時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第十九節「Uの世界 師と死重ね 裏返る力」

~U の せ か い~

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 の頬すぐで二人の拮抗した押し合いが繰り広げられる。
 それはどっちが勝とうが報われる事の無い不毛な戦い……。





「ホウ……まさかとは思うたが、魔剣使いが来ていたとはな……クハハハ……」





 その時、二人の戦いに水を差す様に低い唸り声が響き渡った。



 突然の声。
 そしてそこから感じ取れる気配……―――それは殺気―――



「何ッ!? くうっ!!」

 その一瞬の間を、は空かさず狙い打つ。
 咄嗟に翠星剣を握った右拳で統也の左脇腹を押し込む様に殴りつけたのだ。



ドゴッ!!



「ガハッ!?」

 突然の腹部の衝撃に、統也が思わず呻き声を上げる。
 拍子に勇の顔に接近していた右腕の力が弱まり、ガクリとその姿勢を崩した。

 その隙をは見逃さない。
 統也の拳を掴み取ったまま、その体ごと思いっきり振り回し始めた。

「う、うああっ!?」

 突然の浮遊感に見舞われ、狼狽える統也。
 そして勢いのまま、倒れた茶奈や少年の遺体がある場所へと向けて思いっきり放り投げたのだった。

 回転の勢いを殺すが如くが片足をアスファルトへ打ち付け、声のした方へと体を向けてその動きを止める。
 その視線の先は……雨に打たれながら佇む巨大な人影……。



ビュンッ!!

バシャッ!!



「がッはァ!!」

 濡れたアスファルトに叩きつけられ転がる統也の体。
 拍子に跳ね上げられた水しぶきが彼の体に当たり服へ染み込んでいく。

 だが統也はめげず地面に手を突き、体を持ち上げようとする。
 しかしその視線が真っ直ぐ前に向いた時……彼は驚愕した。

 その先に在るの背中……そしてその遥か前方に居る巨大な異形の姿。



 勇はその姿を前に、右手に掴んだ翠星剣を強く握り締める。
 心では驚きつつも、その顔は相手を睨み付けるように鋭い眼光を向けていた。



「何故……こんな所にキサマが居るんだ……ダッゾ王!!」



 その巨体の主……彼こそダッゾ王。
 ヴェイリという男の犠牲を素に魔剣使いになりたての勇が倒す事が出来た魔者の王である。

 だが、彼がここに居るという事以外にも決定的に異なる部分があった。



 それはダッゾ王が右手に掴むモノ……魔剣であった。



 4メートルに達する巨体を持つダッゾ王。
 しかし彼が携えていたのは、身長に負けずとも劣らない程の太く長い巨大な大剣。

 そんな魔剣すら見た事が無い勇にとっては脅威の他ならない。
 そもそもが、最初から何もかも違い過ぎたのだ。

 雨が降っている事から始まり―――
 統也がそこに居る事。
 少年の勇が死ぬ事。
 ダッゾ王がここに居る事。

 そして魔剣を携えるダッゾ王の力は……ビリビリと感じさせる程に凄まじい。

「これはあの時のダッゾ王とは違う……こいつは……強い!!」

 が唸る……目の前に居るダッゾ王は強いと断言出来る程の力強い命力を迸らせていた。
 恐らくその力の秘密は……右手に握る魔剣の存在。

「あれはもしかして……古代三十種エンシェントサーティか!?」
「それを知ったからと言って……どういう事にもなるまい?」

 ダッゾ王が肌にビリビリと感じる程の強大さを見せつける。
 だが、それに怯む事無く勇は深く息を吐き出すと……その力強い眼光を向けた。

「ヌッ!?」

 ダッゾ王もその時気付く……目の前に居る魔剣使いが相当の手練れであろう事に。



ズズズ……!!



