上 下
14 / 126

第14話 魔物相手だって会話で解決することもできる

しおりを挟む
『あ、あーたしゃん、あちしのことば、わかる?』
『ああ、わかるよ。友達から教えてもらったからね』

 エースチームや澪奈部長を蹂躙したニワトリ巨人。
 そいつの言葉がしっかりと伝わって来るかのようだ。

 なにせコンに教えてもらったのと同じ言葉だから。

『よかったでちゅ。ニンゲン、いきなりおそいかかってきて、こわかったでち。なんどおいかえそうとしても、なおってまたくるでちゅよ』
『ごめんな、アイツらみんな君の言葉がわからなくて。それで大きい相手だから倒そうって思ってしまったみたいで』
『ひどいでちゅ。あちしはあのちっさいやつらにいじめられてただけでちゅのに』
『わかるよ、俺もアイツら嫌いだし。人の話を聞かない、しょうもない奴らなんだ』
『でもあーたしゃんはやさしいニンゲンみたいでよかったでちゅ』

 コンいわく、この言葉は心で話すコミュニケーション術なのだという。
 けど通じ合っていない相手では、こうやって互いに集中しないと交わせない。
 だからうまい具合に意識をこっちに向けてもらえて助かった。

「か、彼方、一体何して……」
「魔物も動き止まってる……」
「悪い二人とも、少し静かにしててくれないか?」
「「は、はひ」」

 ごめんな二人とも、今は彼との会話に集中したいんだ。
 ――いや、彼女、か。

『みんなにも攻撃しないようにとよく言っておくからさ、もう安心していいよ』
『うれちいでちゅ。あちし、ひとりでこころぼそかったでちよ。はやくかあちゃんのところにかえりたいでちけど、かえりかたがわからないんでちゅ……』
『そうか、無理矢理連れて来られちゃったんだな』
『ウン……』

 きっと魔物にも普通の生活があるんだろう。
 でもこのニワトリ巨人――でちこちゃん(仮)もこのダンジョンに強制的に連れて来られてしまった。
 俺達と同じ被害者みたいなもんだ。かわいそうだよな。

 だったら帰してあげよう。
 彼女を倒す必要なんて無いんだ。

「なぁつくし?」
「あ、はーい」
「たしかダンジョンコアってのを壊したらダンジョンは消えるんだよね?」
「そ、そうでーす」
「それって壊したらここすぐ消えちゃう?」
「ううん、三〇分くらいしたらかなー。あ、後ろの浮いてる赤い宝石がそうだよー」
「わかった、ありがとう」

 つくしもさっくり説明してくれたから助かった。
 おかげで何のためらいもなく壊せそうだよ。

『ならちょっと君に手伝って欲しい事がある』
『なんでちか?』
『後ろに赤い宝石が見えると思うんだけど、それを壊せるかい? それを壊してしばらく経つと、ここが消えて君も元の居場所に帰れる、と思う』
『ほ、ほんとでちか!?』
『確証はないけど、それ以外に手段が思い付かなくてさ。でも信じてくれるならどうかやって欲しい。俺達じゃできない事なんだ』
『わかったでち、あーたしゃんをしんじるでちよ!』

 こう説明したら、でちこさんがさっそく踵を返してコアの下へ。
 すかさずの超速パンチで「ホピシッ」とためらいもなく粉々にしてしまった。
 なんて鋭い拳だよ。唐突すぎてまったく見えなかったんだが?

 すると途端、「ズズンッ!」とダンジョンが揺れた。

「つくし、これでいいかな?」
「い、いいけど……あるぇーどういう事なのかなこれ」
「彼女と話して和解したんだ。この子はダンジョンに連れ去られた被害者らしい。ボスでもなんでもなかったんだ」
「「え、ええーーー!?」」

 まぁ驚くのも無理はないよな。
 普通はこんな事なんてできるはずも無いんだから。
 だから異常者だとか思われたって仕方な――

「すっご! めっちゃすっご! 彼方すっごエモおおお!!」
「――え?」
「きゃー彼方! 彼方ーっ!」
「え、ええっ!?」

 でもつくしは嫌うどころか、俺に駆け寄ってきた。
 それどころか両手を掴んで嬉しそうにぴょんぴょん跳ねているし。

 ど、どういう状況なんだ!?
 どう反応したらいいんだろこれ……?

 わからないのでとりあえず一緒に跳ねてみた。
 そうしたらでちこちゃんも一緒に跳ねてくれた。

 ズンズンいってるけど、なんだかとても楽しい。

「そ、そうだ、嬉しがってる場合じゃないよね! 澪奈パイセン治さないと!」
「そうだ、他の人も治して早くここから出ないと!」
「あ」
「ん?」
「ごめん彼方、あたしマナ切れちった!」
「じょ、冗談だろ……!?」

 だけど思わぬ事態が発覚してしまった。
 治癒術が使えないって事は、重傷人をそのまま連れ出さないといけない。
 救護の人が外にいるかもしれないが、それで間に合うのか……!?

 何かいい方法は――

「ッ!? そうだ! つくし、その杖を俺に貸してくれ!」
「え、あ、うんわかった! はい!」
「頼むぞ……へし折れててもならきっと!」

 思うがまま、つくしから錫杖の柄を受け取る。
 俺の真価が本当に発揮できているならばあるいは、と。

 まだマナ総量に関しては検証していないから確証は無い。
 だがもし俺の考えが正しいのなら、これもできるはずだ!

 ――そしてその予測は正しかった。

 錫杖の形は初期状態に戻ってしまっている。
 しかし多量のマナが途端に溢れ出し、それだけで周囲を照らした。
 二人どころかでちこちゃんまで驚いてしまうほどにごうごうと。

「「え、えええーーーーーーっ!?」」
『でちーーー!?』
「よし、これならいけるぞ! 頼む、使えてくれ! はぁぁぁ……【全域超級即癒術オールフルレイション】!!!」

 さらに俺の知るとっておきの魔法を展開する。
 するとかかげた杖から光が迸った。

 白光の輪がいくつも現れ、回り、輝き、重なり舞う。
 加速し、拡がり、無数の燐光を弾き飛ばしながら。

 そうして遂には真っ白な光がたった一瞬、場を覆い尽くした。

「ま、まぶしっ……くない。あれ?」
「今の一体何……?」

 それだけだ。
 たったそれだけでもうすべてが解決したよ。

「つくし、これ返すよ」
「あ、ほーい」
「これで多分もうみんな治ってるはず。つくしの治癒みたいに痛みが無いから起きないけど」
「もー驚くのも疲れちった。すごすぎだねぇ彼方は。語彙力が死んじゃったよぉ!」
「クフフ、つくしの語彙力は常に死んでいる!」
「なぜばれたし!」
「……ふふふっ、あっははははっ!」
「あ、彼方が笑ったー!」
「ヒヒ、どうやら我らの真の同志となれたらしいわね……!」

 ……ああ、なんて気持ちがいいんだろう。
 俺はこんな思いをしたかったんだなぁって今さらながらに気付かされた。
 小さい時からずっとずっと忘れようとしていた想いに。

 同じ人間の友達との、なんて事の無い会話を楽しみたいって。

 しかもその上で理不尽をすべて吹き飛ばしてやった!
 もうこれ以上ない最高で大満足な出来栄えだ!

 おかげでコンへのとっておきの土産話ができたよ。
 ありがとうな、みんな!

「さぁて、ダンジョンが消える前にさっさとここを出よう!」
「でもこの人数どうしようもないよー」
「そうだなー……あ! そうだ!」
「ん?」

 でもまだ終わりじゃあない。
 ならいっそ、ダンジョン初攻略の記念にとっておきのサプライズでもやってやろう。
 あのとんずらエース野郎にはまだ何もお返ししていないしな!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...