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第105話 今、二人は一つになる。

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 絆ライディングにはいくつか種類がある。

 互いの魔力を共有するマナティクスライド。
 ステータス値を貸与するスタティックライド。
 他にも、片方に思考を統一加速させるヴィジタードライドなど。

 そして武装変化のアームドライド。

 先の三つなどは応用もできて使い勝手がよい。
 父さんや母さんも普通に使えるし、リスクも少なく取り回しも利く。

 だけどアームドライドだけは違う。
 あれはコンが固有特性である「身体変化」を利用して行った特殊技だから。
 つまり意思疎通ができる俺とコンだからこそ叶う技なのだ。

 それを、心で会話できる訳もない人間ができるものか!
 物に変わるって事は、考える事もできなくなってしまうんだぞ!?
 コンだって特性があってもアームドライド中には会話できないくらいなんだ!

 それを君は――

「彼方、ぎゅーっ!」
「え、ちょ、つくし!?」
「ダメだよ彼方、余計な事ばかり考えちゃ」

 な、なんだ!? つくしがいきなり抱きついてきた!?
 それに耳元で囁いて吐息が……。

 今ここでそうする意味って?

「彼方はさ、あたしの事信じてくれてるよね?」
「え、あ、うん」
「それで、あたしとも何度も繋がったよね?」
「まぁそう、だね」
「それってさ、きっと絆ライディングと同じだって思うんだ」
「えっ……」

 ……いや、意味なんてどうでもいいんだ。
 これもまたつくしが望む事で、一種の儀式みたいなものなのだろうから。

 二人が繋がり合う前の、大事な儀式。
 互いの心を繋ぎ合わせるための。

「一つになった時に互いを感じるって、とても気持ちいい。それってすっごく嬉しい事なんだよ。だからあたしは彼方と前よりずっと繋がり合えるって思えた」
「だ、だけどそれは気持ちの問題というだけで、その……」
「だからだよ。だってダンジョンでは精神を強く反映してくれるでしょ? プレイヤーに合わせてスーツが変わるのはそのせい。そして持ち込むモノすべてに適用される。じゃあそれって、人でもスーツでも一緒って事だと思うんだ」
「そ、それは……」
「だったらこの気持ちと仕組みを、絆ライディングで再現すればいいんだよ」

 なんて無茶苦茶な理論だ。
 つまりつくしは、絆ライディングで俺の所持物になろうとしているんだ。
 そうする事で特性同様に変化し、俺に装備させようとしている。
 それも自分自身の力で絆ライディングを発動させて。

 その理屈はわかるさ。もしかしたらできるかもしれない。
 だけど、リスクがあまりに大き過ぎる。

 もし元に戻れなかったら、つくしは……!

「だから彼方、余計な事、考えちゃダメだって」
「つ、つくし?」
「ただ信じて。あたしは物になったままになるつもりなんてないから」
「お前、その事にもう気付いて――」
「うん、それにもうパイセンズ達も知ってる。あたしが何しようとしているか、失敗するかもしれないって事も全部」
「みんなが!?」
「それでも来てくれたんだ。必ずやって、それで戻ってくるって信じて」

 そうか、つくしはそんなリスクも受け入れていたのか。
 その上でもう覚悟も決めてからここに来た。
 覚悟を決められていなかったのはもう俺だけだったんだな。

 ――だったら俺も全力を尽くそう。
 全力で魔物遥を倒し、遥を救い、その上でつくしも戻す。
 つくしと俺が協力し合うなら、その可能性だって充分に引き出せるはず!

 やりきるだけだ、すべて!

「わかった、やろう。俺もつくしを信じて任せるから!」
「うんっ、やっちゃおうよ! 遥を助けるために!」
「よし!」

 ゆえに俺も覚悟を決め、つくしと重ねていた体を離す。
 ただし両手は握り合ったままで、掌を重ねて握り締めて。
 するとつくしはまたニッコリとした笑みを向けてくれた。

 まったく、本当に悩みを知らないような顔をするよな。
 これが強がりだってわかってても、普通ならきっと騙されちゃうよ。

 だけど想いは本物だ。

 だったら、パートナーとしても俺はつくしに応えなきゃいけないよな。
 それが恋人だっていうならなおさらに。

「だから、来い!」
「うん、行くよ彼方! あたしを、受け止めてっ!」

 よって直後、俺とつくしの掴み合った手よりマナが流動し始めた。
 互いのマナを循環させ合うマナティクスライドと同じ原理だ。
 こうして互いのマナの濃度と色を溶け合わせ、一体化させる。

 そうして心地良さが生まれる。
 マナが一体化した証拠だろう。
 これでつくしの身体変化の地盤が整ったはず。

 つくしもそう悟ったのだろう、途端に彼女の体が光を帯びていく。
 それも放した掌で「スゥーッ」と俺の腕を伝わせながら、また抱き込むようにして。

 やり方はもう彼女の中で構築済みなんだろうな。
 今までにコンとのアームドライドを見てきたから、イメージができているんだ。
 そしてそう体現できるだけの知恵と勇気があるから。

 そのおかげで今、つくしが輝きながら光そのものに変わっていく……!

 すると今度はつくしだった輝きが俺の体にまとわりつき、さらに変化。
 遂には彩りまで生まれ始め、光の粒子を弾き飛ばしていく。
 それはまるで、ダンジョンの装備変化と同じようにして。

「こ、これは……!」

 そうして現れたのは、虹色のジャケットコート。
 少し魔法少女風味の可愛さが残った、大きなリボン付きのつくしらしい服だった。

 それに加え、頭には同様に虹色の羽根付き帽子が備わる。
 なんだろう、全容は見えないのに不思議と形がイメージで伝わって来るんだ。

 きっとこれがつくしと真に一つになるって事なのかな……。

『そりゃそーだよー、なんたってあたしの想像通りだもん!』

 ――え?
 待って? どういう事?
 なんでつくしの声が聞こえるんだ……?

『んーわかってないなー彼方は! つまりはそういう事!』
「だからどういう事!?」

 お、おいおいおい!?
 ちょっと待てって、こんなのちっとも聞いてないぞ!?

 ちょっとして俺、幻聴でも聴いているんじゃないだろうな……!?
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