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第二十八節「疑念の都 真実を求め空へ 崩日凋落」
~SIDE勇-11 誘いしは想い~
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現在時刻 日本時間18:35......
福留の車が煙を上げながらも人気の無い道を走っていく。
周囲は工業団地の合間……寂れた工場敷地や明かりのほとんど灯っていない団地がずらりと並ぶ。
青の網掛けの柵には赤茶けた錆が浮かび、古臭さを助長するかのよう。
そんな中、車の速度が徐々に落ち、エンジンの音に不安定な異音が混ざり始めていた。
何かを擦る様な音……それは徐々に回数を増やしていき、果てには連続的な不快音へと変わる。
気付けばアクセルを踏み込んでも回転数は上がらなくなり……途端、ボンネットから大きな煙が噴き出した。
ギュンッ……ギギギ……ドンッ……
遂にエンジンが止まり、車体を駆動する機構が完全に停止してしまった。
先程の魔剣兵の攻撃でエンジンの構造が歪んでしまっていたのだろう。
それだけではなく、ギアやドライブシャフトに影響を及ぼしていたのかもしれない。
激しい衝撃を加えられたのだ……動作不良を起こしても仕方の無い程に。
それが祟りに祟り……とうとう限界を迎えた様だ。
慣性で動き続けるものの……動力を失った車はもはや何も期待の出来ぬ鉄の塊と成り果てるのみ。
福留は諦めてブレーキを踏み込み車体を停止させる。
後方から現れた一台だけの車がスピードを緩めて追い越していく。
その波が途切れると……福留はおもむろに扉を開き、車から降車した。
彼の目指す目的地は今の所ありはしない。
元々、獅堂と合流を果たした後、小嶋達が国外へ飛ぶまでは様子を見る予定だったからだ。
―――仕方ない……どこかへ安全な場所に隠れなければなりませんね―――
無関係の車を巻き込むまいと、ポンコツと化した車の扉を閉め……福留は道に沿って歩き始めた。
歩道へと移り、体を痛めた事を悟られぬ様に平然と歩いていく。
ドンッ……ゴワッ……
そんな彼の背後で乗って来た車が突如炎上し、火の粉を上げ始めた。
だが、福留はそれに気付かぬふりで振り向く事無く歩き続けていく。
その時……薄暗い空から黒い影が一つ、真っ逆さまに福留の下へと向けて飛び込んでいった。
ットーーーン……
「うっ!?」
その黒い影は福留の正面先の道へ着地し、ゆらりと身を揺らす。
福留はその影を前に思わず声を漏らし……立ち止まるどころか後ずさる様に身を引かせた。
轟々と炎を上げて燃え盛る炎が暗闇を堕とす闇夜を明るく照らす。
その炎に充てられて姿を現したのは……勇であった。
「勇……君……ッ!!」
思わず福留の顔が引きつる。
ほとんどそういった感情を表情に出す事が無かった福留が、である。
それは紛れも無く彼に余裕が無かったから。
「福留さん……お久しぶりです」
互いが対面し、変わる事の無い顔を視界に映す。
しかしどちらもここまでの道のりで刻んできた事が深く重い。
まるで墨を塗ったかの如く、互いの輪郭に影が浮かび上がっていた。
「君は……何故……」
福留がそう言いかけた時、勇がゆっくりと福留に近づいていく。
穏やかな表情を向けた彼の心に有るのは敵意ではなかった。
勇は信じていたのだ……福留が心から小嶋の手先になっている訳はないのだと。
だがその時、福留は咄嗟にブレザーの懐へと己の手を突っ込む。
空かさずその手が再び姿を現した時、握られていたのは……拳銃であった。
セミオート型のハンドガン……欧米などでよく使われるタイプの物だ。
そしてあろう事か、その銃口は真っ直ぐ……勇へと向けられたのだった。
「福留さん……!?」
その途端、勇の足が止まり……思わずその目を震わせる。
福留から勇に向けられたのは明らかな敵意にも思える鋭い視線。
その腕はまるで手馴れたかの様に拳銃が構えられ、両手に携えられた筐体は震える事無く勇の頭部を狙う。
八十代の老人とは思えぬ腕捌きと睨み付けるが如く狙いを定める集中力。
