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第一節「全て始まり 地に還れ 命を手に」
~世界 は 揺れる~
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別に少女が特別に見えたという訳では無い。
少女自身がどの様な人物かなんて興味は無かったし、知ろうとも思わなかった。
ただ勇の性格柄、放って置けなかったというだけで。
だから関わりを断ち切られた以上、きっともう知る機会なんて無いのだろう。
もしかしたらもう会う事も、思い出す事も無いかもしれない。
そんな想いが脳裏を過り、好奇心を薄れさせていく。
統也がこう焚き付けるまでは。
「にしても大人しそうな子だよな。 実はああいう子が好みだったりするのかァ~?」
勇の気持ちを知ってか知らずか、「ハハハ」と笑って肘で突いてくる。
相変わらずの調子良さそうなウザ絡みである。
なれば三度、据わった目が向けられたのは言わずもがな。
「なんでそうなるんだよ。 お前そういう事しか頭に無いのかよぉ……」
「そりゃ勇の為にこの日を選んだんだ、当然だろうッ!」
「ハッキリ言うなーお前。 なら予めこうするって教えて欲しかったよ」
でもこれもきっと統也なりの気遣いなのかもしれない。
勇は考えが顔に出易い性格だから、不安を抱いた事にも気付けたのだろう。
もっとも、それなら勇の言う通りに気も遣って欲しかった所だが。
何せ今日は映画を観に行くだけなつもりだったから、準備などあったものじゃない。
恋活する様な洒落た服装でも無いし、なんなら財布の中身もギリギリだ。
これでは遊ぶどころか話をするだけで終わる事請け合いである。
事前に話しててくれればまだ準備のしようもあっただろうに。
だからこそ勇の溜息が止まらない。
この計画性の有りそうで無い、理解の及ばぬ天才ならではの発想に。
「それに前、一回教えただろ? どちらかと言えば元気な子の方がいいって。 〝あずー〟みたいにとは言わないけどさ」
「そういえばそんな事言ってたなァ……だからといってあの子が引き合いに出るのはよくわかんねェけどな」
とはいえ場の雰囲気は既に統也の掌中だ。
ヘラヘラと軽く笑う統也を前に、勇も思わず頬を緩ませる。
呆れも通り越してしまえば気晴らしにはなるらしい。
なお、話題の渦中にある『あずー』とは彼等によく絡んでくる元気な女の子の事だ。
その問題児っぷりは凄まじく、誰彼構わず巻き込んでは騒動を引き起こすという。
仲間内のみならず、白代高校生徒ならば殆どが知っている程の存在である。
もちろん、こんな笑い話になるくらいの悪い意味でだが。
「例えだよ。 まんま真に受けるなよ?」
「ま、まぁそうだよな~(それしか比較対象いねェもんなぁ……)」
惜しむらくは、その「悪い意味で」が人間関係にも影響している事か。
実はその娘、先に出た『シン』という友人の妹でもある。
そのお陰でよくまぁ絡む事も多く、敬遠した女子は数知れない。
という訳もあって、勇には殆ど女友達が存在しないのだ。
人間性は良くとも付き合いで損をしている、そんな典型と言えよう。
「うん、ドンマイ」
「何がだよ……」
そんな事を察したのか、勇の胸元に元気なサムズアップが充てられる。
その意図もわからず首を傾げる勇へ、憐れみの笑顔をも贈って。
もっとも、更に交友の乏しい奴がやる事では無いけども。
しかしこれで二人の話も途切れる事に。
統也の計画も頓挫した以上、長居は無用だ。
だからと統也が勇の肩を叩いては昼食へと誘う。
これ以上無関係な少女との関わりを保つ必要など無かったから。
そう一歩を踏み出した時―――突如としてその場が、揺れた。
ズ ズ ズ……
始まりは小さな振動からだった。
立ち止まっていなければ気付かない程の。
それも勘のいい者でなければ。
どうやら二人はその勘が良かった方らしい。
微かな軋み音が背後の壁柱に響いた事で気付けたのだ。
「お、おいこれって―――」
「あァ。 もしかしたら、やべェかも」
更にこう意識もすれば、「ピリリ」とした異質な空気にさえ気付く事に。
しかも普段から味わっている感覚とはどこか違う。
まるで、心の底を「ズンッ」と引き落とす様な悪寒が伴っていたからこそ。
故に、二人は予感する。
これは大型地震の予兆なのかもしれないのだと。
ヴ ヴ ヴヴヴ……!
