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第五章
第60話 野菜尋問
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グモンさんが忽然と姿を消してはや一週間。
いくら待っても帰ってこなくて、チッパーさんたちも行方がわからないとのこと。
だからとマンドラゴラさんにも散々と問い質した訳なのですが。
「なぜですレディィィ!? なぁぜ吾輩が吊り下げられることになるのですうっ!?」
「ではグモンさんの居場所をお教えになって頂けますか?」
「――フッ、それは空に流れる雲だけが知る話でアッーーー縄を強く締めないでェ! 潰れちゃうからァァァ!」
……何度聞いてもこうやって話をはぐらかそうとします。
本当に知らないのならばただ「知らない」と答えるだけでしょうに。
それなので今日は心を鬼にして彼を問い詰めることにしたのです。
彼の分身はいくらでもいますが、個性があるからこそ尋問も効果的かと思って。
「いいですかマンドラゴラさん。あなたが何かを隠していることは既にわかっているのですよ?」
「ハ、ハハ、いったい何を根拠にそんな勘違いを――」
「ええとですねぇ、実はわたくしにはね、相手の嘘を見抜ける能力があるのです」
「え"ッ!!!??」
「その理由はあなたならよぉーく知ってらっしゃいますよねぇ~?」
もちろんこれはブラフに過ぎない。
いくら聖女でも相手の、ましてや野菜の心なんて読むことは出来ません。
ですが前世でも多くの方々を見てきたので、人の嘘を見抜く眼力くらいはあるつもりです。
その点、マンドラゴラさんは見抜けやすい方でしょう。
多大な知識を有していても、嘘の付き方までは知らないようですね。
「さぁ、グモンさんが一体どこへ行ったのかお教え願えますか?」
「し、知らない! 吾輩はなぁんにも知らないのだ!」
「今さらしらばっくれても遅いですよ。貴方が原因なのかは既に明白なのです!」
しかし強情な所は知っての通りで、身を捻って揺らして抵抗してきます。
わたくしのみならずお友達の皆さん全員が周囲一帯を取り囲んでいるので、逃げ場など無いとわかっているはずなのですが。
特に魔兎さんたちは一番の協力者だったグモンさんを失って怒り心頭の御様子ですし。
「グモンさんをどこにやったんだ、この大根め!」
「白状しないと喰っちまうぞ!」
「「「そうだそうだ!」」」
ただそんな魔兎さんたちに対してはマンドラゴラさんも余裕の笑みを見せます。
「フッ、食べて頂けるのであればそれは吾輩にとって本望! なんてことはありませんなぁ、ハハハ!」
どうやら魔兎さんたちの脅しは彼には効かないようです。
やはり食べるだけしか抵抗が出来ないとなると彼を屈服させるのは難しいかも。
……まぁ手段が無い訳ではないのですが。
「そうですか。では今後マンドラゴラは切り干し大根に加工してから食すことに致しましょう」
「――ッッッ!!!???」
わたくしがこう言った途端、マンドラゴラさんが「ヒョッ!?」っと息を漏らしました。
ついでに揺らしていた体もがっちりと固めさせて。
「そ、それはあんまりだレディーーーーーー!!!!! それじゃあ吾輩自慢の栄養素が全て死んでしまうッ! そんな後生なことだけはどうかやめてくれええええええ!!!!!!!!」
想像以上の効果でした。
絶望のあまり、まるで釣れたて魚のように身をビッチビッチと跳ねさせて不快感を露わにしています。
切り干し大根、美味しいと思うんですが彼にとってはやっぱりダメみたいですね。
「でしたらちゃんと真実をお話しなさい。わかりきった嘘を吐いても何の得にもなりませんよ!」
「は、はい、わかりました……」
ここまで言ってようやくしおらしくなりました。
もう観念したのか、本当の干し大根みたいにやつれてしまっています。
「……グモン殿には自分のやりたいことを探せば良いと口添えしたのです。外の世界に行けば自由を満喫できると。主殿に拘る必要は無いのだと」
「どうしてそんなことを?」
「だ、だって……」
「だって?」
「だって吾輩、羨ましかったんだもぉん! チッパー殿もツブレ殿もパピ殿も、そしてグモン殿も皆に憧れられてぇ! 四天王とか言われてもてはやされてぇ! 吾輩たちだって主殿を守るためにいっぱいいーっぱい頑張ってたのにぃ!!!!!」
「なるほど、理由は嫉妬だったってことですか……」
「だったらグモン殿がいなくなれば吾輩たちが後釜に座れるって思ったんですうううううう!!!!!」
