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第二十一節「器に乗せた想い 甦る巨島 その空に命を貫きて」
~舞い降りて、謎多き島~
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NZ91便が飛行していた時と同じような青空が広がり、雲もまばらで目下には大海が広がる。
勇達が出発して間もない時刻……そんな状況をタブレットを通して皆が確認していた。
彼等が乗る機体には、周囲を見渡す為のカメラが幾つも備え付けられている。
カメラを通して全方位の状況を確認し、空島周辺に起きている事をリアルタイムで見る為に急遽取り付けられたのだ。
準備が遅れ出発が滞ったのはその所為である。
青い海、青い空……観光で来たのであれば、これほど「この素敵な言葉」が似合う風景はなかなか無いだろう。
敢えて言うなら「先行してきた艦隊が洋上に浮かび青を濁している」程度だ。
「今の所何も無いですね」
「ほんと……果てまで青空ばかり」
「でも規模からして、もう見えててもおかしくないんだよな……」
地図に映っていた黒点は乱気流の範囲を映す。
その規模はおおよそ直径10キロメートル程。
遥か遠くであっても、肉眼で確認出来るはずの規模のはずである。
もうすぐ例の海域……もし話が本当であるならば。
「間も無く例の領域だ。 体勢等に注意してくれ」
操縦士の軍人から声が掛かり、全員の顔が引き締まる。
だが手に取ったタブレットは未だ青空を映しており、嵐など何も感じない。
ドォンッ!!
その時、突如機体を大きな揺れが襲った。
それと同時に「ガガン」と機体が軋む様な金切り音が鳴り響き、それに慌てた女性陣が軽く悲鳴を上げる。
勇達もまた驚きの声を上げて動揺を露わにさせた。
「うおっ!? なんだぁ!?」
「暴風域だ!!」
「ぬう!! 皆の者、しっかり体を支えるのだ!!」
座席に備えられた取っ手につかまり必死に耐える勇達。
剣聖はといえば腕を組み無言で、揺られる機体に倣う様に体勢を崩さないままでいた。
揺れた拍子に彼等の手から離れたタブレットが、機体の中をガタガタと鳴らしながら転がっていく。
そこに映るのは渦を巻く様に吹き荒れる暗い暴風。
予想を超えた激しい揺れに耐えながら、勇が足元を右往左往するタブレット達の1台を器用に足で抑え……それを両足で掴み持ち上げる。
それを片手で体を支えながらもう片方の手で掴むと、画面に映った状況を確認し始めた。
「なんて嵐だ……ここまで吹き荒れてるなんて……う、なんだ!?」
その時、勇の目に飛び込んできたのは……暴風の先に映る黒い影。
「これは例の……!!」
その横で心輝が体を支えながら画面を覗き込み、引きつらせた顔で笑みを浮かべる。
「こういうよぉ……ヤベェ時に不謹慎な事言うのもなんだけどよぉ……敢えて言わせてくれよ―――」
「な、なんだ!?」
途端、黒かった暴風が徐々に薄れ、光が差し込み始め―――
―――勇達の目の前に……太陽の光に照らされた、宙を浮く巨大な『島』が姿を現したのだった。
「―――『空島は……本当に在ったんだぁ』ってよぉ……!!」
彼等の目に映る光景……それは見る者を圧倒する。
横長のひし形を模した様な形の岩の塊……その横幅全長は2キロメートル程だろうか、想定していた物よりもずっと大きく……異様な神秘感を醸し出していた。
所々に浮く小さな欠片すらもそれに沿って宙を浮き、その巨体を更に大きく見せる。
外壁には所々段々に連なった平地があり、飛行機が発着出来そうな程の広い平地も幾つか存在していた。
「報告、編成3機共に暴風を抜けた。 空島周辺を迂回しつつ着陸ポイントを確認後、着陸し……あ、あれは!?」
操縦士からの報告が上がり、皆が顔を強張らせる……だがその途端、操縦士の目に何かが留まった。
「あれは……NZ91便だ!! NZ91便を視認!!」
「えっ!? ならそこに着陸をお願いします!!」
「了解!! 揺れるぞ、しっかり掴まっていろ!!」
操縦士の掛け声と共に、勇達の体に力が籠る。
途端、機体が大きく傾き、勇達の体に大きな重圧が襲い掛かった。
グアアァァーーーーーーン!!
