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第十八節「策士笑えど 光衣身に纏いて 全てが収束せん」
~男女想いし 補完される互いの価値観~
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ヒィィィーーーーン……!!
藤咲家の遥か上空に一筋の光が走り……突如それが消える。
すると間も無く、空からスカートを抑えた茶奈が降下してきた。
ドスゥーン!!
脚部へのフルクラスタを上手く使いアスファルト上に上手に着地を果たす。
小学生低学年くらいの少年がその光景を唖然としながら見つめ続ける中、そんな事に目も暮れず茶奈はそのまま家へと駆け込んでいった。
「あら茶奈ちゃん、もう大丈夫なの~?」
帰ってきた彼女へ本日休みだった勇の母親がリビングから声を掛けるが……茶奈は無言のまま自室へと駆け抜けていった。
「あら……何かあったのかしら」
バタンッ
茶奈の部屋の扉が強く締まり、鍵が掛かる。
そして羽織っていた上着を無造作に脱ぎ捨て、その体をベッドへと倒れこませ布団の中へ埋めた。
「はぁ……はぁ……」
勇との激戦、そしてそこからの慣れない形での飛行……茶奈はこれらの連続的な行動によって、体から大量の汗が流れ落ちる程に疲弊していた。
脱ぎ捨てた上着は汗でぐっしょりとなっており、湿りきった上着がフローリングの床にベタリとくっつく様に落ちていた。
未だ鳴り止まない胸の鼓動。
勇と口づけを交わした時から茶奈の心臓は速く鼓動を刻んでいた。
「……私……どうしよう」
そっとその唇に指を充て、当初の感覚を思い出す。
「ごめんなさい……ごめんなさい勇さん……」
そんな彼女から漏れ出した言葉……「ごめんなさい」という言葉。
田中茶奈、彼女は勇と出会った時から彼に対し大きな感情を抱いていた。
だが、それは恋や愛といったものでは決してなかった。
それは単に言えば「憧れ」である。
初めて会ったのにも関わらず命を救われ、幾度と無く自身の前に立ち、ずっと守り続けてくれた彼の大きな背中は、彼女にとって掛け替えのない存在へと変わっていたのだ。
それ故に彼女は……度重なる出来事を経て、藤咲勇という男を神格化するまでに至っていた。
先程レンネィは彼女の行動を嫉妬と言ったが……それは事実とは異なる。
彼女が暴走した理由……それは彼がリジーシアで行っていた行為が己を下げる行為と認識したからこそ、そうであるべきではないと無意識に感じた彼女はそれを是正させる為に怒りを上げたのだ。
彼は凄いから
彼は尊大だから
彼は何でも出来るから
そんな気持ちが彼女を取り巻き彼を大きく見せていたのだろう。
だからこそ、彼女はそんな藤咲勇という男の気持ちに適うよう……彼をサポートし続けてきたのだ。
それが本当は逆の立場であったのだとしても。
彼女は気付いていないのだ。
己が強すぎるという事もさることながら、自分がそう思っている事すらも。
だからこそ彼女は呟く……ごめんなさい、と。
彼女自身が気付かない心の奥底で呟く。
『勇さんの力に見合っていない私が唇を奪ってしまって』ごめんなさい、と……。
暗い部屋の中……ベッドの上で蹲り、独り言でブツブツと呟く。
そんな中、彼女はふと想いを募らせていた。
―――
勇さんは、優しい人だから……だからこそ……
彼と知り合ってからも、多くの人と触れあってきた。
瀬玲さん、あずちゃん、亜希ちゃん、エウリィさん、レンネィさん、莉那ちゃん、笠本さん、ラクアンツェさん……他にも一杯居る。
色んな人に優しさを表してきた勇さんだから……
きっと、知らない女の人でも優しく出来るんだろうな。
きっとあの時勇さんは、そうしないといけない状況だったのかもしれない。
私が信じてあげなきゃいけないんだ。
……それが優しいあの人の為に私が出来る唯一の……
―――
「そうだよね……話も聞かないで……やっぱり私バカだなぁ……」
その口角が上がりにっこりと微笑みながらも、涙が一滴。
