上 下
10 / 65
第一章

第10話 お友達が増えました!

しおりを挟む
 ザバンとの戦いから翌日。
 天気は見事な晴れ。とても気持ちの良い朝の到来です。 

「おっはよーネルルちゃん! すっかり元気になったよー!」

 それで朝食の準備をしていたらミネッタさんが元気よく起床してまいりました。
 先日の夜のことには全く気付いていなさそうなので助かります。

「あれ、なんでチッパー君は外で寝てるの?」

「い、いやぁ……外の空気を感じながら寝たかったのでしょう」

 しかしミネッタさんのイビキがうるさかったなんてとても言えません。
 そのせいでチッパーさんが外で寝るハメになったなんてことも。

 おかげで消音術も今朝まで維持することになりましたし。
 ですのでわたくし、ちょっと寝不足です。ふわぁ~~~……。

「でもさ、なんか凄く空気が澄み切っている気がするね。なんだか清々しいっていうか」

 おや、ミネッタさんが場に漂う聖力に気が付いたようです。
 割と勘の強い方でもあるのかもしれませんね。

「山の早朝というのはこういうものですよ。自然の香りが満ち溢れる時間帯ですからねぇ」

「ふーん」

 ですがここはちょっとだけ別の真実で誤魔化しておきましょう。
 寝ている間に越界大戦の続きが行われた、だなんて口が裂けても言えませんし。

「さて、朝食も先日と同じお肉で申し訳ありませんが我慢してください。せめてサンドイッチくらいは用意して差し上げたかったのですが、なにせ未だ肉以外の食材を得る算段が立っていないものでして……」

「ああ~いいよ気にしないで」

「うーん、スローライフを送るにはまだまだ発展度合が足りませんね……」

 食材どころか料理を盛るお皿すらありませんからねぇ。
 カマドまで造ったのですから、そろそろ次のステップに移りたい所です。
 お皿なら陶芸とかいいかもしれませんねぇ、やったこと無いですが。

 そんなことを思いつつ談笑。
 そうして気付けば時間も過ぎ、完全な朝を迎えました。

 ミネッタさん帰還のお時間です。

「ネルルちゃん、あとチッパー君にグモン君、助けてくれてどうもありがとう」

「いえいえ、無事で良かったです。二人にもそう伝えておきますね」

「うん、感謝してもしきれないよ。いつか絶対お礼しに来るから!」

 準備も万端、といっても荷物は落としてしまったらしいのでほぼ手ぶらです。
 しかし降りるだけですし、魔狼たちの気配もこの一帯から消えましたから心配はいらないでしょう。

「……で、それはいいとしてアレどう思う?」

 だなんて思っていたのですが、ミネッタさんに指を差されて初めて気付きました。
 森の方から木陰に隠れてこちらを睨む存在に。

 でも体が大き過ぎて、下半身が幹の反対側からモロはみ出ています。
 隠れているつもりなのでしょうがもうバレバレですね。
 それでも気付かなかったわたくしも大概ですけど。

「あの青い毛並み、間違いなくブルーイッシュウルフだよね」

「か、監視なのでしょうか?」

 うーん、もう監視する必要は無いと思うのですが。
 
 でもなんだか魔物特有の殺意みたいなピリピリとした雰囲気を感じません。
 だから気付けなかったのでしょう。

 そこでふと干し肉の欠片を取り、彼の前にヒョイッと投げてみます。
 するとすぐに気付き、もう遠慮なくトコトコ出てきてパクッと咥えてしまいました。

 それでもってまるで催促するかのようにペタンと座り、尻尾もビュンビュンです。

「間違い無いわ。あれはまさしく野生を忘れたブルーイッシュウルフ」

「まだ野生なのに……」

「だって見て? あの気の抜けたような顔付き。潰れ顔みたいにも見えるもの」

「言われて見れば確かに。まるで餅に絵を描いたような顔をしていますね。目もなんだかツブラですし」

「なら彼はツブレ君ね!」

 ミネッタさん、実にアグレッシブです。
 正体もわからない相手に名前まで付けちゃうなんて。

 しかしあの体格、どこかで……。

 そう思いつつシュッともう一投すると、今度はしっかり口でキャッチしました。
 もう尻尾が土煙を立たせてしまうほどに暴れまくっています。
 警戒心皆無ですね!

