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第十五節「戦士達の道標 巡る想い 集いし絆」
~夕暮、一つの戦いの終結~
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人気の無い丘を越え、五人が元来た道を戻る。
彼等が作る表情は、戦いが終わった安堵から笑顔で華開かせていた。
和気藹々と歩いていると……彼等の前に舗装されたアスファルトが姿を現す。
それは彼等が連れられて来た道路。
その先には軍隊の車両と思われる迷彩色の車両が数台停まっていた。
彼等が姿を現すと、車両の付近に佇んでいたスーツを着込んだ黒髪の白人男性が気付き視線を向ける。
彼はこの作戦において勇達のサポートを行う為に派遣されたアメリカ合衆国の管理担当者だ。
彼等の役目を見届ける役目と同時に状況説明を行う為に彼等と共にこの場所へ訪れていたという訳である。
「ミスター藤咲、状況はどうでしょうか?」
勇達に気付き速足で駆け寄っていく。
彼等も担当者に気付くと、手を振って応えた。
「問題は解決しました。 話し合いも済んだので彼等も判ってくれた筈です」
「おお、そうですか……有難う御座います」
そう礼を述べると、担当者が笑顔でそっと右手を差し出す。
それは彼等なりの誠意……握手を求める手。
それに気付いた勇は「あっ」と声を漏らすと、相手に応える様に右手を伸ばした。
だがその瞬間―――
ゴッ!!
―――担当者の頭が跳ね上がり、大柄な体ごと大きく宙へと持ち上がる。
その勢いで男は足元からバランスを崩し地面へと倒れこんだ。
たちまち男の顎に激痛が走り、不意にその頬を手で押さえながら彼が見上げると……そこには見下ろす様に彼を見る勇の顔が映り込む。
その顔には、影を落として冷たく鋭い瞳を向けた険しい表情が浮かんでいた。
「な、何をミスタ―――」
「アンタらは一体何をしていたんだ?」
状況が把握出来ない担当者の声を遮り、勇の怒りを含んだトーンの低い唸り声が彼の耳に入る。
「え……」
キョトンとした顔の担当者に対し、再び勇が口を開く。
「俺達は要求した筈だ……関係の無い人間を作戦領域に入れる事の無いように、と」
「そ、それは……」
勇は作戦開始当初に遭った出来事を忘れていなかった。
一般人が巻き込まれかけた事、そしてそれによって余計な騒動が生まれた事。
「だが、アンタらはそれを破った。 そして無関係の人間を巻き込んだんだ……アンタらが守らなきゃいけない筈の無関係の普通の人間を!!」
「ウウ……」
「言い訳は要らない……事実だからこそ俺はその結果に対して怒ってる。 次は無いようにしてくれ」
そう叱責すると……勇はそっと再び右手を差し出す。
担当者が恐る恐る差し出された手を取ると……勇は彼の手を取り引き上げた。
力強く引き上げられた担当者はそれに追従する様に体を起こし、再び立って相まみえると……力強い握手を交わしたのだった。
「分かった……次回からはその様なミスが無いよう全力を尽くそう」
「頼むよ」
力強く握られたその手が離れ、互いが無言で頷く。
「それと……今後彼等をしっかりサポートしてあげてくれよな。 友好的になれると思うからさ」
「了解した」
そう言い残し……勇はそっと踵を返して仲間の下へと歩み出した。
しかしその途端、振り向いた先に居る心輝がジェスチャーで両手を大きく振る姿が勇の目に映り込む。
それに見た勇が「ハッ」と何かを思い出した様に顎を僅かに上げた。
「あ、そうだ……忘れてた」
「えっ?」
上半身だけを振り向かせ、担当者に顔を向けた勇は微笑みをうかべ―――
「ハンバーガー、100個くらい用意してもらっていいかな?」
「え……ハンバーガー……?」
――――――
日が落ち始め、空が徐々に赤みを帯びる頃……夕焼け見ながら崖に座る心輝の姿があった。
その隣には……先程殴り合いを行った魔者の年寄りが並び座って空を同じように眺めていた。
「どうよ、こっちの世界の食べもんはよ?」
咥えた跡が残るハンバーガーを包み紙を隔てて片手に持ちながら、魔者の年寄りは眉間にシワを寄せる。
「カァー……けったいな味やのォ……味が濃すぎてかなわんナ」
などと愚痴をこぼしつつも、二口目を咥え口をもごもごとさせていた。
「何だぁ……味が濃いのはダメなのかよ?」
「ほんなモン食ったほたァネェ」
頬に詰め込みながらそう応え、彼にとって初めての体験であろうハンバーガーの味を仕切りに味わう。
ゴクリ……口に含んだハンバーガーだったモノは喉を通り彼の胃の中へ流れ落ちていった。
「じゃが―――」
飲み込んだ時にほんの少し下がった顎を持ち上げ、再び夕日を見上げ……その目を細める。
「お子達にとっちゃ、これくらいの方が好まれるかもしれんナァ」
夕日に視線を充てたままそう応えると、彼の顔を見ていた心輝もまた同じ様に視線を向けた。
「……そうかよぉ……んじゃ、好きなだけ食べさせてやってくれよな」
「おぉ、言われんでもそのつもりやがナ」
そう一言同士を交わすと……心輝はおもむろに立ち上がり、夕日を背に一人去っていったのだった。
その数日後、アメリカ政府及びメキシコ政府はボノゴ族との正式な協力関係を結ぶ事で合意し、アルライ族に続く友好的な種族として公表される事となった。
彼等の存在は今後、人間と魔者を結ぶ一つの友好のシンボルとして深く愛されていく事になるだろう。
これが魔特隊の本当の目的であり、人類の本懐なのだ。
彼等が作る表情は、戦いが終わった安堵から笑顔で華開かせていた。
和気藹々と歩いていると……彼等の前に舗装されたアスファルトが姿を現す。
それは彼等が連れられて来た道路。
その先には軍隊の車両と思われる迷彩色の車両が数台停まっていた。
彼等が姿を現すと、車両の付近に佇んでいたスーツを着込んだ黒髪の白人男性が気付き視線を向ける。
彼はこの作戦において勇達のサポートを行う為に派遣されたアメリカ合衆国の管理担当者だ。
彼等の役目を見届ける役目と同時に状況説明を行う為に彼等と共にこの場所へ訪れていたという訳である。
「ミスター藤咲、状況はどうでしょうか?」
勇達に気付き速足で駆け寄っていく。
彼等も担当者に気付くと、手を振って応えた。
「問題は解決しました。 話し合いも済んだので彼等も判ってくれた筈です」
「おお、そうですか……有難う御座います」
そう礼を述べると、担当者が笑顔でそっと右手を差し出す。
それは彼等なりの誠意……握手を求める手。
それに気付いた勇は「あっ」と声を漏らすと、相手に応える様に右手を伸ばした。
だがその瞬間―――
ゴッ!!
