時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第二十四節「密林包囲網 切望した過去 闇に紛れ蠢きて」

~謀~

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「われらがおう!! われらがおう!!」

 そこはオッファノ族の領域、中央部……彼等が集まる大広間。
 大広間に叫び声に足る雄叫びが騒がしく上がり、振動と成って鳴り響く。
 オッファノ族達が集まり叫ぶ中……その足元にはヘデーノ族がチラリチラリと見え隠れしていた。

 そんな中……広場の端にある扉が開かれ、王が姿を現す。

 道を空ける様に集まったオッファノ族達が退き出来た道を、一回りも二回りも小さな体の王が通っていく。
 体の大きさが取り柄では無いとはいえ、この様が如何に滑稽な事か。

 彼が広場の中央へ辿り着くと……オッファノ族達が再び彼等を囲う様に円を作り、規則正しい並びへと変わっていく。
 薄暗い広場の中……作られた屋根の隙間から漏れる日の光が集められて中央に居る王だけが照らされ、その姿をありありと見せつけた。
 自信に満ち溢れた立ち振る舞い……布を巻きつけただけのマントを高々と捲し上げ、その小ささを誇張するかのよう。

 大勢の注目を浴びながら、王はニタリと笑みを浮かべ……静かにその口を開いた。

「同胞達よ、戦いの時は来た……相手は憎き魔剣使い共!! 彼奴等は今もその歩を進め、血塗られた魔剣を手に……我等の命を奪わんと企んでいる!! 在ろう事かその中には、人間に下り共に殺戮を繰り返す魔者すら居る!!」
「オオッ!?」

 彼の言葉を聞くや、驚きの顔を浮かべる者、怒りの顔を浮かべる者……多様な様を見せ、各々の感情を昂らせる。
 そんな彼等を前に、王はニヤリと笑みを零すと……再び高らかに声を上げた。

「先程知らせが入った……その魔剣使い達によって……遂に我等の同胞が無残にも惨殺された事が。 その数おおよそ百人余り!!」
「な、なんと……!?」
「年寄りや女子供……戦えぬ者達ばかりを狙った残虐極まりない行為と言えよう!!」

 彼の言う事を真に受けた者達が、とうとう激怒の表情へと変わり……その闘争心に火を付け始める。
 確かめる者など居るはずも無く……王は彼等に対し、力強く吼え上げた。

「同胞達よ、今こそ我等の恐ろしさを彼奴等に思い知らせるのだ!! その団結力を以って魔剣使い達をひれ伏させ、千切り、大地の肥やしとしてやろう!!」
「ウオオーーーッ!!」
「無念に散った同胞達の仇を!! 血の粛清を!!」
「「オオーッ!! オオーーッ!! われらがおう!! われらがおう!!」」

 そして再び始まる鼓舞……こうなった時、もはや誰にも止める事は出来ない。
 
 王は彼等の隙間を縫う様にその場から離れ、広場から姿を消したのだった。



 そして再び彼が姿を現したのは自室……演説の熱気と騒ぎで疲れたのか、椅子にもたれ掛かる様を見せていた。

「ったく、しんどいったらありゃしねぇ……あの方・・・に認められる為とはいえ、堪らんよなぁ」
「あの騒ぎだけはどうにも馴れねぇな」

 自室に居たのは彼だけではない……数人のヘデーノ族。
 誰しもがぐったりとしただらしない様子を見せる。

 彼等は人一倍聴力が高い魔者……大きな音に弱い。
 オッファノ族達の叫び声にはどうにも体質的に合わないのだろう。

 そんな雑談を交わしていると……突然部屋の木製の扉を叩く鈍い音が室内に響く。
 途端、姿勢を正すヘデーノ族達……間も無く扉の奥から姿を現したのは、一人のオッファノ族であった。

「おうよ、すこしききたいこと ある」 
「なんだぁ? 言ってわかる事しか言えねぇぞ」

 そう王が返すと、跪いて腰を落とし、俯いたオッファノ族が上目づかいで王へ視線を向ける。
 彼はオッファノ族の中でも比較的賢い者……礼儀正しいのもそういった事を親から躾けられたが故の行動である。

「どうほう ころされたばしょ おしえてほしい。 とむらいたい」
「それはダメだ。 もう既にそこは魔剣使い達に支配された」

 その言葉を聞いた途端、オッファノ族の顔が僅かにしかめる。

「では なぜ どうほうたち むらにおきざりにした」
「連れて行こうとした。 だが、彼等が拒否したのだ。 『我々が彼奴等を倒してみせる』と言ってな」
「ろうじんが か? おんな こどもが か?」
「若者も居た。 彼等に賛同したんだろうが。 俺は理由など知らん」

 そう話す王はどこか面倒そうな顔付きを見せ、あらぬ方向へ手を振る始末。
 そんな態度の彼を前に、オッファノ族の視線は鋭くなっていく。

 だがその時、その話を横で聞いていたヘデーノ族の一人が話に割って入った。

「落ち着けウロンド……お前の気持ちはわかる。 だが事を済ませばそれで全て済む」
「イジャー おれたち ほんとうにおこってる だが みんな れいせいじゃない」

 口を出したのは王とはまた少し毛色の違うイジャーと呼ばれたヘデーノ族の一人。
 話しぶりは王や他の者と違い、僅かに堅さを感じさせる口調だ。

「だからこそだ、お前の様な賢い者が前線で仲間達を導き、憎き彼奴等に有効打を与えられる様に動かねばならん」
「イジャー……」

 宥める様に語るイジャーを前に、ウロンドと呼ばれたオッファノ族はその勢いを抑える。
 そんな彼の様子を前にしたイジャーは静かに見据え、そっと頷いた。

 だがその時、何かを閃いた様に王が手を打ち……両手の指先をそれぞれイジャーとウロンドへと向けた。

 

「その通りだイジャー、よしウロンド……お前は最前線に立て。 前線の指揮の役を与える」



 それを聞いた途端イジャーが立ち上がり、戸惑いの顔で声を上げる。

「なっ……ディビーお前……!?」
「口答えは許さん、王は俺だ。 いいかウロンド……お前は北の戦力に加われ。 彼奴等を生かして帰すな……特に『フジサキユウ』とかいう奴はな」

 それはいわば事情を知らぬ者にしてみれば「死地に向かえ」と言っている様なもの。
 相手が魔剣使いであれば死ぬ可能性は格段に高いと思うのは当然だろう。

 だが、ウロンドは……彼の言葉を前に静かに頷く。

「わかった ならば おれ やつらをころす かたきとる」
「頼むぞォ……お前の持ってる魔剣なら造作も無い事だろ?」

 だがウロンドは王の言葉など聞く事も無く踵を返し部屋から退出していった。

 その粗雑な行動を前に……王は「ハァ」と一息吐くと、おもむろに背もたれに首を預ける。
 静かになった部屋の中で、なお立ったままどこか怒りにも近い表情を浮かべたイジャーが王へと声を張り上げた。
 
「ディビー何故だ!! 彼は―――」
「煩い煩い……オッファノに感化されたのか?」
「ウグッ……」
「ウィッウィ……いいんだよォ結果が出れば何でも。 誰が死のうが、誰が生きようが……大体、アイツを使わにゃ勝てるもんも勝てねぇよ」

 王がそんなやり取りの中……ツンと突き出た鼻に指を差し込み、鼻をほじり始めた。
 埃塗れの部屋は実に息が詰まる様で……取り出したカスを「ピンッ」と弾き飛ばす。

「なぁイジャーよ……生物を如何に悟られる事無く確実に殺す事の出来る武器・・が何かわかるか?」
「な、なんだ……いや、わからん」

 突然の問いに戸惑いを見せるイジャー。
 そんな彼の態度を見た王は不敵な笑みを浮かべ、背もたれにもたれ掛かった首を深々と押し込めて彼へ鋭い視線を向けた。



「答えは……【毒】だよ……ウィッウィ……!! そして俺達も―――」



 イジャーを除くその場に居る誰しもが、その答えを前に静けさを保つ。

 たった一人、イジャーだけが戸惑う表情の顔を浮かべたまま。
 その時、その背後に影が現れ……それに気付いた彼が思わず視線を向けるが―――





 その後、部屋は途端静まり返り……しばらく後、を除くヘデーノ族達が部屋から退出していく。
 部屋の中に居る王は今までとなんら変わる事無くだらしない様子を見せるのみ。

「余計な事は考えなくていい、全ては世界の為に……なんてな、ウィッウィ……」



 慌ただしく動き回り、戦いの準備を始めるオッファノ族達……だが彼等も知らない闇が蠢いている事に気付いた者は居ない。

 ウロンドは仲間達を引き連れ……多くの仲間達が集う集落を後にしたのだった。


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