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第二章
第17話 次なる来訪者は
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「すんまっせェーんッ!!! 出来心だったんですホントすんまっせェェェーーーんッ!」
ハーピーさん、目を覚ました途端にいきなり土下座をし始めました。
額を地面に叩きつけてグリグリと。よほど堪えたみたいですねぇ。
まぁそもそも最初から怪しさ大爆発でしたし、騙そうとしたことは全く気にしていませんが。
だいたい、霊鳥なのに魔物の言葉がわかる時点でおかしいのです。
うっかり「二百年の間に鞍替えでもしたのかな?」とか思っちゃいましたけど。
「それで、なんでこんなことをしたのですか?」
「えっとぉ、お腹がすごく空いててぇ。それで獲物を探してたらあの人形見つけちゃってぇ。それで『おっ、美味しそうな獲物がいるじゃーん!』ってなってぇ~……」
「で?」
「ピッ!? あ、そ、それであの姿に変身して脅せば大人しく食べられてくれるかなぁって……はい、すいません」
はぁ、まったく。反省しているのかしていないのか。
どこかお調子者の香りが漂ってきていますね。
元の容姿は可愛らしい女の子なのですが、ニタニタすると途端に表情筋が浮き出て崩れてしまっています。必死だなぁ。
「まぁ確かに人間と見間違うのはわかりますけどね」
「やっぱり!? そ、そうっすよねー!」
「だからといって壊していい理由にはなりませんけど?」
「はい、本当に申し訳ありませんでした……」
ただ表情がコロコロ変わるのでなんか面白いですね、この子。
今では土下座しながら「この世の終わり」みたいな悲壮感で影を背負っていますし。
向こうで溶けているチッパーさんには悪いですが、反省しているようなので許して差し上げることにしましょう。
「よろしい。ではビッグプリンさんの件はひとまず置いておくとします」
「ホッ……」
「ところで貴方は一体どこから来たのですか? この辺りにハーピーはいなかったはずなのですが」
「あっ、そうっした! ご挨拶がまだでございましたね!」
こう問い質すと土下座から一転、ガニ股で座り込み。
右翼を足元に添え、左翼を腰裏に回しては下唇をキュッと尖らせます。
「あっし、産まれも育ちもぉ二つ向こうの山! その一帯をぉ仕切るハーピー一族、〝羽頂天組〟の名も無き若造の鉄砲玉にぃございやす!」
な、なんと任侠風……!?
何故かハーピーが東方ギャングみたいな挨拶をしています!
この二百年でいったいどんな文化を学んできたのです!?
「……と、いうのもつい先ほどまでの話でして」
「おや?」
「いやぁ~ボク何するにも失敗ばかりでしてねぇ! ――で今朝もおっちょこちょいな所が足を引っ張っちゃって仲間を怒らせちゃいまして。それでとうとう組からの破門を言い渡されたって訳です、ハイ……」
うん、想像に容易い話ですね。
彼女も隠す気が無いのか照れくさそうに頭を掻いています。
「それで仕方なくここまで流れてきたって話なんですよぉ。風の噂だと生意気なクソ狼どもが蹴散らされていなくなったって話じゃないですかぁ」
あらま、もうそんな噂が立っているのですね。
しかしよくツブレさんの前でそう口出せるものです。
まぁ当の本人はまったく気にも留めずにいつも通り目を丸くしていますけど。
「ならボクの新しいユートピアを作るならこの山がいいかなって」
「それ、ブルーイッシュウルフを蹴散らしたっていう方がまだいるとか考えなかったのです?」
「……あ、あはは」
はぁ、もう呆れて物も言えません。
全部早とちりでビッグプリンさんが犠牲になったなんて、もう不幸以外の何物でもありませんね。
ただ、帰る所が無いのは少し可哀そうな気もします。
お腹も空いているみたいですし。
人間時代では貧しい孤児院育ちだったこともあって、飢餓に苦しむ人たちを多く見てきたという過去もあります。
だからこそ困窮した方を出来る限り救いたいという想いも強い。
それなら、見捨てるなんてとても出来ませんよね。
「……いいでしょう。それでしたらわたくしたちと一緒に暮らしませんか?」
「えっ!?」
「ただしもちろんちゃんと役割をもって仕事して頂きます。ビッグプリンさん亡き今、誰かが畑の見張りをしなければなりませんからね」
「い、いいの!? ボク、ここにいていいの!? 取柄なんて変化魔術くらいしかないのに!? 同等サイズ以下にしか変身出来ないのに!?」
「ええ。貴方がそれで良ければですけどね」
あらあら、目を丸くして震えちゃって。
本当に信じられないって顔をしています。
もしかしたらそのハッピー組という所でもずっと孤独だったのかもしれません。
「や、やった……やっとボクにも居場所が……う、嬉しいっ! やったぁーーー!」
喜ぶあまり翼を掲げてピョンピョンと飛び跳ねていらっしゃいます。
よほど嬉しかったのでしょうね。ふふっ!
