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第二十八節「疑念の都 真実を求め空へ 崩日凋落」
~SIDE心輝-03 予期せぬ味方~
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現在時刻 日本時間16:38.....
野次馬となった近所の住民と警官が勇の家を囲む。
眩く光る赤の回転灯が周囲の建屋を絶えず照らし、喧騒を引き立てる様だった。
その中へ一人の女性らしき人影が潜り込む様に入っていき、集団の中へと消えていった。
一方その時……心輝は勇の家の玄関に腰を落とし、勇の両親と改めて顔を合わせていた。
「来るのが遅れてすんません……もうちっと早く来るつもりだったんですがね……」
申し訳なさそうに頭を下げる心輝を前に、勇の両親が揃って「いやいや」と小刻みに頭を下げる。
場が落ち着いた事で緊張がほぐれたのだろう、二人の顔には再び笑顔が浮かんでいた。
「茶奈ちゃんの事は今言われた通りですわ……ついでに勇の奴も付いてます」
「勇君も……? 心輝君は何か事情を知ってるのね?」
「えぇ、それも話さなきゃなって―――」
ガタンッ!!
その時、不意に彼等の居る玄関に音が鳴り響いた。
場に居合わせた三人が空かさず驚いて振り向く。
それはドアを開く音。
玄関に姿を現したのは……愛希だった。
「あら、愛希ちゃん……」
「どもー!! ……あ、心輝さん何でこんな所に居るのさ」
「それは俺が聞きてぇよ」
互いに来る事など聞いている訳も無く。
顔を合わせた二人が「パチクリ」とした目で互いを見つめ合う。
「あーね、茶奈と勇さんにここに来る様に言われたのよ」
「おいおい、このタイミングで愛希ちゃんに会いに行く余裕あったのかよぉ……」
途端、心輝が崩れ落ちる様に玄関に倒れ込む。
事情を知らないとはいえ、緊急事態の最中に女友達に会いに行っていたと知れば脱力するのもいざ仕方の無いだろう。
だがそんな心輝を前に、愛希は妙に自信げたっぷりのニタリ顔を浮かばせながら胸を張っていた。
「フフン、心輝さんは知らないのかもしれないけど、私はこれでもアメェリケェンの重要政治家と知り合いなのです!!」
「んマジかよッ!?」
「すごぉい!!」
心輝が驚きで眼をかっぴらかせて愛希に視線を送る中、勇の母親の拍手が空しく鳴り響く。
でも当の愛希は充分ご満悦の様だ。
「そのツテを頼って二人が来たってワケ。 まぁでも何かあったら困るからって、私にここに来るよう伝えたっていう事なの」
愛希がそっと靴を脱ぎ、小さく「お邪魔します」と勇の両親に声を掛けながら床へ上がる。
二人がそっと引き、彼女を迎え入れた。
「なるほどなぁ……確かにそれが正解か。 っつう事は二人は今アメリカかよ」
「多分ね。 そうそう、心輝さんと瀬玲さんの両親もここに呼ぶようにって言われたよ」
思い出した様に愛希がそう口走ると、勇の両親が閃いた様に手を打つ反応を返す。
「じゃあ、二人の両親へは私達から連絡入れようか」
「それじゃ、私は心輝君のおうちに電話掛けるわ。 お父さんは瀬玲さんのおうちにお願いね」
そう言い合うと、互いに自分達のスマートフォンが置いてある居間へ戻っていく。
そんな二人を尻目に、愛希がなお心輝に思い思いの言葉を連ねた。
「何があったのか知らされないままなんだけどさ、何か事情知ってます?」
「まぁ言う程俺も事情わからねぇんだけどさ、とりあえず勇と茶奈が何かドでかい事しでかすつもりらしい」
勇と瀬玲のやり取りを聞いていた心輝だったが、勇が何をするつもりかという意図までは計れずにいたのは確かだ。
心輝達としては、二人が国外に逃げる事だけが想定範囲だった。
