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第98話 彼方じゃ絶対に遥には勝てない(つくし視点)

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「待って澪奈パイセン! モモパイセンも! 彼方が、彼方があ!」
「バカつくしィ! あーしらが残ったって邪魔なだけなんだってぇ!」
「そうよ……軒下で鍛えた遥は間違いなく私達より強いわ。魔王彼方じゃないとどうしようもない相手なのよ……!」

 遥がいきなり魔物になって、彼方が一人残って戦ってる。
 なのに今のあたしは情けなく先輩二人に引きずられて出口に向かってる。

 悔しいよ、こんな事まで言われて。
 理屈はわかってるけど、それでもどうしようもないってそんなのあんまりだ。

「それにつくしは遥に狙われとる。変に行けば彼方の足を引っ張る事になるで」
「そうね、さっきのカエルの時と同じように」
「あ……」

 だけどあたしがいたら邪魔になる。
 たとえ軒下で鍛えていたって、それでもあたしは弱いから。
 まだ極振りステータスが平均的だったらマシなのに。

 こんな事ならいっそ、そういう所も普通だったら良かった。
 優れた才能なんていらないから、彼方の力になりたかった。
 そうしたらあの遥も簡単に止められたかもしれないのに。

 ……ううん、でもきっと彼方なら一人ででも勝てるよね。
 だってさっきもすごい魔法を使っていたし。

 心配はいらないんだよ、きっと……!

「お、自分で走れるぅ?」
「はい、お騒がせしました」
「……ま、でもあんま追い込まないでよねぇ? 力になれないのが悔しいのはさぁ、あーしらも一緒なんだから」
「うん……」
「見て、入り口が見えたわ」
「ひとまず全員脱出するで!」

 ようやく思い直せたから自力で走って出口へ。
 久しぶりだって思えるくらいの強い陽射しを受けて、やっと戻ってこれたんだって実感した。

 だけどいつもいるはずの彼方がいないからとても寂しい。
 すぐにでも映像水晶の所に赴きたくなるくらいに。

「誰も迎えてくれねぇな」
「それは彼方君が戦ってくれているからだろう。僕達も観に行きましょう」

 それはみんなも同じ気持ちみたい。
 外には誰もいなかったし、きっと映像に釘付けなんだね。

 だからあたし達も揃って映像水晶へ。
 するとダンジョンをぐるっと回り込んだ所でギャラリー集団を見つけた。

 でもみんな映像に夢中みたいであたし達に気付いていない。
 それだけ彼方と遥の戦いが壮絶だって事なんだろうね。

 そこであたし達は無理矢理集団を掻き分けて映像の前に。
 ざわめきが包む中で、やっと今の状況を知る事ができた。

「か、彼方……!?」
「ちょちょ、これってまずいんじゃなぁい!?」

 でも状況は思ったよりもずっと酷かった。
 あの彼方が防戦・回避一方で、反撃さえまったく叶わないんだ。
 武器を拾っても盾を拾っても、攻撃も防御しようとしてもすぐ壊されてダメで。
 そのせいでスーツももうボロボロになってしまってる。

 これって、それだけ遥の攻撃が激しいから!?
 ……ううん、これは違う、そうじゃない。

「私達の魔王彼方が、ま、負けちゃう!?」
「うん、これじゃダメだ。このままじゃ彼方は……遥に絶対勝てないよ!」
「「「えっ……!?」」」

 あたしはバカだから理屈なんてわからない。
 だけどなんとなく、そうわかってしまったんだ。

 優しい彼方じゃ、遥にだけは絶対勝てないんだって……!

 すると澪奈パイセンがあたしを強引に集団から引きずり出した。
 今の叫びで注目を受けてしまったから、敢えて引き離してくれたんだと思う。

 それでギャラリーが再び映像に釘付けになる中、澪奈パイセン達があたしを囲う。
 まるで今の一言の理由を教えろと言わんばかりに注目しながら。

 だからあたしはゆっくりと口を開いた。
 みんなにもその理由を知ってもらいたいから。

「……勝てない理由は、二つあるの」
「ほんならつくしちゃん、落ち着いて話してくれる?」
「はい。まず一つは、彼方が遥を仲間だと思っているから傷付けられないって事です。たとえ魔物になってしまっても、遥の意識がそのままだから、どうしても手が出せないんです」
「それだけ間宮君もドブはるさんの事を信頼してるって事なんだね」
「うん」
 
 彼方は本当に優しい人。
 いつも誰かを想ってくれているし、助けようともしてくれる。
 ダンジョンでもずっとそうやってあたし達を助けてくれたんだ。

 そんな人が簡単に仲間だった人を傷つけられる訳がない。

 それに、もう一つの理由がなにより重要。
 遥に対して決定的な有効手段が得られないから。

「もう一つが、彼方ではたぶん装備レベルアップができないんです」
「「「えっ!?」」」
「理屈はわかんない。けど今まで彼方が武器を持って装備変化を起こした事はありません。それってつまり、彼方が装備変化を起こせる条件を満たしていない、あるいは満たせないからだと思うんです」
「ちょちょ、それってもしかしてぇ!?」
「軒下ね、軒下が原因だって言いたいのね?」
「うん、おそらくはそう」
「な、なんや軒下って!? 雨宿りでもするんかいな!?」

 でもこれだけじゃ説明にはならない。
 だからあたし達は匠美さん達プレイヤーだけが聞いている事を察し、敢えて全容を話した。
 彼方の家が先行実装ダンジョンで、あたし達は全員そこで鍛えている事を。
 そしてそのおかげでレベルが現状の一般レベルをはるかに凌駕している事も。

「そ、そんなところがあったなんて……」
「でも軒下魔宮は普通のダンジョンと微妙に仕様が違うから、そのせいで彼方は装備変化を起こす事ができない。それってつまり、初期装備でラスボスと戦うのと一緒なんです……!」
「せやな、あの武器庫の武器は初期状態だと屑鉄やからすぐ折れてまう。だから装備変化で強度や威力を上げへんと高レベルに対処できへん。遥相手なら特にそうやろな……その軒下魔宮つうとこで鍛えてあるならなおさらや!」
「じゃあ事実上、間宮君ではたとえ傷付けたくともそれさえ叶わない……!?」
「そうなります!」

 だからこのままじゃ彼方はいずれ、遥に食べられちゃう。
 そうなってもし彼方の力まで取られたら、もう誰も止められないかもしれない。

 そんな事になったら、日本はおろか世界だってどうにかなってしまうかも。

 ――そんなのは絶対にイヤ!
 彼方だけじゃなくみんなもいなくなってしまったら……!
 ううん、そうなったらきっとあたしだって助からないんだ。

 そうなったら、お母さんだって助けられない!

「そ、それならなんとかしないと」
「どうするってぇんだよ!? あの間宮が勝てねぇような相手だぞ!?」
「ねぇ、宝春ならどうにかできるんじゃない……?」
「そうだ、同じ軒下魔宮で鍛えたならそれもできるんじゃ」
「ちょちょ待ってぇ!? あーしらだってそこまで強くないんよぉ!」
「うくく、周回サボったのが裏目に出たわ……」
「……それでも、あたしは行きます!」
「「つくし!?」」」

 たとえ自己中だって言われても構わない。
 利己的だって罵られたって、欲張りだって嘲笑されたって。

 それでもあたしは絶対に失いたくないんだ!
 彼方も、みんなも、お母さんも!

 だったらあたしは彼方の力になりたい!
 今のあたしならきっと力になれるって信じているから!
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