「でも今言ったことは忘れないでくださいね。皆で協力しあって生活しましょう」
「はいはーい! ボクがんばりまーすっ!」
またチッパーさんやツブレさんにも相談せずに決めてしまいましたが、お二人もきっとわかってくれるでしょう。
後は彼が変な失敗さえしなければ、ですけども。
「あ、そうだ。そういえばお名前が無いのでしたね」
「うん?」
「でしたら〝パピ〟は如何でしょう? ネーミングセンスに自信はありませんが」
「ボクの、名前……名前! パピ!」
ちょっと不安ではありましたが、本人は大喜びだったようです。
途端に飛び上がり、上空をぐるぐると羽ばたき回り始めました。
やはり魔物にとって名前は特別な意味があるようですね。
人間側から見ても〝ネームドモンスター〟という特殊カテゴリにも分類されるくらいですし。
その点、出会った時にはもう名前があったチッパーさんは本当の意味で特別だったのでしょう。
そんな気付きに想いを馳せつつ、楽しそうに空を舞うパピさんを目で追います。
どうか彼女の新しい人生が今度こそ成功しますように、と心にそっと願いながら。
ハーピーさん、目を覚ました途端にいきなり土下座をし始めました。
額を地面に叩きつけてグリグリと。よほど堪えたみたいですねぇ。
まぁそもそも最初から怪しさ大爆発でしたし、騙そうとしたことは全く気にしていませんが。
だいたい、霊鳥なのに魔物の言葉がわかる時点でおかしいのです。
うっかり「二百年の間に鞍替えでもしたのかな?」とか思っちゃいましたけど。
「それで、なんでこんなことをしたのですか?」
「えっとぉ、お腹がすごく空いててぇ。それで獲物を探してたらあの人形見つけちゃってぇ。それで『おっ、美味しそうな獲物がいるじゃーん!』ってなってぇ~……」
「で?」
「ピッ!? あ、そ、それであの姿に変身して脅せば大人しく食べられてくれるかなぁって……はい、すいません」
はぁ、まったく。反省しているのかしていないのか。
どこかお調子者の香りが漂ってきていますね。
元の容姿は可愛らしい女の子なのですが、ニタニタすると途端に表情筋が浮き出て崩れてしまっています。必死だなぁ。
「まぁ確かに人間と見間違うのはわかりますけどね」
「やっぱり!? そ、そうっすよねー!」
「だからといって壊していい理由にはなりませんけど?」
「はい、本当に申し訳ありませんでした……」
ただ表情がコロコロ変わるのでなんか面白いですね、この子。
今では土下座しながら「この世の終わり」みたいな悲壮感で影を背負っていますし。
向こうで溶けているチッパーさんには悪いですが、反省しているようなので許して差し上げることにしましょう。
「よろしい。ではビッグプリンさんの件はひとまず置いておくとします」
「ホッ……」
「ところで貴方は一体どこから来たのですか? この辺りにハーピーはいなかったはずなのですが」
「あっ、そうっした! ご挨拶がまだでございましたね!」
こう問い質すと土下座から一転、ガニ股で座り込み。
右翼を足元に添え、左翼を腰裏に回しては下唇をキュッと尖らせます。
「あっし、産まれも育ちもぉ二つ向こうの山! その一帯をぉ仕切るハーピー一族、〝羽頂天組〟の名も無き若造の鉄砲玉にぃございやす!」
な、なんと任侠風……!?
