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第二十八節「疑念の都 真実を求め空へ 崩日凋落」
~SIDE-FINAL そして全ては収束する~
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勇の手から光が消え、静寂と暗闇が一挙に訪れる。
遠くからサイレンを鳴らした数台の車が近づいてくるのが見え、それが事の終わりを予感させた。
「終わったな……これで、元に戻るきっかけになればいいんだけど」
強張っていた勇の顔が緩み、いつもの緩んだ表情を取り戻す。
全てが片付いた事から安堵感が生まれ、思わずその口から溜息が漏れた。
すると、そんな折……平野がそっと立ち上がり、気絶した小嶋の傍へ寄っていく。
それに気付いた勇はその様子を眺めつつも……不思議に思い、平野へ声を上げた。
「平野さん……何を……」
「……僕は小嶋先生と共に行きます。 僕はおいそれと裏切れる程、情に薄くは無い……厳しい方ですが、僕にとっては感謝しなければならない御好意を受けた事が一杯ありましたから」
「……そうですか」
「これが僕の信念です……だから君も、自分の信念を貫いてください。 影ながら応援しています」
現実を知り、そして絶望を知り。
それでも抗えぬ今がある。
それに諦めず抗う勇。
それから逃げようとした小嶋。
それを防ごうとした福留
彼等を知っているから、平野はやっと理解したのだろう。
逃げる事では何も変わらない、自分を貶めるだけに過ぎない事を。
勇へそう投げ掛けた平野の声は、その全てを受け入れたかの様に……穏やかさに満ち溢れていた。
勇達の下へ訪れた警官達は、大迫の息が掛かった者達であった。
勇が成田空港方面へ向かっていた事に気付いた彼等が動いたのだろう。
警官達が小嶋と平野を連行していく中……勇は一人佇み、福留から受け取ったスマートフォンを弄っていた。
きっと福留の携帯ならアレがあるはず……そう思っての行動である。
間も無く、察しの通り見つかったそれ……愛希への電話番号。
別に他意は無い……一番最初に見つかった、実家に居る人が持つ携帯番号だ。
勇はそれを見つけるや否や、そっと通話操作を行い、スマートフォンをそっと耳に充てた。
コール音が耳に流れ、相手の操作を待つ。
すると、幾度かのコール音を経て……彼女へと繋がった。
『も、もしもーし?』
「あ、愛希ちゃん?」
『あ、え、勇さん?』
反応から察するに、番号は未登録だったのだろう。
だが勇の声が聞こえると、疑りの低い声は途端に甲高い声へと変貌していた。
『あーちょっとまって、茶奈に変わろうか』
「あ、いや、愛希ちゃんでも構わない。 皆に伝えて欲しいんだ」
『なんて?』
そう返された時、思わず勇の口元が緩み……大きく息を吸い込む。
ほんの少しの間……呼吸を整え、勇はそっと囁いた。
「全部、何事も無く済んだよ……ってさ」
その後、心輝と瀬玲とイシュライトも遅れて帰還を果たした。
彼等なりの成果を得て。
こうして日本を揺るがす程に発展したは騒動は、たった一日で幕を閉じたのだった。
国崩しとも言える所業に……夜が明けた後、恐らく日本全土は驚きで包まれるであろう。
だが、藤咲勇の活躍は今後日本のみならず、大きく世界を揺るがす事となる。
この戦いは、その序章にしか過ぎない。
【救世同盟】はもはや世界中に散らばり、争いを広げようと虎視眈々と狙いを続けている。
それだけではない。
二次転移、そして通常転移……彼等の知らない場所で、今なお世界は混乱を呼び続けているのだ。
しかし例え多くの問題を孕む中であろうと、勇達は前に進むだろう。
それは世界を救う為というような理想高い目的の為などではない。
それは世迷い事でも、偽善でも何でもない。
ただ、隣に居る人と共に生きていきたいから。
平和な明日を過ごしていきたいから。
だから世界を救う。
以前の様な普遍的な生活を取り戻す為に。
彼等なら出来るだろう。
