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第115話 蘇る記憶

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 水棲生物エリアを抜けた俺達は最後であろう部屋へと向かう。
 ただミニ遥の数は激減していて、残りがもう五匹くらいだ。
 さっきはそれなりに激戦みたいだったからな。

 だからできるならもう突っ込んで欲しくはない。
 たとえ魔物だって遥が死ぬのは見ていて耐えられないから。

 そんなつもりで最後とおぼしき部屋へと辿り着く。
 そうして待っていたのはやはり奴だった。

 魔物遥である。

「いたぞ、奴だ!」
「でもちっさーーー!!!!!」
「うん、小さいねぇ……」
「ミニ遥の魔物版って感じよね」

 でも予想に反し――いや予想していたけどやっぱり小さかった。
 ほんの少しミニ遥より大きいかなって感じだけど、俺の腹より低い感じだ。

 そんなのが得意げに両手を振り上げて待っている。
 それにあいかわらず鳴き声が「デスワ」で妙に可愛らしい。

 しかも寸後にはミニ遥達にタコ殴りにされていた。かわいそう。
 おかげでつい出遅れてしまったんだが?

「それでも耐久値は高いみたいですよ!」
「がんばれ! がんばれミニ遥ーっ!」

 弱い、弱過ぎる!
 わざとかってくらいに弱体化ナーフされている!
 ミニ遥五匹に手も足も出ない、っていうか出てるけど効いていない!
 今まででトップクラスの弱さだぞあいつ!? 本当にいいの!?

 おかげでついつい俺も応援してしまっていた。
 なんだか手を出したらいけないかなって思って。

 ただ、戦況がいつまでもそのままとはいかなかったが。

「あっ! ミニ遥が一匹やられちったぁ!」
「またよ。耐久力が高過ぎて削りきれないんだわ」

 やはり弱くてもダメージは蓄積するらしい。
 おかげでミニ遥が一匹、また一匹と数を減らし、とうとう残り一匹に。

「やっぱだめぇーーーーーーッ!!!」

 そこでなんとつくしが飛び出して最後の一匹を抱えて戻って来た。
 ついでにミニ魔物遥も必死に走って追いかけてきた。

 なんなんだこの構図……!

『コン、やれる?』
『うんいいよー』

 それなので仕方なくサクっとアームドライド。
 ライフル型に変化してもらい、ヘッドショットによる一撃で魔物遥を葬ってやった。

 最初からこうすれば良かったのでは……?

「待っててね遥、今治したげる!」

 その傍らでつくしがミニ遥を治癒しようと必死だ。
 一番効果の高い回復魔法を必死に唱えている。

「つか回復魔法効くん?」
「わかんない!」
「蘇生も効かなかったし、効果ないんじゃ……」
「でもやらないと! 何もしないでほっとくのは嫌だよ!」
「デスワ」

 たしかにまだ死んだ訳じゃないが、ボロボロではある。
 そもそも表情が変わらないから痛みを感じているかどうかもわからないが。

 ともかく、ミニ遥に関してはつくしに任せるとしよう。
 俺は奥に見えるダンジョンコアを破壊する事に専念した方が良さそうだ。

 ――しっかしなんなの、コアのこの双剣を振り上げて自慢げな造形は。
 まさかコアの形まで遥を象っているなんて普通思わないじゃない?
 完全にあいつの自己顕示欲を象徴しているじゃないかぁ……。

 まぁいい、壊すとするか。
 …………。
 ……。

 本当に壊していいのだろうか?
 もしかしていっそ壊さない方がいいのではないだろうか?

 だってそうだ。
 ミニ遥は戦闘力だけならかなりの助けになる。
 だったら逐一ダンジョンの外に連れ出してプレイヤーのお供にすればいい。

 あれだけ数がいるんだ。
 おまけにリセット効果もあるなら、その数は無限大だろ?
 なら資源として有効利用した方がいいんじゃないかとさえ思う。

 その方が、遥にとっても――

「カナタ」
「なんだ遥? ――えっ?」
「ちょちょちょお!?」
「どういう事!?」
「そ、そんな事って……!?」

 でもこんな声が聞こえて、思わずいつもみたく振り返ってしまって。
 それで俺も、みんなも一緒に驚く事になる。

 つくしに抱かれたミニ遥が俺に向けて腕を伸ばしていたのだ。
 それも「デスワ」ではなく、俺の名前を呼んで。

「カナタ、ソレ、コワシテ」
「は、遥!? お前もしかして本当に遥なのか!?」
「デスワ」
「う、うそーーーっ!?」

 冗談だろ!? このミニ遥に元の遥の記憶があるっていうのか!?
 それじゃあ今までのにも!? いやだがそんなそぶりはなかった!

 じゃあなんでこの個体だけが……?

 あ、表情筋らしいのがバッキバキに浮き出ている。
 これめっちゃくちゃ無理している顔だ。内臓ないと思うんだけど。

 ……ハッ!? じゃあもしかして!?

「まさかつくしの回復魔法が効いている……? その効力でベースの記憶がよみがえってきているのか!?」
「じゃあもっと回復すればいい!? りふれいしょーん!」
「デデデッデデスワ!!! チョ、ヤメ、デスワ!!!!!」
「待って待ってぇ! ミニ遥が泡吹きそうになってるからぁ!!」

 そういえば妙に表情が緩くなっているような気がする。
 アホな高笑い状態から普通のアホな笑い状態に。

 それにわずかに顔全体がぐにぐにと動いているようにも見えるし。
 表情筋か、表情筋のせいなのか!?

「お前、本当に遥なんだな?」
「ソ、ソウデスワ。ナンデ、モドレタカ、ワカリマセン、ケド」
「じゃあなんでコアを壊してと懇願する? 何か知っているのか?」
「エエ、ナントナクデスワ……デスガ」
「やった、遥が戻って来た……うれしいっ!」
「ウレシク、オモウナラ、カイフクマホウ、トメテホシイデスワ」

 ともかく遥が戻った事に間違いは無さそうだ。
 このやりとり、つい最近まで見ていたのに懐かしくさえ思うよ。

「ワタクシ、タブン、キオク、ヨミトラレタ、デスワ」
「やっぱりか。誰にかわかるか?」
「ワカリマセンノ。デスガ、ダンジョンヲ、ツクッタモノ、ダト、オモイマスワ」
「ならそいつが遥の記憶を下にこのダンジョンを創ったって事で間違い無いか」
「ハイ。ソレモ、ワタクシノ、オモウトオリノ、カタチデ」
「なるほど。それで憂さを晴らそうとでもして、こんな構造になったんだな」
「エエソウデスワ。ソンナキモチガ、ツタワッテキマシタ」

 それにしても、このダンジョンは思っていた以上に単純だったらしい。
 まさか遥が願って生まれたなんてな。それも憂さ晴らしときたか。
 たしかに、ダンジョンのせいで死んだ遥にはいい手向けになるだろうな。

 ――だったらなおさら壊せる訳がないだろうが!

 ここはいわば「ドブ川遥」の墓標なんだ。
 彼女の追憶を再現したアトラクション付きの。
 だからきっと最後は必ず負けるようにできているに違いない。

 そんな物を俺に壊せだなんて、遥はなんて残酷な事を言ってくれる!

「デモ、ソンナモノはもういりませんわ」
「えっ……」

 けど遥はそれでも俺に頼んでくるのだ。
 語る舌(?)使いをゆっくりと流ちょうにさせていきながら。

 なら教えてくれ、それは一体どういう事なんだよ、遥……!
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