時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第十二節「折れた翼 友の想い 希望の片翼」

~テイク・オフ~

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「俺が考えた作戦はこうだ」

 心輝がちゃなを空へと打ち上げる為の作戦を皆へと提示する。
 どこからともなく取り出したタブレットを駆使するままに。

 その画面には勇の家周りの地図が簡単に描かれていて。
 更には手馴れたタッチペン捌きでカカカッと構図が描かれていく。

「アンタこんな絵上手かったの?」

「当たり前だ。俺は将来神絵師になる男だからな」

「じゃあどんな絵描いてるのさ」

「フッ、まだ何も描いてないぜ」

「あっそう」

 もちろん描きつつもこんな雑談も欠かさない。
 エンターテイナーとしての才能ならとても秀でていそうだ。

「まずセリとあずーが通り前で監視する。んで、人通りを確認して腕で合図を送るんだ。人が来ない場合はマルを描いてな」

「なにそれ、私達が晒し者になるじゃん」

「馬鹿野郎! 田中ちゃんを飛ばす為には手段を選んでる場合じゃあねぇだろ……!」

 更にはこんな提案で瀬玲に揺さぶりをかける。
 心輝の言う事はもっともだが、ほんの少し大げさか。
 これにはちゃなもほんの少し心配そう。

 なお、あずーに関しては何の問題も無いらしい。
 もう既に片側の道先で大きな腕マルを作っているので。
 さすが何も考えない子は行動が速い。

「それに良いのか? その合図を受け取る奴はカウントダウンする必要があるんだぜ? お前に言えるのかよ……スリーツーワンってよ?」

「それ、要る?」

「要るに決まってるだろォ……! お前適当に飛ばして田中ちゃん落ちたらどうすんだよ!」

「た、確かにタイミングとかあったら集中しやすくて飛びやすいかも」

「わかった、わかったわよ。人が来なかったらマル描けばいいのね」

 それでこうして瀬玲を説得すれば全ての準備は整う。

 瀬玲とあずーが配置し、タイミングを見計らって。
 心輝もしきりに顔を振り回し、動向を見逃さない。
 なんだかんだで当人は本気なのだろう。

 なら後は二人が同時にマルを描けば、それが発射チャンスの時だ。

 ちゃながその時を待って魔剣に足を掛け続ける。
 心輝を巻き込まない様にと距離を保って。
 全ての発射タイミングを皆に預け、空を眺めたままに。

 そして、遂にその時が訪れる。

 瀬玲とあずーの視界から人影が消えて。
 ならばと、車はこの際無視しして素早くマルを描く。

 それに心輝が気付けば、途端に左腕が掲げられる事に。

「よし、今だ田中ちゃんッ!!」
「はいッ!!」

 それが合図だった。

 するとたちまち、その声と共に魔剣から赤い光が「バチチッ」と弾け始めて。
 大気を焼き、薄白い煙がアスファルトを這う様に吹き出していく。

 それと同時にとうとうカウントダウンが始まった。

「スリィー!!」

 その度に、炎が噴き出す。
 アスファルトを焼き、焦げ臭い香りを充満させて。

「トゥー!!」

 更には魔剣が浮く。
 ちゃなの体を支えながら。

「ワァンッ!!」

 その末に、炎が赤々と噴出されて。
 思わず心輝がたじろぎ足を引かせる。

 だがここで退く訳にはいかない。
 ちゃなが自ら取った距離なら、危なくない事はもうわかっているから。

 ならば信じて、彼女が空へと上がる所を見送ろう。
 友の下へと送り届ける為に。



「テェイクオォーーーーーーフッッ!!!」



 そして渾身の叫びが木霊した時、ちゃなの姿が瞬時にして視界から消える。

 そう、飛び上がったのだ。
 圧倒的な加速度を以って。

 その所為で周囲はたちまち煙で覆われる事に。

 だけど心輝達にはしっかり見えていた。
 煙の尾を引いて、ちゃなが空の遥か彼方へ飛び上がるその雄姿を。
 
 だから見届けずにはいられない。
 その煙が見えなくなるその時まで。
 自分達もまたやりきる事が出来たからこそ。

「コラァ、お前何してんだァ!!」

 ……が、どうやら感傷に浸っている余裕は無い様だ。
 今の激音は近所の住人を怒らせるには充分だった。
 どうやら全部心輝のやったイタズラだと思っているらしい。

 おまけに軒先は煙まみれでとても出られたものじゃない。
 それに激音や振動さえ凄まじかった。
 ここまでやらかしてしまえば怒るのも当然か。

「やっべ! 退避だあッ!!」

 ただもちろん心輝も捕まる訳にはいかない。
 確かにここまでさせたのは当人だけれども。

 なので空かさず走り逃げるという。
 まさに煙を撒くかの様にして。
 ちゃっかりこういう事も想定していた模様。



 で、残された三人はそれから無事に合流。
 けれどそのまま帰るつもりはなさそうだ。

「んじゃ、俺達も行くか!」

「シンの事だし、どうせそう言うと思った。ま、いいけどね、お年玉も貰ったし」

「行こう行こう! カプロ君にもまた会いたいしー!」

 まだ高校生な三人にとっては少し贅沢な旅行となるけれど。
 それでも赴く理由があるから抵抗は無い。
 むしろ友が居るからこそ、戦いでなければ共に行きたいとも思うものだ。

 故に今、三人は小遣いを持って駅へと向かう。
 もちろん、親にちゃんと本当の理由を伝えた上で。
 この間のクリスマスパーティでアルライ族と会って、もう隠す必要は無いから。

 お陰で今、三人の気持ちはとても清々しかった。
 堂々と胸を張ってカプロ達にも会いに行けるから。

 ならもう、走って行く事だって躊躇いはしない。
 




 その一方で、ちゃなはしっかりと空を突き抜けていた。
 魔剣に括り付けたスマートフォンの地図を頼りに。

「待っててくださいね、勇さんッ!!」

 後はただ目的地へと向けて真っ直ぐ突き進むのみ。
 道中の航空機などにも気を付けつつ。

 そうして青空に一筋の飛行機雲が形成されていく。
 赤い炎をチラチラと瞬かせながら。
 
 友が繋いでくれた想いを無駄にしない為にも。
 待ち焦がれているであろう勇の為にも。

 今、その力を存分に奮って。


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