上 下
25 / 65
第二章

第25話 人間対魔物の戦闘勃発です!

しおりを挟む
「術者に手を出させるな! 前衛部隊は死ぬ気で守れぇ!」

「幻術で翻弄しろぉ! 一匹残らず駆逐したれやぁ!」

 歩兵が走って低空の相手に切りかかり、、ハーピーが術法で応戦。
 突如として始まった戦いにより、わたくしたちの土地がめちゃくちゃになっていきます。

 キャベツや大根は蹴り割られて。
 トマトの苗が幻術で変質して触手を伸ばし始めて。
 麦の穂は炎弾で真っ黒に、風魔法で灰すら空へ。

 ビッグプリンさんもハーピーたちに八つ裂きにされて見るも無残な姿に。
 もうチッパーさんの悲鳴は聞こえません。全身真っ白になっていますけど。

「ギャッギャギャギャ!!!」

「「「っひいいいいいい!!!?」」」

 さらにはハーピーがお家に入ろうと飛び込んできます。
 ですがまもなく兵士に切り飛ばされて動かなくなってしまいました。

 さらにその直後、矢の先が屋根から「ズコココッ!」と突き出てきて。

「「「ひょえええええええ!!!!???」」」

 度重なる攻撃で防御壁が弱まっていたようです。
 再びかけるも、また薄れるのはもはや時間の問題でしょう。

「も、もうネルルの力で全部ドババーッて出来ないのかよぉ!?」

「そうしたいのはやまやまですが、そうもいかないんですぅ~~~!」

 そう、こればかりは無理なのです。
 魔物に対して有効な聖力も、人間相手にはほぼ無力。
 今だとせいぜい表皮を焼くのが限度でしょう。

 それに見境なく攻撃すれば反撃されかねません。
 それこそ本末転倒です。

 だからもう見守る以外に余地はありません。
 その上で双方がわたくしたちを見逃してくれるのを祈るしか。

 ――ただ、激戦が徐々に収まりつつあります。
 見れば大量のハーピーたちが地面に転がっていました。

 一方の人間はほぼ被害が無さそうです。
 どうやら治癒術士もいるらしく、ケガを負っても仲間が助けている様子。

 明らかな人間側の優勢。
 空を飛ぶハーピー側の数が激減しています。
 やはり武装と戦術を有している方が強かったということでしょう。

「……おや?」

 しかしおかしいですね。
 ガルーダさんの姿が見当たりません。
 さっきまで咆え散らかしていたのに。逃げたのでしょうか。

 ですがそう思っていた矢先、突如として屋根板が吹き飛びました。

「ッシャラアアアア!!!!!」

「「「!!?」」」

 なんとガルーダさんが自ら屋根板を蹴り壊してきたのです!
 さすが上位種、その攻撃力に防御壁も保たなかったのでしょう!

 今掴まれた屋根板すら握り潰されそうになるほどに脚力が強い!

「よくも謀ってくれたなぁ!? こうなったらおどれらだけは仕留めたらァ! 往生せぇやあああ!!!!!」

「「「ひ、ひええええええ!!!!????」」」

 も、もう守る壁はありません!
 それに生半可な力では守りきれません!

 これでは、もう――

「や、やめろぉーーーーーー!!!!!」

 ですがそう覚悟した瞬間、ガルーダさんの右脚が突如として弾け飛びました。
 彼の掴んでいた屋根板がいきなりパピさんへと変わったことによって。 

「ギッ!??」

 変化術は形状が変わると同時に質量も変わる。
 その変化も時にこうして物理的な影響を及ぼすことがあります。

 それが小さい物からの変化解除。
 その特性はガルーダさんの脚を吹き飛ばすほどにも力強かったのでしょう。

「ぐぅえああああああ!!!??? ワシの、ワシの右脚がああああああ!!!!!」

「ネ、ネルルの姉御、はボ、ボクが守る!」

「て、てめぇ……!? この期に及んで裏切るたぁ!?」

 なんにせよパピさんが体を張ってわたくしたちを守ってくれた。
 こんなに嬉しいことはありませんよね。

「この野郎ぶっ殺して――」

「おっとぉお前さんどこ狙ってるんだいッ!」

「――ッ!? チィ!!!」

 しかもさらに斬撃筋が頭上に走り、パピさんの脇スレスレを通り抜けてガルーダさんだけを追い払います。
 続いて人の姿が一人、迷いなく追い駆けていました。

 その動きは並みの人間とはまるで違う。
 常人ならぬ俊足。さらに高い跳躍力と大気を裂くほどの斬撃力。
 高く飛ぶガルーダさんを跳ね追いながらも、すれ違ったハーピーすら抵抗なく切り裂くほどに強力無比です。