そして奇しくも、その予感は的中する事となる。
振動が今まで経験した以上に強くなり始めていたのだ。
緩やかではあるが、それでいて確実に。
規模が着実に大きくなっていく。
今まで気付かなかった者達でさえも勘付く程に。
「地震?」
「え、これやばくない?」
それが混乱を呼ぶには程掛かりはしない。
特に女性の多いこの場だからこそ変化はとても顕著だ。
周囲のオブジェが振れる度に悲鳴さえもが打ち上がる。
そんな時、先んじる勇達はもう既に行動へと移していた。
衣類の陳列したテーブルを近くで見つけたのだ。
「あのっ!! 机!!」
「ああ!!」
そんな物で危険を回避出来る確証など無い。
建物が倒壊してしまえば何の意味も無いだろうから。
それでも今は隠れるしか道は無い。
誰しもが余裕など無かったから。
ただただ己の安全の為にも。
勘の良い者は皆、隠れる為にと床を滑っていた。
勇達のみならず多くの者達が。
しかし臆病な者はその場に崩れ落ちるだけで。
近場の物にしがみ付いてはもうただ震えるばかりだ。
それはあの少女も例外では無く、座ったまま頭を抱えて震えていて。
そんな彼女の事に、ふと勇が気付く。
隠れられた事で余裕が出来たからだろうか。
その余裕が出来たからこそ、動かずにはいられない。
「君! 早くこっちに!!」
「ッ!?」
そう気付いた時にはもう声を上げていた。
ただただ夢中だったのだ。
先程の心配の延長のままに。
そんな声に、少女は一声で気が付く。
ただ一言、掛けられた声と同じだったから。
だから少女もまた夢中になれたのだろう。
夢中で駆け出す。
声のした方、テーブルの下より手を伸ばす勇へと向けて一心に。
でも、それでも届かない。
辿り着く寸前で倒れ込んでしまったのだ。
蹲った人が邪魔で、恐怖で脚ももつれて。
しかしその拍子に、伸びた腕へと別の衝撃が走る。
勇がその身を大きく伸ばして掴み取っていたのである。
そのまま引かれ、少女もがテーブルの下へと。
勇に抱き込まれるようにして蹲りながら。
ゴゴゴゴ……!!
ズズン……ズズン……
その最中にも、振動は遂に本物の地震へと進化を遂げる。
身体全体を突き上げる様な強烈な揺れを伴ったものへと。
これはいわゆる縦揺れの直下型地震と呼ばれるものだ。
時には大地を割り。
時には津波を誘発し。
多くの発生地で多大な被害をもたらした超災害の典型である。
それを知ろうと知らなかろうと、もはや抗う術は無い。
建物が倒壊しない事を祈ってただ恐怖に煽られ続けるしか。
揺れはなお続き、その威力を更に強めていく。
更には電灯が割れ落ち、棚やマネキンが倒れ。
その倒打音が威力の強さを物語るかのよう。
しかもよく見れば周囲の景色が薄っすらと霞んでいる。
チラチラと瞬きを抱くモヤが立ち込めていたのだ。
煙か、それともガス漏れか。
得体の知れない現象もが包み込み、更なる恐怖を汲み上げていく。
もう歩く事も叶わない。
逃げるどころかもう隠れる事さえ。
振動音と物音、悲鳴が入り混じり、もはや場は騒然だ。
少女も「うぅーーー!!」と泣き震えて止まらない。
統也も勇も同様に強い恐怖を感じていよう。
それでも、机の脚を握り締める事で恐怖を無理矢理抑え込む。
最悪の事態を予測しつつも。
二人は今日まで剣道を通じて心を鍛えてきた。
何があろうとも自信を持って対応出来る様にと。
そのお陰で場に居る誰よりも冷静でいられたのだろう。
だがそれでも今は耐える事しか出来はしない。
この自然の脅威を前には、所詮人など無力に過ぎないのだから。
少女自身がどの様な人物かなんて興味は無かったし、知ろうとも思わなかった。
ただ勇の性格柄、放って置けなかったというだけで。
だから関わりを断ち切られた以上、きっともう知る機会なんて無いのだろう。
