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第三章
第34話 チッパーさんから伝えられた魔物の真実
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チッパーさんに案内されたわたくしは〝比較的〟綺麗な水で体を洗うことが出来ました。
しかしいつかは改めて綺麗な水で洗いたい。可能であればシャンプーも付けて!
そんな淡い願いを秘めつつ水路を進みます。
するとチッパーさんが唐突に質問してきました。
「んでお前さん、これからどうするつもりなんだい?」
「えっと、どうしましょう?」
「俺に聞くなやい」
この答えにはチッパーさんも呆れていましたね。
でも仕方なかったのです。この時にはまだ生きる目標すらありませんでしたから。
そこでこの街にやってきた経緯を軽く説明。
そうしたらチッパーさんも眉をひそめて溜息を一つ。
「……随分と大変な目に遭ったんだな。まぁでも助かって良かったじゃねぇか。後は生きてりゃ何でもできらぁ」
「はい、そうですねっ!」
聞くと粗暴な言い方でも、わたくしにとってはとても励みになりました。
チッパーさんの優しさが滲み出てくるような気がして。
だからこそ助けてくれた理由が気になった。
「ところで、なんでチッパーさんはわたくしを助けてくれたのです?」
「ああ、面白そうだったから助けた。偶然目の前にも来たしな。いきなり泣き出しちまえば助けたくもならぁ」
ですが全く特別な理由じゃありませんでした。
まったくの偶然って怖いですよね。
おまけに泣くまでの一部始終をずっと見られていたことにもなります。
個人的に恥ずかしくて堪らない瞬間でしたねぇ。
まぁチッパーさんはそれでも一切いじったりしませんでした。
こんな紳士的な彼だから頼もしいとも思えたのかもしれません。
「ま、目的が無いってなら時間をかけて考えりゃいいさ。さっきも言ったが、ここはほとんど人間が来ない場所だ。仮に来ても隠れてやり過ごせばなんてこたぁねぇ」
「ほうほう」
「それ以外は快適ってもんだ。なんなら住み着いたってかまいやしねぇぜ? せっかくだし、先にここの仲間を紹介してやるよ」
「おお~! よろしくお願いいたします!」
ただ、ああやって大泣き出来たから今のわたくしがあるのだとも思います。
生前の使命だとかは忘れて自由に生きたいって思ったのは本心ですから。
そこでチッパーさんが薦める地下水路に住むのもありかなとも考えました。
もっとも、幾ら何でも汚いのですぐに思い直したのですけど。
そんな訳でチッパーさんに連れられて水路散策。
ついでに彼のお友達を紹介して頂きました。
閉鎖空間でお馴染みの血吸いコウモリさん。
水路ならどこにでもいるヘドロスライムさん。
他にもチッパーさんの同族リッパーラットやマッドハムスターさんたちも。
皆とても個性的で友好的で、もう魔物とは思えませんでしたね。
おかげで恐ろしい魔物という存在の固定概念が払拭出来たのです。
魔物も人も守りたいという願いはここから始まったと言っても過言ではないでしょう。
しかしそれによってもう一つ疑問が浮かびます。
どうして魔物は人間を嫌うのにこんな水路に住み着くのかって。
どこの都市でも大概そう。
わたくしが修行のためにと訪れた都市の地下も似たような環境でしたから。
いずれもビギナー冒険者の練習場として活用されることが多かったのです。
「でも、どうしてチッパーさんたちにとってここが住みやすいのでしょう?」
そんな疑問からつい口が滑ってしまいました。
するとチッパーさんは別段迷うことなく答えてくれます。
「そりゃメシが定期的に勝手に来るからな。人間が出すゴミや死体がちょくちょく流れてくんだよ。だから俺たちゃそれに齧りつくだけでいい。人間の死体が来た時なんざ狂喜乱舞だぜぇ?」