いずれも今までの温厚な彼からは想像も出来ない側面だった。
「勇君……何故君は来たのですか……何故来てしまったのですか!!」
その口から放たれるのはまるで怒号。
ほとんど見せた事の無い彼のがなり上げる声を前に、勇はただ驚く事しか出来ない。
「何故今更なのですか……何故今……どうして……ッ!!」
低く唸る様な声は次第にトーンを上げ、僅かなハイトーンが混じった声へと変質していく。
それは悲しみ……勇が動いてしまった事への……。
「君は動くのが遅すぎた……手遅れとなった今、君はもう只の邪魔にしかならない!!」
ガチッ……
福留の握る拳銃の撃鉄が下げられ、速射に備える。
そんなものが通用するかどうかなど、彼にはどうでもよかったのかもしれない。
ただ目の前に居る……藤咲勇という存在を威嚇する為ならば。
「君が動いた所為で何もかもが狂ってしまった……君が動きさえしなければ、計画は全て順調だったのに!!」
「……それは福留さんが【救世同盟】だからですか? それとも……【救世同盟】を止める為ですか?」
炎が車を包み、大きくなっていく。
轟音を掻き鳴らし、二人の間に生まれた沈黙を埋めるようだった。
「……そこまで、知ったのですか……なら何故今更動こうと思ったのですか」
「今、知ったからです……さっきミシェルさんと直接会って、内情を知ったから……そして俺に出来る事をやろうと―――」
「今……ですって……!?」
ズズン……ゴウッ……
火の手が遂に車の内燃物に火をつけたのだろう。
たちまち小さな爆発音を立て、車体をぐしゃりと潰していく。
そんな音に怯む事すら無く……福留は目を細らせ、勇を鋭く睨み付けた。
「君一人に出来る事などもはや何一つありません……君が思う程、世界は単純ではないッ!!」
炎の音すら掻き消す程に……福留から上がった一言は激しく勇の心を突く。
それ程までに大きく、鋭かったのだ。
再び二人の間に沈黙が訪れ、周囲を通る車の走行音が空しく響く。
そんな中、静寂を破ったのは勇だった。
「確かに、俺が出来る事は無いのかもしれない。 失敗してしまうかもしれない。 もしかしたら誰かを陥れる事になってしまうのかもしれない……」
勇もまた不安を抱いていた所があったのだろう。
例えミシェルに背中を押されても、彼一人が動いた所で上手くいく保証などありはしない。
ただその可能性が他の人よりもずっと高いだけ……。
「でもそれを恐れたら、前に進む事なんで出来はしないんです」
だがそれでも勇はここまでやってきた。
それは可能性に頼った訳ではない。
ミシェルに言われたからではない。
自らの意思で窮地を切り開く為に、彼は今ここに立っているのだ。
「だから俺は……自分に出来る事が無いなんて思わない。 思う訳にはいかないんだ!!」
勇がその時見せたのは、福留が知るよりもずっと強い意思。
ただがむしゃらに戦い、信念を守る為に戦おうとしていただけの頃とは違う。
それが守るべき者を得た彼の強さを体現した……鋼の意思だった。
そして相対して初めて理解する……その威圧感を。
勇という存在の重みを。
福留の額から冷や汗がじわりと浮かび、緊張を体現する。
それに対し、勇は静かに強い意思を乗せた視線を送り続けていた。
二人の合間に生まれる静かな間。
福留の背後で燃える炎の音がその間を幾度と無く裂く。
どちらも引けぬ状況下で……意思を乗せた視線だけが互いを突いていた。
その時……空に影が二つ、炎灯を受けて瞬き迫る。
それは福留の背後から迫り来る……魔剣兵の影。
一直線に福留目掛け、飛び込んでいた。
その間ほぼ一瞬。
福留がそれに気付く余地など有りはしない。
その時、一刃の光が夜の暗闇を斬り裂いていた事すらも。
それは瞬きすら許さぬ刹那。
福留からしてみれば、佇んでいた勇が既に武器を振り終えた姿へと突如切り替わった様にしか見えていない。
状況すら把握出来ていない福留の裏で……すかさず何かの落ちる音が鈍く響く。
それは慣性のままに大地を転がり、二人の前に姿を晒していく。
そこで初めて福留は気付く……魔剣兵に狙われていた事に。
しかしそれでも福留の視線はそれに向けられる事は無かった。