もしかしたらもう会う事も、思い出す事も無いかもしれない。
そんな想いが脳裏を過り、好奇心を薄れさせていく。
統也がこう焚き付けるまでは。
「にしても大人しそうな子だよな。 実はああいう子が好みだったりするのかァ~?」
勇の気持ちを知ってか知らずか、「ハハハ」と笑って肘で突いてくる。
相変わらずの調子良さそうなウザ絡みである。
なれば三度、据わった目が向けられたのは言わずもがな。
「なんでそうなるんだよ。 お前そういう事しか頭に無いのかよぉ……」
「そりゃ勇の為にこの日を選んだんだ、当然だろうッ!」
「ハッキリ言うなーお前。 なら予めこうするって教えて欲しかったよ」
でもこれもきっと統也なりの気遣いなのかもしれない。
勇は考えが顔に出易い性格だから、不安を抱いた事にも気付けたのだろう。
もっとも、それなら勇の言う通りに気も遣って欲しかった所だが。
何せ今日は映画を観に行くだけなつもりだったから、準備などあったものじゃない。
恋活する様な洒落た服装でも無いし、なんなら財布の中身もギリギリだ。
これでは遊ぶどころか話をするだけで終わる事請け合いである。
事前に話しててくれればまだ準備のしようもあっただろうに。
だからこそ勇の溜息が止まらない。
この計画性の有りそうで無い、理解の及ばぬ天才ならではの発想に。
「それに前、一回教えただろ? どちらかと言えば元気な子の方がいいって。 〝あずー〟みたいにとは言わないけどさ」
「そういえばそんな事言ってたなァ……だからといってあの子が引き合いに出るのはよくわかんねェけどな」
とはいえ場の雰囲気は既に統也の掌中だ。
ヘラヘラと軽く笑う統也を前に、勇も思わず頬を緩ませる。
呆れも通り越してしまえば気晴らしにはなるらしい。
なお、話題の渦中にある『あずー』とは彼等によく絡んでくる元気な女の子の事だ。
その問題児っぷりは凄まじく、誰彼構わず巻き込んでは騒動を引き起こすという。
仲間内のみならず、白代高校生徒ならば殆どが知っている程の存在である。
もちろん、こんな笑い話になるくらいの悪い意味でだが。
「例えだよ。 まんま真に受けるなよ?」
「ま、まぁそうだよな~(それしか比較対象いねェもんなぁ……)」
惜しむらくは、その「悪い意味で」が人間関係にも影響している事か。
実はその娘、先に出た『シン』という友人の妹でもある。
そのお陰でよくまぁ絡む事も多く、敬遠した女子は数知れない。
という訳もあって、勇には殆ど女友達が存在しないのだ。
人間性は良くとも付き合いで損をしている、そんな典型と言えよう。
「うん、ドンマイ」
「何がだよ……」
そんな事を察したのか、勇の胸元に元気なサムズアップが充てられる。
その意図もわからず首を傾げる勇へ、憐れみの笑顔をも贈って。
もっとも、更に交友の乏しい奴がやる事では無いけども。
しかしこれで二人の話も途切れる事に。
統也の計画も頓挫した以上、長居は無用だ。
だからと統也が勇の肩を叩いては昼食へと誘う。
これ以上無関係な少女との関わりを保つ必要など無かったから。
そう一歩を踏み出した時―――突如としてその場が、揺れた。
ズ ズ ズ……
始まりは小さな振動からだった。
立ち止まっていなければ気付かない程の。
それも勘のいい者でなければ。
どうやら二人はその勘が良かった方らしい。
微かな軋み音が背後の壁柱に響いた事で気付けたのだ。
「お、おいこれって―――」
「あァ。 もしかしたら、やべェかも」
更にこう意識もすれば、「ピリリ」とした異質な空気にさえ気付く事に。
しかも普段から味わっている感覚とはどこか違う。
まるで、心の底を「ズンッ」と引き落とす様な悪寒が伴っていたからこそ。
故に、二人は予感する。
これは大型地震の予兆なのかもしれないのだと。
ヴ ヴ ヴヴヴ……!