その要因は勘違いではあるが……彼女の中にある蟠りが徐々に薄れ気持ちが落ち着いていく。
深呼吸をし、呼吸を整えると……疲れだるくなった体がふわりと僅かに軽くなった様に感じていた。
心の支えが取れたからであろうか……その顔に浮かぶのは自然な形の笑顔。
寝返りを打ち、仰向けになると……両手を大きく広げた。
熱の籠った湿気から肌が離れ、乾いた生地へ当たると同時にひんやりとした心地よい感覚が皮膚を通して伝わっていく。
「でも、勇さんに会ったらなんて言おう……まずはごめんなさいからかな……」
少女は悩む。
切り口など些細なきっかけでしかないが……相手を傷つけたくないからこそ言葉を選び、最良の答えを求めて。
すると突然、玄関の扉の勢いよく開く音が響き渡った。
ガタンッ
「え、も、もしかして……」
ダッダッダッダ……
勢いよく階段を駆け登っていく音……その音の主は紛れも無く勇本人。
そして足音が消えると……間を置いて茶奈の部屋の扉からノック音が聞こえてきた。
コンッコンッ
「茶奈、居る?」
扉の向こうから勇の声が聞こえ……茶奈が思わず慌てふためく。
「ど、どうしよう……あ、服……ああ、えっと……い、居ますー!!」
上半身が下着だけともあり、扉を開ける事もままならず……声を上げて存在だけを示す。
すると、何かを悟ったのか……勇が扉の向こうで話し始めた。
「今は扉の向こうからでもいいから聞いて欲しい……その、さっきはごめん……俺、不可抗力とはいえ君に迷惑かけちゃって……本当にごめん」
勇から放たれた言葉は茶奈にとって思いがけない『ごめん』という言葉。
「なんで……勇さんが『ごめん』なんて言うんですか……それは私が言わなきゃいけない事なのに……」
扉の向こうから聞こえてくる茶奈の声……その言葉もまた勇にとっては思いがけない言葉。
「でも俺は君の……!!」
「私は勇さんの……!!」
二人の言葉が重なり響く。
そして二人が同時に声を詰まらせた。
お互いの声が聞こえ、そして同じ様な事を言っていたからこそ。
沈黙が場を支配する。
互いが言葉に詰まり発する言葉を思い浮かべられないでいた。
しばらくの間が開くと……再び勇の声が扉の向こうから聞こえ始める。
「……俺はさ……君の声で気付かせてもらったんだ……本当にあの時、リジーシアでの時……自分を見失ってた。 恥ずかしい事だけど、それでいいんだって思ってた。 君に責められなければきっと俺……あのままずっとあそこに居たかもしれないんだって今更ながらに思うよ」
「勇さん……」
勇が心の内にあった事を一つ残らず曝け出し、言葉に乗せ、茶奈は静かにそれを聞き届ける。
「さっきの事は……俺なんかが君の……その……とにかくごめん。 ……そしてありがとう」
「ありがとう……?」
「うん、ありがとう……俺を否定しないでくれて……ありがとう!!」
それは勇の精一杯の言葉だった。
考えていた訳ではない。
それで済むと思っていた訳でもない。
ただ、彼女が否定するのではなく……「ごめん」と言ってくれた……その想いに感謝したかっただけだった。
そしてそれが彼女も同じだったからこそ―――
「勇さん……私もありがとう!! 私も……受け入れてくれてありがとう!!」
その時、二人の顔は大きな笑みを浮かべていた。
そして次第に聞こえてくる互いの笑い声……。
「はは、あはは……」
「フフッ……フフフ」
家一杯に広がる二人の笑い声は、リビングにいる勇の母親にも聞こえてくる。
全ての会話が筒抜けであり、聞き耳を立てていた母親もお茶を啜りながら「フフッ」と微笑んだ。
「まだまだ、青春ねぇ」
少しづつ笑い声が収まっていき、次第にそれが激しい息遣いへと変わっていく。
「ハァッ、ハァッ……ごめん、ここまで全速力だったのと、緊張の会話で息が切れた……」
「私も、私も笑いで息が上がって……アハハ……」
「ハァ、ハァ……はぁ~……」
勇は緊張が途切れたのか、膝を曲げ、その場に座り込むとおもむろに扉を背に寄りかかる。
茶奈もまた、勇の声が良く聞こえる様にとゆっくり扉の前に座り……勇同様、扉に背を預けた。