つまり、勇が今現在、アメリカでミシェルと出会って日本の真実を聞いているなど夢にも思わない訳で。
「俺としちゃ、二人が無事ならなんでも構わねぇけど……欲を言えば、今の状況を何とかしたいのは確かだ。 俺はアイツが何かしらのお土産を持って戻って来るのを信じて待つしかねぇ」
「ふぅん……ま、焼売よりはマシなお土産になるんじゃないかな?」
愛希から繰り出される小洒落たジョークに、心輝が思わず乾いた笑い声を上げる。
「美味しい思いが出来りゃいいがなぁ……」
しんみりとした声色で放たれた返しは、愛希から笑みを奪う。
深刻性を感じさせる現状で、二人は成り行きに身を任せる事しか出来ない。
それがどこか歯がゆくて……。
「……さて、揃ったら皆に詳しい事情説明でもすっかね」
「うん、お願いするわ」
心輝がそっと寝かしていた背を持ち上げ、膝にもたれ掛かりながら大きな溜息を一つ。
そして脚部に備えた魔剣の留め具を「バチッ、バチッ」と音を立てて外していく。
魔剣を外してそのまま家へ上がろうとすると……不意に玄関の扉が開いた。
「その話……もしよろしければ同伴してもよろしいでしょうか?」
そこから顔を覗かせたのは、先程の若輩警官であった。
「アンタ、さっきの……」
警官は遠慮する事も無く屋内へ足を踏み入れ、その姿を再び彼等に晒す。
二人の前に現した姿は……中年警官の裏に居た時と違い、背筋を伸ばした自信に満ち溢れる様相。
先程着ていた紺色の制服の上着も、黒いスーツの上着へと変わっていた。
「警部は部下に連行させました。 逃げ場もありませんし、心配ありませんよ」
「アンタ……本当にさっきの警官なのか?」
余裕すら感じさせる雰囲気の若輩警官を前に、思わず心輝が本音を吐露する。
心輝の態度に思い当たる節があるのか、警官はそっと微笑み頷いた。
「えぇ、まぁ警部補という役割は演じていましたが……保安員という基本的な部分は変わりません。 あ、申し遅れました……私、大迫 令士と申します。 立場上、それしか言えませんが……【救世同盟】が敵という観点では仲間と言えます」
それが彼の正体だった。
いわゆる囮捜査の様なものだ。
【救世同盟】の勢力は日に日に増えつつある。
目立った行動をしていない日本国内においても、確実に裏側を侵食しつつあった。
だからこそ、その危険性を感じ取った一部官僚が極秘裏に彼等の様な人間を集めて調査を行っていたのだ。
蛇の道は蛇……潜む者を見つけるために、潜入者を忍ばせていたという訳である。
それを察した心輝が口から思わず感心の声を漏らし、腕を組んでウンウンと頷く。
事情がいまいち飲み込めていない愛希からすれば、二人が何を言っているのかわかる訳も無く……眉間を寄せて首を傾げていた。
「まぁ別に聞かれて疚しい事がある訳じゃないし、俺ぁ構いませんよ」
「すまないね。 私が間者になれば君達の助けになるかもしれないし、よろしく頼むよ」
「ウス……それじゃ―――」
心輝が先程脱ごうとしていた魔剣から足を抜き、玄関へと上がる。
そのまま勇の両親が待つ居間へと足を踏み出すと、彼の後へ続いて愛希と大迫が入っていく。
共に両親への連絡は済み……後は集まるのを待つのみの様だ。
そんな時、大迫が心輝に向けてそっと声を掛けた。
「園部君、一つだけ最初に確認させて欲しい……君達がやろうとしている事は決して国を陥れる様な悪い事ではないよね?」
漠然とした質問。
そして心輝は今現在、それを的確に答える情報を有してはいない。
だがそれでも……彼は立ち止まると振り返らないまま、迷う事無く答えた。
「俺達は別に国だとかそんなんどうでもいいんす。 たださ、ほら、なんつか……俺達が戦う事で救える人が居るからさ、ただそれだけなんすよ」