「なるほど、野生みたいな食事の心配をする必要がないと」
全ては安定した生活のため。
魔物にとっても行きつく先はやはりそこなのだなと納得しましたね。
ただ、誤解していたこともあったようですが。
「だけどそれでもわざわざ嫌いな人間の傍にいる必要があるのかなって」
「あん? 何言ってんだお前? 別に俺らは人間のことが嫌いな訳じゃねーぞ」
「えっ?」
「たしかに仲間を殺された恨みくらいはチマチマある。でもそりゃ間抜けな奴が勝手に挑んで勝手に死んだだけの自業自得ってもんだ」
「随分と割り切られてるんですねぇ」
「俺も若い時に随分とやらかしたからな。フッ」
当初より魔物は人間を忌み嫌い、それ故に容赦なく襲い掛かると教わりました。
彼らは人間に対してのみ食物連鎖の枠を超えて狩りを行うのだと。
でもそんな意味を込めた言葉を魔物であるチッパーさんに否定されてしまった。
つまり人間が誤解してしまっているだけなのです。
魔物という生物の本意が実はそれだけに限らないということを。
もちろんブルーイッシュウルフや羽頂天組みたいな認識通りの魔物もいますけれど。
「まぁそこんとこの了見を理解すりゃ人間なんざ怖いもんでもねぇ。食欲に負けて無駄に戦いさえしなけりゃいいってな」
「でも人間に対する殺意はありますよね?」
「そうだな。あの殺意ってのが心を乱されるから面倒で仕方ねぇ。だからこそこの地下水路ってのは都合が良いのさ」
「えっ?」
「言ったろ? ここは人間が滅多にうろつかないって。その上で人間の臭いがプンプンしてやがる。だから人間の臭いに誘われる俺たち魔物にとっちゃ奴らを肌で感じるから心地いい。それでもって変な殺意も沸かずに済む。餌も来る。最高だろうが」
「はぇ~~~……」
極めつけはチッパーさんの言う通り、理性を保とうとしている魔物がいる。
この事実に気付かされたのには目から鱗でしたね。
魔物でも充実した生活を送れば、人間への殺意を自ら断ち切れるんだって。
それってつまり人間に対する魔物なりの愛なんだって。
しかしいつかは改めて綺麗な水で洗いたい。可能であればシャンプーも付けて!
そんな淡い願いを秘めつつ水路を進みます。
するとチッパーさんが唐突に質問してきました。
「んでお前さん、これからどうするつもりなんだい?」
「えっと、どうしましょう?」
「俺に聞くなやい」
この答えにはチッパーさんも呆れていましたね。
でも仕方なかったのです。この時にはまだ生きる目標すらありませんでしたから。
そこでこの街にやってきた経緯を軽く説明。
そうしたらチッパーさんも眉をひそめて溜息を一つ。
「……随分と大変な目に遭ったんだな。まぁでも助かって良かったじゃねぇか。後は生きてりゃ何でもできらぁ」
「はい、そうですねっ!」
聞くと粗暴な言い方でも、わたくしにとってはとても励みになりました。
チッパーさんの優しさが滲み出てくるような気がして。
だからこそ助けてくれた理由が気になった。
「ところで、なんでチッパーさんはわたくしを助けてくれたのです?」
「ああ、面白そうだったから助けた。偶然目の前にも来たしな。いきなり泣き出しちまえば助けたくもならぁ」
ですが全く特別な理由じゃありませんでした。
まったくの偶然って怖いですよね。
おまけに泣くまでの一部始終をずっと見られていたことにもなります。
個人的に恥ずかしくて堪らない瞬間でしたねぇ。
まぁチッパーさんはそれでも一切いじったりしませんでした。
こんな紳士的な彼だから頼もしいとも思えたのかもしれません。
「ま、目的が無いってなら時間をかけて考えりゃいいさ。さっきも言ったが、ここはほとんど人間が来ない場所だ。仮に来ても隠れてやり過ごせばなんてこたぁねぇ」
「ほうほう」
「それ以外は快適ってもんだ。なんなら住み着いたってかまいやしねぇぜ? せっかくだし、先にここの仲間を紹介してやるよ」