そして奇しくも、その予感は的中する事となる。
振動が今まで経験した以上に強くなり始めていたのだ。
緩やかではあるが、それでいて確実に。
規模が着実に大きくなっていく。
今まで気付かなかった者達でさえも勘付く程に。
「地震?」
「え、これやばくない?」
それが混乱を呼ぶには程掛かりはしない。
特に女性の多いこの場だからこそ変化はとても顕著だ。
周囲のオブジェが振れる度に悲鳴さえもが打ち上がる。
そんな時、先んじる勇達はもう既に行動へと移していた。
衣類の陳列したテーブルを近くで見つけたのだ。
「あのっ!! 机!!」
「ああ!!」
そんな物で危険を回避出来る確証など無い。
建物が倒壊してしまえば何の意味も無いだろうから。
それでも今は隠れるしか道は無い。
誰しもが余裕など無かったから。
ただただ己の安全の為にも。
勘の良い者は皆、隠れる為にと床を滑っていた。
勇達のみならず多くの者達が。
しかし臆病な者はその場に崩れ落ちるだけで。
近場の物にしがみ付いてはもうただ震えるばかりだ。
それはあの少女も例外では無く、座ったまま頭を抱えて震えていて。
そんな彼女の事に、ふと勇が気付く。
隠れられた事で余裕が出来たからだろうか。
その余裕が出来たからこそ、動かずにはいられない。
「君! 早くこっちに!!」
「ッ!?」
そう気付いた時にはもう声を上げていた。
ただただ夢中だったのだ。
先程の心配の延長のままに。
そんな声に、少女は一声で気が付く。
ただ一言、掛けられた声と同じだったから。
だから少女もまた夢中になれたのだろう。
夢中で駆け出す。
声のした方、テーブルの下より手を伸ばす勇へと向けて一心に。
でも、それでも届かない。
辿り着く寸前で倒れ込んでしまったのだ。
蹲った人が邪魔で、恐怖で脚ももつれて。
しかしその拍子に、伸びた腕へと別の衝撃が走る。
勇がその身を大きく伸ばして掴み取っていたのである。
そのまま引かれ、少女もがテーブルの下へと。
勇に抱き込まれるようにして蹲りながら。
ゴゴゴゴ……!!
ズズン……ズズン……
その最中にも、振動は遂に本物の地震へと進化を遂げる。
身体全体を突き上げる様な強烈な揺れを伴ったものへと。
これはいわゆる縦揺れの直下型地震と呼ばれるものだ。
時には大地を割り。
時には津波を誘発し。
多くの発生地で多大な被害をもたらした超災害の典型である。
それを知ろうと知らなかろうと、もはや抗う術は無い。
建物が倒壊しない事を祈ってただ恐怖に煽られ続けるしか。
揺れはなお続き、その威力を更に強めていく。
更には電灯が割れ落ち、棚やマネキンが倒れ。
その倒打音が威力の強さを物語るかのよう。
しかもよく見れば周囲の景色が薄っすらと霞んでいる。
チラチラと瞬きを抱くモヤが立ち込めていたのだ。
煙か、それともガス漏れか。
得体の知れない現象もが包み込み、更なる恐怖を汲み上げていく。
もう歩く事も叶わない。
逃げるどころかもう隠れる事さえ。
振動音と物音、悲鳴が入り混じり、もはや場は騒然だ。
少女も「うぅーーー!!」と泣き震えて止まらない。
統也も勇も同様に強い恐怖を感じていよう。
それでも、机の脚を握り締める事で恐怖を無理矢理抑え込む。
最悪の事態を予測しつつも。
二人は今日まで剣道を通じて心を鍛えてきた。
何があろうとも自信を持って対応出来る様にと。
そのお陰で場に居る誰よりも冷静でいられたのだろう。
だがそれでも今は耐える事しか出来はしない。
この自然の脅威を前には、所詮人など無力に過ぎないのだから。
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