上 下
27 / 86
第二章

第27話 改めて問いましょう

しおりを挟む
「すんまっせェーんッ!!! 流されちゃったんですホントすんまっせェェェーーーんッ!」

 パピさんの全力土下座をまた見られるとは思いもしませんでした。
 今度はミネッタさん込みにつき、彼女もその姿を見てドン引きです。

「もう……パピさんはすぐそうやって謝れば済むと思ってぇ」

「そ、そうっすよね、そう簡単に済む訳ありませんよね、ハハ」

 ああ、もう声が震えています。
 もう亡者のような顔つきで影を背負っていますね。
 そろそろ命を覚悟しているのかもしれません。

 ですが。

「何を謝る必要があるというのです?」

「――えっ?」

 今となってはまったくもって無意味な行為です。
 少なくとも今この場で彼女の謝罪を必要としている方はいませんから。

「そうだぜパピ。俺らはわかってんだからよ」

「屋根板に紛れてガルーダをだまし討ち、カッコ良かったんだナー」

「ぐもーん」

 わたくしのみならず、チッパーさんもツブレさんもずっと彼の行いを間近で見ていましたから。
 身を張ってガルーダさんに抵抗する姿には実に惚れ惚れしましたね。
 まぁお二人ともちょっと勘違いしている節はありますけど。

「そういうことです。わたくしたちはあの時のパピさんの言動を今でも覚えています。あんなことがあってどうして責められましょうか」

「あ、姉御……」

「ありがとうございます、パピさん。貴方のおかげでわたくしたちは助かりました」

「ふぐっ、ふえええ……よがっだ、よがっだよぉ~~~!」

「あらあら、全部言い切る前に泣いちゃってもぉ」

 もう感極まり過ぎてしまったのでしょうね。
 まるで子どものようにブワワッと泣き出してしまいました。
 これはしばらく止まりそうにありません。

 だからギュッと抱きしめて頭をそっと撫でて差し上げます。
 思う存分泣いて、吐き出して欲しいから。

 するとチッパーさんがいつの間にか彼女の肩に乗っていて手でポンポン。
 ツブレさんもそっと身を寄せてくれています。
 ミネッタさんも少し離れてニッコリしてくれていました。
 グモンさんは……蝶々を追いかけているので放っておきましょう。

