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第三章
第33話 チッパーさんとの出会いの始まり
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灰色ネズミ、チッパーさんが入り込んでいったのは屋根板と石壁の間。
本当に入れるのかと思えるくらい小さな隙間です。
しかしわたくしは必死にその隙間へ頭から突っ込み、強引に押し込みます。
すると不思議にもズルズルと入り込むことが出来ました。
「んん~~~! 狭い! 詰まってしまいそうですぅ~~~!」
「あんま声出すんじゃねぇ! 奴らに見つかっちまうぞ!」
「そ、そうでした!」
それでも進むことは出来ます。ほんとギリギリでしたけど!
そうしてまるで蛇のようにグイグイ進んでいるとまた別の声も聞こえてきました。
「いたか!?」
「いや! どこに行った!?」
「探せ、この辺りにまだ反応がある!」
どうやら兵士たちも大まかな位置しかわからない様子。
でもここに居続ければいずれ見つかってしまうでしょう。
そうも思うとボロボロの体にも力がこもります。
「とにかくネズミさんについていこう」と必死になれるほどに。
「こっちだ! 早く来やがれ!」
「は、はーい!」
ある程度抜けると少し余裕が出来て歩くことが出来るようになりました。
しかしそれと同時に酷い臭いまで漂ってきていて。
そうするとすぐ濁水の流れ落ちる斜め穴に遭遇しました。
この水が何なのかは想像もしたくありません。
少なくとも綺麗じゃないのは確かでしょう。
「ここを降りるぞ!」
「え!? こ、これをですか!? だ、だってこれ……」
「つべこべ言ってる暇はねぇ! 行くぞ!」
「ひいいいい!!?」
それでもチッパーさんは躊躇なく流水に乗って滑り落ちていきました。
途端に立ち上ってきた刺激臭に震えが止まりません。
でも。
「こうなったらやるしかありませぇん! ええーい!」
もうなりふりかまってはいられません。
覚悟を決めてお尻からダイブです。
「ひ、ひええええ!? どこまで行くのぉぉぉ!!?」
しかし通路はとても長かった。暗くて狭くて怖いのに。
まるで地の底まで続いているんじゃないかってくらいに。
しかし途端、すぽんっと浮遊感に苛まれます。
そしてすぐにドデンっとお尻へ痛みが走りました。
ウォータースライダーの終着点に到達です。
「痛っ!? え、あれ、ここって……」
辿り着いたのはとても広い水路でした。
それに滑らかな石造りからして明らかな人工建造物。
まさか街の地下にこんな立派な施設があるなんて、と初めは驚いたものです。
「ここまで来りゃ安全だ。人間どもも容易にゃ来ねぇさ」
チッパーさんもちゃんと待ってくれていました。
排水溝から身を避けると体をプルプルさせて水を弾いていて。
それなのでわたくしも同様にプルプル。
この時初めてやりましたが意外と出来るものでしたね。
だけど途端に足がガクリと崩れ、顎からドテンと床へ落ちてしました。
「あ、あれ……体が……」
「お、おい!?」
おそらく本当の限界が訪れたのでしょう。
でも不思議と不安は感じませんでした。
それはきっとチッパーさんが傍にいてくれたからだと思います。
今は一人じゃない、そう思わせてくれたおかげで安心して意識を手放せたのだと。
だからでしょう。
その直後、わたくしはとても良い夢を見ることが出来ました。
それは人間時代の、孤児院で暮らしていた頃の懐かしい思い出。
親代わりだった院長先生や家族の子どもたちとの楽しい日々。
そして朧気ながらも励まして貰ったことを覚えています。
もしかしたらわたくしの情けない姿を見て、いてもたってもいられなかったのかもしれませんね。
「――ハッ!?」
それでふと意識を取り戻すと、不思議と疲れが消えていました。
スッと立ち上がれるくらいには元気でしたね。
「おっ、やっと起きたか」
それと同時に傍から声が。
気付いて足元を見下ろすとチッパーさんがいました。
灰色一色の毛並みにとても短い尻尾。あと大きいお耳。
改めて見て、ネズミっていうよりもハムスターみたいだってここで初めて気付きましたね。
「も、もしかしてずっと傍にいてくれたのですか!?」
