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第87話 バブリッシャーの有用性

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 サハギンはおよそ八〇匹ほど。
 突入人数に合わせて敵の数が増えるのがダンジョンの仕組みだ。

 だが数なんてこの際関係は無い。
 俺達が奮う作戦はこれ以上の数の相手さえ想定しているのだから。

 俺達の流入に気付き、サハギン達が走り込んでくる。
 消音魔法でもさすがに姿が見えればバレもするか。

 しかし充分だ、陣形を整えられる時間は稼げたからな。

「セットォ!」

 それと同時に、俺が地面へと屈んで左腕を立てる。
 すると合図と共につくしが背後で魔法詠唱を始め、杖先を敵へと向けた。

 もう必要以上の言葉はいらない。
 指令の通りに動く、ただそれだけでこの戦いは勝てるのだから!

「――シュートォッ!」
「バブリッシャーーー!」

 さらに合図と共に二指を立てた腕を奴らへと向ける。
 すると即座にバブリッシャーが発動。
 一瞬で空間が浄化され、澄み切った空気が僅かな間を包んだ。

 その瞬間を狙い、凜さんを筆頭にした弓術部隊が一斉に矢を放つ!

「〝さみだれ烈花〟ッ!」
「「「はあああーーーっ!」」」

 本来、フィールド効果によって矢弾も勢いが落ち、射程も威力も半減する。
 だけどバブリッシャーの効果発動中はそのデバフ効果をも打ち消してくれる。

 いや、それどころか矢弾の威力は更に跳ね上がるんだ!
 なぜならバブリッシャーによって空気抵抗さえ除去されるのだから!

「「「ギエエエエエ!?!?」」」

 そして放たれた矢弾は、除去効果が失われても勢いを殺されない。
 制限はあくまでプレイヤーが起こした「行動」だけに掛かるからだ。

 よってその威力に偽り無し、先頭のサハギン達が一気に倒れていく。
 貫通して背後の奴にまで届いているぞ!

「ワンモアセットォ! シュートォ!」
「バブリッシャー!」

 まだサハギン達との間には距離がある。
 だからこそもう一度矢弾を放ち、また数を減らさせる。
 バブリッシャー要員は入れ替わり式だからな、まだまだ弾はあるぞ!

 しかしもう距離が近くなってきた。
 これではもう弓を射っても止められないだろう。

 だがな、その対応策はすでにあるっ!

「セットォ! スロォーーーッ!」
「バブリッシャー!」
「いっくでぇぇぇ! しゃらあああーーー!」

 パワー系職による、軽装前衛の放り投げ作戦がな!

 なにもバブリッシャーの効果が矢弾だけにかかるとは限らない。
 ようは一瞬だけ力を加えた物なら、なんだってその恩恵を受ける事ができるんだ。
 それは人だって同じ。投擲物であればなんだっていい!

 ゆえに、仲間達に放り投げられた澪奈部長や遥といった軽装前衛が一瞬にしてサハギン達の間をすり抜けていく。
 奴らを切り刻みながら、まるで弾丸の如く。

「「「ギョ、ギョエエエエエ!?!?」」」
「き、効いてる!? すごい!」
「油断するな、まだ来るぞ!」

 そう、それでもきっと奴らは止まらない。
 背後に澪奈部長達が回り込んでも、追い付かれない自信があるからだ。
 それに本陣を叩けば瓦解する、そう見込んでいるのだろうさ。

 けどな、それは早計なんだよ!

「セットォ! ホールッ!」
「「「〝落とし穴魔法ピットホール〟!」」」
「「「ギギッ!?」」」

 俺達の前に落とし穴の壁を作る!
 そうすれば奴等の進軍なんて簡単に留まるんだ!

 落とし穴に気付くも、勢いに押されて何匹ものサハギンが穴の中へ。
 ただしどれも浅いから、少しでも時間をかければすぐ出て来るだろう。

「クロォーズッ!」
「バブリッシャー!」

 しかしそんな事など関係無い。
 魔法効果除去で強制埋め立ての刑だ!

 しかもサハギンどもが足を止めれば当然ながら澪奈部長達も来る。
 前方からは矢弾が放たれ、サイドからは前衛達の奇襲挟撃。
 これには水を得た奴らでもひとたまりもないだろう。

 苦し紛れの反撃で槍や水弾を投げられても、こちらには盾部隊がいる。
 即座に盾を構えて全員を守るのだ。

「ひ、ひええっ!?」
「ぼんッ! しっかり見て守るんやぁ!」
「は、はいっ!」

 緒方君も大丈夫、しっかりやれている。
 匠美さんにサポートをお願いしておいて正解だった。

「セットォ! シュートォ!」
「バブリッシャー!」

 前衛に押し込まれ、サハギン達は固まらざるを得ない。
 そこに再び矢弾が放たれて一気に倒れていく。
 こちらには合図もあるから、前衛もヒットアンドウェイがしやすくていい。

 ――そのおかげで開始五分。
 ものの見事にサハギン全匹討伐完了だ。

「お、おお、マジモンでサハギン無傷突破しよった……」
「バブリッシャー要員も全員使ってないんですけど?」
「消耗もあるし、回復する手間も省けるからいいんだ。これならすぐ次にもいけるしな」
「おいおい、サハギンに続いてケートスを連戦で落とすってかぁ!?」
「まったく、冗談がキツいよ君は」
「それくらいやってみせないと派手にいけないだろ?」

 そうさ、この戦いはそれだけセンセーショナルにいかないといけない。
 いかにして「強敵を、工夫して、完璧に、完封するか」を見せつけるんだ。

 そうしないと根付かないからな。
 どうせ動画映えを目指すなら誰もが驚くくらいが丁度いい。
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