71 / 126
第71話 夕暮れの君
しおりを挟む
つくしに誘われ、俺達は二人で花火大会へと行く事になった。
それでバスに乗って会場に到着。
まだ夕刻には時間があるから空も明るいし、一望するには丁度いい。
屋台もたくさんあるみたいで、すでに目移りしそうなくらいだ。
「ねね、彼方」
「ん、なんだつくし?」
「今日はね、あたしが彼方に色々おごったげる!」
「え?」
でもそんな会場入りの前に、つくしが急に変な事を言いだした。
別におごってもらわなくても、俺はお金にまったく困っていないのだけど。
「いや、いいって。つくしはお金貯めないとなんだろ? だったらこんな事で浪費する必要はないし」
「いやいや、こういう交際費はちゃんと確保しておりますがな~! それにあたしができる彼方へのお礼はこれくらいしかないからね!」
「お、お礼? ――うわっ!?」
「さっそく食べたい屋台はっけーん! 行こう彼方っ!」
そしていつものように手を握って引っ張ってくる。
俺の意見なんてもう完全に聞いていないみたいだ。
まったく、つくしは本当に勝手な事ばかり言って。
……けど、それだからつくしらしいんだよな。
それに、そうしたいっていうなら俺は拒否するつもりなんてない。
なんだかんだでつくしは不器用だし、やりたい事があると真っ直ぐ突き進むし。
だったら流れに逆らうより、ついて行った方がずっと楽だ。
その方がずっと楽しいし、俺の性にも合ってるから。
「たこ焼きゲーット! 屋台のこれがまた不思議と美味しいんだー」
「で、自分で食べるんだな」
「でもでもふたひでたべへばいろんなの、はふはふ、たべへる!」
「急いで食べなくてもいいぞー」
「じゃあ彼方もどうぞ!」
「丸ごとォ!? あっづぅ!」
だからっておいやめろォ!
アツアツのたこ焼きを丸ごと口に押し込むなァ!
――うん、美味しい。
なんだろう、内包物に関しては絶妙なんだけど不思議と美味しい。
あとつくしが使った箸が唇に触れたのも、なんかこう、来るものがある。
でも本人気にしてないし、そういうのあんまり遠慮しない子なんだな。
「ひゃっはー! りんご飴だぜぇー!」
「そういえば俺、りんご飴食べた事ないな」
「んじゃ食べてみるー!? はいっ!」
今度はりんご飴を差し出された。
しかも半分くらい削ぎ落されたようになくなってるやつ。
待って、りんご飴ってこういう食べ方なの!? 本当に合ってる!?
それに食べかけって……いいのこれ、本当に食べていいの!?
「じゃ、じゃあ遠慮なく」
せ、せっかくだし食べないとだよな。
そう、これは決して恥ずかしい事ではなく友情の証なのだ。
だから欠けた飴の端をガブリと噛んで千切る。
これだけでも充分だ。半身丸ごとはさすがに口の容量的にも無理があるし。
「どう?」
「うん、美味しい。こういうのもたまにはいいよね」
「良かったぁ! りんご飴初体験、大成功っ! にししっ!」
ただ、その味はすぐ薄れ、まったく気にならなくなってしまった。
つくしがふと見せてくれた笑顔がなんだかとても眩しく見えたから。
夕陽に充てられて輝く頬が、その眩しさを象徴するかのようだった。
無邪気に歯を見せて笑うその笑顔が、飴なんかよりずっと甘かった。
そしてそんな彼女の可愛らしい姿を、夕焼けが俺の脳裏へと焼き付けるのだ。
その後もずっと頭から離れなくなるほどに。
「もうそろそろ花火始まるっぽい! 見る場所決めよ!」
それで気付けばもう辺りは暗くなり、メインイベントの時がやってくる。
だからと二人で場所を探し、河川敷の坂に腰を下ろす。
そうして夜空を見上げ、打ち上げられた大きな花火を楽しんだ。
ああ、とても綺麗だな。
昔に見た光景とはまるで違う。
思い出も感慨も残ってないからこそ、今だけが特別に思えてならない。
ただ、そう思えたのは決して花火がすごかったからではない。
隣に座るつくしの方が花火よりもずっと綺麗だと思えたから。
だからか、俺の視線はしきりに彼女へと惹かれていて。
「綺麗だね、花火!」
「え、あ、うん」
そんな俺に気付いたつくしはにっこりとしたまま顔を覗き込んでくる。
その表情がとても……可愛らしかったんだ。
もうそれ以外の言葉が出てきそうにない。
おかげで結局、ろくに見られないまま花火が終わってしまった。
ただ祭りはまだ続いているし、まだ食べたりなくもある。
だからとつくしはまた俺の手を引いてくれていて。
そこで俺はようやく気付いてしまったんだ。
俺の胸の奥でくすぶっている彼女への想いの正体に。
俺にとってのつくしとはきっと、なくてはならない存在なのかもしれない、と。
それでバスに乗って会場に到着。
まだ夕刻には時間があるから空も明るいし、一望するには丁度いい。
屋台もたくさんあるみたいで、すでに目移りしそうなくらいだ。
「ねね、彼方」
「ん、なんだつくし?」
「今日はね、あたしが彼方に色々おごったげる!」
「え?」
でもそんな会場入りの前に、つくしが急に変な事を言いだした。
別におごってもらわなくても、俺はお金にまったく困っていないのだけど。
「いや、いいって。つくしはお金貯めないとなんだろ? だったらこんな事で浪費する必要はないし」
「いやいや、こういう交際費はちゃんと確保しておりますがな~! それにあたしができる彼方へのお礼はこれくらいしかないからね!」
「お、お礼? ――うわっ!?」
「さっそく食べたい屋台はっけーん! 行こう彼方っ!」
そしていつものように手を握って引っ張ってくる。
俺の意見なんてもう完全に聞いていないみたいだ。
まったく、つくしは本当に勝手な事ばかり言って。
……けど、それだからつくしらしいんだよな。
それに、そうしたいっていうなら俺は拒否するつもりなんてない。
なんだかんだでつくしは不器用だし、やりたい事があると真っ直ぐ突き進むし。
だったら流れに逆らうより、ついて行った方がずっと楽だ。
その方がずっと楽しいし、俺の性にも合ってるから。
「たこ焼きゲーット! 屋台のこれがまた不思議と美味しいんだー」
「で、自分で食べるんだな」
「でもでもふたひでたべへばいろんなの、はふはふ、たべへる!」
「急いで食べなくてもいいぞー」
「じゃあ彼方もどうぞ!」
「丸ごとォ!? あっづぅ!」
だからっておいやめろォ!
