実家が先行実装ダンジョンだった俺、同級生の女子に誘われたので今度は正式実装版で無双をやってみた。え、配信された攻略動画がバズってるって!?

日奈 うさぎ

文字の大きさ
上 下
54 / 126

第54話 わたくし褒められてる?責められてる?(遥視点)

しおりを挟む
 まさかわたくしがあんな醜態を晒す事になるなんて。
 司条グループ情報管理部に根回しして、話題を落ち着かせる工作をしなければ。
 バトラー田辺にも動画の削除を依頼する必要がありそうですわね。

 あとはこの失態をお父さまにどう弁明すれば……。

 ですがもう言い逃れはできません。こうして呼び出された以上は。
 お父さまは優しくともグループを束ねる御方。
 きっと失敗には相応に厳しく当たる事でしょう。

「遥、入りなさい」

 声がすると共に、目の前の自動扉が開く。
 モダン調の白い部屋が露わになりました。

 そしてわたくしが入れば、すぐそこには同じく白いデスクに座る父の姿が。

「先日は大変だったようだね。動画は見させてもらったよ」
「……大変な失態をお見せしました。申し訳ありません」

 あのデスクはわたくしの憧れ。
 兄や姉がいるからこそ座る事は叶わなくとも、夢にくらいは見ます。
 いつかあのデスクに座ってグループを動かしてみたい……そう願って。

 だから今まで努力してきた。
 人を動かす事を覚え、上に立つ事を学んだ。
 少しでも愛する父に近づきたいと願うがために。

 でも、やはりわたくしは優秀な兄や姉のようにはいかなかった。

「失敗は誰にでもあるよ、遥」
「――えっ!?」
「たとえどんな醜態を晒そうと、その失敗を糧に成長できるのが本当の人というものだ。だからその失敗を恐れてはいけない。どんなに恥ずかしくとも、苦しくとも、諦めない限りはきっといつか、その失敗こそが大いなる力の根源となるだろうから」

 あれ……? わたくしは責められていない?
 もしかして許してくださっておりますの?

「あの一連の動画は親である私でさえ恥ずかしくなるものだった。でも気にする事ではないんだ。なぜなら君は人が恐れる危ない場所へと自ら乗り込んで、身を挺して戦ったのだからね」
「お、お父さま……」
「その上であのようになってしまった事は残念だが、それも所詮は一つの失敗に過ぎない。それを咎める権利など、ただ見ていただけの民衆には存在しないんだ。ならば胸を張って改めて挑戦すればいいんだよ」

 ああ、なんという事でしょう。
 こんな時でも父は微笑んでくれている。
 わたくしの失態を許し、その上で励ましてくれているのですね。

 やはりこの方はわたくしの憧れの人。
 いつかこの人のようになりたいと願うほどの。

「私はね遥、君をとても高く評価しているんだ。開拓時代とも言えるダンジョン攻略に進んで参戦し、実力で日本一になるという成果も残し、ランキング至上主義という時代の流れも作ったのだからね」
「はい、すべては『司条グループの名に恥じぬよう一族としての結果を示せ』というお父さまの指示の賜物でございます。その通りにわたくしは動けたと自負しておりますわ」
「ああ、その通りだよ遥。だから私は君に部下の選定や麗聖学院への編入手続き、大規模なデモンストレーションの準備など大々的な事も率先して許してきたつもりだ」
「はい。そのお心遣い、とても感謝いたしております」

 そう、わたくしは今この時も時代の最先端を行く者。
 お父さまでさえ知らないダンジョンという新コンテンツを誰よりも極めたのです。
 だからこそこれも司条グループの人間としての立派な成果となるでしょう。

 すなわち、わたくしはまだ負けていない。
 あの間宮彼方と再び戦う機会はまだ残されているという事でしょう。

「――しかし、君は一つだけ大きな問題を残した」
「えっ……?」
「それは司条グループ全体における著しい損害だ」

 え、どういう事? 損害?
 ダンジョン攻略の失敗が経済に影響を及ぼしたとでも?
 醜態を晒したとはいえ、ダンジョンコアはわたくしが破壊したから問題はないはずなのに……。

「君のダンジョン内における発言はとてもではないが擁護しきれないものだった。その一言二言の失言がすでに飛び火し、SNS上などで拡散されてしまったのだ」
「え、失言……?」
「その結果、グループが経営・所属する各企業の上場株が軒並み急下落し、たった一日で多額の損益を発生させてしまったんだ。これは由々しき事態だよ遥」

 わ、わからない。
 ど、どういう事なのですか!?
 まさかわたくしが何か言ってはいけない事を言ってしまった……?