「おお~! よろしくお願いいたします!」
ただ、ああやって大泣き出来たから今のわたくしがあるのだとも思います。
生前の使命だとかは忘れて自由に生きたいって思ったのは本心ですから。
そこでチッパーさんが薦める地下水路に住むのもありかなとも考えました。
もっとも、幾ら何でも汚いのですぐに思い直したのですけど。
そんな訳でチッパーさんに連れられて水路散策。
ついでに彼のお友達を紹介して頂きました。
閉鎖空間でお馴染みの血吸いコウモリさん。
水路ならどこにでもいるヘドロスライムさん。
他にもチッパーさんの同族リッパーラットやマッドハムスターさんたちも。
皆とても個性的で友好的で、もう魔物とは思えませんでしたね。
おかげで恐ろしい魔物という存在の固定概念が払拭出来たのです。
魔物も人も守りたいという願いはここから始まったと言っても過言ではないでしょう。
しかしそれによってもう一つ疑問が浮かびます。
どうして魔物は人間を嫌うのにこんな水路に住み着くのかって。
どこの都市でも大概そう。
わたくしが修行のためにと訪れた都市の地下も似たような環境でしたから。
いずれもビギナー冒険者の練習場として活用されることが多かったのです。
「でも、どうしてチッパーさんたちにとってここが住みやすいのでしょう?」
そんな疑問からつい口が滑ってしまいました。
するとチッパーさんは別段迷うことなく答えてくれます。
「そりゃメシが定期的に勝手に来るからな。人間が出すゴミや死体がちょくちょく流れてくんだよ。だから俺たちゃそれに齧りつくだけでいい。人間の死体が来た時なんざ狂喜乱舞だぜぇ?」
「なるほど、野生みたいな食事の心配をする必要がないと」
全ては安定した生活のため。
魔物にとっても行きつく先はやはりそこなのだなと納得しましたね。
ただ、誤解していたこともあったようですが。
「だけどそれでもわざわざ嫌いな人間の傍にいる必要があるのかなって」
「あん? 何言ってんだお前? 別に俺らは人間のことが嫌いな訳じゃねーぞ」
「えっ?」
「たしかに仲間を殺された恨みくらいはチマチマある。でもそりゃ間抜けな奴が勝手に挑んで勝手に死んだだけの自業自得ってもんだ」
「随分と割り切られてるんですねぇ」
「俺も若い時に随分とやらかしたからな。フッ」
当初より魔物は人間を忌み嫌い、それ故に容赦なく襲い掛かると教わりました。
彼らは人間に対してのみ食物連鎖の枠を超えて狩りを行うのだと。
でもそんな意味を込めた言葉を魔物であるチッパーさんに否定されてしまった。
つまり人間が誤解してしまっているだけなのです。
魔物という生物の本意が実はそれだけに限らないということを。
もちろんブルーイッシュウルフや羽頂天組みたいな認識通りの魔物もいますけれど。
「まぁそこんとこの了見を理解すりゃ人間なんざ怖いもんでもねぇ。食欲に負けて無駄に戦いさえしなけりゃいいってな」
「でも人間に対する殺意はありますよね?」
「そうだな。あの殺意ってのが心を乱されるから面倒で仕方ねぇ。だからこそこの地下水路ってのは都合が良いのさ」
「えっ?」
「言ったろ? ここは人間が滅多にうろつかないって。その上で人間の臭いがプンプンしてやがる。だから人間の臭いに誘われる俺たち魔物にとっちゃ奴らを肌で感じるから心地いい。それでもって変な殺意も沸かずに済む。餌も来る。最高だろうが」
「はぇ~~~……」
極めつけはチッパーさんの言う通り、理性を保とうとしている魔物がいる。
この事実に気付かされたのには目から鱗でしたね。
魔物でも充実した生活を送れば、人間への殺意を自ら断ち切れるんだって。
それってつまり人間に対する魔物なりの愛なんだって。
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