アツアツのたこ焼きを丸ごと口に押し込むなァ!
――うん、美味しい。
なんだろう、内包物に関しては絶妙なんだけど不思議と美味しい。
あとつくしが使った箸が唇に触れたのも、なんかこう、来るものがある。
でも本人気にしてないし、そういうのあんまり遠慮しない子なんだな。
「ひゃっはー! りんご飴だぜぇー!」
「そういえば俺、りんご飴食べた事ないな」
「んじゃ食べてみるー!? はいっ!」
今度はりんご飴を差し出された。
しかも半分くらい削ぎ落されたようになくなってるやつ。
待って、りんご飴ってこういう食べ方なの!? 本当に合ってる!?
それに食べかけって……いいのこれ、本当に食べていいの!?
「じゃ、じゃあ遠慮なく」
せ、せっかくだし食べないとだよな。
そう、これは決して恥ずかしい事ではなく友情の証なのだ。
だから欠けた飴の端をガブリと噛んで千切る。
これだけでも充分だ。半身丸ごとはさすがに口の容量的にも無理があるし。
「どう?」
「うん、美味しい。こういうのもたまにはいいよね」
「良かったぁ! りんご飴初体験、大成功っ! にししっ!」
ただ、その味はすぐ薄れ、まったく気にならなくなってしまった。
つくしがふと見せてくれた笑顔がなんだかとても眩しく見えたから。
夕陽に充てられて輝く頬が、その眩しさを象徴するかのようだった。
無邪気に歯を見せて笑うその笑顔が、飴なんかよりずっと甘かった。
そしてそんな彼女の可愛らしい姿を、夕焼けが俺の脳裏へと焼き付けるのだ。
その後もずっと頭から離れなくなるほどに。
「もうそろそろ花火始まるっぽい! 見る場所決めよ!」
それで気付けばもう辺りは暗くなり、メインイベントの時がやってくる。
だからと二人で場所を探し、河川敷の坂に腰を下ろす。
そうして夜空を見上げ、打ち上げられた大きな花火を楽しんだ。
ああ、とても綺麗だな。
昔に見た光景とはまるで違う。
思い出も感慨も残ってないからこそ、今だけが特別に思えてならない。
ただ、そう思えたのは決して花火がすごかったからではない。
隣に座るつくしの方が花火よりもずっと綺麗だと思えたから。
だからか、俺の視線はしきりに彼女へと惹かれていて。
「綺麗だね、花火!」
「え、あ、うん」
そんな俺に気付いたつくしはにっこりとしたまま顔を覗き込んでくる。
その表情がとても……可愛らしかったんだ。
もうそれ以外の言葉が出てきそうにない。
おかげで結局、ろくに見られないまま花火が終わってしまった。
ただ祭りはまだ続いているし、まだ食べたりなくもある。
だからとつくしはまた俺の手を引いてくれていて。
そこで俺はようやく気付いてしまったんだ。
俺の胸の奥でくすぶっている彼女への想いの正体に。
俺にとってのつくしとはきっと、なくてはならない存在なのかもしれない、と。
0
お気に入りに追加
452
あなたにおすすめの小説

社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた
羽黒 楓
ファンタジー
旧題:借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件
借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった
椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。
底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。
ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。
だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。
翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界帰還者、現実世界のダンジョンで装備・知識・経験を活かして新米配信者として最速で成り上がる。
椿紅颯
ファンタジー
異世界から無事に帰還を果たした、太陽。
彼は異世界に召喚させられてしまったわけだが、あちらの世界で勇者だったわけでも英雄となったわけでもなかった。
そんな太陽であったが、自分で引き起こした訳でもないド派手な演出によって一躍時の人となってしまう。
しかも、それが一般人のカメラに収められて拡散などされてしまったからなおさら。
久しぶりの現実世界だからゆっくりしたいと思っていたのも束の間、まさかのそこにはなかったはずのダンジョンで活動する探索者となり、お金を稼ぐ名目として配信者としても活動することになってしまった。
それでは異世界でやってきたこととなんら変わりがない、と思っていたら、まさかのまさか――こちらの世界でもステータスもレベルアップもあるとのこと。
しかし、現実世界と異世界とでは明確な差があり、ほとんどの人間が“冒険”をしていなかった。
そのせいで、せっかくダンジョンで手に入れることができる資源を持て余らせてしまっていて、その解決手段として太陽が目を付けられたというわけだ。
お金を稼がなければならない太陽は、自身が有する知識・装備・経験でダンジョンを次々に攻略していく!
時には事件に巻き込まれ、時にはダンジョンでの熱い戦いを、時には仲間との年相応の青春を、時には時には……――。
異世界では英雄にはなれなかった男が、現実世界では誰かの英雄となる姿を乞うご期待ください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる