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第十五節「戦士達の道標 巡る想い 集いし絆」
~連携、迷い無き中央突破~
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空一面に雲一つ無い青が広がり、暑い筈の大気に涼しさすら錯覚させる。
だが、とある一角のみ……無数の縦筋が不自然に漂い、青空を濁していた。
その中心で揺らめくのは……赤く激しく噴出する炎。
炎の噴出元……鉤爪状の先端を有する長杖に足を掛けて片手で掴み、滞空する一人の女性の姿がそこにあった。
「えっと、3時の方向……穴に二人の影……あります!」
たどたどしくそう答える彼女……茶奈は上空から魔者達の動向を探る様に周囲をしきりに見渡す。
だが、彼女から何かをしようとする挙動は一切見られなかった。
『茶奈、炎の音で聞こえない』
「ああっ!! ご、ごめんなさい!!」
インカムから聞こえて来る瀬玲の声。
異音排除装置でも弾く事の出来ない音と茶奈の小さな声が相まって、彼女の不満が思わず漏れる。
茶奈の大人しめな性格が、噴出される炎と反比例して小さな声となってしまった様だ。
そんな彼女の声はどこか……気落ちした様にも感じ取れるトーンを帯びていた。
轟音を掻き鳴らして噴出される炎がその激しさを物語る。
心輝やあずーの爆発や風圧で飛ぶ疑似滑空能力と違い、彼女のは継続的な力の噴出からなる純粋な飛行能力。
それ程までに強力な炎を噴出する事が出来るのは五人の中でも茶奈だけだ。
それを成し得る事が出来るのは、彼女が【アストラルエネマ】と呼ばれる特異体質。
彼女の命力はいわばほぼ無限。
そういった飛行能力も全て彼女の才能の成せる技なのである。
だがその出力はなお増大し、彼女自身が制御する事が困難なレベルとなっていた。
それ故に……有り余る力は仲間達をも危険に晒しかねず、甘んじて偵察のみの役割を引き受けているのである。
彼女の気落ちは、自身の力を奮う事が出来ないもどかしさから出た感情なのかもしれない。
「あ、あっ!! 1時の方向、角度はえっと、これくらい!! 動きがあります!!」
すると茶奈が何かに気付き、おもむろに腕ごと指を差す。
途端、間髪入れずに傍に浮かぶ光の矢が数本、腕の角度に合わせて揺れ動いた。
それはまるで茶奈の意思と同化したかの様に……矢弾が素早く急降下を始めたのだった。
その頃……地上。
茶奈に指差された場所で蠢く魔者達……数は5。
斜めに向けて掘られた穴蔵の入り口を拠点に周囲を見回し、敵を迎え撃つ為の防衛線を構えている。
だが……彼等は勇達の強襲に備え警戒しつつも、遥か上空を舞う茶奈の行動に気付く事は無かった。
「奴等ァ……こないなトコ何さァしに来とぅね……」
警戒しながらも、魔者達が小言を呟く。
自分達の仲間の行った事を知ったか知らずか……勇達の襲撃の理由が判らず首を傾げていた。
「魔剣使いさァ目的なんぞ知らぬぇ……けんど来るゥなら返り討ちさァ」
彼等にとって傷を負わせる事が出来る魔剣使いは驚異の存在だ。
元々住む世界では、人間と魔者は互いに憎み合い、殺し合う関係。
そこに理由など存在しない事など、彼等にとっては当たり前の事だった。
生き抜く為には……そう、割り切る必要があったから。
そんな彼等へ目掛け……突如、光の矢が降り注いだ。
「の、のわッ!?」
だが降り注がれた矢弾は全て外れ……大地へ突き刺さっていく。
そしてそのまま大地へ吸い込まれる様に靄と成って消え……後には細い何かが在った痕跡だけが残るのみ。
「見れぇ!! 空飛んどるが!!」
一人の魔者が慌て空を指差す。
その先には遥か上空を舞う茶奈の姿が。
彼女の存在にそこで初めて気付いた彼等は慌て弓を番え、一斉に矢を射放つ。
しかし……例え命力で肉体を強化されていても、放たれた矢には力は無い。
茶奈の滞空する場所には到達する事無く重力に負け、矢弾は力無く大地へ向けて弧を描くのみ。
「た、高過ぎるけぇ……」
空を飛ぶ事の出来る魔者ならいざ知らず……地上を歩く事しか出来ない彼等にとって、茶奈の様に継続して飛ぶ事の出来る相手に攻撃出来る手段は無い。
もっとも……茶奈以外に空を飛ぶ事が出来る魔剣使いなど、一部例外を除き居る筈もないが。
直上の脅威に慄き、開いた口が塞がらない魔者達。
矢を手に取るも……届く筈の無い相手に構える気すら起きず、ただ見上げる事しか出来なかった。
その時……空へ意識を向けていた彼等へ向けて、一人の人影が稲妻の如き動きで大地を駆ける。
それは勇……意識が逸れて出来た隙を狙う様に、手に握る魔剣で魔者達を薙ぎ払った。
ガガガッ!!