 皆思いやりの深い素敵な方々。
 こんな皆とお友達になれてわたくしは本当に幸せです。

 ……だからこそ。

「パピさん、もう一度聞いてもよろしいでしょうか?」

「う、うん"」

「もしパピさんがもう人を襲わずに皆と仲良くできるというのなら、わたくしはまた一度貴方をお仲間に勧誘したく思います」

「え"っ!?」

「あ、ついでにわたくしを神格化するのも無しで。如何でしょう?」

 しかし返事はすぐには返ってきません。
 だからわたくしたちは静かに答えを待ちます。

「い、いいの"? ボク、ごごにいでいい? 取柄なんで変化魔術ぐらいじがないのに、同等サイズ以下にじが変身出来ないのに」

「ふふっ、もうお忘れですか? その変身能力に助けられたってことを」

「う、ううう……」

「自信を持って。貴方はもう立派な一人前のハーピーなのですよ」

「あ、ああ、うううう! 一緒にいだい! 一緒に暮らじだいよぉおぉおぉ~~~!」

「……ようこそわたくしたちの居場所へ。パピさんを歓迎しますっ」

「ぶわああああ~~~~~~んっっっ!!!!!」

 今のパピさんはもう疑いようもありません。
 間違いなくわたくしたちのお友達です。

 今度はきちんと皆のことも認めてくれる、ね。

 そう信じたからこそ、わたくしはチッパーさんたちにパピさんを任せることが出来ました。
 今ならきっとわだかまり無くパピさんも話を聞いてくれると思うから。

 ……本当なら彼女ともう少し時間をかけて話したかった。
 ですが、今はそうも言ってられません。
 
 今はまずジェイルさんに事の経緯をしっかり伝えなければならない。
 そのためにもミネッタさんと共に下山する必要があります。

 きっと彼も村で首を長くして待っていることでしょうから。

「もうすぐ暗くなりますし、急いで下山しましょうか」

「うん、道のりはもう覚えてるし、最短距離で行こう! もう気兼ねする必要もないと思うからさ!」

 そう思って急いでいたこともあってか、足取りが普段よりも速かったようです。
 そのせいで逆にミネッタさんを息切れさせてしまってちょっと反省。
 
 しかし休憩を挟みつつ進み、暗くなった頃になんとか村へと到着しました。

 ただここからは人の目があります。
 暗くなったとはいえ、見つかったらタダでは済まされません。

「ここからは私に任せて! へいっ!」

「ヒョッ」

 そう言われるがまま立っていると腰を掴まれ、ズボッと彼女の服の中に押し込まれました。

 でもこれはもう見なくてもわかります。怪しさ満点ですね。
 なんたって足と尻尾がスースーするので出っぱなしなのでしょうし。
 視界が遮られたまま歩き始めましたけど大丈夫でしょうか。

「おやミネッタちゃん……え?」

「あ、どーもどーもステラさん!」

「そのお腹、妊――あ、ああ~例の喋る魔物ちゃんね。おばちゃん何も言わないでおくわ」

 全然大丈夫じゃありませんでした。
 しかもどうやらわたくしのこともすっかり周知されているようです。
 怖がられていないようなのでそれだけが救いですね。

「着いたーここが私の家だよ! もう二人で住むには大きすぎるけどね」

 それに意外と出口から近い!
 これは隠れる意味が全く無かったのでは!?

「お嬢様お帰りなさいま――ハッ!」

 さらにミネッタさんのお腹からスポッと脱出すると、目前には知らない女性が。
 眼鏡をかけたメイドさんですね。例の使用人さんでしょうか。

「……」

「……」

「……カワッ」

 ……そうですか。
 眼鏡をクイッとしながら真顔で言われても感慨が湧かないものですねー。

「紹介するね。ウチの使用人のシパリさん。……とはいってもこれからも雇えるかどうかわからないけどさ」

「どうもシパリェッテ=グレビュールです。それとご心配なさらずお嬢様。ワタクシ一族、弁護士を通しましてシング家先々代より充分過ぎる報酬を頂き続けております故。よってあと五〇年ほどは御付き致せます」

「あ、そーなんだ。お父さんそんなことも教えてくれなかったや」

 実はミネッタさんの家系、すごいお金持ち一族だったのでは。
 しかもその財産で使用人を雇うというのも妙手だったと思います。
 
 こうして財産を残そうとしなかった辺り、もしかしたら御祖父様は息子さんの性格をよくご存じだったのかもしれません。

「なお先代は兄上様ともども深い罪を犯したため、シング家訓戒に則って自動的にミネッタ様へ家督が継がれることとなります」

「あーやっぱりそうなっちゃうんだ」

「はい。とはいえ今まで通りですから気にする必要はないかと」

「そっか。それじゃシパリ、ちょっとジェイル総隊長さんを連れてきてもらっていい?」

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

 シパリさん、不愛想にも見えて他家の家訓も把握している所がマメですね。

 そして仕事も早い。
 言い切る前に行動を始めてすぐに外へ消えてしまいました。

 そうするとミネッタさんも疲れた体を伸ばしつつ家の奥へ。

「んん~~~! じゃあネルルちゃん、ちょっとくつろいでていいよ。あ、何か食べる? もしかしたらシパリが作り置きしたお菓子か何かあるかも」

「え、いいのですかっ!!!?? じゅるり……!」

 な、なんということでしょう!
 これは思ってもみなかった超☆絶☆幸☆運!!!!!
 こ、これはチッパーさんたちには悪いですが、一足お先に料理体験させて頂きましょうかねぇ~~~!

 ううーん元甘党のわたくし、とぉっても楽しみですぅーーーーーー!

 そうワクワクソワソワしていたら早くもバターの甘い香りが漂って参りました!
 そんな久しぶりの香りを鼻を広げて吸い込んでいたのはもはや言うまでもありません。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...