「実はさ、俺……茶奈が俺に対して興味がないんじゃないかって思ってた」
「そ、そんな事無いです……むしろ尊敬してます、凄いって思ってます」
扉越しに背を向け合いながら本音で語り合う二人。
「むしろ勇さんが凄過ぎて、私は追い付くのがやっとで……」
「そ、それは勘違いだよ……茶奈はアストラルエネマなんだから君の方が凄いハズさ」
「いえ、それは指標にしかならないんです……勇さんなんて皆より力が弱いハズなのにみんなの中で一番強いじゃないですか」
「一番なんて大袈裟な……俺はそこまで強くないよ」
「それは謙遜です。 私が保証しますから」
「なら、俺は茶奈の保証をするさ、君は本当に強いんだって事のさ」
すれ違いから生まれた誤解、自分の相手に対するイメージだけが先行した認識が隙間から埋められ形を成していく。
そしてそれは徐々にあるべき姿へと形成していった。
二人の想いはそうして補完され―――
「なんだか、俺達……バカみたいだよな。 なんだか色々、勘違いしていそうだ」
「そうですね、すれ違ってばかりで……でもやっぱり、話せばわかるんですね」
勇は茶奈が自分をそこまで見ていないと思っていた事。
茶奈は勇が自分にとって常に高い所に居ると思っていた事。
そのどちらもが、二人にとっては唯の勘違いだった事。
それに気付けたのなら……二人は改めて、歩み出せる……そう思えたから。
その日、勇は気付いた。
茶奈が人並み以上に自分を見てくれていた事に。
そして戦いで支え続けてきたのは自分の信念を支える為だったという事に。
その日、茶奈は気付いた。
勇が自分が思う程に大きな存在ではないという事に。
人だからこその存在感でありながらも、それは最も自分に近しい存在であるという事に。
二人は気付いた。
だからこそ二人は、これからも共に生きて行く事が出来るのだと。
それは恋情や愛情ではなく……単に共存感情そのもの。
それ故に、二人が家族という体裁を持っている以上……それは失われる事はないだろう。
今は互いの真の想いに気付かぬとも―――
―――二人の想いは確かに……交錯したのだ。
藤咲家の遥か上空に一筋の光が走り……突如それが消える。
すると間も無く、空からスカートを抑えた茶奈が降下してきた。
ドスゥーン!!
脚部へのフルクラスタを上手く使いアスファルト上に上手に着地を果たす。
小学生低学年くらいの少年がその光景を唖然としながら見つめ続ける中、そんな事に目も暮れず茶奈はそのまま家へと駆け込んでいった。
「あら茶奈ちゃん、もう大丈夫なの~?」
帰ってきた彼女へ本日休みだった勇の母親がリビングから声を掛けるが……茶奈は無言のまま自室へと駆け抜けていった。
「あら……何かあったのかしら」
バタンッ
茶奈の部屋の扉が強く締まり、鍵が掛かる。
そして羽織っていた上着を無造作に脱ぎ捨て、その体をベッドへと倒れこませ布団の中へ埋めた。
「はぁ……はぁ……」
勇との激戦、そしてそこからの慣れない形での飛行……茶奈はこれらの連続的な行動によって、体から大量の汗が流れ落ちる程に疲弊していた。
脱ぎ捨てた上着は汗でぐっしょりとなっており、湿りきった上着がフローリングの床にベタリとくっつく様に落ちていた。
未だ鳴り止まない胸の鼓動。
勇と口づけを交わした時から茶奈の心臓は速く鼓動を刻んでいた。
「……私……どうしよう」
そっとその唇に指を充て、当初の感覚を思い出す。
「ごめんなさい……ごめんなさい勇さん……」
そんな彼女から漏れ出した言葉……「ごめんなさい」という言葉。
田中茶奈、彼女は勇と出会った時から彼に対し大きな感情を抱いていた。
だが、それは恋や愛といったものでは決してなかった。
それは単に言えば「憧れ」である。
初めて会ったのにも関わらず命を救われ、幾度と無く自身の前に立ち、ずっと守り続けてくれた彼の大きな背中は、彼女にとって掛け替えのない存在へと変わっていたのだ。
それ故に彼女は……度重なる出来事を経て、藤咲勇という男を神格化するまでに至っていた。