最初のきっかけは友を救う為だった。
だが、その志を共にした今……彼の戦う理由は、ただ人助けをする事。
例え偽善と言われようと、それが彼の望む在り方なのである。
「正義とか悪とか言われたらそりゃ正義に憧れますよ? だから……少なくとも自分達がやる事は正しくありたいって思ってます。 俺だけじゃない、多分セリや茶奈ちゃんやイシュライトだって……勇だって……」
「ふむ……そうですか……」
そこで心輝の言葉が詰まる。
答えもまた漠然としていたものだったが、想いをふんだんに詰めこんで連ねられた言葉は大迫を説得させるには十分な重さを持っていた。
心輝の戦いが始まってからおおよそ5年……その戦いの中で培ってきたからこそ乗せられる重み。
それは若くとも、他の誰もが見る事などおおよそ出来ないであろう事実を目の当たりにしてきたからこそ。
大迫は静かにそれを聞き取り、感慨にふける。
彼も色々と思う所があるからこそ、心輝の想いに気付く事が出来るのだろう。
「わかりました、今は貴方達を信用しましょう。 先程の事もありますしね」
「ウス、そう言ってもらえるとこっちとしちゃ助かりますわ」
待ち堪えた愛希が居間へと進んでいくと、それとすれ違う様に心輝がそっと振り向く。
ニッカリと白い歯を余す事無く見せつけた笑顔を浮かべて。
そんな様を見せた心輝を見た大迫は、どこか心の枷を外したかの様に小さな声で語り始めた。
「……個人的な事を挟ませてもらうけど……実はね、娘が魔特隊の大ファンなんだ。 まだ小さい子なんだけどね、学校から帰ったら毎日の様に動画を観ているものさ」
そう語る彼の顔に思わぬ微笑みが浮かび、それを見た心輝の表情もまた穏やかなさに富んだ微笑みへと変わっていく。
「特にね、君をモチーフにしたキャラが大好きなんだ。 だから……娘を失望させる様な事はしないでほしいというのが、一人の親としての想いだよ」
大迫がそう語り終えた時、心輝が彼から感じ取っていたのは心の色。
穏やかさと、聡明さを主張する緑と青……それらが混じり合った、薄く透き通りそうな程のライトコバルトカラーの心は、覗き込んだ心輝の心までも晴れやかにする程に鮮やかだった。
「……ならよぉ、これからも『俺は完璧フルスロットルで正義を貫いて行くぜ!!』……ッへへ!」
それは彼をモチーフにしたキャラクターの決め台詞。
サプライズとも言える一役に、思わず大迫が笑いを上げる。
こうして二人もまた愛希に続く様に居間へと足を踏み入れた。
些細な世間話を絡めつつ。
勇達が帰ってくる確証などありはしなかった。
だが、心輝は彼等が帰ってくる事を信じていたからこそ……僅かであろう穏やかな時間を甘んじて過ごす事にしたのだ。
この後、何が起きてもいい様に。
「んで、大迫さん自体の推しキャラは誰ですかね?」
「それは断然茶奈さんですね……」
そしてもう間も無く……その時は訪れる。
野次馬となった近所の住民と警官が勇の家を囲む。
眩く光る赤の回転灯が周囲の建屋を絶えず照らし、喧騒を引き立てる様だった。
その中へ一人の女性らしき人影が潜り込む様に入っていき、集団の中へと消えていった。
一方その時……心輝は勇の家の玄関に腰を落とし、勇の両親と改めて顔を合わせていた。
「来るのが遅れてすんません……もうちっと早く来るつもりだったんですがね……」
申し訳なさそうに頭を下げる心輝を前に、勇の両親が揃って「いやいや」と小刻みに頭を下げる。
場が落ち着いた事で緊張がほぐれたのだろう、二人の顔には再び笑顔が浮かんでいた。
「茶奈ちゃんの事は今言われた通りですわ……ついでに勇の奴も付いてます」
「勇君も……? 心輝君は何か事情を知ってるのね?」
「えぇ、それも話さなきゃなって―――」
ガタンッ!!