剣の腹で叩いた鈍い音が周囲に激しく響き渡る。
たちまち魔者達が次々と叩き上げられ宙を舞った。
次々と彼等は大地へ落ち、意識外からの一撃に漏れなく意識を刈り取られていったのだった。
まさか自分自身が空に打ち上げられるなど思う由も無かっただろう。
「間も無く中央部だ、引き続き援護を頼む!!」
勇が休む事も立ち止まる事も無く駆け抜ける。
インカムから聞こえてくるのは茶奈と瀬玲の了承の声。
勇は二人による援護の下、中央突破を試みていた。
周辺を心輝とあずーに任せ、魔者がより多い場所を勇が率先して引き受けたという訳である。
中腹部は魔者達の住む街の外縁の様なもの。
例え穴の中が彼等の街であろうと、入り口付近は一層厚い守りとなっていた。
だが勇は怯む事無く突き進む。
茶奈や瀬玲の援護があるからではない。
『人類にとっての驚異を退ける』……そんな強い信念を持つ彼だからこそ、止まる事は無い。
かつて守る事が出来なかった者に報いる為に……その信念は”呪い”となって彼の歩みを止める事を許さないのである……。
だが、とある一角のみ……無数の縦筋が不自然に漂い、青空を濁していた。
その中心で揺らめくのは……赤く激しく噴出する炎。
炎の噴出元……鉤爪状の先端を有する長杖に足を掛けて片手で掴み、滞空する一人の女性の姿がそこにあった。
「えっと、3時の方向……穴に二人の影……あります!」
たどたどしくそう答える彼女……茶奈は上空から魔者達の動向を探る様に周囲をしきりに見渡す。
だが、彼女から何かをしようとする挙動は一切見られなかった。
『茶奈、炎の音で聞こえない』
「ああっ!! ご、ごめんなさい!!」
インカムから聞こえて来る瀬玲の声。
異音排除装置でも弾く事の出来ない音と茶奈の小さな声が相まって、彼女の不満が思わず漏れる。
茶奈の大人しめな性格が、噴出される炎と反比例して小さな声となってしまった様だ。
そんな彼女の声はどこか……気落ちした様にも感じ取れるトーンを帯びていた。
轟音を掻き鳴らして噴出される炎がその激しさを物語る。
心輝やあずーの爆発や風圧で飛ぶ疑似滑空能力と違い、彼女のは継続的な力の噴出からなる純粋な飛行能力。
それ程までに強力な炎を噴出する事が出来るのは五人の中でも茶奈だけだ。
それを成し得る事が出来るのは、彼女が【アストラルエネマ】と呼ばれる特異体質。
彼女の命力はいわばほぼ無限。
そういった飛行能力も全て彼女の才能の成せる技なのである。
だがその出力はなお増大し、彼女自身が制御する事が困難なレベルとなっていた。
それ故に……有り余る力は仲間達をも危険に晒しかねず、甘んじて偵察のみの役割を引き受けているのである。
彼女の気落ちは、自身の力を奮う事が出来ないもどかしさから出た感情なのかもしれない。
「あ、あっ!! 1時の方向、角度はえっと、これくらい!! 動きがあります!!」
すると茶奈が何かに気付き、おもむろに腕ごと指を差す。
途端、間髪入れずに傍に浮かぶ光の矢が数本、腕の角度に合わせて揺れ動いた。
それはまるで茶奈の意思と同化したかの様に……矢弾が素早く急降下を始めたのだった。
その頃……地上。
茶奈に指差された場所で蠢く魔者達……数は5。
斜めに向けて掘られた穴蔵の入り口を拠点に周囲を見回し、敵を迎え撃つ為の防衛線を構えている。