先程レンネィは彼女の行動を嫉妬と言ったが……それは事実とは異なる。
彼女が暴走した理由……それは彼がリジーシアで行っていた行為が己を下げる行為と認識したからこそ、そうであるべきではないと無意識に感じた彼女はそれを是正させる為に怒りを上げたのだ。
彼は凄いから
彼は尊大だから
彼は何でも出来るから
そんな気持ちが彼女を取り巻き彼を大きく見せていたのだろう。
だからこそ、彼女はそんな藤咲勇という男の気持ちに適うよう……彼をサポートし続けてきたのだ。
それが本当は逆の立場であったのだとしても。
彼女は気付いていないのだ。
己が強すぎるという事もさることながら、自分がそう思っている事すらも。
だからこそ彼女は呟く……ごめんなさい、と。
彼女自身が気付かない心の奥底で呟く。
『勇さんの力に見合っていない私が唇を奪ってしまって』ごめんなさい、と……。
暗い部屋の中……ベッドの上で蹲り、独り言でブツブツと呟く。
そんな中、彼女はふと想いを募らせていた。
―――
勇さんは、優しい人だから……だからこそ……
彼と知り合ってからも、多くの人と触れあってきた。
瀬玲さん、あずちゃん、亜希ちゃん、エウリィさん、レンネィさん、莉那ちゃん、笠本さん、ラクアンツェさん……他にも一杯居る。
色んな人に優しさを表してきた勇さんだから……
きっと、知らない女の人でも優しく出来るんだろうな。
きっとあの時勇さんは、そうしないといけない状況だったのかもしれない。
私が信じてあげなきゃいけないんだ。
……それが優しいあの人の為に私が出来る唯一の……
―――
「そうだよね……話も聞かないで……やっぱり私バカだなぁ……」
その口角が上がりにっこりと微笑みながらも、涙が一滴。
その要因は勘違いではあるが……彼女の中にある蟠りが徐々に薄れ気持ちが落ち着いていく。
深呼吸をし、呼吸を整えると……疲れだるくなった体がふわりと僅かに軽くなった様に感じていた。
心の支えが取れたからであろうか……その顔に浮かぶのは自然な形の笑顔。
寝返りを打ち、仰向けになると……両手を大きく広げた。
熱の籠った湿気から肌が離れ、乾いた生地へ当たると同時にひんやりとした心地よい感覚が皮膚を通して伝わっていく。
「でも、勇さんに会ったらなんて言おう……まずはごめんなさいからかな……」
少女は悩む。
切り口など些細なきっかけでしかないが……相手を傷つけたくないからこそ言葉を選び、最良の答えを求めて。
すると突然、玄関の扉の勢いよく開く音が響き渡った。
ガタンッ
「え、も、もしかして……」
ダッダッダッダ……
勢いよく階段を駆け登っていく音……その音の主は紛れも無く勇本人。
そして足音が消えると……間を置いて茶奈の部屋の扉からノック音が聞こえてきた。
コンッコンッ
「茶奈、居る?」
扉の向こうから勇の声が聞こえ……茶奈が思わず慌てふためく。
「ど、どうしよう……あ、服……ああ、えっと……い、居ますー!!」
上半身が下着だけともあり、扉を開ける事もままならず……声を上げて存在だけを示す。
すると、何かを悟ったのか……勇が扉の向こうで話し始めた。
「今は扉の向こうからでもいいから聞いて欲しい……その、さっきはごめん……俺、不可抗力とはいえ君に迷惑かけちゃって……本当にごめん」
勇から放たれた言葉は茶奈にとって思いがけない『ごめん』という言葉。
「なんで……勇さんが『ごめん』なんて言うんですか……それは私が言わなきゃいけない事なのに……」
扉の向こうから聞こえてくる茶奈の声……その言葉もまた勇にとっては思いがけない言葉。
「でも俺は君の……!!」
「私は勇さんの……!!」
二人の言葉が重なり響く。
そして二人が同時に声を詰まらせた。
お互いの声が聞こえ、そして同じ様な事を言っていたからこそ。
沈黙が場を支配する。
互いが言葉に詰まり発する言葉を思い浮かべられないでいた。
しばらくの間が開くと……再び勇の声が扉の向こうから聞こえ始める。
