった感情が溢れ出る。
「ッハハハハハ……ハァ、ハァ、やはり強い自由意思を持つ者には私の話術は通用せんか……これの弱点は一定以上の意思の強さには敵わぬといった所だなァ~」
それはまるで別人の様だった。
顔に覗かせるのは不敵な笑み。
人をあざ笑うかの様に浮かぶ……彼の素顔。
「これで洗脳出来ればなおの事良かったのだが……やはり上手くはいかんらしい」
「なんだとッ!?」
刻む様に笑いを上げ、勇の感情を逆撫でするかのよう。
それもどこか幼稚的で、情動的で。
ニタリとした笑いを浮かべ始めた彼に……もはや先程までの面影は残っていない。
「フクク……世界を救う? 神の為に? 命を捧げると? ハッハハハ!! 馬鹿らしいッ!!」
そして先程の信心深かった面影もまた……微塵も在りはしなかった。
いや……元々無かったのかもしれない。
これが、アルディという男の……本性なのだから。
「神なんて居る訳が無いだろうッ!! 科学の時代にそんなものを信仰する奴等の気が知れんッ!! 大体地球如きが滅んだ所で宇宙が崩壊するなどと普通思うかあッ!? 宇宙だぞ!! 地球とか太陽とか銀河とか……そんな物すらちっぽけにする、宇宙だぞッ!! 」
途端、彼の口から吐き出されたのは、信仰とは程遠い……現実論。
語り馴れたかのように早口で繰り広げられる、科学論拠だった。
「二つの世界が混ざるだと!? ファンタジーの見過ぎなんじゃないのか!? お前は知らないのか、魔剣だとか命力だとか……そんな物も所詮は科学で再現可能な新しい原理に過ぎない!! だから私ですらこうやって簡単に扱う事が出来るんだッ!! 」
そう吐き出しきると、途端に息を切らせて首を垂れる。
そこもただの人間だからだろう……鍛えられていない肺活量はそう喋りきっただけで酸素を求めてしまう程に普通だった。
「……いささか興奮しすぎてしまった様だ。 残念ながら私は宣教師ではあっても、信者ではないのだよ。 そして君の言う通り……世界を救う気など毛頭ない」
「何……!?」
「同志デュゼローがたまたましでかしたから、私はそれをただ利用したに過ぎない。 後は簡単だったよ……元々の話術に加えて彼の理想を口にすれば、信じた者達がいとも容易く私の言葉に耳を貸す。 そして後は彼の言葉と同じ様に、私が少し色を加えるだけで信じ切るんだ。 実に愉快なものだったさ」
手のジェスチャーが再び刻まれ、彼の口調を弾ませる。
そう語る口は内容を軽事に感じさせる程に軽快。
そして間髪入れずアルディが再び笑いを上げる。
勇が前に居るにも関わらず、恐れる事すらなく。
「男児たる者頂点を目指さん……私の父の言葉だ。 ただ強く成れと言いたかったんだろうがね、私はそれをこう受け取ったよ。 『誰もが知る人間に成れ』とね。 でも、ただ金持ちになっただけでは、芸能人になっただけではすぐに忘れられ、歴史に消えてしまうだろう」
歴史に消えた人間など、星の数すら足りぬ程に数多くいる。
偉業を成し遂げた者だけが歴史に載り、世界に知られる。
その数は消えた者達と比べれば一握りに過ぎない。
だがその中でも……特筆して最も多く、世界に知られた〝人種〟が居た。
「君は考えた事があるか? 一体どんな人間が最も皆に知られ、覚えられ、残り続けたか。 答えは……戦争の立役者だ。 誰しもが戦いで多くの人を追い立て、捕まえ、殺した。 勝ち負けなど関係は無い。 その数が多ければ多い程、誰からも恐れられ、忌み嫌われ、そして忌避される。 反面教師としてな!!」
例えその意思が望もうと望むまいと……歴史の立役者達は多くの戦いを経てその名を馳せた。
英雄として、英傑として。
しかしその影を覗けば、そのほとんどが殺戮者だ。
戦争という名の盾を振りかざし、殺す事を認められた……血塗られし者達だ。
そんな彼等を背に、アルディは望む。
「だから私はなりたい……そう、全世界の教科書に載り続ける様な稀代の殺戮者に!!!」
どうしてここまで歪んでしまったのだろうか。
彼の親の育て方が間違っていたから?
そう思わせる様な人生を送ったから?
それは違う。
彼は最初からそうだったのだ……。
殺戮者を英雄と呼び、敬う……同類だったのだ。
「さぁ見ろ!! これが私の生きた証だッ!!」
突然、アルディが勢いのままにノートパソコンを掴み、机上でぐるりと回す。
勇に画面を見せつけるが如く。
それを見せられた時……勇は愕然とする。
そこに映っていたのは……見紛う事無き、魔剣ミサイルの画像だった。
「これは魔剣ミサイルかッ!?」
「そう……これこそ私の夢、私の希望……!! 現代文明とは便利なものだ。 例え数百キロ離れていようと、ボタン一つで操作が出来る時代なのだからな!!」
既に画面にはカウントダウンを示す数字が浮かび上がっており、間も無く発射を示していた。
彼が語っていたのは時間稼ぎ。
勇はまんまと……乗せられてしまっていたのだ。
全てはアルディの策略通りだった。
ミサイルが彼の下にあると思わせる事。
アルディが全てを握っているという事。
今更気付いた所で……もう手遅れだった。
「貴様あッ!! 今すぐミサイルを止めるんだ!!」
「だからさっきも言っただろう、私には何も出来ないと!! そう、何も出来んのだよ。 このパソコンで何を弄ろうと、破壊しようと、私を殺そうとな。 最初からこれは始まっていたのだ……あの動画を撮った時から!! そこから既に私の意思と離れ、ミサイルは燃料投入完了直後に発射される。 もはや誰にも止められんッ!! これから遥か空、宇宙空間にまで飛ぶ物体を受け止められる程、貴様は強くないだろうッ!?」
そう語る間にもカウントダウンは続き、残る時間はもう……残り十秒を切っていた。
「もう何をしても遅いぞ!! ミサイルはここに存在しない!! 最初から私の勝利は確定していたのだ!! 貴様達がここに来る事でな!!」
「莉那ちゃん!! 魔剣ミサイルが発射される!! 誰でもいい、近くにいる人を送って何とかしてくれえッ!!」
「ハハハ!! 後はミサイルが着弾し、全てが消し飛べば私の本望!! その時点でお前達の負けは確定し、その存在価値は地に堕ちる!! そして私は真の意味で神の下へ召されるであろう……全てをやりきった今、もはやこの命、惜しくは無ぁいッ!!」
アルディが一人叫ぶ中、勇がアルクトゥーンへ向けて急ぎ通信を送る。
しかしその間にも……カウントダウンはとうとう、全ての数字を無情の〝0 〟と刻み込んでいた。
同時刻……遥か彼方、リビア西部。
とある街の中央で異変が起こる。
それは街に住む誰しもが予想だにしなかった出来事。
突如現れたのは、醜悪なまでの殺意を乗せた炎の矢。
まさにそれが澄み渡る大空へと向けて……今、飛び立とうとしていた……。
命を放棄したがる程に過酷なのならば、それも救いなのだろう。
ならば何故……彼等は命を放棄したがる世界を望むのだろう。
それはまるで世界と命と掛けた鶏と卵。
彼等が望むのは、世界か、命か。
世界を救う為に命を奪い。
命を救う為に世界を奪う。
どちらに傾いても、雛は居ない。
彼等の行動は……そこから既に、矛盾だったのだ。
「―――フッ……クックッ……」
「ッ!?」
「ックッハッハハハハ……ッ!!」
その時突然、アルディの笑い声が部屋中に響き渡った。
先程までの冷徹さ、熱烈さ……いずれにも見られなかった感情が溢れ出る。
「ッハハハハハ……ハァ、ハァ、やはり強い自由意思を持つ者には私の話術は通用せんか……これの弱点は一定以上の意思の強さには敵わぬといった所だなァ~」
それはまるで別人の様だった。
顔に覗かせるのは不敵な笑み。
人をあざ笑うかの様に浮かぶ……彼の素顔。
「これで洗脳出来ればなおの事良かったのだが……やはり上手くはいかんらしい」
「なんだとッ!?」
刻む様に笑いを上げ、勇の感情を逆撫でするかのよう。
それもどこか幼稚的で、情動的で。
ニタリとした笑いを浮かべ始めた彼に……もはや先程までの面影は残っていない。
「フクク……世界を救う? 神の為に? 命を捧げると? ハッハハハ!! 馬鹿らしいッ!!」
そして先程の信心深かった面影もまた……微塵も在りはしなかった。
いや……元々無かったのかもしれない。
これが、アルディという男の……本性なのだから。
「神なんて居る訳が無いだろうッ!! 科学の時代にそんなものを信仰する奴等の気が知れんッ!! 大体地球如きが滅んだ所で宇宙が崩壊するなどと普通思うかあッ!? 宇宙だぞ!! 地球とか太陽とか銀河とか……そんな物すらちっぽけにする、宇宙だぞッ!! 」
途端、彼の口から吐き出されたのは、信仰とは程遠い……現実論。
語り馴れたかのように早口で繰り広げられる、科学論拠だった。
「二つの世界が混ざるだと!? ファンタジーの見過ぎなんじゃないのか!? お前は知らないのか、魔剣だとか命力だとか……そんな物も所詮は科学で再現可能な新しい原理に過ぎない!! だから私ですらこうやって簡単に扱う事が出来るんだッ!! 」
そう吐き出しきると、途端に息を切らせて首を垂れる。
そこもただの人間だからだろう……鍛えられていない肺活量はそう喋りきっただけで酸素を求めてしまう程に普通だった。