「あたぼうよぉ。何も知らん奴を連れてきて放っておくほど薄情じゃねぇやい」
そしてこの人情には心を打たれたものです。
当初は魔物への理解も薄かったので尚さらに。
「ありがとうございます。見守ってくれたのも、ここに導いてくれたのも。おかげでとても助かりました。心から感謝いたします」
だから相手が魔物でも素直に感謝の意を。
姿勢を正し、頭を下げて誠意を見せます。
でもチッパーさんは途端に顔をしかめてなんだか訝しげで。
「お前さん、なんだか人間っぽい奴だなぁ」
「そ、そうでしょうか?」
あまりにも鋭い意見にこちらが戸惑ってしまいましたね。
思わずそっぽ向きながら頭を掻いて誤魔化してしまうほどでした。
「ま、いいや。俺様の名はチッパー。何を隠そう、この地下水路のヌシよぉ」
そんな微妙な空気を払うかのような唐突なチッパーさんの自己紹介。
しかも地下水路のヌシという強烈インパクト。
これにはわたくしも目を輝かせずにはいられませんでしたねぇ。
自信満々にふんぞり返る姿がとてもとても頼もしく見えました。
「で、お前は?」
「え?」
しかしいざ自分の紹介となると思わず迷ってしまいます。
なにせワーキャットとしての自分が誰なのかなんて、どなたも決めてはくれませんでしたから。
「えっと、ネルルと申します」
そこでわたくしは敢えて転生前の名前をそのまま名乗ることにしたのです。
その方が個人的にも馴染み深いですからね。
「おう、よろしくなネルル」
「はいっ!」
「んじゃせっかくだし水路を案内してやるよぉ。ついてきな」
こんな何気ないやり取りでしたが、わたくしの心はそれだけでも満たされた気がしました。
元々お友達が少なかったのもあって、頼れる方が出来たのが嬉しくて。
それに、これからも一人で生きていかなければならないとも思っていたから。
だからこそ先を歩き始めたチッパーさんの後を陽気に追うことが出来たのです。
ついてこいって言われたのがエスコートみたいだって浮かれるがままに。
「あ、でも先に綺麗なお水がある所に連れてってもらえません? 体洗いたいので」
「んなの舐め取りゃいいじゃねぇか」
「そんなの絶対に嫌ですうううううう!!!!!!!!!」
ただし体の汚れだけはどうしても我慢できませんでした。
いくら魔物となっても許せないものは許せませんよねぇ……。
本当に入れるのかと思えるくらい小さな隙間です。
しかしわたくしは必死にその隙間へ頭から突っ込み、強引に押し込みます。
すると不思議にもズルズルと入り込むことが出来ました。
「んん~~~! 狭い! 詰まってしまいそうですぅ~~~!」
「あんま声出すんじゃねぇ! 奴らに見つかっちまうぞ!」
「そ、そうでした!」
それでも進むことは出来ます。ほんとギリギリでしたけど!
そうしてまるで蛇のようにグイグイ進んでいるとまた別の声も聞こえてきました。
「いたか!?」
「いや! どこに行った!?」
「探せ、この辺りにまだ反応がある!」
どうやら兵士たちも大まかな位置しかわからない様子。
でもここに居続ければいずれ見つかってしまうでしょう。
そうも思うとボロボロの体にも力がこもります。
「とにかくネズミさんについていこう」と必死になれるほどに。
「こっちだ! 早く来やがれ!」
「は、はーい!」
ある程度抜けると少し余裕が出来て歩くことが出来るようになりました。
しかしそれと同時に酷い臭いまで漂ってきていて。
そうするとすぐ濁水の流れ落ちる斜め穴に遭遇しました。
この水が何なのかは想像もしたくありません。
少なくとも綺麗じゃないのは確かでしょう。
「ここを降りるぞ!」
「え!? こ、これをですか!? だ、だってこれ……」
「つべこべ言ってる暇はねぇ! 行くぞ!」
「ひいいいい!!?」
それでもチッパーさんは躊躇なく流水に乗って滑り落ちていきました。
途端に立ち上ってきた刺激臭に震えが止まりません。
でも。
「こうなったらやるしかありませぇん! ええーい!」
もうなりふりかまってはいられません。
覚悟を決めてお尻からダイブです。
「ひ、ひええええ!? どこまで行くのぉぉぉ!!?」
しかし通路はとても長かった。暗くて狭くて怖いのに。
まるで地の底まで続いているんじゃないかってくらいに。
しかし途端、すぽんっと浮遊感に苛まれます。
