833 / 1,197
第三十節「誓いの門出 龍よ舞い上がれ 歌姫を胸に抱きて」
~疾風 電光石火の反撃~
しおりを挟む
全てを貫きながら、勇達が遂に空島間近へと迫っていた。
距離的に言うならば、まだ関東地方の二倍程の距離はある。
だが茶奈の超速度を前には、もはやそんな距離感など束の間の事でしかない。
形容するならば、彼等そのものがもはや疾風と言えるだろう。
高速航行を目的としたカーゴであろうと、長時間の航行に対応している訳ではなく。
茶奈の強力な命力を巡らせようとも、筐体が重圧に耐えきれずに大きく歪み始めていた。
「茶奈、到達しても速度は緩めなくていい。 そのままカーゴを切り離して空島周辺状況の解決に当たってくれ!!」
「わかりました!!」
超速度であろうと、勇達の肉体は既にそれに適応出来ている程に強靭だ。
わざわざ茶奈が直接島へ送り届けなくても、無造作に放り出されたとしても、彼等なら無事に空島へ上陸を果たす事が出来るだろう。
例え軌道がズレたとしても、心輝やナターシャには航空能力がある。
だからこそ、勇は最も最速の方法を選出したのだ。
「上陸後、シンとセリは空島周辺の敵対勢力の排除を頼む!!」
「おうッ!!」
「援護は任せなさい!」
以前空島で戦った時同様、瀬玲の戦闘能力は比較的開けた場所での戦いに向いている。
機動力を重視した心輝もまた、外の様な場所でこそ真価を発揮する事が出来る。
共に戦ってきた仲間だからこそ、コンビネーションも十分。
それを理解した上での選択だった。
「ナターシャは俺と共に内部へ突入、途中で二手に分かれて侵入した敵を残らず排除するぞ!!」
「わかた!!」
ナターシャが持つのも、心輝同様の機動力重視の魔剣だ。
しかし彼女は今まで【レイデッター】と【ウェイグル】を使い、地上戦闘能力に卓越している。
彼女ならば、狭い通路内であろうと対処可能だと踏んだ故の決定であった。
「間も無く空島に突入します!! 皆さん準備を!!」
「「「了解!!」」」
途端、彼等の周囲を漆黒が包み込んだ。
そう、空島外部に吹き荒れる黒い嵐である。
太陽の光すら遮る突風。
並の航空機であれば操縦桿が引かれる程に激しい力で吹き荒れているのだ。
だがそんなものなど、茶奈には何の関係も無かった。
一瞬である。
一瞬にして、彼等は嵐を突き抜けたのだ。
「今ですッ!!」
バッギャァーーーーーーンッ!!
まるで図ったかの様に茶奈のイルリスエーヴェとカーゴを繋ぐ連結器が破裂し、大きな筐体が宙を舞う。
途端、勇達の体に浮遊感が襲い掛かり、彼等を空島に向けて放り出したのだった。
しかしそれも予定内。
勇達の顔に浮かぶのは緊張の面持ち。
戸惑い一つ見られない。
彼等の落下軌道は既に空島へ向けられ真っ直ぐ降下していた。
軌道修正の必要もない程に。
それを理解した勇は迫り来る大地を前に、仲間達に向けて指示の声を高々と上げた。
「シン、ナターシャ! 先行を頼む!! セリは援護を!!」
外部からの突風と、降下によって生まれた風が彼等を煽る。
そんな中でハッキリと指示を聞き届けた心輝とナターシャが魔剣に命力を篭め始めた。
「任せろォ!!」
「いくよ!!」
ッドッバォォォウッッッ!!