彼の視線はただ、勇が握り締めたモノへと一心に向けられていたのだ。
その手に輝く光の剣に。
今の一撃は勇の自由意思によるもの。
咄嗟の判断……そこから自ら望んで光の剣を具現化したのである。
「そ、それは……光の剣……!!」
福留も実物を間近で見るのは初めてだ。
その激しい奔流は、明らかにその破壊力を体現したもの。
でも何故か不思議と……彼はその力を前に妙な安心感を感じ取っていた。
「そうです……なんとなく、理解出来ました……この力の源が何なのかを」
力の放出とも言える光の剣。
勇はそれを眺めながら、おもむろに自身の前へ横に掲げる。
そして何を思ったのか……空いた左手を光の剣の切っ先へと充てたのだった。
「ああっ!!」
それは狂気の沙汰か……思わず福留が悲鳴にも近い声を上げる。
狙いが大きくずれる程に銃を構える腕を緩ませながら。
しかし……頬を流れる冷や汗とは別に、彼が見たものは想定とは全く逆の展開だった。
破壊の奔流である光の剣は勇の左手を突き抜けながらも力を放出し続けている。
勇の左手がなお……形を維持したままで。
「なっ……透過している!? これは一体……!?」
福留が驚きのあまり目を見開き、現象を見張る様に覗き見る。
それはまさにすり抜けるが如く……光が左掌を抜け、甲から出ていく様に噴き出ていたのだから。
徐々に光の剣が掴む右手の中に消えていき、そして消え去る。
淡い光となって弾けた力は……どこに行く事も無く大気に混ざっていった。
「福留さん、俺は決して可能性で動いている訳じゃありません」
「えっ……?」
「それは思っているとか、感情とかじゃあなく……この様に動けば上手くいく……そんな確信に近い感覚を感じるんです。 そしてその感覚を辿ったら福留さんの居るここに辿り着けた。 これは偶然でも何でもありません……福留さんがここに居ると教えてくれたから……!!」
勇には見えていた。
福留の存在が。
だが、姿ではない。
それは……彼の感情だった。
強いて挙げるならば……『願い』の感情。
福留が願い、その想いを強くした時……勇の瞳にはハッキリと見えたのである。
白く立ち上る……まるで命力の光の様な、想いの光が。
福留の車が煙を上げながらも人気の無い道を走っていく。
周囲は工業団地の合間……寂れた工場敷地や明かりのほとんど灯っていない団地がずらりと並ぶ。
青の網掛けの柵には赤茶けた錆が浮かび、古臭さを助長するかのよう。
そんな中、車の速度が徐々に落ち、エンジンの音に不安定な異音が混ざり始めていた。
何かを擦る様な音……それは徐々に回数を増やしていき、果てには連続的な不快音へと変わる。
気付けばアクセルを踏み込んでも回転数は上がらなくなり……途端、ボンネットから大きな煙が噴き出した。
ギュンッ……ギギギ……ドンッ……
遂にエンジンが止まり、車体を駆動する機構が完全に停止してしまった。
先程の魔剣兵の攻撃でエンジンの構造が歪んでしまっていたのだろう。
それだけではなく、ギアやドライブシャフトに影響を及ぼしていたのかもしれない。
激しい衝撃を加えられたのだ……動作不良を起こしても仕方の無い程に。
それが祟りに祟り……とうとう限界を迎えた様だ。
慣性で動き続けるものの……動力を失った車はもはや何も期待の出来ぬ鉄の塊と成り果てるのみ。
福留は諦めてブレーキを踏み込み車体を停止させる。
後方から現れた一台だけの車がスピードを緩めて追い越していく。
その波が途切れると……福留はおもむろに扉を開き、車から降車した。
彼の目指す目的地は今の所ありはしない。
元々、獅堂と合流を果たした後、小嶋達が国外へ飛ぶまでは様子を見る予定だったからだ。
―――仕方ない……どこかへ安全な場所に隠れなければなりませんね―――
無関係の車を巻き込むまいと、ポンコツと化した車の扉を閉め……福留は道に沿って歩き始めた。
歩道へと移り、体を痛めた事を悟られぬ様に平然と歩いていく。
ドンッ……ゴワッ……
そんな彼の背後で乗って来た車が突如炎上し、火の粉を上げ始めた。
だが、福留はそれに気付かぬふりで振り向く事無く歩き続けていく。
