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第15話 凱旋帰還!

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「えっほ、えっほ!」
「見えた、出口だ!」

 気絶したままのケガ人を担いでダンジョンの出口へ走る。
 とはいえ身体能力が強化されているから重さ自体は問題無い。
 それにコロシアム型のおかげで平坦な一本道なのが幸いだった。

 そして遂に出口へと到達、ふたたび本物の陽射しの下へと飛び出した。

 すると途端、大歓声が俺達を包む。
 ズシリとした重みが背中にのしかかると共に。

「あいつら本当に出てきやがったーーーっ!」
「すげぇぞ宝春! やりやがったなー!」

 まっさきに聞こえたのは先に退避した混成チームのメンバー達の声。
 もう大興奮で喜びを上げていたから、つい俺もおぼつかない手で振り返してしまった。

 興奮しているのは彼等だけじゃない。
 元ケガ人や大人達もがこぞって喜びを上げている。良かった。

「うおおお――ぎゃあああああ!!!!!」
「ひっ!? うっそおおおおお!!!??」
「ひいいいいいいい!!!!!」

 でも彼等は直後、悲鳴を上げて逃げ始めてしまった。

 まぁそれもそうだよな。
 だって俺達に続いてでちこちゃんも外に出てきたのだから。

「待ってくれみんな! 彼女は敵じゃないんだ!」
「「「――え?」」」

 けどそれを叫んで止める。
 彼女を敵として認識したまま別れて欲しくなかったから。

 和解もしたし、今も気絶した人の残りをまとめて運んでくれている。
 そんな良い子を嫌って欲しくはない。

「ど、どういう事だ?」
「あれ、魔物のボスだよな?」
「さっきまで映っていた映像、嘘じゃなかったって事?」

 こう懐疑的な目を向けられるのはわかっていた。
 つくしから「ダンジョンコアが壊れた時点で中の映像は途切れる」って教えてもらったし、みんなが事情を知らないのも仕方がない。

 けど何往復もしていられなかったから、でちこちゃんに協力してもらった。
 そんな彼女にはなんとしても報いてあげたい。

「彼女とは話して和解したんだ。ダンジョンに連れ去られた可哀想な子なんだよ」
「「「えっ……?」」」
「実はこの子、戦いが嫌いでとてもナイーブな女の子なんだ」
「「「ええーーーっ!?」」」
「ついでに言うとたぶん俺達より年下です」
「「「ウッソォォォォォォ!!!??」」」

 良かった、みんな立ち止まって話を聞いてくれている。
 おかげでなんとか誤解が解けそうだ。

 それに、ちょっと仕返ししたい奴も見つけたしな。

「あーそれと一つ」
「「「ん?」」」
「楠先輩、何また一人で逃げようとしてるんですかね? あなたに用があるんすよ」
「うっ!?」

 あいつ、また逃げようとしていた。
 よくまぁまだみんなの中に紛れていられたなぁとも思うけど。

 だから名指しで引き留めてやったよ。
 注目されればもう逃げられやしないだろうさ。

「な、なにかなー新人君?」
「実はね、このでちこさんがあなたの事、お気に入りらしいんですよ」
「いいっ!?」

 まぁこれは嘘だけど。
 でちこさんも仕返ししたいって事だからあらかじめ仕込んであげたんだ。

 あいつはいたぶらなければ君の好きにしていいよ、って。

「なので遊んでくれた礼をしたいらしいんでちょっと構ってあげてくださいよー」
「ギョ ギョ ギョ……!」
「ひ、ひいいいい!!?」

 見た目は超筋骨隆々なでちこさん。
 手羽先を「ゴギンッ、ゴギンッ!」と鳴らして楠の下へ歩み寄っていく。
 逃げようとしても周りの人が囲んで壁になっているから逃げ場がない。

 そしてへたりこんだ楠をとうとう片手で掴み上げた……!

「やややめれぇ! こここ殺さないでェ~~~!!」
「ウギョギョギョ」
「こ、これやばいやつじゃ?」
「止めた方がよくない?」
「「「どうやって!?」」」

 けど心配はいらない。
 でちこさんは仕返ししたいからって殺したりするような子じゃないから。
 その辺りはあいつらとは違ってずっと賢いし優しいんだ。

「フンッ! フンッ! フゥゥゥゥン!!!」
「ひぎょえええええええ!!!!!」

 案の定、でちこさんは楠をただほおずりしただけだった。
 ただし叫び声が上がるほどの超高速で、だけど。
 おかげで摩擦熱によって後頭部が大変な事になっている。可哀そうに……。

「君達、宝春学園チームで間違い無いかな?」
「え? あ、はい」

 ん、なんだ? お偉いさんのおっさんが話し掛けてきた。
 何か用でもあるのだろうか?

「君はどうやってあの魔物を使役したんだ? ビーストテイマーのような力でも授かったのだろうか?」
「えっ、ていまー? あ、いや……そうっすね、まぁそんなトコです」
「そうか、すごいな君は」

 どうやらでちこちゃんとの和解できた理由がわからなかったらしい。
 とはいえ勘違いしているみたいだし、せっかくだからそういう事にしておいた。

 あとで「びーすとていまー」とやらを調べておかないと。

「今回は本来ならトップオブトップスを呼ばなければならない案件だった。それを君らだけで解決してくれたのは大いに助かったよ、ありがとう」
「う、うす、力になれて良かったっす」
「被害者もほぼいない。君はまさに救世主のような存在だ!」

 ただおっさんもとても好意的だった。
 両手で握手してくれたし、本気で感謝してくれているんだろうって。
 これならまた協力してあげてもいいかな。



 ――それからの撤収は早かった。
 結果的に重体の人もいなくなったし、救護班が気絶した人を引き取ってくれて。
 他のプレイヤー達も俺達と少し話した後、各々で帰っていった。

 でちこちゃんともちゃんと別れを済ました。
 彼女はもうダンジョンと共に消えていってしまったが。
 無事に家族の下へ帰れるといいな。

 そして俺達も紅先生の車でいったん近場の病院へ。
 元ケガ人とともに澪奈部長も担ぎ込まれたので見舞いに行く事になったんだ。
 まぁ部長もすぐ目を覚まし、調子も良さそうって事で入院はしなかったけれど。

 こうして俺の初めてのダンジョン攻略は無事に終わりを告げたのだった。
 俺としても色々と驚きと発見に満ち溢れた一日でとても新鮮だったな。

 また挑戦してみたいって思えるくらいに。
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