何故かハーピーが東方ギャングみたいな挨拶をしています!
この二百年でいったいどんな文化を学んできたのです!?
「……と、いうのもつい先ほどまでの話でして」
「おや?」
「いやぁ~ボク何するにも失敗ばかりでしてねぇ! ――で今朝もおっちょこちょいな所が足を引っ張っちゃって仲間を怒らせちゃいまして。それでとうとう組からの破門を言い渡されたって訳です、ハイ……」
うん、想像に容易い話ですね。
彼女も隠す気が無いのか照れくさそうに頭を掻いています。
「それで仕方なくここまで流れてきたって話なんですよぉ。風の噂だと生意気なクソ狼どもが蹴散らされていなくなったって話じゃないですかぁ」
あらま、もうそんな噂が立っているのですね。
しかしよくツブレさんの前でそう口出せるものです。
まぁ当の本人はまったく気にも留めずにいつも通り目を丸くしていますけど。
「ならボクの新しいユートピアを作るならこの山がいいかなって」
「それ、ブルーイッシュウルフを蹴散らしたっていう方がまだいるとか考えなかったのです?」
「……あ、あはは」
はぁ、もう呆れて物も言えません。
全部早とちりでビッグプリンさんが犠牲になったなんて、もう不幸以外の何物でもありませんね。
ただ、帰る所が無いのは少し可哀そうな気もします。
お腹も空いているみたいですし。
人間時代では貧しい孤児院育ちだったこともあって、飢餓に苦しむ人たちを多く見てきたという過去もあります。
だからこそ困窮した方を出来る限り救いたいという想いも強い。
それなら、見捨てるなんてとても出来ませんよね。
「……いいでしょう。それでしたらわたくしたちと一緒に暮らしませんか?」
「えっ!?」
「ただしもちろんちゃんと役割をもって仕事して頂きます。ビッグプリンさん亡き今、誰かが畑の見張りをしなければなりませんからね」
「い、いいの!? ボク、ここにいていいの!? 取柄なんて変化魔術くらいしかないのに!? 同等サイズ以下にしか変身出来ないのに!?」
「ええ。貴方がそれで良ければですけどね」
あらあら、目を丸くして震えちゃって。
本当に信じられないって顔をしています。
もしかしたらそのハッピー組という所でもずっと孤独だったのかもしれません。
「や、やった……やっとボクにも居場所が……う、嬉しいっ! やったぁーーー!」
喜ぶあまり翼を掲げてピョンピョンと飛び跳ねていらっしゃいます。
よほど嬉しかったのでしょうね。ふふっ!
「でも今言ったことは忘れないでくださいね。皆で協力しあって生活しましょう」
「はいはーい! ボクがんばりまーすっ!」
またチッパーさんやツブレさんにも相談せずに決めてしまいましたが、お二人もきっとわかってくれるでしょう。
後は彼が変な失敗さえしなければ、ですけども。
「あ、そうだ。そういえばお名前が無いのでしたね」
「うん?」
「でしたら〝パピ〟は如何でしょう? ネーミングセンスに自信はありませんが」
「ボクの、名前……名前! パピ!」
ちょっと不安ではありましたが、本人は大喜びだったようです。
途端に飛び上がり、上空をぐるぐると羽ばたき回り始めました。
やはり魔物にとって名前は特別な意味があるようですね。
人間側から見ても〝ネームドモンスター〟という特殊カテゴリにも分類されるくらいですし。
その点、出会った時にはもう名前があったチッパーさんは本当の意味で特別だったのでしょう。
そんな気付きに想いを馳せつつ、楽しそうに空を舞うパピさんを目で追います。
どうか彼女の新しい人生が今度こそ成功しますように、と心にそっと願いながら。
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