その時……薄暗い空から黒い影が一つ、真っ逆さまに福留の下へと向けて飛び込んでいった。
ットーーーン……
「うっ!?」
その黒い影は福留の正面先の道へ着地し、ゆらりと身を揺らす。
福留はその影を前に思わず声を漏らし……立ち止まるどころか後ずさる様に身を引かせた。
轟々と炎を上げて燃え盛る炎が暗闇を堕とす闇夜を明るく照らす。
その炎に充てられて姿を現したのは……勇であった。
「勇……君……ッ!!」
思わず福留の顔が引きつる。
ほとんどそういった感情を表情に出す事が無かった福留が、である。
それは紛れも無く彼に余裕が無かったから。
「福留さん……お久しぶりです」
互いが対面し、変わる事の無い顔を視界に映す。
しかしどちらもここまでの道のりで刻んできた事が深く重い。
まるで墨を塗ったかの如く、互いの輪郭に影が浮かび上がっていた。
「君は……何故……」
福留がそう言いかけた時、勇がゆっくりと福留に近づいていく。
穏やかな表情を向けた彼の心に有るのは敵意ではなかった。
勇は信じていたのだ……福留が心から小嶋の手先になっている訳はないのだと。
だがその時、福留は咄嗟にブレザーの懐へと己の手を突っ込む。
空かさずその手が再び姿を現した時、握られていたのは……拳銃であった。
セミオート型のハンドガン……欧米などでよく使われるタイプの物だ。
そしてあろう事か、その銃口は真っ直ぐ……勇へと向けられたのだった。
「福留さん……!?」
その途端、勇の足が止まり……思わずその目を震わせる。
福留から勇に向けられたのは明らかな敵意にも思える鋭い視線。
その腕はまるで手馴れたかの様に拳銃が構えられ、両手に携えられた筐体は震える事無く勇の頭部を狙う。
八十代の老人とは思えぬ腕捌きと睨み付けるが如く狙いを定める集中力。
いずれも今までの温厚な彼からは想像も出来ない側面だった。
「勇君……何故君は来たのですか……何故来てしまったのですか!!」
その口から放たれるのはまるで怒号。
ほとんど見せた事の無い彼のがなり上げる声を前に、勇はただ驚く事しか出来ない。
「何故今更なのですか……何故今……どうして……ッ!!」
低く唸る様な声は次第にトーンを上げ、僅かなハイトーンが混じった声へと変質していく。
それは悲しみ……勇が動いてしまった事への……。
「君は動くのが遅すぎた……手遅れとなった今、君はもう只の邪魔にしかならない!!」
ガチッ……
福留の握る拳銃の撃鉄が下げられ、速射に備える。
そんなものが通用するかどうかなど、彼にはどうでもよかったのかもしれない。
ただ目の前に居る……藤咲勇という存在を威嚇する為ならば。
「君が動いた所為で何もかもが狂ってしまった……君が動きさえしなければ、計画は全て順調だったのに!!」
「……それは福留さんが【救世同盟】だからですか? それとも……【救世同盟】を止める為ですか?」
炎が車を包み、大きくなっていく。
轟音を掻き鳴らし、二人の間に生まれた沈黙を埋めるようだった。
「……そこまで、知ったのですか……なら何故今更動こうと思ったのですか」
「今、知ったからです……さっきミシェルさんと直接会って、内情を知ったから……そして俺に出来る事をやろうと―――」
「今……ですって……!?」
ズズン……ゴウッ……
火の手が遂に車の内燃物に火をつけたのだろう。
たちまち小さな爆発音を立て、車体をぐしゃりと潰していく。
そんな音に怯む事すら無く……福留は目を細らせ、勇を鋭く睨み付けた。
「君一人に出来る事などもはや何一つありません……君が思う程、世界は単純ではないッ!!」
炎の音すら掻き消す程に……福留から上がった一言は激しく勇の心を突く。
それ程までに大きく、鋭かったのだ。
再び二人の間に沈黙が訪れ、周囲を通る車の走行音が空しく響く。
そんな中、静寂を破ったのは勇だった。
「確かに、俺が出来る事は無いのかもしれない。 失敗してしまうかもしれない。 もしかしたら誰かを陥れる事になってしまうのかもしれない……」
勇もまた不安を抱いていた所があったのだろう。
例えミシェルに背中を押されても、彼一人が動いた所で上手くいく保証などありはしない。