だが……彼等は勇達の強襲に備え警戒しつつも、遥か上空を舞う茶奈の行動に気付く事は無かった。
「奴等ァ……こないなトコ何さァしに来とぅね……」
警戒しながらも、魔者達が小言を呟く。
自分達の仲間の行った事を知ったか知らずか……勇達の襲撃の理由が判らず首を傾げていた。
「魔剣使いさァ目的なんぞ知らぬぇ……けんど来るゥなら返り討ちさァ」
彼等にとって傷を負わせる事が出来る魔剣使いは驚異の存在だ。
元々住む世界では、人間と魔者は互いに憎み合い、殺し合う関係。
そこに理由など存在しない事など、彼等にとっては当たり前の事だった。
生き抜く為には……そう、割り切る必要があったから。
そんな彼等へ目掛け……突如、光の矢が降り注いだ。
「の、のわッ!?」
だが降り注がれた矢弾は全て外れ……大地へ突き刺さっていく。
そしてそのまま大地へ吸い込まれる様に靄と成って消え……後には細い何かが在った痕跡だけが残るのみ。
「見れぇ!! 空飛んどるが!!」
一人の魔者が慌て空を指差す。
その先には遥か上空を舞う茶奈の姿が。
彼女の存在にそこで初めて気付いた彼等は慌て弓を番え、一斉に矢を射放つ。
しかし……例え命力で肉体を強化されていても、放たれた矢には力は無い。
茶奈の滞空する場所には到達する事無く重力に負け、矢弾は力無く大地へ向けて弧を描くのみ。
「た、高過ぎるけぇ……」
空を飛ぶ事の出来る魔者ならいざ知らず……地上を歩く事しか出来ない彼等にとって、茶奈の様に継続して飛ぶ事の出来る相手に攻撃出来る手段は無い。
もっとも……茶奈以外に空を飛ぶ事が出来る魔剣使いなど、一部例外を除き居る筈もないが。
直上の脅威に慄き、開いた口が塞がらない魔者達。
矢を手に取るも……届く筈の無い相手に構える気すら起きず、ただ見上げる事しか出来なかった。
その時……空へ意識を向けていた彼等へ向けて、一人の人影が稲妻の如き動きで大地を駆ける。
それは勇……意識が逸れて出来た隙を狙う様に、手に握る魔剣で魔者達を薙ぎ払った。
ガガガッ!!
剣の腹で叩いた鈍い音が周囲に激しく響き渡る。
たちまち魔者達が次々と叩き上げられ宙を舞った。
次々と彼等は大地へ落ち、意識外からの一撃に漏れなく意識を刈り取られていったのだった。
まさか自分自身が空に打ち上げられるなど思う由も無かっただろう。
「間も無く中央部だ、引き続き援護を頼む!!」
勇が休む事も立ち止まる事も無く駆け抜ける。
インカムから聞こえてくるのは茶奈と瀬玲の了承の声。
勇は二人による援護の下、中央突破を試みていた。
周辺を心輝とあずーに任せ、魔者がより多い場所を勇が率先して引き受けたという訳である。
中腹部は魔者達の住む街の外縁の様なもの。
例え穴の中が彼等の街であろうと、入り口付近は一層厚い守りとなっていた。
だが勇は怯む事無く突き進む。
茶奈や瀬玲の援護があるからではない。
『人類にとっての驚異を退ける』……そんな強い信念を持つ彼だからこそ、止まる事は無い。
かつて守る事が出来なかった者に報いる為に……その信念は”呪い”となって彼の歩みを止める事を許さないのである……。
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