 互いの表情が強張り互いに鋭い視線を向ける。
 それぞれが持つ魔剣に力を篭め、光がゆらりと纏われていく。
 二人の命力の迸りが威圧感を伴い、周囲に圧迫感をばら撒いていた。
 その圧倒的な場に気圧され、統也は立ち上がる事すらままならず……ただ静かに二人の姿を見つめ続けるのみ。

 には引き下がれない理由ワケがある。
 例え誤解されて殺意を向けられようと……親友がそこに居る限り。
 例え介抱する事が出来なくとも……彼女がそこに居る限り。



―――もしここから引けば……統也も……茶奈も死ぬ……それだけはッ!!―――



 その想いが脳裏に過った矢先、のつま先に力が籠る。



ドンッ!!



「ヌゥオッ!?」



 すさまじい踏み込みによって生じた力がその体を一瞬にして高速領域へと誘う。
 その瞬間、目にも止まらぬ速さでダッゾ王へと向けて斬り掛かった。

「ウオォーーーーッ!!」

 命力の残光がダッゾ王へ向けて刻まれる。
 慣性と力の乗せて振り込まれる鋭い斬撃。
 だがダッゾ王は長く重い刀身を軽々と傾けて構え、その斬撃を受け流した。



ギィィインッ!!



 金属と命力の擦り合いが生まれ、激しい音を掻き鳴らす。
 翠星剣が火花と命力の燐光を弾き飛ばしながら巨大な刀身の上を滑っていく。

 完全に受け流された斬撃。
 途端、重い刀身が勢いよく持ち上がり……勇ごと翠星剣を弾き飛ばした。



ギャンッ!!



「クッ!?」

 突撃の勢いと、弾かれた衝撃がの体を宙高くへと浮かす。
 だがバランスを崩す事は無く……景色の先、勢いのままに雨降りしきるアスファルト上へと片足を突いた。

 そこに生まれたのは翠星剣の自重による回転慣性。
 大地を突いた足を軸に、体がぐるりと回転した。



ジャジャッ!!



 滑る片足がアスファルトに溜まる雨を弾き、水しぶきが舞い散る。
 の体の勢いはたちまち水の粘性と足の踏み込みによって落とされ、遂にはその回転を完全に止めた。

 その視線は回転を止めた時の体の向きのまま……ダッゾ王へ向けられる。

 空かさず姿勢を落とし、再度ダッゾ王へ向けて飛び掛かった。
 先程よりも強い光を放つ翠星剣が不規則な無軌道の軌跡を激しく刻む。

 軌道がブレる度に弾ける命力の残光。
 予測出来ない斬撃軌道がダッゾ王を翻弄する。



チュイィンッ!!



 辛うじて防がれる一撃。
 だが、それが終わりでは無かった。



ギュンッ!!

ヒュォンッ!!

ギャリンッ!!



 の猛攻が止まらない。
 翠星剣が引く残光がダッゾ王を覆い包むが如く宙に刻まれていく。
 防がれようと構う事無く、斬っては離れ、斬っては離れを繰り返していた。

「ヌゥオォォォ!? こ、こ奴ゥ!?」

 ダッゾ王が必死に防御し、顔を歪ませる。

「ハァァァァーーーーーーッ!!」

 斬撃に雄叫びが伴う。
 自身もまた焦りで余裕が無いようにも見えた。



ギャアンッ!!



 攻撃が弾かれた拍子に空高く飛び上がる。
 それはが意図した行動。
 目下に映るダッゾ王を鋭く睨み付け、秘める想いを解き放つ。

「引く訳にはいかないッ!! 絶対にッ!! ウゥオォォォォ!!」



―――守ってやれって、言われたからさ?―――



わっぱ如きがァァァ!! ダッゾ王を舐めてくれるなァァァーーーー!!」



―――守れない悔しさは痛い程わかるからさ?―――



ギャァァァンッッ!!



―――俺は皆が言う程強くないからさ?―――



 爆発的な命力の放出によって生まれた推力で、ダッゾ王目掛けて激しい斬撃の撃ち降ろしが見舞われる。
 だが無情にも渾身の一撃すら防がれ、弾かれた勢いのままにアスファルト上へと激しく着地した。



ジャジャジャッ!!