「身に覚えは無いのかい?」
「あ、ああ……そ、それは……」
「そうか、自覚は無いんだね。フゥー……」

 ど、どうしてそんな溜息を!?
 落胆してらっしゃいますの!?
 わたくしはそんな失言なんて――

「たしかに、私達は上級国民とよく言われる存在だ。立場ゆえに庶民を見下す事もあるだろう。でもね遥、それはあくまで個人的な感情に過ぎないのだよ」
「え……」
「社会で働く上でその個人的感情は邪魔にしかならない。特に我々のような山々の頂に立つ者は常に収益や発展を考えねばならないんだ。それこそが社会全体の幸せに繋がり、ひいては我々の永遠の繁栄へも繋がるのだから。見下している暇なんて私達には無いんだよ」

 お父さまの目が、怖い。
 わたくしを見つめる眼が刺さるようで。

「しかし君はあの公の場でそんな個人的感情をさらけ出し、多くの人々の敵意を集めてしまった。それが司条グループ全体の損害に繋がったのだよ」
「あ……」
「公で人を見下すのはとてもよくない。お母さんもよくそんな感情を表に出す事はあったものの、それでも公では言わなかったのだけどね。君はそんなあの人の悪い部分だけを受け継いでしまったようだ」

 わからない、こう言われる理由がわからない。
 わたくしは責められていますの!? それとも落胆されている!?
 失言と言われる部分が、まったくわからないっ!

 わたくしはダンジョンでというの!?

「だが私は失敗を責めない。その代わり遥には損失を埋め合わせをしてもらう事にした」
「ど、どういう事ですの?」
「まず学校を辞め、家を出てもらう。既に退学届は提出してあるから安心しなさい」
「えッ!?」
「支度金は用意してある。それを元手に君が思う手段を講じて資産を増やし、今回生んだ損失額を取り戻すんだ。それまでは家に帰って来てはいけないよ」
「そ、そんな!? それはいつから――」
「今からだ」
「なあっ!?」
「私だ。蔵橋くらはし来てくれ」

 あ、ありえませんわ!?
 わたくし経済学はまだ習っておりませんのに!
 ダンジョン攻略が日本の要だからこそ、そちらを重点的に学んできたから!

 ああっ、執事の蔵橋が来てしまった!?

「ご主人様、お呼びでございますか?」
「遥が出立する。予定通り送り出して欲しい」
「承知いたしました」
「待ってくださいお父さま! もう少しだけ猶予を――」
「次に会える時は人として成長している事を祈っている。司条家の人間としてきっとうまくやれると信じているよ、遥」
「お父さまぁぁぁーーーーーーッッッ!!!!!」

 そんな、蔵橋は老人なのにこんなに力がありますの!?
 ダンジョン攻略のために鍛えられたわたくしがまったく抵抗できないなんて!?

 ……くっ、そのせいでなす術もなく外へ連れて来られてしまいました。

「蔵橋、わたくしは本当に家から追い出されるのですか?」
「その通りにございます、お嬢様――いえ、遥様」

 今まで身の回りの事は蔵橋やメイド達にまかせっきり。
 実を言うとわたくし、家の周りに何があるかすらわかりません。
 そんな状態で一体何をすれば良いの……?

「今お渡しになりました鞄の中に銀行通帳が入っております。口座には一千万円ほどが振り込まれておりますゆえ、それを元手に再出発してくださいませ」
「い、いっせんまん……」
「……昔、御父上がおじい様より同様に出立を命じられた際、持たされた金額と同等という事にございます」

 う、うう、この金額がいかほどなのかが想像もつきませんわ。
 参りましたね。こんな事ならもう少し世間について学んでおくべきでした。
 ダンジョンの事に夢中で勉学さえおろそかにしていたのはまずかったかしら。

 ……とはいえ、おそらく父が持たせたのですから企業の一つくらいは買収できる額なのでしょう。
 それを機に自らの手でのし上がれ、そういう事なのですねお父さま。

 不安は多いですが、もうこうなっては仕方ありません。
 司条家の血筋として恥じぬよう最大限の努力をするとしましょう。

 そのためにもまずは住む場所を見つけなければ!



 こうしてわたくしは実家を離れ、一人で生きる術を模索し始めました。

 しかし新たな住処を得るどころか、その手段さえわからない。
 しかも持たされたのはたった一個の小さなトランクケースのみ。
 せめてお風呂とベッド、高級ソープくらいは付けて欲しかったですわ!

 ああなんて事でしょう!
 お風呂にさえ入れないこの状況では生き延びる事さえ困難なのでは!?
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた

羽黒 楓
ファンタジー
旧題:借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件 借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...