「貴方はいったい何者ですか?」

「っ!?」

 そこで思い切って魔物の言葉で話しかけてみました。
 すると彼はビックリしたかのように口をぱっくり。

「オ、オラな、気付いたらその辺りにいただよ」

「昨日のことは覚えていないのですか?」

「昨日? さっぱりわかんねぇだ。オラが今まで何してたかも覚えてさいねぇ」

 ……まさか彼、ザバンに肉体を乗っ取られていた頭領の方?
 確かに体格は狼の時とそっくりですし。

「前は周りに仲間居た気がする。でももうどこにもいねぇ。オラどうしたらいいかわからねぇだよ」

 ただ、魔力はすっかり抜けているようです。
 むしろなんだか少し聖力すら感じますね。
 わたくしの攻撃を受けて浄化され、かつ消滅しきらなかった結果でしょうか?

「でしたらわたくしたちと一緒に暮らしますか?」

「お、おいネルル!? それマジで言ってるのか!?」

「ええ、彼からは悪い感じがしませんし。それならお友達になっても良いでしょう?」

「ま、まぁ確かにな……」

「受け入れてもらえてオラ嬉しいだよー。いつも体が大きいばかりの愚図だってイジメられてばかりだったからナー」

 なるほど、その劣等感をザバンに突かれたのでしょうね。
 元々体も大きいから受け皿としても素質があったのかもしれません。

 でもそのザバンはもういない。
 ですから再びあのおぞましい姿に戻ることはきっともう無いでしょう。

「でしたらお友達の第一歩として、この人間のミネッタさんを村まで送り届けて頂けませんか?」

「いいよー。なんかその人間いい匂いがするしナー」

 だったらもうこんな無茶を頼んでも平気なはず。
 なんとなく、彼からはチッパーさんにも通じる雰囲気を感じますから。

「ミネッタさん、彼が村まで送り届けてくれるそうです。でも心配しないでください、彼は無害だとわたくしが保証しますので」

「ネルルちゃんがそう言うなら信じるよ!」

 ミネッタさんにも魔物に好かれる素質があります。
 彼女も乗り気だし何も支障は無いでしょう。

 そうなると残るはミネッタさん側の問題だけですね。

「ただし、お礼に関しては遠慮させてください」

「えっ? なんで?」

「人間と魔物が関係を持つことはあまり好ましくありません。要らぬ誤解を生みますから。ですからどうかここでのことは忘れ、人としての人生を歩んでほしいのです」

 ここでわたくしたちが平穏に暮らすためにも、彼女には黙っていて欲しい。
 お互いのためにもそう願わずにはいられません。

 そんな願いを密かに託し、ミネッタさんを大手を振って見送りました。
 人の良い彼女のことですからきっと悪いようにはしないでしょう。

「しっかし、随分と思い切ったことを頼んだなぁ。俺にゃあまだミネッタの身が心配でならねぇよ」

「ツブレさんならなんとなく平気だって気がしたので……。相談も無しにすみません」

「ま、無事に帰れりゃそれでいいさ。でも関係を断っちまうなんて本当にいいのかよ? あんなイイ人間、他にはいねぇぞ?」

「ええ、いいのですよ、これで……」

 そう、これが最善の形なのです。
 これ以上彼ら人間とは関わらない方がいい。

 でなければ、いつかわたくしが聖滅の乙女だったということにも気付かれるかもしれませんから。

 聖滅の乙女。
 呪われし聖女。
 そして神の遣いを偽る悪逆の魔女。

 そう呼ばれた末に同族である人間の手によって葬られた。
 そんな忌まわしき時代のわたくしのことはもう、誰にも知られたくはないですから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」 聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。 その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。 ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。 王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。 「では、そう仰るならそう致しましょう」 だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。 言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、 森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。 これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

処理中です...