途端、心輝が炎を、ナターシャが突風を巻き起こし、地上へと向けて急降下を始める。
ナターシャは初めて使う魔剣にも関わらず、完全にそれを使いこなしていた。
彼女との融和性も高いのだろう、残光を引いて空を駆けるその姿は亜月の姿を彷彿とさせるものだった。
「よし、行くぞッ!!」
そして勇もまた二人に続き、身を細めて加速しながら降下していく。
抵抗を極限にまで無くし、臆する事なく頭から降下する姿はまるで弾丸だ。
そんな彼の背後から無数の光の矢が飛びしきり、地上に向けて突きぬけて行く。
瀬玲の援護の下、勇達はとうとう空島表層部へと着地を果たそうとしていた……。
◇◇◇
勇達が空島へやってきていた事は既に【救世同盟】空島制圧班へと伝わっていた。
制圧作戦を遂行しながらも空に警戒を見せる事で、戦いの熾烈さは僅かに収まりを見せる。
そんな中……遂に勇達が嵐を突き抜けてその姿を現す。
それを目撃した無数の救世同盟兵達がしきりに声を上げ、勇達の襲来を未だ気付かぬ仲間達へと伝えていく。
途端、島を守る国連兵達への攻撃が止み、ほとんどの意識が空へと向けられた。
「ユウ=フジサキを始末しろ!! 魔特隊も一緒にだ!!」
降下してくる勇達に向け、銃弾が放たれる。
当然いずれもが対命力弾だ。
それを放つ銃器もまた最新の装備が使われている。
アサルトライフルやマシンガンのみならず、大口径機銃やロケットランチャーなど。
魔特隊五・六番隊や各国の軍隊が持つ物よりもずっと高価で強力な兵装である。
だからこそ彼等は自信があったのだ。
空島を制圧する事も、勇達を返り討ちにする事すらも可能なのだと。
だがそれは……彼等がただの人間だからこそ生まれた、おごりに過ぎなかった。
銃弾が激しく見舞われ、勇達に襲い掛かる。
しかしそのいずれもが外れ、弾かれ、無為に消えていった。
例え相対速度が極限に高くとも、その威力を遥かに超える防御能力を勇達は有しているのだ。
昔は防御能力を持たなかった心輝ですらも、である。
並みの兵装では、もはや彼等に傷一つ付ける事すら叶わない。
「馬鹿な、直撃のハズだ!! 何故効かない!?」
「奴等は化け物か!?」
そう、勇達はもはや普通ではない。
魔剣使いという枠すら遥かに超えた、超人部隊なのだから。
彼等の誤算は……今まで彼等がそういった存在だと理解しきれていなかった事だろう。
小嶋と同じく、ただの人間の延長上……そう思っていたに過ぎない。
今まで魔特隊としての茶奈達と戦ってきた者は少なくない。
過去に彼女達の手から逃れ、復帰して再び戦う兵士が今も数人この場に居る。
そんな彼等ですら勇や彼女達の本質を理解していなかった。
余りにも圧倒的過ぎて……理解しきれていなかったのだ。
だが今、彼等は総じて理解する。
彼等に普通の武器は通用しないのだと。
「うわああああああ!!!!」
「っしゃらぁーーーーーーッ!!」
ドッゴォ!!
心輝の落下と同時に凄まじい拳撃が大地へ撃ち込まれ、周囲に居た兵士達を衝撃波だけで吹き飛ばす。
間髪入れず放たれた炎が彼を覆い、超高熱と成って周囲へと弾け飛んだ。
たちまち周囲に居た救世同盟兵へと炎が燃え移り、あっという間に燃え広がっていく。
命力の炎……それは彼等の様な力を持たぬ者に対しては容赦無く灰塵に化せる程のもの。
それでもその炎は肉体を焼かず、身に纏った装備だけを一瞬にして焼き尽くしたのだった。
心輝はそれだけでは止まらない。
島中に散った救世同盟兵を一人残らず叩きのめすまで、止まる訳にはいかないのだから。
ドッバォウッ!!