「だが人間如きがこのワシに届くものかぁ!!」

「あ、あらぁ~~~!?」

「総隊長殿ォーーー!?」

 あ、でもさすがに限界はあるみたい。
 人間側――総隊長さんの跳躍の勢いがなくなって真っ逆さまに落ちていく。

「くたばれ人間がぁ!」

 ですがそんな相手に対して放たれるガルーダさんの追撃。
 羽根弾が落ちていく総隊長さんを襲います。

「おっとぉ、甘いネェ」

 そんな矢弾も総隊長さんの掌から放たれた術壁によって軽く弾かれました。
 地面にもつま先で「ストン」と軽々着地を果たし、直後には疾風のような速さで走り抜けていきます。
 追撃弾もこれでは当たるはずもありません。

 総隊長さんはその間に他所から再び跳ねてガルーダさんを襲います。
 それもますます高く飛んで。鎧を着込んでいるというのに限界が知れません。

「こ、こいつううう!!?」

 届かずに落ちようが、今度は火炎弾を放って追撃までしていて。
 ガルーダさんも逃げの一手で、攻撃する機会さえ奪われているようです。

「すげえなあの人間、尋常じゃねぇ!」

「あ、あんなのに勝てる気しないんだナー」

「も、もしかして組長が負けたら次はボクたちの番なんじゃ……」

 皆さんもあの人の戦いっぷりを見て戦々恐々としています。
 確かにあの能力がこちらに向けられたら怖いですよね。

 でも。

「大丈夫です。それはきっと無いって信じていますから」

「「「えっ?」」」

 この時、わたくしはふと壁の隙間から見えた光景につい安堵していたのです。

 それは人間側の集団の中にあのミネッタさんの姿があったから。
 彼女が連れてきた兵士たちならきっと信じてもいいのだと。
 あと信じてもいい理由はありますが。

「おいおい、逃げてたってどうしようもないでしょうよぉ!」

「あ、あら?」

 そう話している間にもう状況が変わっていたご様子。
 ガルーダさんが大空に逃げて降りてこないのです。

「ハァ、ハァ、馬鹿にしくさってからに、人間如きがぁ……!」

 耳を澄ますとこう聞こえました。だいぶ追い詰められているようです。
 でもなんでしょう、攻撃もしなくなりましたが。

「……クックック!」

 変ですね、笑っているのでしょうか。
 地上で見上げる総隊長さんも気付いたようで首を傾げています。

「よかろう、ならば貴様にワシの真の力を見せてやろう!」

 あ、いけません、このパターンはザバンと同じです。
 魔族の力を取り込もうとしているのかもしれません!

「今こそ偉大なるハルピュイアの女王メリフェジスの意志をこの身に宿す時ィ!」

 やっぱり!
 このまま放っておくと厄介なことになりかねません。
 仕方ありません、今の今までに溜め込んでいた力をこっそり使いましょう。

「皆さん、ちょっとそこ動かないでくださいねー」

「お、おう?」

「集中集中。そして力を定め、収束、収束ぅ~~~……」

 溜め込んでいた聖力を右指先に集約します。
 その指の向く先はもちろんガルーダさん。

 イメージは絹糸。
 誰にも見えないように、感知できないように、聴こえないように。

 ――それでいて全てを貫くように。

 そうして瞬時に射出。
 放たれた聖力は誰の目にも追われることはありませんでした。

 ほんの微かな筋が刹那だけ空に走り、ガルーダさんの頭を射貫くだけで。

「――あろッ!?」

 その間もなくにガルーダさんは力も無く地面へ墜落。
 総隊長さんもその様子を見て、やれやれと呆れつつもさっくりトドメを刺していて。

 すると直後、周囲から歓声が上がります。
 人間側が勝利を確信したのです。

 残党のハーピーはこうなると手出しも出来ずに逃げていくばかり。
 こんな結果となってしまったのはとても残念ですが、ハッピー組とやらはこれでもうお取り潰し確定でしょう。

 はてさて、ここからが問題ですね。
 どうやってこの場を切り抜けたらいいものか。

 近づいてくる総隊長さんたちを前に、ただただ顎に手を充てて悩むばかりです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

処理中です...