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第五章

第64話 そんな話、俺は聞いてないんだが?(ジェイル視点)

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「――これで全隊会議を終了とする。以上、解散!」

 面倒な会議がようやく終わった。
 月一とはいえ、十人以上もいるクセモノ共をまとめるのは毎度面倒なことだ。

「どうしたジェイル、随分とお疲れじゃないか。こんなのただの報告会だろう?」
 
 各々が解散していく中、背もたれに項垂れていると野太い声が飛んでくる。
 それで振り向いてみれば、副隊長のガムドがこっち見て笑ってやがった。

「その報告会も誰かがまとめてやんないと、どいつもこいつも好き放題に喋るだけだろうが。そういう取りまとめが俺には苦痛でしかないワケよ。今さら言わせんなよぉ」

「ガッハッハ! とか何とか言っておきながらしっかりまとめているではないか! やはりお前くらいだよ、あのクセモノ揃いの分隊長どもをまとめ上げられるのは」

「任されたから仕方なくやってるってだけだ。あんまりおだてるんじゃないよ」

「ハハハ! ならばお前にはまだまだやってもらわねばな!」

「うへぇ、面倒事ばっか押し付けるんじゃねーってのぉ……」

 俺はむしろガムドの方が適任だと思うんだがな。
 分隊長どもが言うことを聞くのは俺かガムドだけで、おまけにこうして他人への配慮もしてくれる。
 図体は大きいが頭も回る、とてもイイ親父なのだが。

「聖女殿下に任命された立場なのだからしっかりやるのだな、ガハハハ!」

「その名は公に出すなとあれほど」

「どうせもう誰もおらぬ。構わんではないか」

 まったく、二の次にこれだ。
 面倒事を押し付けるために総隊長の座を明け渡したとしか思えんね。

 ……ま、それ自体はあながち間違いでもなさそうだが。

「正直、お前が代わってくれたおかげでワシはまだここにいられると思っているよ。あの方の気に充てられて気が狂わないお前が羨ましいな」

「別に褒められるようなことじゃない。聖力の無いアンタにゃきつい相手ってだけさぁ」

「それも含めて才能という訳だ。お前さんが元々何者だったのかが実に気になる所だよ」

「いずれ話すさ……いずれ、ね」

「暗殺者だった、とかいうのだけはよしてくれよぉ?」

 こういうと再び「ガハハ!」と笑い、話をはぐらかしてくる。
 俺の過去が気になるようだが、無理強いをするつもりは無いらしい。
 こんな所が信頼できる要因だな。

 すると途端、そんなガムドが何かを思い付いたかのように顎へ手指を伸ばす。

「そうだ、暗殺者と言えば……」

「あん?」

「最近ツテの情報屋から仕入れた話なのだが、なんでもこの国で暗躍していた暗殺ギルド『ヴァウーチェス』が壊滅したらしい」

「なぁにぃ~~~!? いきなりなんでだ!?」

「知らん。だが聞くと主要メンバーのほとんどが失踪して活動不能にまで陥ったそうだ」

「そういやあの雑音刈りの話もとんと聞かなくなったな」

 まさかの話で驚かされた。
 昔から俺たち国軍とバチバチにやりあってたヴァウーチェスがこうもあっけなく解散とはな。
 雑音刈りを筆頭にした奴らがそう容易く消える訳が無いと思っていたが。

「しかも噂によれば、奴らはあのテリック村の方面に向かったのを最後に消息を絶ったのだとか」

「んな――」

 しかし思ってもみなかった名前が出てきて、またしても驚いた。
 おかげで拍子に椅子が背中から倒れ、頭を強く打ってしまった。

「いっっってぇぇぇ~~~~~~!!!!!」

「おいおい、大丈夫か? これ以上バカになってないか?」

「元からバカだったみたいなことを言うのはよせェ!」

 そんな話、俺は知らんぞ!?
 ファズを送り込んだが、それらしい報告は一切無いんだが!?