銃弾が飛び交う中……心輝が手足の魔剣を使い、鋭く低空を滑空しながら敵へと飛び掛かる。
その姿はまるで赤の稲妻。
炎の推進剤をふんだんに使い、鋭角に軌道を変えながら高速で接近していくのだ。
瞬きする間に目の前に現れては、叩き伏せられ、一撃の下に意識を刈り取られる。
縦横無尽に駆け巡る様は、自分一人だけでも十分と言わんばかりに激しい動きだった。
「ハァーーーーーーッ!!」
そんな最中、ナターシャも負けてはいない。
心輝と同時に地表へと到達した彼女は巧みに滑空軌道を操り、並み居る敵を刻んでいく。
彼女の動きは魔剣の力を伴う疾風の如き素早さで、敵の目にも留まらない。
全盛期の亜月すら凌駕する程の滑空能力……ナターシャの才能と実力、地力があるからこその結果である。
彼女に向けて銃弾が幾多も放たれるが、いずれも本人に当たる事は無い。
魔剣から放たれる突風が銃弾の軌道をずらしているのだ。
それもまた彼女の持つ魔剣【エスカルオール・アルイェン】の持つ一つの力の現れ。
風を完全にコントロールする事の出来る彼女に、空気に乗って迫る物体などもはや無価値に等しかった。
それ程までに今、ナターシャは【エスカルオール】を使いこなしているのである。
縦横無尽に飛び回り、敵目掛けて襲い掛かっては一瞬にして切り刻む。
その様はまるで紅の星。
竜巻の如く駆け巡り、球状の赤い軌跡を描く様は……【烈紅星】の名に相応しい。
園部亜月が得意とした【螺旋鋲刃】。
レンネィが得意とした【死の踊り】。
二人の戦い方を重ね、昇華した様なこの戦い方はもはや……二人の力の集大成。
亜月の力とレンネィの心、二人の在り方を受け継いだナターシャだからこそ成し得る姿だった。
ギュンギュンッ!!
その間に空から多数の光の槍が直線を描いて大地へ降下していく。
それも幾多に分かれ、まるで散弾の様な光の矢が地表へと降り注いだ。
いずれの一発一発が人間の体を貫くなど造作も無い程に強烈なもの。
運良く逃れられた者は良いが、運悪く直撃した者が立ち上がる事は無かった。
それは当然、瀬玲の放った矢弾。
今の彼女は戦いの楽しさに目覚めて久しい。
争いの無い世界を創ろうとする勇達と志を共にしてはいるが、彼女だけは別格と言えるだろう。
もはや彼女が相手の生死になど拘る事は無い。
目の前に立ち塞がる者に対しては容赦なくその牙を剥くのである。
もちろんそれは敵だけに限る事で、味方に対しての配慮は最大限に行う。
国連の人間であろう者が隠れる建物や、先に攻めていた心輝達へ矢弾が当たらぬよう、全ての軌道をコントロールしていた。
敵がいる場所には全域に、味方のいる場所は目立つ程に何も落ちる事無く。
広範囲にわたって降り注がれた矢弾は島内部へ続く入り口前の広場へほぼ余す事無く降りしきり、多くの敵を一瞬にして仕留めたのだった。
ッドォォォーーーーーーンッ!!