その時、不意に彼等の居る玄関に音が鳴り響いた。
場に居合わせた三人が空かさず驚いて振り向く。
それはドアを開く音。
玄関に姿を現したのは……愛希だった。
「あら、愛希ちゃん……」
「どもー!! ……あ、心輝さん何でこんな所に居るのさ」
「それは俺が聞きてぇよ」
互いに来る事など聞いている訳も無く。
顔を合わせた二人が「パチクリ」とした目で互いを見つめ合う。
「あーね、茶奈と勇さんにここに来る様に言われたのよ」
「おいおい、このタイミングで愛希ちゃんに会いに行く余裕あったのかよぉ……」
途端、心輝が崩れ落ちる様に玄関に倒れ込む。
事情を知らないとはいえ、緊急事態の最中に女友達に会いに行っていたと知れば脱力するのもいざ仕方の無いだろう。
だがそんな心輝を前に、愛希は妙に自信げたっぷりのニタリ顔を浮かばせながら胸を張っていた。
「フフン、心輝さんは知らないのかもしれないけど、私はこれでもアメェリケェンの重要政治家と知り合いなのです!!」
「んマジかよッ!?」
「すごぉい!!」
心輝が驚きで眼をかっぴらかせて愛希に視線を送る中、勇の母親の拍手が空しく鳴り響く。
でも当の愛希は充分ご満悦の様だ。
「そのツテを頼って二人が来たってワケ。 まぁでも何かあったら困るからって、私にここに来るよう伝えたっていう事なの」
愛希がそっと靴を脱ぎ、小さく「お邪魔します」と勇の両親に声を掛けながら床へ上がる。
二人がそっと引き、彼女を迎え入れた。
「なるほどなぁ……確かにそれが正解か。 っつう事は二人は今アメリカかよ」
「多分ね。 そうそう、心輝さんと瀬玲さんの両親もここに呼ぶようにって言われたよ」
思い出した様に愛希がそう口走ると、勇の両親が閃いた様に手を打つ反応を返す。
「じゃあ、二人の両親へは私達から連絡入れようか」
「それじゃ、私は心輝君のおうちに電話掛けるわ。 お父さんは瀬玲さんのおうちにお願いね」
そう言い合うと、互いに自分達のスマートフォンが置いてある居間へ戻っていく。
そんな二人を尻目に、愛希がなお心輝に思い思いの言葉を連ねた。
「何があったのか知らされないままなんだけどさ、何か事情知ってます?」
「まぁ言う程俺も事情わからねぇんだけどさ、とりあえず勇と茶奈が何かドでかい事しでかすつもりらしい」
勇と瀬玲のやり取りを聞いていた心輝だったが、勇が何をするつもりかという意図までは計れずにいたのは確かだ。
心輝達としては、二人が国外に逃げる事だけが想定範囲だった。
つまり、勇が今現在、アメリカでミシェルと出会って日本の真実を聞いているなど夢にも思わない訳で。
「俺としちゃ、二人が無事ならなんでも構わねぇけど……欲を言えば、今の状況を何とかしたいのは確かだ。 俺はアイツが何かしらのお土産を持って戻って来るのを信じて待つしかねぇ」
「ふぅん……ま、焼売よりはマシなお土産になるんじゃないかな?」
愛希から繰り出される小洒落たジョークに、心輝が思わず乾いた笑い声を上げる。
「美味しい思いが出来りゃいいがなぁ……」
しんみりとした声色で放たれた返しは、愛希から笑みを奪う。
深刻性を感じさせる現状で、二人は成り行きに身を任せる事しか出来ない。
それがどこか歯がゆくて……。
「……さて、揃ったら皆に詳しい事情説明でもすっかね」
「うん、お願いするわ」
心輝がそっと寝かしていた背を持ち上げ、膝にもたれ掛かりながら大きな溜息を一つ。
そして脚部に備えた魔剣の留め具を「バチッ、バチッ」と音を立てて外していく。
魔剣を外してそのまま家へ上がろうとすると……不意に玄関の扉が開いた。
「その話……もしよろしければ同伴してもよろしいでしょうか?」
そこから顔を覗かせたのは、先程の若輩警官であった。
「アンタ、さっきの……」
警官は遠慮する事も無く屋内へ足を踏み入れ、その姿を再び彼等に晒す。
二人の前に現した姿は……中年警官の裏に居た時と違い、背筋を伸ばした自信に満ち溢れる様相。
先程着ていた紺色の制服の上着も、黒いスーツの上着へと変わっていた。
「警部は部下に連行させました。 逃げ場もありませんし、心配ありませんよ」
「アンタ……本当にさっきの警官なのか?」
余裕すら感じさせる雰囲気の若輩警官を前に、思わず心輝が本音を吐露する。
心輝の態度に思い当たる節があるのか、警官はそっと微笑み頷いた。
「えぇ、まぁ警部補という役割は演じていましたが……保安員という基本的な部分は変わりません。 あ、申し遅れました……私、大迫 令士と申します。 立場上、それしか言えませんが……【救世同盟】が敵という観点では仲間と言えます」
それが彼の正体だった。