 空しく大地を滑るの足。

 力は拮抗していたが、それは逆に言えばにとっての不利。
 の最大の弱点は命力量が乏しい事。
 長期戦はその弱点が大きく足を引っ張る事となる……焦りも出よう。

「このままだと……ハッ!?」

 その時ふと気付き、地面に目をやる。



 そこにあったのは……先程落としたアラクラルフであった。



 それをおもむろに手に取り……が意を決して立ち上がる。

「やってみるさ……力が無い訳じゃあない!!」



 その時……の両腕が左右に広げられ、翠星剣とアラクラルフが大きく構えられた。



―――イメージだ、ありったけの思いを篭めろ!! 最高の一撃を!!―――



「二刀……キサマはまさかァァァッ!?」



 途端飛び上がるの体。
 背後で巻き上がる炎が押し上げるかの如く……速く高く。



「有り得んッ!! 彼奴はキサマ程若くはないハズだあッ!!」



 ダッゾ王が焦りの顔を露わにする。
 その眼前に舞うのは二翼の光刃。



 灰色の景色を斬り裂く様に白の光翼を纏うの姿がそこに在った。



 翠星剣から膨大な命力が放たれ、アラクラルフがその命力を吸い込んで増幅する。
 二つの力が生み出した強い白光が轟々と音を轟かせ、圧倒的な力を誇示していた。



 そして、の瞑っていた目が今……見開く。





「二・天・剣・塵ッ!!ウオォォォォォ!!」





 光の翼に煽られた体が高速でダッゾ王へと向かって行く。
 そして膨大な命力翼を仰ぐが如く……二本の魔剣を激しく振り回した。



 それはかつて一度だけ、彼の目の前で剣聖が見せた奥義であった。
 見様見真似……だがその輝きは規模こそ違えど、まさにそれに近い。

 その気迫、その力、その勢いに呑まれ抵抗出来ないダッゾ王はただ唖然とその光景を前に立ち尽くす他無く―――



ギュォォォォーーーーッ!!



 刹那、二本の魔剣から撃ち放たれた巨大な四つの光輪がダッゾ王を貫いた。



 複雑に絡み合った輪が、その体を通り抜け、四方へ散る。
 アスファルトを激しく斬り裂きながら……光輪は静かに大気へと消えていった。



ジャジャッ!!



 の踵が両足同時にアスファルトを強く叩く。
 「メシリ」と音を立てて彼を受け入れ……僅かな静寂が場を包む。



 途端、ダッゾ王の体が幾多もの欠片となって崩れ落ち……あっという間に肉塊と成り果てたのだった。



「ハァッ……ハァッ……ウゥ……力を使いすぎた……」

 着地を果たしたものの……膝が上がらずそのまま大地へと膝を突く。
 二の腕も痙攣を起こし、技の威力から来る負荷を体現していた。



―――これで……守りきれた……これで……!!―――



 肩を動かし荒々しく呼吸を繰り返す。
 だが湿った空気と顔を流れる雨の雫が呼吸を妨げ、息がなかなか整わない。

 力が抜け、不意に持っていた二本の魔剣がその手から零れ落ち……大きな金属音と共にその場へ落ち倒れた。



カララァン……!!



「ハッ……ハァッ……」



パシャッ……パシャッ……



「ハァッ……ウゥ……?」



 その時、視界が僅かに陰りを帯びる。
 それは影……。

 それに気付いたがゆっくりと首を曲げ視線を移す。



 そこに居たのは……エブレを高く掲げた統也の姿であった。

「――――――ッッ!?」

 声に成らない掠れ声を上げ、目を見開く。
 その光景を前に、何の抵抗も出来なず……ただ、統也の行動を見つめる事しか出来ない。



 そして……その魔剣が勢いよく振り下ろされた時……の視界が真っ黒に染まったのだった。


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