確かに、グモンさんが自由を満喫することに関しては賛成です。
彼もなんだかわたくしを守るために固執しているみたいでしたから、彼自身の目標が出来たなら喜ばしいことと思います。
だけどそれを私利私欲のために利用するのは頂けませんね。
それも嘘を付いてまでなど以ての外でしょう。
「憧れられなかったのはその小賢しい嘘のせいだと思わなかったのですか?」
「――ううッ!?」
「きっと皆さん気付いているのだと思いますよ。貴方は役立とうとして一生懸命だけど、自身を立てるための余計な建前をも使っていると」
「そ、それは……」
「嘘も方便と言いますが、その嘘を自分のためだけに使い続ければ、いずれ誰からも信用されなくなってしまいますよ? 今の状況はまさにその嘘が招いたことと言えましょう」
強情なマンドラゴラさんもさすがにやっとわかってくれたようです。
途端に脱力し、放心状態となってしまいました。
とはいえ自分の過ちに気付けるくらいには賢いみたいで良かった。
……彼に足りなかったのは努力ではなく、信頼。
いくら頑張っても嘘があれば信用は得られない。
知識以上に、相手の心を理解する必要があったということですね。
でもそのことを知って貰えたからもう大丈夫。
これでマンドラゴラさんたちもきっと改心してくれることでしょう。
「これで解決? じゃあボクもう遊びに行っていいー?」
「お前も少しは働けっての……」
「ボクは姉御のことを広めるので一生懸命なのさ! じゃ!」
「ちょっとパピさん!? ああ~もぉ~!」
問題もようやく解決……と思ったのですが、パピさんが意味深なことを言い残して飛び去ってしまいました。
一緒に集まってくれたのは嬉しかったのですが、やっぱり彼女の自由だけは制御できそうにありませんねぇ。
「ったく、少しは農作業を手伝ってくれりゃ言うこと無いのによぉ」
「仕方ないんだナ、あの性格じゃそう簡単には直らないだでよ」
「まぁもうパピさんは自由にさせてさしあげましょう。実際にお手伝いしている時もありますし。ほんと極たまにですけど」
パピさんも悪いことをしている訳ではありませんしね。
彼女の噂話があったから魔兎さんたちとも巡り合えたのは真実ですし。
あ、でも魔兎さんたちもなんだか不満そうに漏らしていますね。
さすがに一ヵ月以上も経つと化けの皮も剥がれてしまうようです。
……さてと。
「あとはグモンさんが無事にここまで帰ってくるのを祈るばかりですね」
「ああ、アイツぁ気は効くが鈍くさい所があるからなぁ」
「でもいざって時に頼りになるからいてくれると嬉しいんだナ」
「ぐもんぐもーん」
「そうそう、こうやって元気よく返してきて――え?」
「「「え?」」」
一瞬、幻聴かと思いました。
ですが全員で振り向けば、魔兎さんたちの後ろに彼が立っていました。
間違いありません、グモンさんです。
それもなんだか一回り大きくなったような。
身長も以前の二倍ぐらいに大きい。成長したわたくしにも負けていません。
それになんだか全身がキラキラと輝いているように見えますが……?
――い、いやそんなことよりも!
「グモンさん、無事でよかったですっ!」
「ぐもーん!」
ともかくとして彼を迎えるように傍へと駆け寄ります。
すると途端、磯のような香りがスンッと鼻に漂ってきました。
よく見れば乾いた海藻のような黒い物も付いているように見えます。
「も、もしかしてこれって、グモンさん……まさか海に行ってきたのですか?」
「ぐもっ!」
どうやら予想は当たりだったみたい。
両腕を振り上げて喜びを見せてくれています。
――となるとこのキラキラしたのはもしかして。
そう思い、指でカリカリっと掻いてペロリと舐めてみる。
そうしたらじゅわっとした濃い塩味が舌一杯に広がりました。
「こ、これは塩!? しかも美味しい!」
「ぐもーん!」
「ああっ、グモンさんが気合いを入れただけでなんか塩の結晶がパキパキと生えてきています! これってまさかグモンさんは進化して帰ってきたということなのです!?」
「ほぉ、さすがだぜグモンの奴、見ない間に男らしくなりやがってよぉ……へへっ、こりゃ負けてられねぇなっ!」
まさかグモンさんが進化したなんて。
魔物ではないはずですが、仕組みは似たようなものなのかもしれません。
ならば今の彼はいわば〝塩ゴーレム〟。
塩にも殺菌・魔払いの効果がありますからね、ある意味正当進化と言えるでしょう。
うーん、しかしまさか夏に海へ行って塩を吹く男(?)になって帰って来るなんて。
これは漬物とかにも役立ちそうですし、ますます頼もしくなって喜ばしい限りですね!
