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第二章
第19話 一つの勘違いから始まったすれ違い
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とても危ない所だった。
あと数秒遅れていたら手遅れになっていたかもしれません。
不穏な気配を察して急ぎ戻ったのは正解でした。
わたくしが立ち塞がったことでパピさんは戦意を収めてくれます。
ですが彼女自身はまだ納得がいかない御様子。
「姉御!? なんでボクの邪魔をするの!? 人間を守るアイツラは魔物失格だし、人間は殺さなきゃ!」
……魔物ですからこの反応は当然でしょう。
こんなことになるならこちらの信念を先に伝えておくべきでした。
しかし、もしまだ遅くないのならば。
「それはわたくしが争いを好まないからです」
「なっ!?」
「わたくしたちが望むのは共存。支配だとか力関係だとかにこだわらない、お友達同士で支え合う生活です。そしてそれは人間に対しても例外ではありません」
「そ、そんなバカな!? 人間と共存……!?」
パピさんが狼狽え、たじろいで身を引かせていきます。
勘違いしていたことに気付いたのかもしれません。
「そんな信念の下でパピさんも一緒に暮らして欲しい、そう願って勧誘したつもりでした。ですがそう伝えておかなかったのはわたくしの落ち度です」
「うう……」
「それなので今のパピさんの行為に責はありません。わたくしが説明を怠ったがために起こった出来事なのですから。本当に申し訳ありません」
こう伝えると、自身の浅はかさへの自戒を含めてペコリと頭を下げます。
ですが頭を上げると、パピさんの顔がまるで汚物を見るような忌避の表情に変わっていました。
「に、人間と仲良くだなんて、どうかしてる!」
さらには声を荒げて首を振り、翼で払って忌避感を示してくる。
まさに人間が害虫を見て嫌がる様そのものです。
「だ、大体、人間を襲わないなんて魔物として終わってるじゃないか!」
「パピさん……」
「そうだわかった、わかったぞ! 姉御は人間を食べたことが無いんだな!」
「――ッ!?」
しかし途端に放たれた一言に思わず感情が揺さぶられました。。
それは動揺。
今のがわたくしが唯一触れられたくもない話題だったからこそ。
「だから味も知らないんでしょ!? 一度食べてみなよ、絶対クセになるからさぁ!」
「お、おいパピ!?」
「そうすればボクの言い分だってわかってくれ――」
「そんな訳が無いでしょうッッッ!!!!!」
「「「――ッ!!?」」」
……つい怒鳴ってしまいました。
でも、気持ちが止められない。止まらない。
人間の味を知らないなんて言われてしまったら、もう止められる訳が無い!
「……生まれて間もない頃、わたくしは一度人間を食したことがあります。生まれた直後から肉を食せるワーキャットの子だからこそです」
「ネルル、お前……」
「だからこそおぞましかった。ついさっきまで恐れて悲鳴を上げていた人間の肉を食べろと母親から強制されたのですから……!」
あの時は親に棄てられる可能性があったから仕方がなかった。
すでに体が出来ていたとはいえ、まだ生まれたてでロクに動けもしなかったから。
生きるためには、仕方なかったのです……!
「そしてその味が甘美だったこともしっかり覚えています。ですがあれは禁断の味。あの味に依存してしまえばもう野獣から離れられなくなってしまう!」
「あ、ああ……」
「だから絶対にもう口にしてはいけないと決めたのです! それなのに事情も知りもせず『食べればわかる』だなんて……そんな味、わかりたくもありませんっ!」
「……」
こう厳しく反論するとパピさんはとうとう俯いて黙りこくってしまいました。
少しは反省の念があるのかもしれません。
ですが強情な所は変わりないようで、顎を奮わせて悔しそうにしていて。
「そ、それならもういいっ! もうボクは人間の味も理解しようとしないアンタになんて頼らないんだからあっ!」
やはり受け入れられなかったようです。
とうとうパピさんが空に飛んで去っていってしまいました。
わたくしの対応下手な所が悔やまれます。
聖女としては優秀でも、人としてはまだまだ未熟ですね。はぁ……。
「すまねぇネルル、俺らがもう少し頼りになればよかったんだが」
「ごめんなんだナー」
「ぐもーん」
「いえ、皆さんはよくやってくれたと思います。これは単にわたくしの立ち回りが悪かったのが原因ですから」
ツブレさんのような純粋な方がすぐにお友達になれたので、つい調子に乗っていたのかもしれません。
本来ならパピさんのように否定されてもおかしくないのに。
深く反省しないとなりませんね。
しかしそのことはひとまず置いておきましょう。
「さてと、お騒がせして申し訳ありませんでした」
「しゃ、喋った!?」
「本当に魔物が!?」
尻餅を突いたままだった人間の御三方にまずは謝罪を。
招かれざる客とはいえご迷惑をおかけしてしまったのですから。
それにしたって彼らはどうしてこんな場所に来たのでしょうか?