急旋回を行い、輸送機が空島の側面スレスレを滑空していく。
それに追従する様に残り2機もまた同様に旋回し後を追う。
そして彼等の正面に映ったのは大きな平地……そしてその先に見えるのは大型の旅客機の姿。
「間も無く着陸、耐ショック姿勢!!」
操縦士の声に合わせ、その体を機内の壁へと密着させる。
徐々に機体が大きく傾き、同時に小刻みに揺れ始めた。
ドォンッ!!
途端、機体が上下に軽く揺れ、間もなく訪れる平衡感覚……着陸したのだ。
ガガガガガッ!!
ギュオッ!!
舗装されていない路面を、輸送機の巨大なタイヤが引きずられる様に踏みしめる。
着陸した機体にブレーキが掛かり、徐々に速度を落としながら平地を滑走していく。
ズズズ……。
そして、次第にその速度が体感出来なくなる程に収まっていくと……機体が遂に激しい動きを止めた。
後続機に道を譲る様に狭い平地を迂回すると……続き、残りの2機が順を追って同様に着陸していく。
3機共に無事着陸し、状況が落ち着くと……途端に機内が慌ただしくなった。
勇達以外の搭乗員である国連軍の兵士達が彼等のサポートを行う為に、我先にと隊列を維持しながら駆け出していく
勇達もまたシートベルトを取り外すと、未だ治まりきらない浮遊感に耐えながらも立ち上がり外へと駆けだした。
「一旦旅客機に向かう!!」
「はいっ!!」
他の機内に乗っていた兵士達も同様、大勢が近くに着陸していたNZ91便へ向けて駆け抜けていく。
次々に銃を構えた兵士達が旅客機へ集まる中、勇達が到着すると……そこに見えたのは緊急脱出スライド、通称滑り台が展開された跡が残された姿だった。
風船の様に空気圧で膨らむこの滑り台は、完全に空気が抜けて入口にぶら下がる様な形で垂れ下がっていた。
「こちらへ!! これを見てくれ!!」
兵士達に呼び込まれ、走って近づいていく勇達……その視線に映ったのは、様々な形を有したおびただしい数の靴跡。
「全員飛行機から降りたんだな……皆どこに向かったんだ?」
そう疑問に思いつつ呟くと……その視線が靴跡の刻みこんだ先へと流す様に追っていく。
その先に見えたのは、遠くにある島の中央。
そこにあったのは……大きな空洞であった。
「あれは……島の入り口……?」
平地におあつらえ向きに備えられた空洞、その先に続く様に連なる靴跡はいずれも一切の迷いも無いように真っ直ぐその方向へと向いていた。
「皆あの先に避難したのか」
そうであればどれ程よかっただろうか。
勇がそう呟くと同時に遠くから兵士の一人の声が高く響く。
「こっちへ来てください!!」
空洞に向かう方で叫ぶ兵士……その側へと駆け寄ると、勇達は息を飲んだ。
地面にはどう見ても靴跡には見えない形をした足跡がくっきりと残っていたのだ。
「魔者が……居る……!?」
元々魔者が居るか居ないかは半々の想定であった。
伝説の島なのであれば人の手など入りようもない……居るとしても遥か昔からここに住む者達の末裔といった所だろうか。
だが結果として、人間ではない何かが居る事が明白となり、その場に居合わせた全員が緊張を走らせる。
「全員に『この島に魔者が居る可能性が高い』と伝えてください。 それと、周囲に気を配って対応をお願いします」
「了解した」
軍隊の隊長が勇の言葉を受け、敬礼するとその場を後にする。
勇達もまた、この状況においてどのように行動するかを打ち合わせる為に六人が囲む様に顔を合わせた。
「役割を決めよう。 まず、俺とジョゾウさんが乗客乗員を探しながら先行するA班。 茶奈とシンが研究員を連れて内部調査を行うB班。 あずが周囲をぐるりと回って来るC班だ」
