上 下
50 / 86
第四章

第49話 採れたて野菜をお裾分けしに行きます!

しおりを挟む
 どうやら暑い夏の季節が足踏みを始めたようです。
 そのせいか気温がいつもよりも高めに感じますね。

「ツブレさん、お荷物を背負っているのにわたくしを乗せても平気なのでしょうか?」

「全然平気だでよ。籠よりもネルルの方がずっと軽いしナー。それよかしっかり掴まってて欲しいだナー」

「は、はーい!」

 しかしその気温のおかげで野菜たちの成長もますます速くなった。
 初収穫からもう一週間も経ちましたが、既にわたくしたちだけでは消費しきれないほどに収穫量が増えてしまいました。

 だからせっかくなので今日はふもとのテリック村まで遠征です。
 今朝採れたての野菜を村人の皆さんにもお裾分けしたくって!

 ふふっ、反応が楽しみですっ!

「ほら、もう着いたんだナー」

「さすがツブレさん、足の速さは一級品ですね!」

「これだけが取り柄だかんなぁ」

 元ボス狼だけに、体格と身体能力は目を見張るものがあります。
 こうやって荷物を運ぶ役割に彼以上の適任はいません。

 おかげさまでものの十数分で村に到着。
 いつも山側の入口を守っている番兵のコルスさんが出迎えてくれました。

「おっ、ネコチャンじゃないか」

「どうもお久しぶりです。例のお家の件ではお世話になりました」

「はははっ、気にするなって。あれも我々なりの感謝の気持ちだからさ」

 とても気さくなおじさまで、話しているだけで心がポカポカしてきます。
 しかしこれでも戦いになるととても強いなんて、人は見かけによりませんね。

「それで急に訪ねてきてどうしたんだ? まさか礼を言うために山を降りてきたのかい?」

「いえいえ、実は皆様から分けて頂いた野菜が収穫出来たので、お裾分けしようと思いまして」

「え、もう収穫……?」

 コルスさんもわたくしの一言に驚きを隠せない様子。
 やはり数日で野菜が収穫出来るなんて普通じゃないですものね。

 ……ですが聞けば、この野菜たちの種は元々ミネッタさんが自ら頼み込んで村人たちから集めた代物とのこと。
 だとすれば恩返しせずにはいられません。

「あの地には野菜の成長を促進させる力が籠っていまして、おかげで収穫が普通の作物よりもずっと速いのです。よろしければ見てくださいますか?」

「お、おう。しかし悪いが俺は野菜にはちと煩いぞぉ?」

「ええ、もし良ければ参考になるご意見も頂ければと!」

「はははっ! いいねぇ! それじゃあさっそく、どれどれ……」

 せっかくだからとこうお願いもしてみると、コルスさんも乗り気になってくれました。
 ツブレさんが背中を向けて背負っていた籠を降ろすと、その中に入った野菜を確かめ始めます。

「うっ!? こ、これは……!?」

 ですがいきなり顔を引きつらせてしまいました。
 一体何があったのでしょう?

「マ、マンドラゴラだと……!? バカな、なんでこんな幻の食材が!?」

「えっ? これ皆様から頂いた種で育った野菜たちなのですが……」

「なん、だと……!?」

 うーん、反応が見るからにおかしいですねー。
 単に驚愕しているようで問題があるという訳ではなさそうですが。

「なッ!? これは赤銀トマトッ!? こ、こっちは煌灼紅イモだとォ……!?」

 ……これはもしかして提供してはまずかったものなのでは?

 そう思い、それとなくそっと籠の蓋をスススッと閉めようとします。
 すると途端に「ガッ!」と手で抑えられ、輝いた瞳を向けられました。

「俺に一式売ってくれぇ! 何でもするからぁ!」

 さっきまでの緩やかな表情が嘘のようです。
 もう全力で懇願するかのようにひきつった笑顔がドアップで近づいてきました。

 い、一体何が彼をこんなにさせたのでしょう!?
 マンドラゴラもトマトもイモも普通だと思うのですが!?

「あ、いえ、売るなんてそんなとんでもない。お裾分けですし……」

「いやいや、そういう訳にはいかん! 何でもいいぞ、何でも持ってって構わん! なんならこの槍でもいいっ!」

「えええーーーっ!?」

 野菜に関して煩いというコルスさんをこんなにも唸らせるなんて。
 この村がそこまで困窮しているようには見えないのですが……。

「わわわわかりましたっ! で、でしたらそこの椅子に置いてある新聞紙をくださいませっ!」

「えっ、こ、こんなのでいいのか!?」

「は、はい! 世間のことにはとても興味がありますからっ!」

「わ、わかった! これでいいんだな!?」

「は、はい! それと出来ればこのお野菜を村の皆さんに分けて頂ければと」

「よし任せろ! うおおおおおおおお!!!!!……」

 ああ、コルスさんがなんだかよくわからないくらいの気合いで籠二個を抱え、「ビュビューン!」と走り去っていってしまいました。
 配る手間が省けたのは良かったのですが、門番がいなくなって本当に平気なのでしょうか。心配でなりません。

「なんだかあの人間、すごい気合いが入ってたんだナ」

「そうですね。でも任せても平気でしょうし、わたくしたちはもう帰りましょうか」

 とはいえ村のことは彼らが一番よく知っています。
 それに最近は山から魔物の気配を感じませんし、きっと危険は無いのでしょう。

 そう悟ると、宣言した通りに丸まっていた新聞紙を拾い上げ、ツブレさんの首上に飛び乗ります。
 そうして彼がゆっくりと歩いて山道を登り始めると、わたくしも新聞を読み始めました。

「おや、文体が二百年前と少し変わってますね。時代を感じてなりません」
 
 読み難いですが読めないこともありません。
 少し凝らしながら目を通すとちゃんと内容が頭に入って来ました。

「ふむふむ、〝謎の野菜男現る。穴という穴に野菜を突っ込んだ変態異常者がテリック村に三人にも渡って出没したため、自治管理部では住民に注意喚起をするとともに個々の畑への被害確認を行うこととなった〟」

「世も末なんだナ」

「まったくです。人間って時々こういう変な人が現れるから不思議なのですよねぇ」

 しかも目を通せばいずれも男性の冒険者と書いてありますね。
 そして捕まった彼らは揃いも揃って目を輝かせて神に懺悔しているとか。
 もうよくわからない世界です。

「もしかして人間って皆こうなんだべか?」

「いえいえ、そんなことはありません。良い方もいらっしゃいますとも。テリック村の皆さんのようにね」

「そだナー」
 
「ええそう、きっと彼らはいきなり背後から抱き着いてくるようなことなんてしてきませんよ、ええ。ウフフフフ……」

「ネルルのその笑い声ちょっと怖いんだナ……」

 二百年前にも色々と悪人は多かったですが、変人も相応におられました。
 思い出すだけで今でも寒気が走りますね。

 しかしそんな些末なことはもうスパッと忘れて新聞の続きを読むことに。
 その後は牛さんの子どもが産まれたという記事についてツブレさんと楽しく語り合いながらゆっくりと帰ったのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

処理中です...