いわゆる囮捜査の様なものだ。
【救世同盟】の勢力は日に日に増えつつある。
目立った行動をしていない日本国内においても、確実に裏側を侵食しつつあった。
だからこそ、その危険性を感じ取った一部官僚が極秘裏に彼等の様な人間を集めて調査を行っていたのだ。
蛇の道は蛇……潜む者を見つけるために、潜入者を忍ばせていたという訳である。
それを察した心輝が口から思わず感心の声を漏らし、腕を組んでウンウンと頷く。
事情がいまいち飲み込めていない愛希からすれば、二人が何を言っているのかわかる訳も無く……眉間を寄せて首を傾げていた。
「まぁ別に聞かれて疚しい事がある訳じゃないし、俺ぁ構いませんよ」
「すまないね。 私が間者になれば君達の助けになるかもしれないし、よろしく頼むよ」
「ウス……それじゃ―――」
心輝が先程脱ごうとしていた魔剣から足を抜き、玄関へと上がる。
そのまま勇の両親が待つ居間へと足を踏み出すと、彼の後へ続いて愛希と大迫が入っていく。
共に両親への連絡は済み……後は集まるのを待つのみの様だ。
そんな時、大迫が心輝に向けてそっと声を掛けた。
「園部君、一つだけ最初に確認させて欲しい……君達がやろうとしている事は決して国を陥れる様な悪い事ではないよね?」
漠然とした質問。
そして心輝は今現在、それを的確に答える情報を有してはいない。
だがそれでも……彼は立ち止まると振り返らないまま、迷う事無く答えた。
「俺達は別に国だとかそんなんどうでもいいんす。 たださ、ほら、なんつか……俺達が戦う事で救える人が居るからさ、ただそれだけなんすよ」
最初のきっかけは友を救う為だった。
だが、その志を共にした今……彼の戦う理由は、ただ人助けをする事。
例え偽善と言われようと、それが彼の望む在り方なのである。
「正義とか悪とか言われたらそりゃ正義に憧れますよ? だから……少なくとも自分達がやる事は正しくありたいって思ってます。 俺だけじゃない、多分セリや茶奈ちゃんやイシュライトだって……勇だって……」
「ふむ……そうですか……」
そこで心輝の言葉が詰まる。
答えもまた漠然としていたものだったが、想いをふんだんに詰めこんで連ねられた言葉は大迫を説得させるには十分な重さを持っていた。
心輝の戦いが始まってからおおよそ5年……その戦いの中で培ってきたからこそ乗せられる重み。
それは若くとも、他の誰もが見る事などおおよそ出来ないであろう事実を目の当たりにしてきたからこそ。
大迫は静かにそれを聞き取り、感慨にふける。
彼も色々と思う所があるからこそ、心輝の想いに気付く事が出来るのだろう。
「わかりました、今は貴方達を信用しましょう。 先程の事もありますしね」
「ウス、そう言ってもらえるとこっちとしちゃ助かりますわ」
待ち堪えた愛希が居間へと進んでいくと、それとすれ違う様に心輝がそっと振り向く。
ニッカリと白い歯を余す事無く見せつけた笑顔を浮かべて。
そんな様を見せた心輝を見た大迫は、どこか心の枷を外したかの様に小さな声で語り始めた。
「……個人的な事を挟ませてもらうけど……実はね、娘が魔特隊の大ファンなんだ。 まだ小さい子なんだけどね、学校から帰ったら毎日の様に動画を観ているものさ」
そう語る彼の顔に思わぬ微笑みが浮かび、それを見た心輝の表情もまた穏やかなさに富んだ微笑みへと変わっていく。
「特にね、君をモチーフにしたキャラが大好きなんだ。 だから……娘を失望させる様な事はしないでほしいというのが、一人の親としての想いだよ」
大迫がそう語り終えた時、心輝が彼から感じ取っていたのは心の色。
穏やかさと、聡明さを主張する緑と青……それらが混じり合った、薄く透き通りそうな程のライトコバルトカラーの心は、覗き込んだ心輝の心までも晴れやかにする程に鮮やかだった。
「……ならよぉ、これからも『俺は完璧フルスロットルで正義を貫いて行くぜ!!』……ッへへ!」
それは彼をモチーフにしたキャラクターの決め台詞。
サプライズとも言える一役に、思わず大迫が笑いを上げる。
こうして二人もまた愛希に続く様に居間へと足を踏み入れた。
些細な世間話を絡めつつ。
勇達が帰ってくる確証などありはしなかった。
だが、心輝は彼等が帰ってくる事を信じていたからこそ……僅かであろう穏やかな時間を甘んじて過ごす事にしたのだ。
この後、何が起きてもいい様に。
「んで、大迫さん自体の推しキャラは誰ですかね?」
「それは断然茶奈さんですね……」
そしてもう間も無く……その時は訪れる。
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