「何のためにテリック村に!?」

「知らんと言っている。そもそも信憑性すら確かではないのだ」

「おいおい、変な噂で振り回すのは冗談キツイぜ……」

「お前が例の喋る魔物の件で贔屓にしている場所だものな、心中は察するよ」

「いや、別に贔屓にしているつもりはないんだけどな。話がわかるなら別に敵対する必要は無いってだけだ。だから監視も付けている」

 確かに援助はしたが、贔屓するつもりは無い。
 もしファズから妙な報告が上がってくりゃ、その時は国軍として対処する必要も出てくるだろう。

 でも今はそれがない、ただそれだけで。

「ただ因果関係が無い、とは言い切れんだろうな。最近のテリックはすさまじいと聞く」

「……は? 何がどう凄まじいって? マンドラゴラが採れるようになったってコト?」

「いやいや、それは随分と前の話であろう。それ以上の報告が兵から上がってきているぞ。直近の報告だと三日前のものがな」

「なぬぅ!?」

 おいおいおい!? 三日前の報告だと!?
 俺のとこにゃ二ヵ月前くらいの話しか来てねぇぞ!?
 だから何もないと踏んでいたんだが、これは一体どういうことだファズの野郎!?

 好きなオンナの傍に居すぎて仕事忘れてるんじゃねぇだろうな!?

「聞けばあの村は一ヵ月前の時点でもう一般的な町並みになっているらしい」

「お、おう、まぁそれは元々発展計画が挙がっていたから不思議じゃあないよな」

「だが周囲一帯には巨大な防壁が建造されていたそうだ。この首都の防壁にも負けない規模らしいぞ」

「はぁ!? 防壁ィ!?」

「しかもその壁を建てたのが、なんでもスクレイバニーの大群だとか」

「スクレイバニー!? 壁を壊したんじゃなくて建てたの!?」

「うむ。それも村人と共同作業さえしていたというのだ。ワシも聞いた時は驚くあまり、とうとうボケたのかと自身を疑ってしまったよ」

 おお~~~い! これ絶対報告必要な話だよな!?
 ファズめ、一体全体どういうことだこれァ!?

「しかし実際に子飼いの兵士が目にして報告しにきたのだから嘘ではない。お前が信じた相手は我々の想像を遥かに越えて村に凄まじい貢献しているようだぞ」

「……そうらしいな。おかしいなー俺も手下を送ってるんだけどなー」

「人徳、かな?」

「泣きたくなるからやめろ」

 俺の想像すら凌駕し過ぎて、もう頭を抱えたくなる。
 ファズめ、今度会ったら覚悟しておけよ……!

「ただ、そういった話があるからこそ暗殺者が消えたという話にも何か絡んでいるのではないか、とも思えよう?」

「そうだな、それはちょいと早急に調べる必要がありそうだ」

「うむ。ここ最近では首都市民の一部がテリックに移住した、という話も聞く。例の巫女の家族も、だそうだ」

「……そうか。やはり隠すにも隠しきれんな、そういう話は」

「故にお前には気苦労を重ねてもらうしかない。悪いが聖女殿下への対応と同様に、政庁への探りも入れてくれると助かる」

「ったく、そういうことを俺に頼むんじゃないよぉ。これでも結構心苦しいのよ?」

「すまん。だがお前しか頼れる奴はおらんのだ」

 するとガムドはニコリと微笑みながらも頭を下げてきた。
 奴なりにこの国を憂いているからこその対応なのだろうな。

 こんなガムドの言動に、俺は無言の頷きで返す。
 これ以上の言葉は必要無いと悟ったのだ。

 だから俺は差し出された手を掴み、助けを借りて立ち上がる。
 まだ頭は痛いが、これからの苦労を考えれば楽な方だろう。

 ……さて、これから忙しくなりそうだ。
 最悪の場合、聖女サマ自身にも探りを入れないといけなさそうだからな。

 政庁と暗殺者ギルド。
 まさかとは思うが、繋がりなんて無いって祈りたいもんだ。



 そう祈り、ガムドと共に会議室を出た俺はさっそく行動を開始した。
 テリックの発展も気になるが、そっちはファズの野郎に手紙を催促するだけにしておいてやるか。
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