「御意!!」
「わかりました」
「了解だぜ!!」
「おっけー!!」
「え、ちょ、私はっ!?」
役割を振られていない瀬玲が何やら慌てふためく様に問い返す。
その反応に勇は彼女を見ながら軽く頷き答えた。
「セリはここで待機だ。 この場所の防衛を頼む」
「え、でも、私だって……」
「カッデレータは特性的に室内での戦闘は不向きだし、俺達の機動力には瀬玲は追い付けないだろ。 何かあったらあずの援護は頼む」
そんな勇の答えを前に……瀬玲の顔から「スーッ」と火照りが冷めるかの様に感情が抜けていく。
僅かに目を細めた彼女は、少し間を置くと静かな声で勇に返した。
「そうね、わかった。 ここは私に任せて」
どこか感情の抜けた様な返事……それに気付いたあずーが視線を彼女に向ける。
だがそんな二人の様子を気付く事も無く、ジョゾウが声を上げた。
「各々方、『おうとまっぴん』機能を使う時に御座る」
「なんだっけそれ……」
「……勇殿、少しは身の回りの装備に気を掛けるべきであろう?」
オートマッピング機能とは、各自が持つタブレットのGPSとジャイロセンサを用いて移動の痕跡を元に軌跡を引く機能である。
これにより彼等の動きが線で引かれ、動いた場所がわかる……おまけにこの機能はこのタブレットを有する者全員に即座に共有される。
野外では殆ど意味を成さないこの機能だが、こういった屋内の様な場所であればこれ以上に無い有効な機能と化す。
勇が知らなかったのは、彼が単に機械に疎いからであろう。
他の仲間達は全員知っている様にジョゾウへと頷いて見せた。
「はは……そ、それじゃあジョゾウさん、行こう!!」
「承知!!」
その掛け声を受け、勇がジョゾウと共に駆け出し……空洞へ向けて駆け抜けていった。
「っしゃ、じゃあ俺達も行こうぜ」
「はい、よろしくお願いします」
茶奈と心輝もまた、既に準備を整え始めていた研究員達の下へ駆け寄っていった。
そんな四人の行く末を見つめながら……瀬玲は静かにその場に佇む。
そしてそれをあずーが背後から静かに見つめ、心配そうな表情を浮かべる。
既にそこに剣聖の姿は無く……彼等の居る平地遥か上方の壁を駆け抜ける様に走り去っていく一人の人影があった。
各々が動き、島へとアプローチを仕掛け始める。
今なお謎の多い空島で、勇達の長い戦いが始まりを告げたのだった。
勇達が出発して間もない時刻……そんな状況をタブレットを通して皆が確認していた。
彼等が乗る機体には、周囲を見渡す為のカメラが幾つも備え付けられている。
カメラを通して全方位の状況を確認し、空島周辺に起きている事をリアルタイムで見る為に急遽取り付けられたのだ。
準備が遅れ出発が滞ったのはその所為である。
青い海、青い空……観光で来たのであれば、これほど「この素敵な言葉」が似合う風景はなかなか無いだろう。
敢えて言うなら「先行してきた艦隊が洋上に浮かび青を濁している」程度だ。
「今の所何も無いですね」
「ほんと……果てまで青空ばかり」
「でも規模からして、もう見えててもおかしくないんだよな……」
地図に映っていた黒点は乱気流の範囲を映す。
その規模はおおよそ直径10キロメートル程。
遥か遠くであっても、肉眼で確認出来るはずの規模のはずである。
もうすぐ例の海域……もし話が本当であるならば。
「間も無く例の領域だ。 体勢等に注意してくれ」
操縦士の軍人から声が掛かり、全員の顔が引き締まる。
だが手に取ったタブレットは未だ青空を映しており、嵐など何も感じない。
ドォンッ!!
