上 下
45 / 65
第四章

第44話 住処を新しくしよう!

しおりを挟む
 わたくしがテリック村より帰ってからもう三日。
 荒らされた私有地がようやく元に近い状態へと戻り始めました。

 しかし一方でまだお家は壊れたまま。

 なにせ始めにハーピーたちの遺体の搬送と埋葬。
 その後は血で汚れてしまった大地の浄化作業。
 それらを優先して行っていたために施設修復は後回しとなってしまった。

 おまけになんだか一雨来そうな雰囲気。
 そこで仕方なく、この日は〝扉〟があった洞穴祠へと身を寄せることに。

「ふわぁ……おや?」

 そして目を覚ますと、朝日の眩しいスッキリとした景色がお出迎え。
 外にも出てみると心地良い空気が鼻に触れました。

「んん~~~! いい朝ですねぇ、今日はやる気が出そう~~~!」

 なにせ昨日までは内容が内容なだけに浮かれられませんでしたからね。 
 でも今日からは前向きに過ごせそう。とっても楽しみです。

 ――そう思っていたのですが。

「ああ、これは思っていた以上に酷いですね……」

 いざお家の下へとやってくるとその惨状に言葉を失ってしまいました。

「こりゃひでぇな。せっかく積んだ石レンガの壁が崩れちまってる」

「地面がドロドロなんだナー。そのせいで崩れちゃったんだナー」

「ひゃー、敷き藁もグチャグチャだぁ! ボクもう近づきたくもないよぉ」

「うーん、これは新しい家を建てた方が良さそうですね。雨対策もしておかないといけなさそう」

 家が出来てから雨に降られたことが無かったので見逃していました。
 元々知識なしで試行錯誤して造ったものですから仕方ないのですけど。

「せっかく作り直すならもうちっと広くしないとだなぁ。もうツブレやパピもいるし」

「ええ、いい機会ですし大きな家に建て直したいところです」

「ま、問題はどう建てるかなんだけどな」

「で、ですね……」

 次はマイホーム五号でしょうか。

 一号は木の棒を傘状に立てて即崩壊。
 二号は四方に柱を立てて屋根を乗せたら崩壊。
 三号では木の板を張って出来たけどグモンさんの足踏みで揺れて崩壊。

 ですが四号では石レンガを使うことを覚え、無事成功。
 ここまでに一ヵ月とかなりの試行錯誤を要しましたねぇ、ええ……。

「それで次はどうすんだ?」

「やるなら四号を教訓にして石の床を敷くとかでしょうか。高床にしたい所ですね。そうすれば川も近いので増水した際にも避難するのに良いでしょうし」
 
 そう軽く決めると、まずは立地を決めます。
 元の家の石レンガを再利用、新しい場所に並べて敷地の大きさを決めました。
 ただしこれでは床材が足りないので追加で切り出し、運搬可能な者で運びます。

 そうして床材が敷き詰められた辺りでお昼過ぎ。
 力仕事だったのでもう皆ヘトヘトです。

 仕方ないので三人一緒に木陰で休憩することに。

「さ、先が長いよぉ~~~! こんなの本当に完成させられるのぉ~~~!?」

 あらら、パピさんが早速尻餅を突きながら弱音を吐いてしまいました。
 まぁ仕方ありません。彼女が一番非力ながらも頑張っていましたから。
 やっぱり羽頂天組を連れてきたことに負い目があるのでしょうか。
 
「まぁ無理をなさらず。あれでしたらチッパーさんのお手伝いでも構いませんから」

 しかし逃げ道は幾らでもあるもの。
 今チッパーさんとグモンさんが畑の再構築をやっていますから、手伝ってあげればきっと喜ぶでしょう。

 まだまだやることは一杯です。
 かまども崩されてしまっていますし。

 だったら早く全部修復しませんと!

「……おお~~~い」

「え?」

 でもこう決意していた時、聞き慣れない声が聞こえました。
 しかも人語です。妙ですね。

 それでふと声のした方を見ると――

「いたいた、やぁネコチャン」
「ってことはここが封印の地か」
「だいぶさっぱりした土地だったんだな」

 な、なんか大人数が押し寄せてきています!
 続々来るので人数がすぐにはわからないくらいです! もう十人以上!?
 
「あ、あ、あの……」

「おぉすまんすまん、先に説明をしないとな。実はミネッタに頼まれたことがあってね」

「え、ミネッタさんから?」

 どうやら雰囲気からしてテリックの村の人たちでしょうか。

 さすがにツブレさんもビックリしてわたくしの後ろの木に隠れてしまいました。
 遠くでチッパーさんも唖然としていますし、パピさんに至っては姿がもう見えません。変身してどこかに潜んでいるのでしょう。

「ああ、ネコチャンたちの家を建ててあげて欲しいってな」

「え、ええーーーっ!?」

「そのための資材も運んできた。順次ここに届くはずだ」

 これにはわたくしもビックリです。
 一体どうしてこんなことに?