そして勇が遂に着地を果たす。
凄まじい速度での着地は、大地を形成する岩や砂を大きく巻き上げた。
周辺を揺らし、なお立ったままの救世同盟兵の足を覚束なくさせる。
そんな中、勇は体勢を崩した兵士達には目もくれず……島入り口の洞窟へと向けて飛び出したのだった。
「ナターシャ!! 行くぞ!!」
その一声と共に勇が凄まじい脚力で大地を蹴り上げ、一瞬にしてその身を入口へと運ばせる。
止まる事無く打ち出されたその身を止める事など誰にも出来はしない。
余りの速力に、軌道上の砂や岩だけでなく救世同盟兵や瀬玲の矢弾までをも激しく弾き飛ばしていった。
もはやそれは弾丸というよりも砲弾。
肉体そのものを強烈な弾頭へと変え、障害物を全て吹き飛ばす存在と化したのである。
あっという間に入口へと突っ込んでいった勇を追い、ナターシャが続いて飛び込んでいく。
しかし外部の敵性勢力はもう既に半壊した後。
心輝達ももはやほとんど動く必要が無い程に……表層部は静まり返っていた。
僅か数分の出来事。
たったそれだけで……表層部を覆わんばかりに攻め込んでいた救世同盟軍はほぼ無力化されたのだった。
距離的に言うならば、まだ関東地方の二倍程の距離はある。
だが茶奈の超速度を前には、もはやそんな距離感など束の間の事でしかない。
形容するならば、彼等そのものがもはや疾風と言えるだろう。
高速航行を目的としたカーゴであろうと、長時間の航行に対応している訳ではなく。
茶奈の強力な命力を巡らせようとも、筐体が重圧に耐えきれずに大きく歪み始めていた。
「茶奈、到達しても速度は緩めなくていい。 そのままカーゴを切り離して空島周辺状況の解決に当たってくれ!!」
「わかりました!!」
超速度であろうと、勇達の肉体は既にそれに適応出来ている程に強靭だ。
わざわざ茶奈が直接島へ送り届けなくても、無造作に放り出されたとしても、彼等なら無事に空島へ上陸を果たす事が出来るだろう。
例え軌道がズレたとしても、心輝やナターシャには航空能力がある。
だからこそ、勇は最も最速の方法を選出したのだ。
「上陸後、シンとセリは空島周辺の敵対勢力の排除を頼む!!」
「おうッ!!」
「援護は任せなさい!」
以前空島で戦った時同様、瀬玲の戦闘能力は比較的開けた場所での戦いに向いている。
機動力を重視した心輝もまた、外の様な場所でこそ真価を発揮する事が出来る。
共に戦ってきた仲間だからこそ、コンビネーションも十分。
それを理解した上での選択だった。
「ナターシャは俺と共に内部へ突入、途中で二手に分かれて侵入した敵を残らず排除するぞ!!」
「わかた!!」
ナターシャが持つのも、心輝同様の機動力重視の魔剣だ。
しかし彼女は今まで【レイデッター】と【ウェイグル】を使い、地上戦闘能力に卓越している。
彼女ならば、狭い通路内であろうと対処可能だと踏んだ故の決定であった。
「間も無く空島に突入します!! 皆さん準備を!!」
「「「了解!!」」」
途端、彼等の周囲を漆黒が包み込んだ。
そう、空島外部に吹き荒れる黒い嵐である。
太陽の光すら遮る突風。
並の航空機であれば操縦桿が引かれる程に激しい力で吹き荒れているのだ。
だがそんなものなど、茶奈には何の関係も無かった。
一瞬である。
一瞬にして、彼等は嵐を突き抜けたのだ。
「今ですッ!!」
バッギャァーーーーーーンッ!!
まるで図ったかの様に茶奈のイルリスエーヴェとカーゴを繋ぐ連結器が破裂し、大きな筐体が宙を舞う。
途端、勇達の体に浮遊感が襲い掛かり、彼等を空島に向けて放り出したのだった。
しかしそれも予定内。
勇達の顔に浮かぶのは緊張の面持ち。
戸惑い一つ見られない。
彼等の落下軌道は既に空島へ向けられ真っ直ぐ降下していた。
軌道修正の必要もない程に。
それを理解した勇は迫り来る大地を前に、仲間達に向けて指示の声を高々と上げた。
「シン、ナターシャ! 先行を頼む!! セリは援護を!!」
外部からの突風と、降下によって生まれた風が彼等を煽る。
そんな中でハッキリと指示を聞き届けた心輝とナターシャが魔剣に命力を篭め始めた。
「任せろォ!!」
「いくよ!!」
ッドッバォォォウッッッ!!