そう信じ、進み続けられる限り……可能性は残されているのだから。
そして今、世界は救済を望んでいる。
皆、それを知らないだけに過ぎないのだ。
第二十八節 完
遠くからサイレンを鳴らした数台の車が近づいてくるのが見え、それが事の終わりを予感させた。
「終わったな……これで、元に戻るきっかけになればいいんだけど」
強張っていた勇の顔が緩み、いつもの緩んだ表情を取り戻す。
全てが片付いた事から安堵感が生まれ、思わずその口から溜息が漏れた。
すると、そんな折……平野がそっと立ち上がり、気絶した小嶋の傍へ寄っていく。
それに気付いた勇はその様子を眺めつつも……不思議に思い、平野へ声を上げた。
「平野さん……何を……」
「……僕は小嶋先生と共に行きます。 僕はおいそれと裏切れる程、情に薄くは無い……厳しい方ですが、僕にとっては感謝しなければならない御好意を受けた事が一杯ありましたから」
「……そうですか」
「これが僕の信念です……だから君も、自分の信念を貫いてください。 影ながら応援しています」
現実を知り、そして絶望を知り。
それでも抗えぬ今がある。
それに諦めず抗う勇。
それから逃げようとした小嶋。
それを防ごうとした福留
彼等を知っているから、平野はやっと理解したのだろう。
逃げる事では何も変わらない、自分を貶めるだけに過ぎない事を。
勇へそう投げ掛けた平野の声は、その全てを受け入れたかの様に……穏やかさに満ち溢れていた。
勇達の下へ訪れた警官達は、大迫の息が掛かった者達であった。
勇が成田空港方面へ向かっていた事に気付いた彼等が動いたのだろう。
警官達が小嶋と平野を連行していく中……勇は一人佇み、福留から受け取ったスマートフォンを弄っていた。
きっと福留の携帯ならアレがあるはず……そう思っての行動である。
間も無く、察しの通り見つかったそれ……愛希への電話番号。
別に他意は無い……一番最初に見つかった、実家に居る人が持つ携帯番号だ。
勇はそれを見つけるや否や、そっと通話操作を行い、スマートフォンをそっと耳に充てた。
コール音が耳に流れ、相手の操作を待つ。
すると、幾度かのコール音を経て……彼女へと繋がった。
『も、もしもーし?』
「あ、愛希ちゃん?」
『あ、え、勇さん?』
反応から察するに、番号は未登録だったのだろう。
だが勇の声が聞こえると、疑りの低い声は途端に甲高い声へと変貌していた。
『あーちょっとまって、茶奈に変わろうか』
「あ、いや、愛希ちゃんでも構わない。 皆に伝えて欲しいんだ」
『なんて?』
そう返された時、思わず勇の口元が緩み……大きく息を吸い込む。
ほんの少しの間……呼吸を整え、勇はそっと囁いた。
「全部、何事も無く済んだよ……ってさ」
その後、心輝と瀬玲とイシュライトも遅れて帰還を果たした。
彼等なりの成果を得て。
こうして日本を揺るがす程に発展したは騒動は、たった一日で幕を閉じたのだった。
国崩しとも言える所業に……夜が明けた後、恐らく日本全土は驚きで包まれるであろう。
だが、藤咲勇の活躍は今後日本のみならず、大きく世界を揺るがす事となる。
この戦いは、その序章にしか過ぎない。
【救世同盟】はもはや世界中に散らばり、争いを広げようと虎視眈々と狙いを続けている。
それだけではない。
二次転移、そして通常転移……彼等の知らない場所で、今なお世界は混乱を呼び続けているのだ。
しかし例え多くの問題を孕む中であろうと、勇達は前に進むだろう。
それは世界を救う為というような理想高い目的の為などではない。
それは世迷い事でも、偽善でも何でもない。
ただ、隣に居る人と共に生きていきたいから。
平和な明日を過ごしていきたいから。
だから世界を救う。
以前の様な普遍的な生活を取り戻す為に。
彼等なら出来るだろう。
そう信じ、進み続けられる限り……可能性は残されているのだから。
そして今、世界は救済を望んでいる。
皆、それを知らないだけに過ぎないのだ。
第二十八節 完
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