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第84話 すえつぐを最近見なかった理由

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 動画を見終わってすぐ、部室に紅先生がやってきた。
 すなわち、宝春学園ダンジョン部の遠征決定である。

 それで俺達は翌日、現在ランキング八位である麗聖学院と共に空へ。
 朝一で岩手へとやってきた――のだけど。

「「「キャー! 間宮君よ! 間宮くーん!」」」
「「「間宮君カッコイイ! こっち向いてー!」」」

 な、なんか空港のロビーから出たらたくさんの人が待ち構えていたんだが!?
 盛大な歓迎過ぎて逆に怖い!
 あ、そうだ。手を振って応えないと!

「「「つくしちゃーん! かわいいーっ!」」」
「「「L・O・V・E! つ・く・し!!」」」
「やーやーどーもどーもー! フゥーーーッ!!」

 おかしい、以前まではここまで多くなかったんだけどなぁ。
 そろそろ全国的に認知されてきたって事なんだろうか。
 つくし応援団っぽいのが横断幕みたいなのまで振ってるし。

「「「ドブはるさんーっ! 負けるながんばれーっ!」」」
「「「今日もドブり具合楽しみにしてるー!」」」
「あら皆様ごきげんよう、今日も盛大にドブっていきますわ!」

 ――っつか、なんだよドブるって。もう意味わからないよ!
 遥はもう完全にネタキャラ扱いされているんだな。
 本人がノリノリだからもういいんだけどさ……。

「「「厨二病期待の星、我等が教祖、母桃様ー!」」」
「「「ギャップ萌えサイコー! かっわいいーっ!」」」

 モモ先輩は完全に顔を覆って澪奈部長の背に隠れている。
 あ、それでもちゃんと手は振って応えてるな。
 一応サービス精神はあるんだ。安心した。

「……あーしへの声が、無いッ! どうしてッ!」
「ま、まぁ声援に掻き消されてるんですよきっと」
「そ、そうそう!」

 なんでだろうな、澪奈部長も最近映えていると思うんだけど。

 あ、そうか! わかったぞ!
 澪奈部長は玄人勢に好かれているからだ。
 きっと彼等はこういう所に来ないんだろうな。硬派らしいから!

「澪奈ちゃーん、愛してるぅー!」
「ハッ!? はぁーい! 澪奈がんばっちゃう~!」

 お、でもいるにはいるんだな。
 歩いていたらさっそく声援が――

「――ってすえつぐかぁーいッ!!!」
「ややっ、どーもどーもみなさん!」

 オゥ……澪奈部長ご愁傷様です。

 なんかギャラリーに混じってすえつぐがカメラを回していたんだが?
 抜け目ない、っつか完全に溶け込んでいて気付かなかった!

 ……と、そんなギャラリー達の作る道を通り、空港の外へ。
 ここまでのアイドル扱い?にみんな興奮を隠せないようだ。

 俺も正直ドッキドキだったが。
 ダンジョン攻略しかしていないのになんで?
 これが動画配信の力って事なのか?

「改めてみなさんどーもどーも! ネオ~すえつぐ、ですっ!」
「あ、すえつぐおひさー!」
「つくしちゃん久しぶり~! ごめんねー最近撮影に行けなくて!」

 それでバスに荷物を積んでいたら、その原因の素がまたやってきた。
 一緒に荷物を入れようとしている所を見るに、すえつぐも同伴するのだろう。

「あ、兄さん!」
「ヒロ! お前も来てたんだなー!」

 ――え?
 えっ???

「うん、特訓したから今日は参加できるだろうって連れて来てもらったんだ!」
「いやー話に聞いた時はびっくりしたけど、まさか本当に参戦するとはなぁ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「「え?」」
「緒方君ってその、すえつぐと兄弟、だったの?」
「うん、そうだけど。あれ、僕言ってなかったっけ」

 知らない俺そんな事聞いてない!
 ああでもクソッ、並ぶとわかる兄弟だコレェ!

「あれぇ彼方っちもしかしてずっと知らなかったん~?」
「フフフ、私は澪奈ちゃんと同伴していたから実は気付いていたわ……!」

 うわああああああ! 知らなかったのってもしかして俺だけか!?
 マジで俺だけなのかあああ!?

「フ、フフーン! あ、あたしだってし、知ってたんだからーっ!」
「やめておきなさいつくし、ここでしょうもなく意地を張っても意味ありませんのよ」

 ふう良かった、仲間がいた。
 一番接点がある俺だけ知らないとなると、さすがに冗談がキツいもんな。

「でもヒロが忙しいと編集も一人でやらないとだし、大変になりそうだなぁ」
「ごめんね兄さん。でも僕、それでもやっぱりプレイヤーやってみたくて」
「もちろん平気さ。がんばって来いよ!」
「ウン!」

 ああ、でもおかげで話が繋がったぞ。
 最近まですえつぐの更新ペースが速かったのは緒方君がいたからなんだな。
 緒方君が編集の手伝いしていたから。

 でも最近は緒方君も軒下で特訓していたし、体幹トレーニングもしていた。
 だから編集作業には移れず、結果更新ペースが落ちてしまった。

 つまり〝ネオすえつぐ〟とは、すえつぐと緒方ヒロの二人を指していた訳だ。

「宝春学園、後がつかえてるから急いでくれないか?」
「あ、すいません。みんな早く荷物積んでバスに乗ろう」

 おっと、少し騒ぎすぎてしまったようだ。
 麗聖学院の来栖川君に怒られてしまった。急がないと。

 ――こうして俺達は全員でダンジョン発生現場へと向かった。
 バスで二〇分ほど走った所にある畑地帯の一角へと。

 バスの中はやっぱり静かだ。
 麗聖とは遥の件があるから未だ打ち解けきっていないし。
 別に仲違いしている訳じゃないが、少し空気が悪い感じで。

 そんな陰気臭いバスからやっと降り、荷物を持ってダンジョンの近くへと向かう。
 するとさっそく、見知った顔が俺達を出迎えてくれた。

「おぉ来たな宝春! 待っとったで!」
「あ、大阪チームのみなさんお久しぶりです!」

 匠美さんと凜さんが笑顔で歓迎だ。
 この二人は相変わらず気が利いてくれるから救いになるよ。

 本当ならこれに加えて東北チームもいれば完璧だったんだけどな。
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