―――担当者の頭が跳ね上がり、大柄な体ごと大きく宙へと持ち上がる。
その勢いで男は足元からバランスを崩し地面へと倒れこんだ。
たちまち男の顎に激痛が走り、不意にその頬を手で押さえながら彼が見上げると……そこには見下ろす様に彼を見る勇の顔が映り込む。
その顔には、影を落として冷たく鋭い瞳を向けた険しい表情が浮かんでいた。
「な、何をミスタ―――」
「アンタらは一体何をしていたんだ?」
状況が把握出来ない担当者の声を遮り、勇の怒りを含んだトーンの低い唸り声が彼の耳に入る。
「え……」
キョトンとした顔の担当者に対し、再び勇が口を開く。
「俺達は要求した筈だ……関係の無い人間を作戦領域に入れる事の無いように、と」
「そ、それは……」
勇は作戦開始当初に遭った出来事を忘れていなかった。
一般人が巻き込まれかけた事、そしてそれによって余計な騒動が生まれた事。
「だが、アンタらはそれを破った。 そして無関係の人間を巻き込んだんだ……アンタらが守らなきゃいけない筈の無関係の普通の人間を!!」
「ウウ……」
「言い訳は要らない……事実だからこそ俺はその結果に対して怒ってる。 次は無いようにしてくれ」
そう叱責すると……勇はそっと再び右手を差し出す。
担当者が恐る恐る差し出された手を取ると……勇は彼の手を取り引き上げた。
力強く引き上げられた担当者はそれに追従する様に体を起こし、再び立って相まみえると……力強い握手を交わしたのだった。
「分かった……次回からはその様なミスが無いよう全力を尽くそう」
「頼むよ」
力強く握られたその手が離れ、互いが無言で頷く。
「それと……今後彼等をしっかりサポートしてあげてくれよな。 友好的になれると思うからさ」
「了解した」
そう言い残し……勇はそっと踵を返して仲間の下へと歩み出した。
しかしその途端、振り向いた先に居る心輝がジェスチャーで両手を大きく振る姿が勇の目に映り込む。
それに見た勇が「ハッ」と何かを思い出した様に顎を僅かに上げた。
「あ、そうだ……忘れてた」
「えっ?」
上半身だけを振り向かせ、担当者に顔を向けた勇は微笑みをうかべ―――
「ハンバーガー、100個くらい用意してもらっていいかな?」
「え……ハンバーガー……?」
――――――
日が落ち始め、空が徐々に赤みを帯びる頃……夕焼け見ながら崖に座る心輝の姿があった。
その隣には……先程殴り合いを行った魔者の年寄りが並び座って空を同じように眺めていた。
「どうよ、こっちの世界の食べもんはよ?」
咥えた跡が残るハンバーガーを包み紙を隔てて片手に持ちながら、魔者の年寄りは眉間にシワを寄せる。
「カァー……けったいな味やのォ……味が濃すぎてかなわんナ」
などと愚痴をこぼしつつも、二口目を咥え口をもごもごとさせていた。
「何だぁ……味が濃いのはダメなのかよ?」
「ほんなモン食ったほたァネェ」
頬に詰め込みながらそう応え、彼にとって初めての体験であろうハンバーガーの味を仕切りに味わう。
ゴクリ……口に含んだハンバーガーだったモノは喉を通り彼の胃の中へ流れ落ちていった。
「じゃが―――」
飲み込んだ時にほんの少し下がった顎を持ち上げ、再び夕日を見上げ……その目を細める。
「お子達にとっちゃ、これくらいの方が好まれるかもしれんナァ」
夕日に視線を充てたままそう応えると、彼の顔を見ていた心輝もまた同じ様に視線を向けた。
「……そうかよぉ……んじゃ、好きなだけ食べさせてやってくれよな」
「おぉ、言われんでもそのつもりやがナ」
そう一言同士を交わすと……心輝はおもむろに立ち上がり、夕日を背に一人去っていったのだった。
その数日後、アメリカ政府及びメキシコ政府はボノゴ族との正式な協力関係を結ぶ事で合意し、アルライ族に続く友好的な種族として公表される事となった。
彼等の存在は今後、人間と魔者を結ぶ一つの友好のシンボルとして深く愛されていく事になるだろう。
これが魔特隊の本当の目的であり、人類の本懐なのだ。
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