ただ、これはちょっとお塩を使ったレパートリーが欲しくなりますね。
後でテリック村にでも話を聞きに行くとしましょうか。
いくら待っても帰ってこなくて、チッパーさんたちも行方がわからないとのこと。
だからとマンドラゴラさんにも散々と問い質した訳なのですが。
「なぜですレディィィ!? なぁぜ吾輩が吊り下げられることになるのですうっ!?」
「ではグモンさんの居場所をお教えになって頂けますか?」
「――フッ、それは空に流れる雲だけが知る話でアッーーー縄を強く締めないでェ! 潰れちゃうからァァァ!」
……何度聞いてもこうやって話をはぐらかそうとします。
本当に知らないのならばただ「知らない」と答えるだけでしょうに。
それなので今日は心を鬼にして彼を問い詰めることにしたのです。
彼の分身はいくらでもいますが、個性があるからこそ尋問も効果的かと思って。
「いいですかマンドラゴラさん。あなたが何かを隠していることは既にわかっているのですよ?」
「ハ、ハハ、いったい何を根拠にそんな勘違いを――」
「ええとですねぇ、実はわたくしにはね、相手の嘘を見抜ける能力があるのです」
「え"ッ!!!??」
「その理由はあなたならよぉーく知ってらっしゃいますよねぇ~?」
もちろんこれはブラフに過ぎない。
いくら聖女でも相手の、ましてや野菜の心なんて読むことは出来ません。
ですが前世でも多くの方々を見てきたので、人の嘘を見抜く眼力くらいはあるつもりです。
その点、マンドラゴラさんは見抜けやすい方でしょう。
多大な知識を有していても、嘘の付き方までは知らないようですね。
「さぁ、グモンさんが一体どこへ行ったのかお教え願えますか?」
「し、知らない! 吾輩はなぁんにも知らないのだ!」
「今さらしらばっくれても遅いですよ。貴方が原因なのかは既に明白なのです!」
しかし強情な所は知っての通りで、身を捻って揺らして抵抗してきます。
わたくしのみならずお友達の皆さん全員が周囲一帯を取り囲んでいるので、逃げ場など無いとわかっているはずなのですが。
特に魔兎さんたちは一番の協力者だったグモンさんを失って怒り心頭の御様子ですし。
「グモンさんをどこにやったんだ、この大根め!」
「白状しないと喰っちまうぞ!」
「「「そうだそうだ!」」」
ただそんな魔兎さんたちに対してはマンドラゴラさんも余裕の笑みを見せます。
「フッ、食べて頂けるのであればそれは吾輩にとって本望! なんてことはありませんなぁ、ハハハ!」
どうやら魔兎さんたちの脅しは彼には効かないようです。
やはり食べるだけしか抵抗が出来ないとなると彼を屈服させるのは難しいかも。
……まぁ手段が無い訳ではないのですが。
「そうですか。では今後マンドラゴラは切り干し大根に加工してから食すことに致しましょう」
「――ッッッ!!!???」
わたくしがこう言った途端、マンドラゴラさんが「ヒョッ!?」っと息を漏らしました。
ついでに揺らしていた体もがっちりと固めさせて。
「そ、それはあんまりだレディーーーーーー!!!!! それじゃあ吾輩自慢の栄養素が全て死んでしまうッ! そんな後生なことだけはどうかやめてくれええええええ!!!!!!!!」
想像以上の効果でした。
絶望のあまり、まるで釣れたて魚のように身をビッチビッチと跳ねさせて不快感を露わにしています。
切り干し大根、美味しいと思うんですが彼にとってはやっぱりダメみたいですね。
「でしたらちゃんと真実をお話しなさい。わかりきった嘘を吐いても何の得にもなりませんよ!」
「は、はい、わかりました……」
ここまで言ってようやくしおらしくなりました。
もう観念したのか、本当の干し大根みたいにやつれてしまっています。
「……グモン殿には自分のやりたいことを探せば良いと口添えしたのです。外の世界に行けば自由を満喫できると。主殿に拘る必要は無いのだと」
「どうしてそんなことを?」
「だ、だって……」
「だって?」
「だって吾輩、羨ましかったんだもぉん! チッパー殿もツブレ殿もパピ殿も、そしてグモン殿も皆に憧れられてぇ! 四天王とか言われてもてはやされてぇ! 吾輩たちだって主殿を守るためにいっぱいいーっぱい頑張ってたのにぃ!!!!!」
「なるほど、理由は嫉妬だったってことですか……」
「だったらグモン殿がいなくなれば吾輩たちが後釜に座れるって思ったんですうううううう!!!!!」
確かに、グモンさんが自由を満喫することに関しては賛成です。
彼もなんだかわたくしを守るために固執しているみたいでしたから、彼自身の目標が出来たなら喜ばしいことと思います。
だけどそれを私利私欲のために利用するのは頂けませんね。