ただその可能性が他の人よりもずっと高いだけ……。
「でもそれを恐れたら、前に進む事なんで出来はしないんです」
だがそれでも勇はここまでやってきた。
それは可能性に頼った訳ではない。
ミシェルに言われたからではない。
自らの意思で窮地を切り開く為に、彼は今ここに立っているのだ。
「だから俺は……自分に出来る事が無いなんて思わない。 思う訳にはいかないんだ!!」
勇がその時見せたのは、福留が知るよりもずっと強い意思。
ただがむしゃらに戦い、信念を守る為に戦おうとしていただけの頃とは違う。
それが守るべき者を得た彼の強さを体現した……鋼の意思だった。
そして相対して初めて理解する……その威圧感を。
勇という存在の重みを。
福留の額から冷や汗がじわりと浮かび、緊張を体現する。
それに対し、勇は静かに強い意思を乗せた視線を送り続けていた。
二人の合間に生まれる静かな間。
福留の背後で燃える炎の音がその間を幾度と無く裂く。
どちらも引けぬ状況下で……意思を乗せた視線だけが互いを突いていた。
その時……空に影が二つ、炎灯を受けて瞬き迫る。
それは福留の背後から迫り来る……魔剣兵の影。
一直線に福留目掛け、飛び込んでいた。
その間ほぼ一瞬。
福留がそれに気付く余地など有りはしない。
その時、一刃の光が夜の暗闇を斬り裂いていた事すらも。
それは瞬きすら許さぬ刹那。
福留からしてみれば、佇んでいた勇が既に武器を振り終えた姿へと突如切り替わった様にしか見えていない。
状況すら把握出来ていない福留の裏で……すかさず何かの落ちる音が鈍く響く。
それは慣性のままに大地を転がり、二人の前に姿を晒していく。
そこで初めて福留は気付く……魔剣兵に狙われていた事に。
しかしそれでも福留の視線はそれに向けられる事は無かった。
彼の視線はただ、勇が握り締めたモノへと一心に向けられていたのだ。
その手に輝く光の剣に。
今の一撃は勇の自由意思によるもの。
咄嗟の判断……そこから自ら望んで光の剣を具現化したのである。
「そ、それは……光の剣……!!」
福留も実物を間近で見るのは初めてだ。
その激しい奔流は、明らかにその破壊力を体現したもの。
でも何故か不思議と……彼はその力を前に妙な安心感を感じ取っていた。
「そうです……なんとなく、理解出来ました……この力の源が何なのかを」
力の放出とも言える光の剣。
勇はそれを眺めながら、おもむろに自身の前へ横に掲げる。
そして何を思ったのか……空いた左手を光の剣の切っ先へと充てたのだった。
「ああっ!!」
それは狂気の沙汰か……思わず福留が悲鳴にも近い声を上げる。
狙いが大きくずれる程に銃を構える腕を緩ませながら。
しかし……頬を流れる冷や汗とは別に、彼が見たものは想定とは全く逆の展開だった。
破壊の奔流である光の剣は勇の左手を突き抜けながらも力を放出し続けている。
勇の左手がなお……形を維持したままで。
「なっ……透過している!? これは一体……!?」
福留が驚きのあまり目を見開き、現象を見張る様に覗き見る。
それはまさにすり抜けるが如く……光が左掌を抜け、甲から出ていく様に噴き出ていたのだから。
徐々に光の剣が掴む右手の中に消えていき、そして消え去る。
淡い光となって弾けた力は……どこに行く事も無く大気に混ざっていった。
「福留さん、俺は決して可能性で動いている訳じゃありません」
「えっ……?」
「それは思っているとか、感情とかじゃあなく……この様に動けば上手くいく……そんな確信に近い感覚を感じるんです。 そしてその感覚を辿ったら福留さんの居るここに辿り着けた。 これは偶然でも何でもありません……福留さんがここに居ると教えてくれたから……!!」
勇には見えていた。
福留の存在が。
だが、姿ではない。
それは……彼の感情だった。
強いて挙げるならば……『願い』の感情。
福留が願い、その想いを強くした時……勇の瞳にはハッキリと見えたのである。
白く立ち上る……まるで命力の光の様な、想いの光が。
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