時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第十九節「Uの世界 師と死重ね 裏返る力」

~それぞれ の 一歩~

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「双方、そこまでだッ!!」



 直後に突如響き渡る大声……。

 その声が聞こえた途端、グーヌー族達の表情が驚きの顔に包まれ……視線を声の発せられた元へと向け始める。
 勇達もまた、それに釣られ視線を向けると……坂の上方に人の姿が3人ほど映りこんでいた。



 そこに立つ者……グーヌー族であるが他の者達よりも背が低く、毛並みの白い者達の姿であった。



「ちょ、長老……」

 ぽつり、統率者がそう呟き……徐々に強張らせた体の力が緩んでいく。
 それを感じ取った勇も徐々に拘束する力を弱め……そして彼の拘束を解いた。

「再度言う……双方拳を収めよ……これ以上の争いはワシが許さぬ」

 長老と呼ばれた者は再びそう言い放ち、周囲に立つ者達へその視線を向ける。
 途端に弓矢を構えていた弓兵達や、その周囲に隠れていた兵達がそれぞれの持つ武器を手から離し、項垂れる様に肩を落とし始めた。

「貴方はもしかして……彼等の王ですか?」
「……左様じゃ……ヌシがかの噂の『フジサキユー』だな?」
「そうです」

 周囲に居る全ての者達が彼を注視する中、恐れる事もなくその歩みを進め……遂には立ち上がっていた勇の目の前へと辿り着く。

「我が名はダーダー……グーヌーが長をしておる。 こ度はこやつ……我が息子ズーダーが失礼な仕打ちを行った……非礼を詫びたい」

 そう言い、その両手を胸の前で上下に重ね頭を僅かに垂れる……彼らなりの詫びの仕草なのだろう。
 だがそんな時、ズーダーと呼ばれた統率者が身を起こしながら荒げた声を上げた。

「だが父上私は……」
「口が過ぎるぞズーダー……ワシは止めたハズ……!!」
「ウゥ……」

 長老ダーダーがそう言い放つと、先程まで息巻いていたズーダーの肩が丸くなり頭を降ろした。

「一体どういう事なのか説明願えますか……?」
「ウム……ヌシ達の事を我らが知っているという事は存じておるか?」
「えぇ……」

 離れていたレンネィがゆっくり近づいてくる中、彼の話は続く。

「我らはとある方法でヌシ達を知り、そしてヌシ達の行動理念を知った……だがな、こやつがそれを信用するに値するかは試してから決めると息巻きおってな……」

 手に持った杖をズーダーの頭をへとコンコンと当てながら語る。

「そして若者達を率いて出向いたという訳じゃ……年寄りのワシの力では止める事叶わなんだ」
「そうだったのですか……」

 その背後では心輝とジョゾウがアンディとナターシャの拘束を解き、二人の体が自由となり立ち上がり始めていた。

「だが、今の行動、言葉、そしてお主の心の色……いずれをとっても信頼に値すると言えよう……特に心の色は……聞いていた以上に、明るく輝いている様にすら思えるよ」
「心の色……もしかしてこの情報って……」
「左様……全てはアルライの長に聞け……ワシから語るに信たる理由は無い故な」



 その時、全てが繋がった。

 魔特隊の事は、カプロを通じてジヨヨ村長も知る所であるからこそ……。



「ついでに、カナーダ・・・・政府にも一芝居してくれてありがとうと伝えておいてくれんか」
「やっぱり……彼等も一枚噛んでたんですね……」
「ウム、本来は穏便に話を済ませようと思うておったがな……こやつが勝手に勘違いして突っ込むもんだから危うく人との関係を断ち切る所だったわ」

 途端、長老ダーダーが「ハハハ」と声を上げて笑い始める。
 それに釣られた様に勇や心輝達も苦笑いを浮かべていた。

「わかりました……でも良かった、皆さんが本当は分かり合える人達だって事がわかって」
「我らもまたアルライと同じく隠れ里の者だからのぉ……結界が転移で解けてしまい、こうやって白昼に身を晒す事に成った訳だが……」

