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第十八節「策士笑えど 光衣身に纏いて 全てが収束せん」
~男心曇りし 戦慄の事務棟狂騒曲~
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茶奈達が中国から戻ってから二日後―――
まだ日が高く昇る時間帯……一機の小型航空機が羽根田空港へ降り立った。
「JNA」と大きく描かれたその機体はゆっくりと滑走路を走り、乗降スペースへと向かう。
その中に乗るのはトルコへ遠征していた勇達であった。
勿論、その機体は決して民間航空企業JNA(Japan National Air)が有する機体ではない。
JNAに名義を借りて偽装の為にペイントされたただのロゴであり、実質は魔特隊が使う為に用意された航空機だ。
乗降スペースへと辿り着き、機体が停止する。
間も無くタラップを背負った車が機体へと接合すると……機体の扉が開き、勇達が姿を現した。
「やっと帰って来たねぇ」
「オイラもう疲れた……美味しい物食べて寝たいよ」
「アタイもー! からあげたべたーい!!」
長い旅路で疲労感を隠せない四人。
そんな中、勇は唯一人静かに浮かない顔でタラップを降りていく。
「どうしたの? 元気ないじゃん」
瀬玲がそんな勇を心配したのか声を掛けると、彼は「ハァ」と一つ溜息を付き……振り返る事無く答えた。
「茶奈になんて説明すればいいのか思い浮かばないんだよ」
「あぁ~……怖かったもんねぇ、きっとめちゃくちゃ怒ってるんじゃないの?」
その言葉を聞くや、沈んだ顔が更に歪みを増していく。
「茶奈に嫌われたら、家でどうやって接したらいいかもうわからねーよ……」
「あはは……まぁ、仲直り出来る様に私もサポートするから、さ? 元気だしなよ」
ここまで盛大に喧嘩した事も無い二人であり、女の子の扱いに長けている訳でもない勇にとっては、魔剣を扱う事など稚拙に思えるくらいに複雑な事だ。
下手をすれば自分のせいで茶奈が家を出て行ってしまうかもしれない……そんな事すら頭に思い浮かび、気持ちが落ち込んでいく。
その日は晴天……彼の気持ちなど知る由も無い空は、何も覆い隠す事無く強い日の光をそんな心の曇り掛かった彼等へと照らし続けたのだった。
―――
勇達を送迎するバスが一台、街中を走り魔特隊本部へと向かって行く。
本部へと辿り着いたバスがゲートを越え、大きな駐車スペースへと辿り着くと……相も変わらず暗い面持ちの勇を筆頭に彼等が降車していく。
それを迎える様にカプロやジョゾウが出口前に立つが……そんな勇の顔を見た彼等は声を掛ける事すら憚れていた。
「やはり先日の事に相当な精神だめぃじを残しておるようであるな」
「そりゃあんなとこ茶奈さんに見られたら恥ずかしくて尻尾があったら千切れちゃうくらいッスよ」
当然、彼等も例のタブレットは持っている。
ジョゾウだけでなく、カプロも非戦闘員とはいえ大事な仲間……情報共有の為にそういった道具類は一式持たされているのだ。
「カプロ殿の一族は恥ずかしい事があると尻尾が千切れるのであろうか?」
「……一つの比喩表現ッスよ、アルライ族の」
尾が長い彼等独特の表現なのだろう。
種族や形が異なれば、種族によって言葉の文化のみならず表現の違いもあるのは当然だ。
しょうもない事で話題を膨らませている二人を他所に、勇達はとぼとぼと事務所棟内へと入っていった。
「Aチーム、ただいま戻りました」
そう声を上げて事務所内を目にする勇……そこに映るのは、勇にも勝るとも劣らない程に暗い面持ちを浮かべ、それぞれの机に突っ伏する心輝達Cチームの面々。
「皆、どうしたんだ?」
その神妙な雰囲気に、心輝が顔を向くことなくぼそりと呟いた。
「……茶奈ちゃんがな……その、なんだ……お前には伝えにくい事だから連絡してなかったんだけどよ……」
「え……ちゃ、茶奈に何かあったのか!?」
その暗いトーンで呟く心輝を前に、大きな不安が勇の心を支配していく。
「すまねぇ、俺には何も言えねぇ……2階の医務室にあの子が寝かされてるからよ……会いに行ってやれよ……俺には……それしか言えねぇよ……!!」
肺にある空気を振り絞るかのように吐き出した言葉が途切れると、机の上に握られた両拳に「ギュッ」と力が込められ、小刻みに震えていた。
その姿を見た時、勇の鼓動が次第に早くなっていく。
ドクッドクッ……
―――まさか茶奈……そんな……そんな事が!?―――
間髪入れず、抱えた荷物を落とし勇が飛び出し駆け出した。
「ハァッ!! ハァッ!! 茶奈……!!」
そして、あっという間にその姿は階段の先に消えたのだった。
「プッ」
途端、変な音が漏れ……心輝の拳の震えが徐々に大きくなっていく。
そんな彼を、瀬玲がずっと座った目で見つめ続けていた。
「アンタ達、性格悪いわよ」
その一言が放たれた瞬間、心輝とレンネィが「ニタァ」と万遍の笑顔を浮かべた顔をぬいっと持ち上げた。
「ブッハハ!!! だって、面白れぇじゃん!! いや、実際ヤバい事に成ってるけど!!」
「アレは無理ッ!! こうしないといけないって使命感感じちゃうわよー!!」
「ギャハハハ!!」と大声を上げながら笑い転げる二人を前に、瀬玲達三人は呆れ顔で見つめ続ける。
Aチームが居ない間に何があったのかわからない程に息ぴったりの心輝とレンネィに疑問を感じつつも……瀬玲自身も茶奈の身に何が起こったのか不安と期待が同時に押し寄せ、居ても立っても居られなくなっていた。
「ちょ、ちょっと気になるから見てこようっかな~……?」
「辞めとけ、巻き込まれるぞマジで」
そこでいきなりの心輝の真剣顔。
「マジ?」
瀬玲もそんな彼等の進言を聞いた途端、さすがに足を止め強張ってしまう。
「ちょっと手が付けられないかも。 そろそろ事務棟から離れた方がいいんじゃないかしら?」
「そこまで!?」
ウズウズとしながらも……二人の戦慄具合から尻込みする気持ちが押し勝ち、しきりに彼等と2階の方角を行き来する瀬玲の顔。
「えぇ~……」
どうしようもない気持ちがぐるぐると心の中で駆け巡り、彼女はただ茫然とする事しか出来なかった。
まだ日が高く昇る時間帯……一機の小型航空機が羽根田空港へ降り立った。
「JNA」と大きく描かれたその機体はゆっくりと滑走路を走り、乗降スペースへと向かう。
その中に乗るのはトルコへ遠征していた勇達であった。
勿論、その機体は決して民間航空企業JNA(Japan National Air)が有する機体ではない。
JNAに名義を借りて偽装の為にペイントされたただのロゴであり、実質は魔特隊が使う為に用意された航空機だ。
乗降スペースへと辿り着き、機体が停止する。
間も無くタラップを背負った車が機体へと接合すると……機体の扉が開き、勇達が姿を現した。
「やっと帰って来たねぇ」
「オイラもう疲れた……美味しい物食べて寝たいよ」
「アタイもー! からあげたべたーい!!」
長い旅路で疲労感を隠せない四人。
そんな中、勇は唯一人静かに浮かない顔でタラップを降りていく。
「どうしたの? 元気ないじゃん」
瀬玲がそんな勇を心配したのか声を掛けると、彼は「ハァ」と一つ溜息を付き……振り返る事無く答えた。
「茶奈になんて説明すればいいのか思い浮かばないんだよ」
「あぁ~……怖かったもんねぇ、きっとめちゃくちゃ怒ってるんじゃないの?」
その言葉を聞くや、沈んだ顔が更に歪みを増していく。
「茶奈に嫌われたら、家でどうやって接したらいいかもうわからねーよ……」
「あはは……まぁ、仲直り出来る様に私もサポートするから、さ? 元気だしなよ」
ここまで盛大に喧嘩した事も無い二人であり、女の子の扱いに長けている訳でもない勇にとっては、魔剣を扱う事など稚拙に思えるくらいに複雑な事だ。
下手をすれば自分のせいで茶奈が家を出て行ってしまうかもしれない……そんな事すら頭に思い浮かび、気持ちが落ち込んでいく。
その日は晴天……彼の気持ちなど知る由も無い空は、何も覆い隠す事無く強い日の光をそんな心の曇り掛かった彼等へと照らし続けたのだった。
