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第34話 トップオブトップス

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 魔物を言葉で説得だと!?
 しかも武器を手から離して!?

 こ、このプレイヤーは一体何を考えているんだ!?

『君達も巻き込まれてダンジョンに来たんだろう? だったら戦う意味は無いじゃないか!』
「こ、これってもしかして……」
「そだよ。これねたぶん、彼等は彼方っちの真似してるん」
「えっ!?」

 相手はレッドオークとかいう二足歩行の魔物。
 醜い豚のような頭に三メートル級の高い背丈と分厚い肉付き。
 くわえて胴長短足と、人と姿形はまったく違う――が、装備を扱っている。
 
 つまり相応に賢いという事だ。
 文化や文明を持っていてもおかしくないくらいに。

 だが、だからといって説得が叶うといえばそんな訳がない!
 むしろ賢いからこそ、相手の挙動から隙を突く手段さえ思い付くだろう!

「でちこちゃんを説得した話はもう有名だしねぇ、だから自分達にもできるって思ったんじゃないかな」
「ヒヒ、委員会でも魔物の説得は無理って言われてるんだけどね……」
「ば、馬鹿な……それなのに丸腰で敵意も示さないって!? こいつ死ぬ気なのか!?」

 武器を晒せば敵意があると思われる、というのは少し違う。
 武器はあくまで警戒心の表れで、自衛手段の形になるんだ。
 だから切っ先さえ向けなければそれは敵意とはならない。

 けど武器を収めてしまえば、相手にとってのそれは――従属宣言となる!

 そして当然ながら普通の魔物に日本語は通じない。
 そんな事くらいは言われなくてももうわかり切っているだろうに……!

『あ、まずいぞ! 魔物達が使者プレイヤーを取り囲んだ! それだけじゃない、雑兵がいつの間にか他プレイヤー達も包囲している!? これはまずい、退路を確保しないと大惨事になるぞ!?』
『な、何をするんだ!? 俺達は戦うつもりはうわぁああ!?』
『やめてーっ! きゃああああ!』
『に、逃げろ! やっぱり説得なんて無理だったんだ!』
『イヤァ! 離して! イヤァァァァ!』

 それで待っていたのは、いきなりの阿鼻叫喚だ。

 説得に出た男子プレイヤーは即座にメッタ刺しにされてしまった。もう多分生きてはいないだろう。
 包囲されていたメンバー達もある程度は逃げられたものの、数人かは捕まってしまったようだ。
 もう内部動画が途切れてしまったけど、寸前で魔物に暴行される様子が見えた。

 たしかに酷い。酷すぎる。
 一体誰がこんな作戦を考えたのか問いただしたいくらいに。
 誰だって普通わかるだろう!? 人語での説得なんて絶対無理なんだって!

「ね、酷いもんっしょ?」
「うん、これは幾らなんでも浅はかで無謀過ぎる。どうしてこんな事をしようと思ったのかまったく理解できない」
「彼方っちの説得劇って結構センセーショナルだったからねぇ。『自分達だって!』ってイキっちゃう人は多いと思う。みんな目立ちたがり屋だからさぁ~」
「彼方がでちこちゃん説得したのは特殊なケースなんだっけ?」
「ああ、手を出した以上はね。あれだけ暴れてたら普通なら懐柔は無理だった。けど俺はコンから彼等との直接会話の手段を教えてもらってたからさ、それを使って強引に場を収めたに過ぎないんだ」

 こんな事ならでちこちゃん説得時の詳細をきちんと伝えておくべきだったか。
 ……いや、たぶんその意味は無いな。今のは手順自体は悪くないから。

 ただ単に、この敵が説得不可能な相手というだけに過ぎない。

 ああクソ、思っていた以上にプレイヤー達全体の知能が浅い。
 まだ学生な人ばかりだから仕方ないのかもしれないけど、あまりに短絡的すぎる。

「まぁ~もぉ今回に懲りて説得なんて馬鹿な事はしないでしょーねぇ」
「そうなってくれるといいな。でも捕まった人達はどうなるんだ?」
「相手も相手だしぃ、トップオブトップスが出張って救出するでしょ~。中に人がいる限り内部がリセットされる事はないしぃ」

 そうか、一応はそんな強い人達からの助けが入るんだ。
 それまで捕まった人達が無事ならいいんだけど。

 それにしても、トップオブトップス、か。
 よく聞く名前だけど言及した事はなかったな。

「へぇ……ところでよく出てくるそのトップオブトップスって一体何です?」
「日本最上位ランカートップテンの総称だよー! すっごい強い人達なの!」
「ククク、以前からプレイヤーを引っ張ってくれている象徴的存在ね……眩し過ぎて私の影が深くなってしまうくらいに」
「モモパイセンは元々影薄――」
「ゲッタァーーーウ!!!!!」
「あいたーーーっ! 澪奈パイセンなんでーっ!?」

 なるほど、日本にはそれだけ強い集団がいたのか。
 そういえば初めてダンジョンに入った時、委員会のおっさんも頼るように呟いていたっけ。

「ま、九州だからあーしらには縁もゆかりも無い話っしょ」
「――そうでもないぞ」
「あ、紅先生いつのまに」
「ちょちょ……紅センセーそれどういう事なん?」

 けどいきなり紅先生が廊下から現れて、いきなり妙な事を言いだした。
 何か嫌な予感がするんだが。

「喜べお前達、本日付けで宝春学園ダンジョン部は晴れて全国ランキング十一位、仮トップオブトップス入りだ。それでもって明日には九州に行く事になった。泊まりになるだろうから早く帰って準備を進めておけ」 

 え、ちょっと待って。
 エースとかを突き抜けてトップ入り?
 先生それ順序が違わなくありませんかね???

 うーん、俺まだ入学して二週間目だけどもう勉強が遅れる気しかしない!
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