そしてすぐにドデンっとお尻へ痛みが走りました。
ウォータースライダーの終着点に到達です。
「痛っ!? え、あれ、ここって……」
辿り着いたのはとても広い水路でした。
それに滑らかな石造りからして明らかな人工建造物。
まさか街の地下にこんな立派な施設があるなんて、と初めは驚いたものです。
「ここまで来りゃ安全だ。人間どもも容易にゃ来ねぇさ」
チッパーさんもちゃんと待ってくれていました。
排水溝から身を避けると体をプルプルさせて水を弾いていて。
それなのでわたくしも同様にプルプル。
この時初めてやりましたが意外と出来るものでしたね。
だけど途端に足がガクリと崩れ、顎からドテンと床へ落ちてしました。
「あ、あれ……体が……」
「お、おい!?」
おそらく本当の限界が訪れたのでしょう。
でも不思議と不安は感じませんでした。
それはきっとチッパーさんが傍にいてくれたからだと思います。
今は一人じゃない、そう思わせてくれたおかげで安心して意識を手放せたのだと。
だからでしょう。
その直後、わたくしはとても良い夢を見ることが出来ました。
それは人間時代の、孤児院で暮らしていた頃の懐かしい思い出。
親代わりだった院長先生や家族の子どもたちとの楽しい日々。
そして朧気ながらも励まして貰ったことを覚えています。
もしかしたらわたくしの情けない姿を見て、いてもたってもいられなかったのかもしれませんね。
「――ハッ!?」
それでふと意識を取り戻すと、不思議と疲れが消えていました。
スッと立ち上がれるくらいには元気でしたね。
「おっ、やっと起きたか」
それと同時に傍から声が。
気付いて足元を見下ろすとチッパーさんがいました。
灰色一色の毛並みにとても短い尻尾。あと大きいお耳。
改めて見て、ネズミっていうよりもハムスターみたいだってここで初めて気付きましたね。
「も、もしかしてずっと傍にいてくれたのですか!?」
「あたぼうよぉ。何も知らん奴を連れてきて放っておくほど薄情じゃねぇやい」
そしてこの人情には心を打たれたものです。
当初は魔物への理解も薄かったので尚さらに。
「ありがとうございます。見守ってくれたのも、ここに導いてくれたのも。おかげでとても助かりました。心から感謝いたします」
だから相手が魔物でも素直に感謝の意を。
姿勢を正し、頭を下げて誠意を見せます。
でもチッパーさんは途端に顔をしかめてなんだか訝しげで。
「お前さん、なんだか人間っぽい奴だなぁ」
「そ、そうでしょうか?」
あまりにも鋭い意見にこちらが戸惑ってしまいましたね。
思わずそっぽ向きながら頭を掻いて誤魔化してしまうほどでした。
「ま、いいや。俺様の名はチッパー。何を隠そう、この地下水路のヌシよぉ」
そんな微妙な空気を払うかのような唐突なチッパーさんの自己紹介。
しかも地下水路のヌシという強烈インパクト。
これにはわたくしも目を輝かせずにはいられませんでしたねぇ。
自信満々にふんぞり返る姿がとてもとても頼もしく見えました。
「で、お前は?」
「え?」
しかしいざ自分の紹介となると思わず迷ってしまいます。
なにせワーキャットとしての自分が誰なのかなんて、どなたも決めてはくれませんでしたから。
「えっと、ネルルと申します」
そこでわたくしは敢えて転生前の名前をそのまま名乗ることにしたのです。
その方が個人的にも馴染み深いですからね。
「おう、よろしくなネルル」
「はいっ!」
「んじゃせっかくだし水路を案内してやるよぉ。ついてきな」
こんな何気ないやり取りでしたが、わたくしの心はそれだけでも満たされた気がしました。
元々お友達が少なかったのもあって、頼れる方が出来たのが嬉しくて。
それに、これからも一人で生きていかなければならないとも思っていたから。
だからこそ先を歩き始めたチッパーさんの後を陽気に追うことが出来たのです。
ついてこいって言われたのがエスコートみたいだって浮かれるがままに。
「あ、でも先に綺麗なお水がある所に連れてってもらえません? 体洗いたいので」
「んなの舐め取りゃいいじゃねぇか」
「そんなの絶対に嫌ですうううううう!!!!!!!!!」
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