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第67話 つくしの力は明らかに希有(遥視点)

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 まさか一瞬で、わたくしの右腕が丸ごと消えるとは。
 その事実の認識が遅れてしまう程にあっという間で、実感さえない。

 けど――

「うっああああああ!!!!!」
「は、遥ーーーっ!!?」

 激痛がいきなり全身に走って来た。
 信じられもしない事実に直面して意識が混濁する。
 少しでも気を抜けば気絶してしまいそう。

 もう、たってもいられない。

 途端、体に衝撃が走った。
 おそらく地面に倒れてしまったのでしょう。
 体も冷えていくのを感じる、血液が大量に流れ出てしまっているのだわ。

「あ、か……しくじり、ましたわ……」
「遥、だめぇ! 遥死んじゃだめだよぉぉぉ!!!」

 こ、このままでは本当に、死んで、しまう。
 意識が朦朧として、もう口も動かすのさえ、お、おっくうで。

「つくし、か、回復……!」
「そ、そうだ! あたしはヒーラーなんだ! 少し待って! 必ず治すから!」

 だけど良かった、こう伝える事が、できて。
 これなら必死に守った、甲斐があったというもの。
 つくしさえいれば、これくらいは何とかなると、わかっていた、から。

 ああ、少しずつだけど体が楽になっていく。
 回復魔法を使ってくれているのですね。

 ……あの時もそうだった。
 黒い魔物にやられた時、わたくしはほぼ死にかけていた。
 内臓も潰され、筋肉も千切れ、骨も砕けたせいで。

 なのにつくしはそれさえ無視してすぐに再生させてしまった。

 普通の回復魔法は時間をかけて修復・傷を塞ぐようなもの。
 たとえ上級魔法でも、失った腕などを再生させようなら数十分とかかるでしょう。
 それ以上のランクを見た事はありませんし、数十秒で再生など到底ありえない。

 この子の回復力が異常なのですわ。
 お腹に来る激痛も異常だけど。

 でもそれを知っているからこそ安心して託せるというもの。
 わたくし自身がいくら傷付こうが、つくしなら治せるから死にはしないのだと。

 それが皆に秘密にしていた、彼女を選んだ本当の理由。
 いくらわたくしが無茶をしても平気なように、とね。

「ふぃー! 回復完了!」
「あ、あお、んんんーーーッッッ!!!!!」
「ここでトイレ、する?」
「まままだよ、まだ耐えられますわァァァ!」

 ほら、やっぱり。

 ふふっ、案の定すっかり治りました。
 お"んッ!? お腹の激痛も相変わらずひ、ひどいですけど。

 ……この回復力はおそらく、世界的に見ても稀有。
 デメリットが力を高めているおかげとはいえ、その能力そのものが稀有だから。
 精神力値が高くともここまでの回復力補正なんてありえませんし。
 加えて今では蘇生魔法も使えるなら、謎な存在の彼方を除けば唯一無二なのではないかしら。

 そう言えばたしかこの子、以前はプロチームにいたけど戦力外通告されたとか言っていましたわね。

 だとするとそこの責任者はとんだ無能者ですわ。
 デメリットを差し引いても彼女の能力は明らかに異常ですもの。
 おまけに過去の動画を見る限り、打撃能力からも天性を感じますし。

 もしきっとつくしの存在を知っていたら、わたくしはきっと彼方よりも先に彼女をスカウトしていたでしょうね。
 まったく、この宝春学園というのはなんて変人達の集まりなのかしら。

 さ、さて、お腹の痛さにも慣れてきましたわ。
 ちょっとつくしの肩を借りて立ち上がる事にしましょう。

 そして今すぐ戻らないと。

「どうしてそんな無理をするの!? 誰も来ないならここでしちゃえばいいのに!」
「動画は撮られてるのですわよ!? その痴態を晒す事だけはさすがにプライドが許しませんわァァァァァ!!!!! あ、あとね、今はそれどころではないのですよ……!」
「ど、どういう事?」

 わたくし、もうわかってしまいましたから。
 ふと振り返れば、分岐地点には刀身半分が消えた小剣も見えますし。

「つくし、行きますわよ! 彼方の所に戻ります!」
「あ、内股でピョコピョコ走る遥かわゆし」
「う、うるさいですわね! あまり気を緩めさせないでいただけます!?」

 あとはこの真実をせめて彼方にだけは伝えないといけない。
 わたくし達はそもそもが間違っていたのだと。

 このダンジョンはわたくし達が知っているものとはまったく違うんだって。
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