その時、突如機体を大きな揺れが襲った。
それと同時に「ガガン」と機体が軋む様な金切り音が鳴り響き、それに慌てた女性陣が軽く悲鳴を上げる。
勇達もまた驚きの声を上げて動揺を露わにさせた。
「うおっ!? なんだぁ!?」
「暴風域だ!!」
「ぬう!! 皆の者、しっかり体を支えるのだ!!」
座席に備えられた取っ手につかまり必死に耐える勇達。
剣聖はといえば腕を組み無言で、揺られる機体に倣う様に体勢を崩さないままでいた。
揺れた拍子に彼等の手から離れたタブレットが、機体の中をガタガタと鳴らしながら転がっていく。
そこに映るのは渦を巻く様に吹き荒れる暗い暴風。
予想を超えた激しい揺れに耐えながら、勇が足元を右往左往するタブレット達の1台を器用に足で抑え……それを両足で掴み持ち上げる。
それを片手で体を支えながらもう片方の手で掴むと、画面に映った状況を確認し始めた。
「なんて嵐だ……ここまで吹き荒れてるなんて……う、なんだ!?」
その時、勇の目に飛び込んできたのは……暴風の先に映る黒い影。
「これは例の……!!」
その横で心輝が体を支えながら画面を覗き込み、引きつらせた顔で笑みを浮かべる。
「こういうよぉ……ヤベェ時に不謹慎な事言うのもなんだけどよぉ……敢えて言わせてくれよ―――」
「な、なんだ!?」
途端、黒かった暴風が徐々に薄れ、光が差し込み始め―――
―――勇達の目の前に……太陽の光に照らされた、宙を浮く巨大な『島』が姿を現したのだった。
「―――『空島は……本当に在ったんだぁ』ってよぉ……!!」
彼等の目に映る光景……それは見る者を圧倒する。
横長のひし形を模した様な形の岩の塊……その横幅全長は2キロメートル程だろうか、想定していた物よりもずっと大きく……異様な神秘感を醸し出していた。
所々に浮く小さな欠片すらもそれに沿って宙を浮き、その巨体を更に大きく見せる。
外壁には所々段々に連なった平地があり、飛行機が発着出来そうな程の広い平地も幾つか存在していた。
「報告、編成3機共に暴風を抜けた。 空島周辺を迂回しつつ着陸ポイントを確認後、着陸し……あ、あれは!?」
操縦士からの報告が上がり、皆が顔を強張らせる……だがその途端、操縦士の目に何かが留まった。
「あれは……NZ91便だ!! NZ91便を視認!!」
「えっ!? ならそこに着陸をお願いします!!」
「了解!! 揺れるぞ、しっかり掴まっていろ!!」
操縦士の掛け声と共に、勇達の体に力が籠る。
途端、機体が大きく傾き、勇達の体に大きな重圧が襲い掛かった。
グアアァァーーーーーーン!!
急旋回を行い、輸送機が空島の側面スレスレを滑空していく。
それに追従する様に残り2機もまた同様に旋回し後を追う。
そして彼等の正面に映ったのは大きな平地……そしてその先に見えるのは大型の旅客機の姿。
「間も無く着陸、耐ショック姿勢!!」
操縦士の声に合わせ、その体を機内の壁へと密着させる。
徐々に機体が大きく傾き、同時に小刻みに揺れ始めた。
ドォンッ!!
途端、機体が上下に軽く揺れ、間もなく訪れる平衡感覚……着陸したのだ。
ガガガガガッ!!
ギュオッ!!
舗装されていない路面を、輸送機の巨大なタイヤが引きずられる様に踏みしめる。
着陸した機体にブレーキが掛かり、徐々に速度を落としながら平地を滑走していく。
ズズズ……。
そして、次第にその速度が体感出来なくなる程に収まっていくと……機体が遂に激しい動きを止めた。
後続機に道を譲る様に狭い平地を迂回すると……続き、残りの2機が順を追って同様に着陸していく。
3機共に無事着陸し、状況が落ち着くと……途端に機内が慌ただしくなった。
勇達以外の搭乗員である国連軍の兵士達が彼等のサポートを行う為に、我先にと隊列を維持しながら駆け出していく
勇達もまたシートベルトを取り外すと、未だ治まりきらない浮遊感に耐えながらも立ち上がり外へと駆けだした。
「一旦旅客機に向かう!!」
「はいっ!!」
他の機内に乗っていた兵士達も同様、大勢が近くに着陸していたNZ91便へ向けて駆け抜けていく。
次々に銃を構えた兵士達が旅客機へ集まる中、勇達が到着すると……そこに見えたのは緊急脱出スライド、通称滑り台が展開された跡が残された姿だった。
風船の様に空気圧で膨らむこの滑り台は、完全に空気が抜けて入口にぶら下がる様な形で垂れ下がっていた。