「……俺はさ……君の声で気付かせてもらったんだ……本当にあの時、リジーシアでの時……自分を見失ってた。 恥ずかしい事だけど、それでいいんだって思ってた。 君に責められなければきっと俺……あのままずっとあそこに居たかもしれないんだって今更ながらに思うよ」
「勇さん……」
勇が心の内にあった事を一つ残らず曝け出し、言葉に乗せ、茶奈は静かにそれを聞き届ける。
「さっきの事は……俺なんかが君の……その……とにかくごめん。 ……そしてありがとう」
「ありがとう……?」
「うん、ありがとう……俺を否定しないでくれて……ありがとう!!」
それは勇の精一杯の言葉だった。
考えていた訳ではない。
それで済むと思っていた訳でもない。
ただ、彼女が否定するのではなく……「ごめん」と言ってくれた……その想いに感謝したかっただけだった。
そしてそれが彼女も同じだったからこそ―――
「勇さん……私もありがとう!! 私も……受け入れてくれてありがとう!!」
その時、二人の顔は大きな笑みを浮かべていた。
そして次第に聞こえてくる互いの笑い声……。
「はは、あはは……」
「フフッ……フフフ」
家一杯に広がる二人の笑い声は、リビングにいる勇の母親にも聞こえてくる。
全ての会話が筒抜けであり、聞き耳を立てていた母親もお茶を啜りながら「フフッ」と微笑んだ。
「まだまだ、青春ねぇ」
少しづつ笑い声が収まっていき、次第にそれが激しい息遣いへと変わっていく。
「ハァッ、ハァッ……ごめん、ここまで全速力だったのと、緊張の会話で息が切れた……」
「私も、私も笑いで息が上がって……アハハ……」
「ハァ、ハァ……はぁ~……」
勇は緊張が途切れたのか、膝を曲げ、その場に座り込むとおもむろに扉を背に寄りかかる。
茶奈もまた、勇の声が良く聞こえる様にとゆっくり扉の前に座り……勇同様、扉に背を預けた。
「実はさ、俺……茶奈が俺に対して興味がないんじゃないかって思ってた」
「そ、そんな事無いです……むしろ尊敬してます、凄いって思ってます」
扉越しに背を向け合いながら本音で語り合う二人。
「むしろ勇さんが凄過ぎて、私は追い付くのがやっとで……」
「そ、それは勘違いだよ……茶奈はアストラルエネマなんだから君の方が凄いハズさ」
「いえ、それは指標にしかならないんです……勇さんなんて皆より力が弱いハズなのにみんなの中で一番強いじゃないですか」
「一番なんて大袈裟な……俺はそこまで強くないよ」
「それは謙遜です。 私が保証しますから」
「なら、俺は茶奈の保証をするさ、君は本当に強いんだって事のさ」
すれ違いから生まれた誤解、自分の相手に対するイメージだけが先行した認識が隙間から埋められ形を成していく。
そしてそれは徐々にあるべき姿へと形成していった。
二人の想いはそうして補完され―――
「なんだか、俺達……バカみたいだよな。 なんだか色々、勘違いしていそうだ」
「そうですね、すれ違ってばかりで……でもやっぱり、話せばわかるんですね」
勇は茶奈が自分をそこまで見ていないと思っていた事。
茶奈は勇が自分にとって常に高い所に居ると思っていた事。
そのどちらもが、二人にとっては唯の勘違いだった事。
それに気付けたのなら……二人は改めて、歩み出せる……そう思えたから。
その日、勇は気付いた。
茶奈が人並み以上に自分を見てくれていた事に。
そして戦いで支え続けてきたのは自分の信念を支える為だったという事に。
その日、茶奈は気付いた。
勇が自分が思う程に大きな存在ではないという事に。
人だからこその存在感でありながらも、それは最も自分に近しい存在であるという事に。
二人は気付いた。
だからこそ二人は、これからも共に生きて行く事が出来るのだと。
それは恋情や愛情ではなく……単に共存感情そのもの。
それ故に、二人が家族という体裁を持っている以上……それは失われる事はないだろう。
今は互いの真の想いに気付かぬとも―――
―――二人の想いは確かに……交錯したのだ。
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