途端、心輝が炎を、ナターシャが突風を巻き起こし、地上へと向けて急降下を始める。
ナターシャは初めて使う魔剣にも関わらず、完全にそれを使いこなしていた。
彼女との融和性も高いのだろう、残光を引いて空を駆けるその姿は亜月の姿を彷彿とさせるものだった。
「よし、行くぞッ!!」
そして勇もまた二人に続き、身を細めて加速しながら降下していく。
抵抗を極限にまで無くし、臆する事なく頭から降下する姿はまるで弾丸だ。
そんな彼の背後から無数の光の矢が飛びしきり、地上に向けて突きぬけて行く。
瀬玲の援護の下、勇達はとうとう空島表層部へと着地を果たそうとしていた……。
◇◇◇
勇達が空島へやってきていた事は既に【救世同盟】空島制圧班へと伝わっていた。
制圧作戦を遂行しながらも空に警戒を見せる事で、戦いの熾烈さは僅かに収まりを見せる。
そんな中……遂に勇達が嵐を突き抜けてその姿を現す。
それを目撃した無数の救世同盟兵達がしきりに声を上げ、勇達の襲来を未だ気付かぬ仲間達へと伝えていく。
途端、島を守る国連兵達への攻撃が止み、ほとんどの意識が空へと向けられた。
「ユウ=フジサキを始末しろ!! 魔特隊も一緒にだ!!」
降下してくる勇達に向け、銃弾が放たれる。
当然いずれもが対命力弾だ。
それを放つ銃器もまた最新の装備が使われている。
アサルトライフルやマシンガンのみならず、大口径機銃やロケットランチャーなど。
魔特隊五・六番隊や各国の軍隊が持つ物よりもずっと高価で強力な兵装である。
だからこそ彼等は自信があったのだ。
空島を制圧する事も、勇達を返り討ちにする事すらも可能なのだと。
だがそれは……彼等がただの人間だからこそ生まれた、おごりに過ぎなかった。
銃弾が激しく見舞われ、勇達に襲い掛かる。
しかしそのいずれもが外れ、弾かれ、無為に消えていった。
例え相対速度が極限に高くとも、その威力を遥かに超える防御能力を勇達は有しているのだ。
昔は防御能力を持たなかった心輝ですらも、である。
並みの兵装では、もはや彼等に傷一つ付ける事すら叶わない。
「馬鹿な、直撃のハズだ!! 何故効かない!?」
「奴等は化け物か!?」
そう、勇達はもはや普通ではない。
魔剣使いという枠すら遥かに超えた、超人部隊なのだから。
彼等の誤算は……今まで彼等がそういった存在だと理解しきれていなかった事だろう。
小嶋と同じく、ただの人間の延長上……そう思っていたに過ぎない。
今まで魔特隊としての茶奈達と戦ってきた者は少なくない。
過去に彼女達の手から逃れ、復帰して再び戦う兵士が今も数人この場に居る。
そんな彼等ですら勇や彼女達の本質を理解していなかった。
余りにも圧倒的過ぎて……理解しきれていなかったのだ。
だが今、彼等は総じて理解する。
彼等に普通の武器は通用しないのだと。
「うわああああああ!!!!」
「っしゃらぁーーーーーーッ!!」
ドッゴォ!!
心輝の落下と同時に凄まじい拳撃が大地へ撃ち込まれ、周囲に居た兵士達を衝撃波だけで吹き飛ばす。
間髪入れず放たれた炎が彼を覆い、超高熱と成って周囲へと弾け飛んだ。
たちまち周囲に居た救世同盟兵へと炎が燃え移り、あっという間に燃え広がっていく。
命力の炎……それは彼等の様な力を持たぬ者に対しては容赦無く灰塵に化せる程のもの。
それでもその炎は肉体を焼かず、身に纏った装備だけを一瞬にして焼き尽くしたのだった。
心輝はそれだけでは止まらない。
島中に散った救世同盟兵を一人残らず叩きのめすまで、止まる訳にはいかないのだから。
ドッバォウッ!!