「……いささか興奮しすぎてしまった様だ。 残念ながら私は宣教師ではあっても、信者ではないのだよ。 そして君の言う通り……世界を救う気など毛頭ない」
「何……!?」
「同志デュゼローがたまたましでかしたから、私はそれをただ利用したに過ぎない。 後は簡単だったよ……元々の話術に加えて彼の理想を口にすれば、信じた者達がいとも容易く私の言葉に耳を貸す。 そして後は彼の言葉と同じ様に、私が少し色を加えるだけで信じ切るんだ。 実に愉快なものだったさ」
手のジェスチャーが再び刻まれ、彼の口調を弾ませる。
そう語る口は内容を軽事に感じさせる程に軽快。
そして間髪入れずアルディが再び笑いを上げる。
勇が前に居るにも関わらず、恐れる事すらなく。
「男児たる者頂点を目指さん……私の父の言葉だ。 ただ強く成れと言いたかったんだろうがね、私はそれをこう受け取ったよ。 『誰もが知る人間に成れ』とね。 でも、ただ金持ちになっただけでは、芸能人になっただけではすぐに忘れられ、歴史に消えてしまうだろう」
歴史に消えた人間など、星の数すら足りぬ程に数多くいる。
偉業を成し遂げた者だけが歴史に載り、世界に知られる。
その数は消えた者達と比べれば一握りに過ぎない。
だがその中でも……特筆して最も多く、世界に知られた〝人種〟が居た。
「君は考えた事があるか? 一体どんな人間が最も皆に知られ、覚えられ、残り続けたか。 答えは……戦争の立役者だ。 誰しもが戦いで多くの人を追い立て、捕まえ、殺した。 勝ち負けなど関係は無い。 その数が多ければ多い程、誰からも恐れられ、忌み嫌われ、そして忌避される。 反面教師としてな!!」
例えその意思が望もうと望むまいと……歴史の立役者達は多くの戦いを経てその名を馳せた。
英雄として、英傑として。
しかしその影を覗けば、そのほとんどが殺戮者だ。
戦争という名の盾を振りかざし、殺す事を認められた……血塗られし者達だ。
そんな彼等を背に、アルディは望む。
「だから私はなりたい……そう、全世界の教科書に載り続ける様な稀代の殺戮者に!!!」
どうしてここまで歪んでしまったのだろうか。
彼の親の育て方が間違っていたから?
そう思わせる様な人生を送ったから?
それは違う。
彼は最初からそうだったのだ……。
殺戮者を英雄と呼び、敬う……同類だったのだ。
「さぁ見ろ!! これが私の生きた証だッ!!」
突然、アルディが勢いのままにノートパソコンを掴み、机上でぐるりと回す。
勇に画面を見せつけるが如く。
それを見せられた時……勇は愕然とする。
そこに映っていたのは……見紛う事無き、魔剣ミサイルの画像だった。
「これは魔剣ミサイルかッ!?」
「そう……これこそ私の夢、私の希望……!! 現代文明とは便利なものだ。 例え数百キロ離れていようと、ボタン一つで操作が出来る時代なのだからな!!」
既に画面にはカウントダウンを示す数字が浮かび上がっており、間も無く発射を示していた。
彼が語っていたのは時間稼ぎ。
勇はまんまと……乗せられてしまっていたのだ。
全てはアルディの策略通りだった。
ミサイルが彼の下にあると思わせる事。
アルディが全てを握っているという事。
今更気付いた所で……もう手遅れだった。
「貴様あッ!! 今すぐミサイルを止めるんだ!!」
「だからさっきも言っただろう、私には何も出来ないと!! そう、何も出来んのだよ。 このパソコンで何を弄ろうと、破壊しようと、私を殺そうとな。 最初からこれは始まっていたのだ……あの動画を撮った時から!! そこから既に私の意思と離れ、ミサイルは燃料投入完了直後に発射される。 もはや誰にも止められんッ!! これから遥か空、宇宙空間にまで飛ぶ物体を受け止められる程、貴様は強くないだろうッ!?」
そう語る間にもカウントダウンは続き、残る時間はもう……残り十秒を切っていた。
「もう何をしても遅いぞ!! ミサイルはここに存在しない!! 最初から私の勝利は確定していたのだ!! 貴様達がここに来る事でな!!」
「莉那ちゃん!! 魔剣ミサイルが発射される!! 誰でもいい、近くにいる人を送って何とかしてくれえッ!!」
「ハハハ!! 後はミサイルが着弾し、全てが消し飛べば私の本望!! その時点でお前達の負けは確定し、その存在価値は地に堕ちる!! そして私は真の意味で神の下へ召されるであろう……全てをやりきった今、もはやこの命、惜しくは無ぁいッ!!」
アルディが一人叫ぶ中、勇がアルクトゥーンへ向けて急ぎ通信を送る。
しかしその間にも……カウントダウンはとうとう、全ての数字を無情の〝0 〟と刻み込んでいた。
同時刻……遥か彼方、リビア西部。
とある街の中央で異変が起こる。
それは街に住む誰しもが予想だにしなかった出来事。
突如現れたのは、醜悪なまでの殺意を乗せた炎の矢。
まさにそれが澄み渡る大空へと向けて……今、飛び立とうとしていた……。
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