上 下
83 / 86
第七章

第82話 変わった姿で帰還を果たしましょう

しおりを挟む
「――間も無くテリック村に着きます、ネルル様」

「はい。ウールトさん、ここまでの道中ありがとうございます」

「いえ、ネルル様のためなればこそ! 我ら聖護騎士団はあなたのために――」

「うるっせぇ! 何度その御託を並べやがるっ!」

「うぐわっ! ジェイルやめろォ!? 押すんじゃあない、馬車から落ちるだろうがァ!」

 ここまでとても賑やかな道中でした。
 それでいてとても清々しい気分です。
 感じ方まで変わって、まるで本当に生まれ変わったかのよう。

 こんなにも晴れ渡った気分になれたのは久しぶり。
 この辺りの空気も美味しくて、なんだか嬉しくてたまりません。

 チッパーさんたちは元気にやっているでしょうか?
 村人の皆さんと仲良く出来ているといいのですが。

 ……テリック村を旅立ってからもう一ヵ月近く。
 結局、首都での一件を片付けるのに多く時間を要してしまいましたね。

 でも全てが丸く片付いたからやっと帰れます。
 後はわたくしに、チッパーさんたちは気付いてくださるでしょうか。

「着きました! ジェイルのことは私に任せて行ってください!」

「それぁ俺の台詞だテメェ!」

「ふふっ、ありがとうお二人とも」

 こんな仲の良い二人に誘われ、高級馬車からストンと降ります。
 後に付いていたもう一台の馬車からもミネッタさんたちの降りる姿が見えました。

 それで共に村へ歩いていくと、さっそく村人の皆さんが駆け寄ってきます。

「皆さん、ただいま戻りました。大変お待たせして申し訳ありませんでした」

 そこで礼儀正しく感謝の一礼。
 皆さんが驚きながら周りを囲む中、村へとゆっくり足を踏み入れていく。

 すると、遠くから見慣れたが走ってやってまいりました。

 チッパーさんとツブレさんです。
 遥か向こうにはグモンさんも見えますね。
 まだたった一ヵ月しか経っていないのに、とても懐かしく感じます。

「いよぉネルル! やっと帰って来たなぁ!」

 ああ、チッパーさんの逞しい声が聞こえて参りました。
 この時をどれだけ待ちわびたことかっ!

「はい、ただいま戻りました。待たせてしまって本当に申し訳ありません」

「なんだかネルル、こんな短時間に凄い大人になった雰囲気なんだナ!」

「そうですね……ええ、大人になりましたとも」

 そう、大人になりました。
 この一ヵ月で、随分と色々なことがあったから。

 ……わたくしの分身である赤ん坊を前に、転生を考えたこともありました。

 でも、そうしたらアンフェルミィの魂がどうなるのかと悩みもしました。

 それに残された魔物の体もどうなるか、あまりに不安でなりませんでした。



 だからわたくしは、変わらないことを選んだ。
 邪悪で凶悪な魔物のままで、しかし聖女であることを望んだのです。

 そしてその末に進化までも果たしたのです。
 ワーキトンから〝グランドキャッティア〟という類を見ない種族へと。



 これがわたくしが最良だと思った選択。
 誰も不幸にならず、誰も消えない、誰もが納得する答え。

 だって、わたくしだってもう魔物を辞められませんから。
 彼らと会話が出来なくなるなんて、あまりにも大きな損失となりえますからね。

「そういや随分と背が伸びたなぁ。人間みたいになってらぁ」

「ええーっ!? 毛も伸びましたし見てくださいよこのツヤツヤロングヘアを! かなりゴージャスに変わったと思うんですけどぉ!?」

 グランドキャッティアと進化したことで、わたくしは人間並みの姿になりました。
 それでいて大人のワーキャットの風貌も継承し、全体的に長毛へと変わっています。

 それでも胸がまったく無いことだけは惜しいですけどね。
 早熟で授乳する必要もない種族ですから仕方ないのですけども。

「んなこと言われたってワーキャットのことなんざわからねぇよぉ。それよかネルルはネルルでいいじゃねぇか」

「んもぉ~~~!」

 でもどうやらチッパーさんたちはあまり見た目では驚かないようです。
 もっとも、わたくしだって認識してくれているだけで充分嬉しいのですけどね。

『なんですかこの魔物たちは。あまりに無礼なので焼き払ってもよろしいですか?』

「ダメです! 彼らはわたくしの大事なお友達ですっ!」

「ひゃー、見ないうちにまた変なの連れてきたなぁお前」

 パラミーも無駄に好戦的なのはあいかわらずですねぇ。
 他の魔物と争わないよう少し教育した方が良いかもしれません。

「おいおい、お前が連れてきたのは棒っ切れだけじゃないのかよぉ!?」

「人間の赤ん坊なんだナ」

「はい、これからわたくしたちの仲間になる子です」

「はーい、アンフェルミィちゃんだよ~、御挨拶ぅ~!」

「だぁ、だぁ」

 アンフェルミィもその教育のために連れて参りました。
 変な思想にまみれている首都よりも、テリック村の方がずっと健やかに育てられそうですからね。

 まぁ、しばらくはミネッタさんの家に預かることになりそうですけども。

「お嬢様、おかえりになられたと思ったらまさかお子様を連れて来るなんてぇ! 一体誰とのお子様ですかっ! まさかファズ様ですかっ!? 身ごもっていたなんて、どぉーしてワタクシに相談してくださらなかったのですかあっ!!?」

「何言ってんのシパリ!? 全然違うよ!!!!!」

 眼鏡メイドのシパリさんも久々ながらに暴走しております。
 まぁ勘違いするのも仕方ありませんよね、赤ん坊を大事そうに抱えてちゃ。

「ま、この子のことは俺たち村の住人全員で育てた方がいいってなったのさ。ここなら仲のいい魔物も多くて、偏見なく育てられそうだしな」

「ほほうファズ君、君は兵士の役目を忘れて帰ろうというのかね?」

「え!? あ、いや違うんスよ! でもほら、監視とか必要じゃないッスか!」

「「そうだよねぇ、守らなきゃいけないもんねぇ兵士として!」」

「あぁーもぉ~~~!」

 どうやらいじりがいのあるファズさんもこの村に戻って来る気満々みたいです。
 これからもどんどんと楽しくなってくるでしょうねぇ。

「んじゃま、そんな訳で俺ら国家権力はとっとと帰るわ。後は任せていいよな?」

「ええ、きっとこれ以上に発展してみせますよ」

「うむ。だから貴様はとっとと消えろ」

「ウールト、テメェも来るんだよォ! もう聖護騎士団は解散って決まっただろうがァ!!!!!」

「イテテテ! 耳を、耳を引っ張るんじゃなああああい!!!!!」

 あらあら、本当に仲がよろしいことで。
 結局力では勝てないので、ウールトさんもしぶしぶ帰ることとなりましたが。

 彼らとの再会が楽しみですね。
 この国の政治が早く落ち着くことを願ってやみません。

 願わくば、元の平穏な国へともどりますように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...