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第77話 夢を見せてあげてもいいじゃない

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 緒方君が大掛かりなビデオカメラを持って学校にやってきた。
 とはいえ、所属部であるアニメ研究会の名義で持ってきているから没収される心配はないらしい。

 それで今、ダンジョン部の動画を撮りたいという事なんだけども。

「オーッホッホッホ! ではわたくしを存分に撮るといいですわよ!」
「え、いいの!?」
「ええよくってよ! ハイッ! ハイイッ!」

 なんか遥が調子にのってポージングまでし始めた。
 緒方君もそれに釣られてもうカメラ回しているし。
 なんだこのフリーダム空間、あまりにも自由過ぎてツッコミ所しかないぞ!

 ええい、もうつきあっていられるか!
 ならば俺はお菓子をむさぼり食う!
 
「ねーね、彼方」
「ん、なんだつくし?」

 そうしていたら隣につくしも座ってきた。
 俺がつまみあげたクッキーを奪い、自分の口に放り込みながら。

「どうせ非公式で撮るならさーもっと面白いものを撮ってもらおうよ」
「面白い物?」
「そそ。例えばほら、軒下魔宮とか」
「え……はむ」

 すると今度はつくしがクッキーを指に取り、俺の口に咥えさせる。
 しかも思いもよらない提案と共に。

 もぐもぐ、うん、このクッキー美味しい。

「それって、緒方君を俺の家に招待するって事?」
「うん。緒方君ってきっと悪い子じゃないと思うよ。彼方の事も信じてくれていると思うし平気だよ」
「でもな、緒方君はプレイヤー志望って訳じゃないし、危険な所へ連れて行くのはちょっと気が引けるかな」
「そうかな? 緒方君って前、プレイヤーになってみたいとか言ってた気がしたけど」
「え、そうなんだ?」

 たしかに軒下魔宮ならダンジョン並みの絵が撮れるだろうな。
 けど迂闊に連れて行けば、最悪死んだり、大事な機材が壊れるかもしれない。
 そんな危険な場所に彼みたいな人を連れて行ってもよいのだろうか。

「ねー緒方君! 緒方君もダンジョン部に入ろうよー!」
「え!? 僕がダンジョン部に!?」
「そうそう、そうすれば許可とかいらないじゃーん!」

 ……とか悩んでいたらつくしに先手を取られた。
 少しは悩んだりしないの!?

「けどダンジョン部に入るって事は、戦うって事、ですよね……僕弱いし、戦った事もないから役に立たないんじゃないかな」
「まー最初はそうかもしんないけど! でも前準備すればすぐ活躍できるし危険じゃなくなるって!」
「え、そうなの?」
「うん、そうそう!」

 ただ緒方君もまんざらではなさそうだ。
 眉を下げて不安そうではあるけど、「もしかしたら」なんて期待も感じる。

 もしかしたら本当はプレイヤーに憧れがあるのかもしれないな。
 だけど自分に自信が無いからそう言いだせないだけで。

 でもちょっときっかけを与えて自信を持たせれば――

「ちょっと聞き捨てなりませんわね。前準備とはどういう事ですの?」
「あ、そっかー遥も知らないんだったねー彼方の家の事」
「??? たとえどんな準備であろうと危険じゃなくなる訳はありませんわ」
「そーだけどね、危険度はすっごい下がると思う! せっかくだしみんなで行こうよー、彼方の家にさ!」
「え、間宮君の家に!? いいの!?」
「つくし、勝手に決めるなよ……まぁいいけどさ」

 たとえ期待通りにならなくても、夢を見させる事はできるよな。
 また緒方君が眼鏡を輝かせているし、断る理由も無い。
 動画を撮る事もできるし、一石二鳥だとは思う。
 そのあとは俺次第だ。

 それに遥にも軒下の事をそろそろ教えてもいいと思うし。
 彼女も俺の家に来た事のある、信じられる人物だから。

「ではわたくしも行きましょう」
「え、でも遥は無理だよー」
「あ、実はそうでもなくて。遥は一度俺の家の前に来てるんだよ」
「それいつ!?」
「な、夏休みの間?」
「彼方、もしかして……!」
「ち、違うって、別に変な事をした訳じゃ――」
「そうですわ。甘い菓子折りを持っていっただけですの」
「なんだ、そっかー」

 お、おう、遥ナイスフォロー……!

 それにしてもつくしって結構嫉妬深いんだな。
 思った以上に反応が鋭くてちょっと焦った。

 こりゃ迂闊な事はできそうにないから気を付けないと。



 ……暑い夏はまだ終わりそうにない。
 むしろダンジョン部に籠った熱はますますヒートアップしそうな予感がする。
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