「こちらへ!! これを見てくれ!!」
兵士達に呼び込まれ、走って近づいていく勇達……その視線に映ったのは、様々な形を有したおびただしい数の靴跡。
「全員飛行機から降りたんだな……皆どこに向かったんだ?」
そう疑問に思いつつ呟くと……その視線が靴跡の刻みこんだ先へと流す様に追っていく。
その先に見えたのは、遠くにある島の中央。
そこにあったのは……大きな空洞であった。
「あれは……島の入り口……?」
平地におあつらえ向きに備えられた空洞、その先に続く様に連なる靴跡はいずれも一切の迷いも無いように真っ直ぐその方向へと向いていた。
「皆あの先に避難したのか」
そうであればどれ程よかっただろうか。
勇がそう呟くと同時に遠くから兵士の一人の声が高く響く。
「こっちへ来てください!!」
空洞に向かう方で叫ぶ兵士……その側へと駆け寄ると、勇達は息を飲んだ。
地面にはどう見ても靴跡には見えない形をした足跡がくっきりと残っていたのだ。
「魔者が……居る……!?」
元々魔者が居るか居ないかは半々の想定であった。
伝説の島なのであれば人の手など入りようもない……居るとしても遥か昔からここに住む者達の末裔といった所だろうか。
だが結果として、人間ではない何かが居る事が明白となり、その場に居合わせた全員が緊張を走らせる。
「全員に『この島に魔者が居る可能性が高い』と伝えてください。 それと、周囲に気を配って対応をお願いします」
「了解した」
軍隊の隊長が勇の言葉を受け、敬礼するとその場を後にする。
勇達もまた、この状況においてどのように行動するかを打ち合わせる為に六人が囲む様に顔を合わせた。
「役割を決めよう。 まず、俺とジョゾウさんが乗客乗員を探しながら先行するA班。 茶奈とシンが研究員を連れて内部調査を行うB班。 あずが周囲をぐるりと回って来るC班だ」
「御意!!」
「わかりました」
「了解だぜ!!」
「おっけー!!」
「え、ちょ、私はっ!?」
役割を振られていない瀬玲が何やら慌てふためく様に問い返す。
その反応に勇は彼女を見ながら軽く頷き答えた。
「セリはここで待機だ。 この場所の防衛を頼む」
「え、でも、私だって……」
「カッデレータは特性的に室内での戦闘は不向きだし、俺達の機動力には瀬玲は追い付けないだろ。 何かあったらあずの援護は頼む」
そんな勇の答えを前に……瀬玲の顔から「スーッ」と火照りが冷めるかの様に感情が抜けていく。
僅かに目を細めた彼女は、少し間を置くと静かな声で勇に返した。
「そうね、わかった。 ここは私に任せて」
どこか感情の抜けた様な返事……それに気付いたあずーが視線を彼女に向ける。
だがそんな二人の様子を気付く事も無く、ジョゾウが声を上げた。
「各々方、『おうとまっぴん』機能を使う時に御座る」
「なんだっけそれ……」
「……勇殿、少しは身の回りの装備に気を掛けるべきであろう?」
オートマッピング機能とは、各自が持つタブレットのGPSとジャイロセンサを用いて移動の痕跡を元に軌跡を引く機能である。
これにより彼等の動きが線で引かれ、動いた場所がわかる……おまけにこの機能はこのタブレットを有する者全員に即座に共有される。
野外では殆ど意味を成さないこの機能だが、こういった屋内の様な場所であればこれ以上に無い有効な機能と化す。
勇が知らなかったのは、彼が単に機械に疎いからであろう。
他の仲間達は全員知っている様にジョゾウへと頷いて見せた。
「はは……そ、それじゃあジョゾウさん、行こう!!」
「承知!!」
その掛け声を受け、勇がジョゾウと共に駆け出し……空洞へ向けて駆け抜けていった。
「っしゃ、じゃあ俺達も行こうぜ」
「はい、よろしくお願いします」
茶奈と心輝もまた、既に準備を整え始めていた研究員達の下へ駆け寄っていった。
そんな四人の行く末を見つめながら……瀬玲は静かにその場に佇む。
そしてそれをあずーが背後から静かに見つめ、心配そうな表情を浮かべる。
既にそこに剣聖の姿は無く……彼等の居る平地遥か上方の壁を駆け抜ける様に走り去っていく一人の人影があった。
各々が動き、島へとアプローチを仕掛け始める。
今なお謎の多い空島で、勇達の長い戦いが始まりを告げたのだった。
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