 彼等の事情・状況を知り、勇達は安堵の表情を浮かべていた。
 そして勇達との戦いを無意味だと悟ったグーヌー族の若者達もその顔に安堵の表情を浮かべ始めていた。

「ですが、死者が出たというのは本当に申し訳なくあります……」
「本来は出る事は無かった犠牲だ、気にするな……それよりもズーダー……お前には罰を与えねばならん。 仲間を死に追いやった罰をな」

 彼の頭を突く杖がとうとう「ガンガン」という力強いものへと変わっていく。

「ウゥ……お許しください父上……」
「ならば行動で示すが良い……其方をこれより暫し魔特隊への派遣を命ずる。 好きな仲間をあと4人ほど選び連れて行くが良い」
「なっ……!?」
「地の果ての道を知り、己の未熟さと彼等の在り方を知れ……『フジサキユー』殿、彼等のお供をお願いしてもよいだろうか?」

 彼等のやり取りにキョトンとする勇……突然降って沸いた事案に彼も慌て戸惑う。

「え、あ、俺にそんな権限ないのですが……ま、まぁ平気だと思います……多分」
「勇……そんな自信無い事言わないで頂戴……長老ダーダー、魔特隊リーダーであるレンネィが貴方の申し出をお受けいたします。 それが双方の納得出来る最もな方法なのであれば」

 そんな勇を見兼ねたのか、レンネィが横から口を挟み彼等の申し出を潔く受け取る。
 彼女の丁寧な物腰を前に、長老ダーダーもにっこりと笑顔を浮かべ再び一礼した。

「御好意に深く感謝する……」





 こうして、グーヌー族との戦いから始まった騒動は終わりを告げ……勇達は帰路へと就いた。



 成り行きで同行する事に成ったグーヌー族の若者達5人を連れ、彼等は再び自国へと戻る為に空を舞う。

 初めての空の旅に驚きを隠せないグーヌー達を尻目に、疲れた体を癒す様にシートへ座り落ち着きを見せる戦士達の姿。

 勇もまた、戦いの折に見た統也との再会を思い出しながら……その想いを馳せる。

「統也……お前もしっかりやれよ……」



 大空を舞い上がった鉄の翼が青の彼方へと消え、それぞれの想いを運ぶのだった。





―――――――――――――――――――――――

 ここは同じ様で異なる世界の片隅……



 一人の背の高い青年がとある地に立っていた。
 その目の先にあるのは……「変容地区出身者避難用仮設住宅地」と書かれた看板。

 青年は一人ゆっくりと歩みその敷地内へと足を踏み入れる。



 そんな彼の行く先に、一人の少女が静かに青い如雨露じょうろを持ち、小さな植木鉢に水を差す姿があった。



「……やぁ、こんにちは」
「ッ!?」

 少女は突然青年に声を掛けられ……体の動きを止める。
 昔聞いた事のあるその声に、彼女は恐怖を覚え身動きが出来なくなっていた。



 だが……青年はそんな様子を見て目を細め……優しい口調で声を連ねる。

「突然すまない……君に言わなければならない事が出来たんだ」

 だが少女からは声は返ってこない。
 彼を視線に入れる事すら拒否する様に、下がった首は上がらないまま。

「その……なんつか……あの時はひどい仕打ちをしてしまってごめんなさい……」

 その言葉を聞いた途端……少女の強張った口元が僅かに緩む。

「俺、君を大事にする人に再……出会って、自分がどれだけ愚かだったかっていう事に今更気付いたんだ」

 その長い前髪は彼女の表情すら隠し続け。

「勿論、今更許してもらおうなんて思ってない……ただ、知ってほしかった。 俺が間違っていたって事を知ってもらいたかった……それだけなんだ」

 青年は一筋の涙を流す……それは己の愚かさを悔いたが故の彼女への懺悔の様。

 青年は踵を返し彼女を背に……施設の外へ歩いていく。
 それに気付いた少女は彼の背中を視界に映し、思いがけず声に成らない声を小さく上げた。

「あ……うぅあ……」

 それは彼女の精一杯の言葉……。
 青年によって受けた心の傷から伴った代償……。

 その意味がわかる者は他誰一人として居ない。



 その声が届きすらしなかったであろう青年は……彼女の真意の有無に関わらず、自分が真に望む未来へと歩き始める。

 己が悔いた今の在り方を変える為に、ここから一歩を踏み出したのだ……。



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