それも嘘を付いてまでなど以ての外でしょう。
「憧れられなかったのはその小賢しい嘘のせいだと思わなかったのですか?」
「――ううッ!?」
「きっと皆さん気付いているのだと思いますよ。貴方は役立とうとして一生懸命だけど、自身を立てるための余計な建前をも使っていると」
「そ、それは……」
「嘘も方便と言いますが、その嘘を自分のためだけに使い続ければ、いずれ誰からも信用されなくなってしまいますよ? 今の状況はまさにその嘘が招いたことと言えましょう」
強情なマンドラゴラさんもさすがにやっとわかってくれたようです。
途端に脱力し、放心状態となってしまいました。
とはいえ自分の過ちに気付けるくらいには賢いみたいで良かった。
……彼に足りなかったのは努力ではなく、信頼。
いくら頑張っても嘘があれば信用は得られない。
知識以上に、相手の心を理解する必要があったということですね。
でもそのことを知って貰えたからもう大丈夫。
これでマンドラゴラさんたちもきっと改心してくれることでしょう。
「これで解決? じゃあボクもう遊びに行っていいー?」
「お前も少しは働けっての……」
「ボクは姉御のことを広めるので一生懸命なのさ! じゃ!」
「ちょっとパピさん!? ああ~もぉ~!」
問題もようやく解決……と思ったのですが、パピさんが意味深なことを言い残して飛び去ってしまいました。
一緒に集まってくれたのは嬉しかったのですが、やっぱり彼女の自由だけは制御できそうにありませんねぇ。
「ったく、少しは農作業を手伝ってくれりゃ言うこと無いのによぉ」
「仕方ないんだナ、あの性格じゃそう簡単には直らないだでよ」
「まぁもうパピさんは自由にさせてさしあげましょう。実際にお手伝いしている時もありますし。ほんと極たまにですけど」
パピさんも悪いことをしている訳ではありませんしね。
彼女の噂話があったから魔兎さんたちとも巡り合えたのは真実ですし。
あ、でも魔兎さんたちもなんだか不満そうに漏らしていますね。
さすがに一ヵ月以上も経つと化けの皮も剥がれてしまうようです。
……さてと。
「あとはグモンさんが無事にここまで帰ってくるのを祈るばかりですね」
「ああ、アイツぁ気は効くが鈍くさい所があるからなぁ」
「でもいざって時に頼りになるからいてくれると嬉しいんだナ」
「ぐもんぐもーん」
「そうそう、こうやって元気よく返してきて――え?」
「「「え?」」」
一瞬、幻聴かと思いました。
ですが全員で振り向けば、魔兎さんたちの後ろに彼が立っていました。
間違いありません、グモンさんです。
それもなんだか一回り大きくなったような。
身長も以前の二倍ぐらいに大きい。成長したわたくしにも負けていません。
それになんだか全身がキラキラと輝いているように見えますが……?
――い、いやそんなことよりも!
「グモンさん、無事でよかったですっ!」
「ぐもーん!」
ともかくとして彼を迎えるように傍へと駆け寄ります。
すると途端、磯のような香りがスンッと鼻に漂ってきました。
よく見れば乾いた海藻のような黒い物も付いているように見えます。
「も、もしかしてこれって、グモンさん……まさか海に行ってきたのですか?」
「ぐもっ!」
どうやら予想は当たりだったみたい。
両腕を振り上げて喜びを見せてくれています。
――となるとこのキラキラしたのはもしかして。
そう思い、指でカリカリっと掻いてペロリと舐めてみる。
そうしたらじゅわっとした濃い塩味が舌一杯に広がりました。
「こ、これは塩!? しかも美味しい!」
「ぐもーん!」
「ああっ、グモンさんが気合いを入れただけでなんか塩の結晶がパキパキと生えてきています! これってまさかグモンさんは進化して帰ってきたということなのです!?」
「ほぉ、さすがだぜグモンの奴、見ない間に男らしくなりやがってよぉ……へへっ、こりゃ負けてられねぇなっ!」
まさかグモンさんが進化したなんて。
魔物ではないはずですが、仕組みは似たようなものなのかもしれません。
ならば今の彼はいわば〝塩ゴーレム〟。
塩にも殺菌・魔払いの効果がありますからね、ある意味正当進化と言えるでしょう。
うーん、しかしまさか夏に海へ行って塩を吹く男(?)になって帰って来るなんて。
これは漬物とかにも役立ちそうですし、ますます頼もしくなって喜ばしい限りですね!
ただ、これはちょっとお塩を使ったレパートリーが欲しくなりますね。
後でテリック村にでも話を聞きに行くとしましょうか。
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