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第四章

第51話 客人たちは意外にも話のわかる方々でした

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「お、落ち着きくださいませ魔お――美少女王ネルル様!」

「んもう、仕方ありませんねぇ」

 ふと気付いたら皆さんが驚いて離れていました。
 いけませんね、少し興奮し過ぎてしまったようです。

 ですがやっぱり納得はいきませんね。
 魔王だなんてむさ苦しそうなあだ名を付けられるのは不本意です。
 後でパピさんにしっかりと云いつけておくとしましょう。

 さて、そんなことよりも。

「ところで、あなた方はどうしてこんな所に? まさか本当に配下となりに来たとでも仰るのですか?」

「えっ!? あ、いえ、その……じ、実はですね」

 改めて尋ねてみると、お二方とも委縮してしまいました。
 しかし何かしらの事情もあるのか、鼻をひくひくとさせてわたくしを見上げてきます。

「それはほんの七日程前のことでした。突如として我々の集落が別の魔物に襲われてしまいまして、住処を追われてしまったのでございます……」

「あらぁ……」

「元々はここより山を三つ越えた先にある高地に住んでいたのですが、元々弱い我々にはあの魔物たちには敵わず、泣く泣く故郷を離れることとなってしまいました」

 魔物が魔物を襲うこともあるものなのですね。
 落胆する様子からして、きっとそれほどに無念だったのでしょう。

「しかしそこでパピ様と偶然遭遇し、ネルル様のことをお聞きしたのです。きっとあなた様が助けてくれるだろうと!」

「た、たしかに」

 しかしまさかそんな事情があったなんて。
 パピさんを後で叱ろうと思いましたけど、そういう意図があったなら怒るに怒れませんね。

 あ、でも見上げたらパピさんの調子良く歪んだ笑顔が見えました。
 これは意図していませんね。偶然こうなったのを都合よいまま通そうとしているだけでしょう。

 ……まぁ偶然かどうかは不問としましょう。
 結果的にこのお二方を助けられるのであればそれに越したことはありません。

「わかりました。困っている方を見過ごせませんし、よろしければこちらで保護致しましょう」

「おお!」

「ですが、わたくしは少し普通の魔物とは違う考えを持っています。魔物はおろか人間とも争わない、共存を願う者だということを理解して頂きたいのです」

「ほぉ、それはまた変わったお考えですな」

 パピさんの時のようなこともあるので、今度は予め先に伝えておくとしましょう。
 それでも迎合出来ないのであれば他所を頼って頂くしかありません。

「また、この場所に住むのであればここの皆さんと協力して働く必要も出てくるでしょう。それが出来ますか?」

「そういうことでしたら問題はありませぬ」

「……あら? 意外と素直に受け入れられるのですね」

「ええまぁ、我々としても人間とはあまり関わらないというか、他の魔物ほどに好戦的になったりはしませんからなぁ」

「おや、そうなのですか?」

「ええ。なにせ我々が魔族より与えられた役目はあくまでも〝人間の建造物を荒らすこと〟でございまして。元々戦闘をするために産まれた訳ではないのです」

 そ、そうだったのですね。
 でも確かに言われてみれば、人間時代に「切削ウサギにやられた」なんて話は聞かなかった気がします。
 その代わり「建物がやられた。切削ウサギの仕業だ」という理由で討伐依頼を受けたことはありましたね。

 実際にその通りなのでしょう。
 彼らはそもそも人間と争う必要の無い種族なのだと。

「だったら断る理由もありませんね。ではようこそわたくしたちの屋敷へ。あなた方を歓迎いたしますっ!」

「「お、おお!」」

 彼らの反応にチッパーさんたちも頷いて応えてくれました。
 敵意が無いってことを明らかに読み取れるからでしょう。
 パピさんもこんな時だけは素直な笑顔を向けてくれています。

 皆さんに不満が無いならきっと大丈夫。
 いきなりで驚いてしまいましたが、また新しいお友達が増えましたね。
 これからの生活がますます賑やかになりそうですっ! ふふっ!

「では失礼して……おぉ~~~い皆~~~! もう出てきてもいいぞぉ~~~!」

「「「――えっ?」」」

 しかしそう思ったのも束の間。
 年配の御方がこう声を上げると、景色の先の森からピョコピョコと魔兎たちが出てきました。

 しかも一匹二匹ではない……!
 とめどない数の兎がピョンコピョンコと森から次々に出てきました!

 その数、もう百では収まりが付きません!

「全部で三七六匹ですじゃ。どうかよろしくお願いいたしますぞ!」

「は、はい……」

 こうして現れたのは敷地を埋め尽くさんばかりの魔兎。
 その圧倒的な数に思わず圧倒です。

 よろしくって、どうすればいいのでしょう?
 これ、わたくしたちだけで養うの……?

 そうも思うともう呆然と立ち尽くすしかないわたくしたちなのでした。
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