銃弾が飛び交う中……心輝が手足の魔剣を使い、鋭く低空を滑空しながら敵へと飛び掛かる。
その姿はまるで赤の稲妻。
炎の推進剤をふんだんに使い、鋭角に軌道を変えながら高速で接近していくのだ。
瞬きする間に目の前に現れては、叩き伏せられ、一撃の下に意識を刈り取られる。
縦横無尽に駆け巡る様は、自分一人だけでも十分と言わんばかりに激しい動きだった。
「ハァーーーーーーッ!!」
そんな最中、ナターシャも負けてはいない。
心輝と同時に地表へと到達した彼女は巧みに滑空軌道を操り、並み居る敵を刻んでいく。
彼女の動きは魔剣の力を伴う疾風の如き素早さで、敵の目にも留まらない。
全盛期の亜月すら凌駕する程の滑空能力……ナターシャの才能と実力、地力があるからこその結果である。
彼女に向けて銃弾が幾多も放たれるが、いずれも本人に当たる事は無い。
魔剣から放たれる突風が銃弾の軌道をずらしているのだ。
それもまた彼女の持つ魔剣【エスカルオール・アルイェン】の持つ一つの力の現れ。
風を完全にコントロールする事の出来る彼女に、空気に乗って迫る物体などもはや無価値に等しかった。
それ程までに今、ナターシャは【エスカルオール】を使いこなしているのである。
縦横無尽に飛び回り、敵目掛けて襲い掛かっては一瞬にして切り刻む。
その様はまるで紅の星。
竜巻の如く駆け巡り、球状の赤い軌跡を描く様は……【烈紅星】の名に相応しい。
園部亜月が得意とした【螺旋鋲刃】。
レンネィが得意とした【死の踊り】。
二人の戦い方を重ね、昇華した様なこの戦い方はもはや……二人の力の集大成。
亜月の力とレンネィの心、二人の在り方を受け継いだナターシャだからこそ成し得る姿だった。
ギュンギュンッ!!
その間に空から多数の光の槍が直線を描いて大地へ降下していく。
それも幾多に分かれ、まるで散弾の様な光の矢が地表へと降り注いだ。
いずれの一発一発が人間の体を貫くなど造作も無い程に強烈なもの。
運良く逃れられた者は良いが、運悪く直撃した者が立ち上がる事は無かった。
それは当然、瀬玲の放った矢弾。
今の彼女は戦いの楽しさに目覚めて久しい。
争いの無い世界を創ろうとする勇達と志を共にしてはいるが、彼女だけは別格と言えるだろう。
もはや彼女が相手の生死になど拘る事は無い。
目の前に立ち塞がる者に対しては容赦なくその牙を剥くのである。
もちろんそれは敵だけに限る事で、味方に対しての配慮は最大限に行う。
国連の人間であろう者が隠れる建物や、先に攻めていた心輝達へ矢弾が当たらぬよう、全ての軌道をコントロールしていた。
敵がいる場所には全域に、味方のいる場所は目立つ程に何も落ちる事無く。
広範囲にわたって降り注がれた矢弾は島内部へ続く入り口前の広場へほぼ余す事無く降りしきり、多くの敵を一瞬にして仕留めたのだった。
ッドォォォーーーーーーンッ!!
そして勇が遂に着地を果たす。
凄まじい速度での着地は、大地を形成する岩や砂を大きく巻き上げた。
周辺を揺らし、なお立ったままの救世同盟兵の足を覚束なくさせる。
そんな中、勇は体勢を崩した兵士達には目もくれず……島入り口の洞窟へと向けて飛び出したのだった。
「ナターシャ!! 行くぞ!!」
その一声と共に勇が凄まじい脚力で大地を蹴り上げ、一瞬にしてその身を入口へと運ばせる。
止まる事無く打ち出されたその身を止める事など誰にも出来はしない。
余りの速力に、軌道上の砂や岩だけでなく救世同盟兵や瀬玲の矢弾までをも激しく弾き飛ばしていった。
もはやそれは弾丸というよりも砲弾。
肉体そのものを強烈な弾頭へと変え、障害物を全て吹き飛ばす存在と化したのである。
あっという間に入口へと突っ込んでいった勇を追い、ナターシャが続いて飛び込んでいく。
しかし外部の敵性勢力はもう既に半壊した後。
心輝達ももはやほとんど動く必要が無い程に……表層部は静まり返っていた。
僅か数分の出来事。
たったそれだけで……表層部を覆わんばかりに攻め込んでいた救世同盟軍はほぼ無力化されたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
85
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる