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第六章
第65話 最近、来訪者がとても多いんです
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「我が名はボルグ! リザードマンのオルゲ一族が長にして誇り高き武人! その武人ボルグがどうかお頼み申す! 我々を貴殿の配下に加えて頂きたいっ!」
「そうですか」
ここ最近、こんな訪問者がとても増えました。
パピさんの噂が広まった影響でしょうか。
こうなるともはや種族や立場など見境ありません。
直近では樹人族に魔鼬族といった者たちが保護を訴えてきましたし。
今日立っている方も武人というだけあって鎧と槍を携えてとても物騒な雰囲気。
それでも深緑の体躯を跪かせていて大人しいのが救いでしょうか。
ただ、武人さんとなるといざという時に武力衝突を引き起こしそうで不安は否めません。
事情を伝えて素直に受け入れてくれれば良いのですが。
「ですがわたくしたちは争いを望みません。相手が人間であろうとも共に手を取り合う友人として接することが出来なければ受け入れることは叶わないでしょう。ですからお友達となる以上、その武器を奮うことがほとんどなくなると思います。それでよいのでしょうか?」
「おお!? ではつまり戦う必要がもう無いと! やはり聞いた通りであった! 武具を手に取る必要がないのであれば本望であります!」
……意外にも、戦いを望まない魔物も多いものですね。
否が応でも武器を取らざるを得なかった、と言いたげな雰囲気です。
「確かに我々も使命や生存のために戦い続けたのは事実! ですが出来うることならば平穏無事に過ごしたいと願ってやまなかったぁ!」
「ボルグさん……」
「しかしそう願うことなど今まで許されなかった。だが今こうして貴殿に許して頂いた! それがどれだけ我々にとって救いとなったことか……! このボルグ、貴殿の慈愛に大いに感服いたしましたぞぉ!」
感極まったのか、ボルグさんの眼からとうとう涙まで零れ落ちました。
「それと皆さんで働いて生活の糧を得る必要もあります。そこでもふもとの人間の村と頻繁に協力し合うこともあるでしょう。それが皆さんに出来ますか?」
「貴方様の仰ることならば如何様にも!」
この一言の直後、彼の後ろにいた三〇人余りの仲間たちも礼儀正しく一礼。
どうやら決意は固いようですね、これは断る訳にもいかなさそう。
「わかりました。ではこれからも皆さんで協力して平和な毎日を築いてまいりましょう」
「おお、ありがたき幸せ!」
「獄腕魁将グモン殿には敵わぬとは思いますが、我々も力仕事は得意とする所。また人間の道具の作り方を模倣してきました故、手作業などにも自信がありまする。どうかそんな我々の力を存分にお奮いくだされ!」
先日の樹人さんや魔鼬さんたちの扱いもまだ決まっていませんが、まぁいいでしょう。
人手が多いことで困ることはありませんからね。
ひとまずこの地で生きる術を教えて、自発的に何かを出来るよう促せばきっと上手く行くはず。
後はこのまま平穏を続けられればよいのですが。
「そういえば、一つだけ耳に入れて頂きたいことがあります」
「ん? なんでしょう?」
「最近、魔物の混成軍団が山脈を越えた先の海の付近で勢力を拡大しております」
海? グモンさんが行った場所でしょうか?
そういえばファズさんも「海の辺りで魔物が増えた」と言っていましたね。
もしかしたら何かしら関係があるのかもしれません。
「彼らは人間を襲うことに躊躇もない、本能のまま争うために揃った者たち。かくいう我々も一時期は彼らの保護下に身を寄せていたことがありましたが、命を顧みない考え方には迎合し難い所もありました」
「女子どもさえ戦いを強要してきた恐ろしい者どもでしたなぁ」
「ふむ」
わたくしがこの山に居座ってからだいぶ魔物の分布が変わったとも聞きます。
もしかしたらわたくしが追い払ったことで、追いやられた魔物たちが集まったのかもしれませんね。
そうも思うと少しは責任を感じてしまいます。
わたくしが何とか出来ればよいのですが、でもそう簡単にはいかなさそう。
「ともかくとして、彼らには気を付けますよう。彼らは場合によっては魔物すら襲います。自分たちの考えを否定する者たちには一切容赦しません。どうかご注意を」
「わかりました。有用な情報をありがとうございます。では皆さん、魔兎さんたちがゆっくり出来る所に案内してくださると思うので、まずはそこで肩の荷を下ろしてください。必要な物があれば、言ってくだされば用意いたします」
「丁寧な配慮、心に痛み入ります」
出来得ることならば衝突は避けたい。
混成軍団とやらがここまで来ないことを祈るばかりですね。
もっとも、いずれは衝突に至る気がしますし、そうならないためにも何か手を打った方がよいかもしれません。
そう思い至ると、さっそくチッパーさんたちと話し合いを始めることにしました。
せっかくなのでボルグさんにも一つ協力を頂くことにして。
この土地をまた荒らされるようなことにはなって欲しくないですから。
……と、動き始めてはや二週間。
わたくしははるばる住処の山を越え、件の海――ベーレ内海付近へと訪れたのでした。
「そうですか」
ここ最近、こんな訪問者がとても増えました。
パピさんの噂が広まった影響でしょうか。
こうなるともはや種族や立場など見境ありません。
直近では樹人族に魔鼬族といった者たちが保護を訴えてきましたし。
今日立っている方も武人というだけあって鎧と槍を携えてとても物騒な雰囲気。
それでも深緑の体躯を跪かせていて大人しいのが救いでしょうか。
ただ、武人さんとなるといざという時に武力衝突を引き起こしそうで不安は否めません。
事情を伝えて素直に受け入れてくれれば良いのですが。
「ですがわたくしたちは争いを望みません。相手が人間であろうとも共に手を取り合う友人として接することが出来なければ受け入れることは叶わないでしょう。ですからお友達となる以上、その武器を奮うことがほとんどなくなると思います。それでよいのでしょうか?」
「おお!? ではつまり戦う必要がもう無いと! やはり聞いた通りであった! 武具を手に取る必要がないのであれば本望であります!」
……意外にも、戦いを望まない魔物も多いものですね。
否が応でも武器を取らざるを得なかった、と言いたげな雰囲気です。
「確かに我々も使命や生存のために戦い続けたのは事実! ですが出来うることならば平穏無事に過ごしたいと願ってやまなかったぁ!」
「ボルグさん……」
「しかしそう願うことなど今まで許されなかった。だが今こうして貴殿に許して頂いた! それがどれだけ我々にとって救いとなったことか……! このボルグ、貴殿の慈愛に大いに感服いたしましたぞぉ!」
感極まったのか、ボルグさんの眼からとうとう涙まで零れ落ちました。
「それと皆さんで働いて生活の糧を得る必要もあります。そこでもふもとの人間の村と頻繁に協力し合うこともあるでしょう。それが皆さんに出来ますか?」
「貴方様の仰ることならば如何様にも!」
この一言の直後、彼の後ろにいた三〇人余りの仲間たちも礼儀正しく一礼。
どうやら決意は固いようですね、これは断る訳にもいかなさそう。
「わかりました。ではこれからも皆さんで協力して平和な毎日を築いてまいりましょう」
「おお、ありがたき幸せ!」
「獄腕魁将グモン殿には敵わぬとは思いますが、我々も力仕事は得意とする所。また人間の道具の作り方を模倣してきました故、手作業などにも自信がありまする。どうかそんな我々の力を存分にお奮いくだされ!」
先日の樹人さんや魔鼬さんたちの扱いもまだ決まっていませんが、まぁいいでしょう。
人手が多いことで困ることはありませんからね。
ひとまずこの地で生きる術を教えて、自発的に何かを出来るよう促せばきっと上手く行くはず。
後はこのまま平穏を続けられればよいのですが。
「そういえば、一つだけ耳に入れて頂きたいことがあります」
「ん? なんでしょう?」
「最近、魔物の混成軍団が山脈を越えた先の海の付近で勢力を拡大しております」
海? グモンさんが行った場所でしょうか?
そういえばファズさんも「海の辺りで魔物が増えた」と言っていましたね。
もしかしたら何かしら関係があるのかもしれません。
「彼らは人間を襲うことに躊躇もない、本能のまま争うために揃った者たち。かくいう我々も一時期は彼らの保護下に身を寄せていたことがありましたが、命を顧みない考え方には迎合し難い所もありました」
「女子どもさえ戦いを強要してきた恐ろしい者どもでしたなぁ」
「ふむ」
わたくしがこの山に居座ってからだいぶ魔物の分布が変わったとも聞きます。
もしかしたらわたくしが追い払ったことで、追いやられた魔物たちが集まったのかもしれませんね。
そうも思うと少しは責任を感じてしまいます。
わたくしが何とか出来ればよいのですが、でもそう簡単にはいかなさそう。
「ともかくとして、彼らには気を付けますよう。彼らは場合によっては魔物すら襲います。自分たちの考えを否定する者たちには一切容赦しません。どうかご注意を」
「わかりました。有用な情報をありがとうございます。では皆さん、魔兎さんたちがゆっくり出来る所に案内してくださると思うので、まずはそこで肩の荷を下ろしてください。必要な物があれば、言ってくだされば用意いたします」
「丁寧な配慮、心に痛み入ります」
出来得ることならば衝突は避けたい。
混成軍団とやらがここまで来ないことを祈るばかりですね。
もっとも、いずれは衝突に至る気がしますし、そうならないためにも何か手を打った方がよいかもしれません。
そう思い至ると、さっそくチッパーさんたちと話し合いを始めることにしました。
せっかくなのでボルグさんにも一つ協力を頂くことにして。
この土地をまた荒らされるようなことにはなって欲しくないですから。
……と、動き始めてはや二週間。
わたくしははるばる住処の山を越え、件の海――ベーレ内海付近へと訪れたのでした。
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