なんとなく雰囲気で察しますが、良くない感じはしますねぇ。
さて、一体どんな問題を抱えて来たのやら。
そう不安にも思うと溜息をこぼさずにはいられませんでした。
あと数秒遅れていたら手遅れになっていたかもしれません。
不穏な気配を察して急ぎ戻ったのは正解でした。
わたくしが立ち塞がったことでパピさんは戦意を収めてくれます。
ですが彼女自身はまだ納得がいかない御様子。
「姉御!? なんでボクの邪魔をするの!? 人間を守るアイツラは魔物失格だし、人間は殺さなきゃ!」
……魔物ですからこの反応は当然でしょう。
こんなことになるならこちらの信念を先に伝えておくべきでした。
しかし、もしまだ遅くないのならば。
「それはわたくしが争いを好まないからです」
「なっ!?」
「わたくしたちが望むのは共存。支配だとか力関係だとかにこだわらない、お友達同士で支え合う生活です。そしてそれは人間に対しても例外ではありません」
「そ、そんなバカな!? 人間と共存……!?」
パピさんが狼狽え、たじろいで身を引かせていきます。
勘違いしていたことに気付いたのかもしれません。
「そんな信念の下でパピさんも一緒に暮らして欲しい、そう願って勧誘したつもりでした。ですがそう伝えておかなかったのはわたくしの落ち度です」
「うう……」
「それなので今のパピさんの行為に責はありません。わたくしが説明を怠ったがために起こった出来事なのですから。本当に申し訳ありません」
こう伝えると、自身の浅はかさへの自戒を含めてペコリと頭を下げます。
ですが頭を上げると、パピさんの顔がまるで汚物を見るような忌避の表情に変わっていました。
「に、人間と仲良くだなんて、どうかしてる!」
さらには声を荒げて首を振り、翼で払って忌避感を示してくる。
まさに人間が害虫を見て嫌がる様そのものです。
「だ、大体、人間を襲わないなんて魔物として終わってるじゃないか!」
「パピさん……」
「そうだわかった、わかったぞ! 姉御は人間を食べたことが無いんだな!」
「――ッ!?」
しかし途端に放たれた一言に思わず感情が揺さぶられました。。
それは動揺。
今のがわたくしが唯一触れられたくもない話題だったからこそ。
「だから味も知らないんでしょ!? 一度食べてみなよ、絶対クセになるからさぁ!」
「お、おいパピ!?」
「そうすればボクの言い分だってわかってくれ――」
「そんな訳が無いでしょうッッッ!!!!!」
「「「――ッ!!?」」」
……つい怒鳴ってしまいました。
でも、気持ちが止められない。止まらない。
人間の味を知らないなんて言われてしまったら、もう止められる訳が無い!
「……生まれて間もない頃、わたくしは一度人間を食したことがあります。生まれた直後から肉を食せるワーキャットの子だからこそです」
「ネルル、お前……」
「だからこそおぞましかった。ついさっきまで恐れて悲鳴を上げていた人間の肉を食べろと母親から強制されたのですから……!」
あの時は親に棄てられる可能性があったから仕方がなかった。
すでに体が出来ていたとはいえ、まだ生まれたてでロクに動けもしなかったから。
生きるためには、仕方なかったのです……!
「そしてその味が甘美だったこともしっかり覚えています。ですがあれは禁断の味。あの味に依存してしまえばもう野獣から離れられなくなってしまう!」
「あ、ああ……」
「だから絶対にもう口にしてはいけないと決めたのです! それなのに事情も知りもせず『食べればわかる』だなんて……そんな味、わかりたくもありませんっ!」
「……」
こう厳しく反論するとパピさんはとうとう俯いて黙りこくってしまいました。
少しは反省の念があるのかもしれません。
ですが強情な所は変わりないようで、顎を奮わせて悔しそうにしていて。
「そ、それならもういいっ! もうボクは人間の味も理解しようとしないアンタになんて頼らないんだからあっ!」
やはり受け入れられなかったようです。
とうとうパピさんが空に飛んで去っていってしまいました。
わたくしの対応下手な所が悔やまれます。
聖女としては優秀でも、人としてはまだまだ未熟ですね。はぁ……。
「すまねぇネルル、俺らがもう少し頼りになればよかったんだが」
「ごめんなんだナー」
「ぐもーん」
「いえ、皆さんはよくやってくれたと思います。これは単にわたくしの立ち回りが悪かったのが原因ですから」
ツブレさんのような純粋な方がすぐにお友達になれたので、つい調子に乗っていたのかもしれません。
本来ならパピさんのように否定されてもおかしくないのに。
深く反省しないとなりませんね。
しかしそのことはひとまず置いておきましょう。
「さてと、お騒がせして申し訳ありませんでした」
「しゃ、喋った!?」
「本当に魔物が!?」
尻餅を突いたままだった人間の御三方にまずは謝罪を。
招かれざる客とはいえご迷惑をおかけしてしまったのですから。
それにしたって彼らはどうしてこんな場所に来たのでしょうか?
なんとなく雰囲気で察しますが、良くない感じはしますねぇ。
さて、一体どんな問題を抱えて来たのやら。
そう不安にも思うと溜息をこぼさずにはいられませんでした。
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