「あの、でもわたくし」

「ああ、ミネッタからお代は貰ってるから何も気にしなくていい。虹金貨を出された時はビビったけどなぁ、はははっ!」

「なんですってぇ!?」

「そういえばこうも言伝っているよ。〝首都への旅費はお釣りとしてもらっているから気にしないで〟ってな。君が反論することを見越してのことだ」

「ああもう……ほんと予想の斜め上のことばかりする方ですねぇ」

 もう驚きを通り越して呆れるばかりです。
 あまりに力が抜けてしまい、コテンと横に倒れてしまいました。

「ま、貰うもんは貰ってるからな、早急に完成させようと思って大量の人員を動員させてもらったよ。ちょい騒がしくなると思うが勘弁してくれ」

「ふぁい……」

「それで、どの辺りに建てたらいい?」

「それでしたらあの石畳みの一帯にお願いしたく」

「了解。よし野郎ども、早速工事に取り掛かるぞぉ!」

「「「おぉ!!!!!」」」

 人間ってここまで思い切りのよい方々でしたっけ?
 今さらながらにそんな疑問が沸々と湧いてくる不思議な状況です。

「なぁネルル、あいつらなんか始めてるけどいいのか?」

 チッパーさんも不安そうに駆け寄ってきましたが、頷きで返すと納得はしてくれたご様子。
 ツブレさんとパピさんもわたくしの傍に、それで話を聞くと動揺を抑えてくれました。
 グモンさんはしれっと村人たちに交じって作業の手伝いをしているようですね。

「ミネッタさんの計らいだそうです。家を建ててくれるそうな」

「おいおい、そんなのアリか、アリなのかぁ!?」

「まぁわたくしたちの資産を使ってのことなのでアリですねぇ。想定外の出来事ですけど」

 確かに不安はあります。
 ですが彼らもプロなようで、作業に入るともうあっという間に土台と支柱が完成。
 夕方に差し掛かった頃にはもう壁まで出来上がっている始末です。

 しかも立地が当初想定の何倍とも知れない圧倒的広さ。
 おまけに二階建てを想定しているようで、搬入された資材はまだまだあるご様子。

 そんな作業も夕暮れとなれば終わり、作業員たちが引き上げて静かに。

 そして再び朝を迎えると、彼らの作業音によって起こされることとなりました。

「あいつらこんな朝早くから熱心なもんだねぇ」

「しかも人数が倍くらい増えている気がするんだナ」

「うーん、完全に人件費度外視です。虹金貨の価値ってそれくらいすごかったんですかねぇ……」

「ボクもう訳わからなくて直視できないよぉ」

 これだけ人の気配や形跡があると野鳥たちすら近づかない模様。
 仕方なくわたくしたちは木陰でビッグプリン三号の製作手伝いをしつつ、大工さんたちの動向を見守ります。

 ……そうしてその日の夕方前。

「これで完成だ。貰ったお代で出来ることはやった」

「あ、ありがとうございます」

「余った差額分は後で改めて算出してミネッタに渡しておくよ」

「これでも余るのです!?」

「当たり前だ。あんな大金そう使い切れるもんじゃない。さ、後は好きに使ってくれ。じゃあなネコチャンたち」

 そう伝えられた時にはもう彼らの大半が引き上げた後。
 代表の方もこう挨拶をすると踵を返し、残る人たちと共に下山していきました。

 それで残されたのは想像を絶するほどの豪邸で。

「これ、俺らの家なの?」

「オ、オラが通れそうな扉まであるんだナ……」

「ボクが留まれそうな所もあるよ……」

「ぐもーん!」

 まさに人が何人も住めるお家です。
 玄関から入れば、お店かとも思える広さの大部屋が。
 玄関口も人用と獣用があるとかもう意味がわかりません。

 よく見たら大広間にはキッチンまであります。
 さらに大部屋の両横には四つの小部屋がある様子。
 他にもキッチンの裏手には浴場とトイレらしき設備まで。

 玄関傍には階段があり、二階にいけば中フロアとさらに四部屋。
 おまけにパピさんが降りるには丁度いい感じのバルコニーも完備。

 そして何故か各所にキャットウォークまで付いている……!!!!!

「ひ、広すぎる! 嬉しいけどわたくしたちが住むには広すぎます……!」

 突貫とはいえこんなにも凄い家が二日で出来てしまうとは驚きです。
 どうやら二百年の間に建築技術も相当に上がっていたようで、わたくしはもう呆然とするばかりなのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」 聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。 その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。 ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。 王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。 「では、そう仰るならそう致しましょう」 だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。 言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、 森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。 これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...