―――
勇達を送迎するバスが一台、街中を走り魔特隊本部へと向かって行く。
本部へと辿り着いたバスがゲートを越え、大きな駐車スペースへと辿り着くと……相も変わらず暗い面持ちの勇を筆頭に彼等が降車していく。
それを迎える様にカプロやジョゾウが出口前に立つが……そんな勇の顔を見た彼等は声を掛ける事すら憚れていた。
「やはり先日の事に相当な精神だめぃじを残しておるようであるな」
「そりゃあんなとこ茶奈さんに見られたら恥ずかしくて尻尾があったら千切れちゃうくらいッスよ」
当然、彼等も例のタブレットは持っている。
ジョゾウだけでなく、カプロも非戦闘員とはいえ大事な仲間……情報共有の為にそういった道具類は一式持たされているのだ。
「カプロ殿の一族は恥ずかしい事があると尻尾が千切れるのであろうか?」
「……一つの比喩表現ッスよ、アルライ族の」
尾が長い彼等独特の表現なのだろう。
種族や形が異なれば、種族によって言葉の文化のみならず表現の違いもあるのは当然だ。
しょうもない事で話題を膨らませている二人を他所に、勇達はとぼとぼと事務所棟内へと入っていった。
「Aチーム、ただいま戻りました」
そう声を上げて事務所内を目にする勇……そこに映るのは、勇にも勝るとも劣らない程に暗い面持ちを浮かべ、それぞれの机に突っ伏する心輝達Cチームの面々。
「皆、どうしたんだ?」
その神妙な雰囲気に、心輝が顔を向くことなくぼそりと呟いた。
「……茶奈ちゃんがな……その、なんだ……お前には伝えにくい事だから連絡してなかったんだけどよ……」
「え……ちゃ、茶奈に何かあったのか!?」
その暗いトーンで呟く心輝を前に、大きな不安が勇の心を支配していく。
「すまねぇ、俺には何も言えねぇ……2階の医務室にあの子が寝かされてるからよ……会いに行ってやれよ……俺には……それしか言えねぇよ……!!」
肺にある空気を振り絞るかのように吐き出した言葉が途切れると、机の上に握られた両拳に「ギュッ」と力が込められ、小刻みに震えていた。
その姿を見た時、勇の鼓動が次第に早くなっていく。
ドクッドクッ……
―――まさか茶奈……そんな……そんな事が!?―――
間髪入れず、抱えた荷物を落とし勇が飛び出し駆け出した。
「ハァッ!! ハァッ!! 茶奈……!!」
そして、あっという間にその姿は階段の先に消えたのだった。
「プッ」
途端、変な音が漏れ……心輝の拳の震えが徐々に大きくなっていく。
そんな彼を、瀬玲がずっと座った目で見つめ続けていた。
「アンタ達、性格悪いわよ」
その一言が放たれた瞬間、心輝とレンネィが「ニタァ」と万遍の笑顔を浮かべた顔をぬいっと持ち上げた。
「ブッハハ!!! だって、面白れぇじゃん!! いや、実際ヤバい事に成ってるけど!!」
「アレは無理ッ!! こうしないといけないって使命感感じちゃうわよー!!」
「ギャハハハ!!」と大声を上げながら笑い転げる二人を前に、瀬玲達三人は呆れ顔で見つめ続ける。
Aチームが居ない間に何があったのかわからない程に息ぴったりの心輝とレンネィに疑問を感じつつも……瀬玲自身も茶奈の身に何が起こったのか不安と期待が同時に押し寄せ、居ても立っても居られなくなっていた。
「ちょ、ちょっと気になるから見てこようっかな~……?」
「辞めとけ、巻き込まれるぞマジで」
そこでいきなりの心輝の真剣顔。
「マジ?」
瀬玲もそんな彼等の進言を聞いた途端、さすがに足を止め強張ってしまう。
「ちょっと手が付けられないかも。 そろそろ事務棟から離れた方がいいんじゃないかしら?」
「そこまで!?」
ウズウズとしながらも……二人の戦慄具合から尻込みする気持ちが押し勝ち、しきりに彼等と2階の方角を行き来する瀬玲の顔。
「えぇ~……」
どうしようもない気持ちがぐるぐると心の中で駆け巡り、彼女はただ茫然とする事しか出来なかった。
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