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第一章
第9話 それはわたくしが聖女だから
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わたくしが満を持して放った光。
その輝きを前にザバンが恐れ戦きます。
なにせこの輝きは並みの魔物なら浴びただけで消し飛ぶほどに強力なもの。
チッパーさんとてわたくしの背後にいなければ瞬時に浄滅していたでしょう。
「チッパーさん、そこを決して動かないでください」
「ネ、ネルル……お、お前……!?」
「大丈夫。すぐに済みますから」
チッパーさんは賢いですから、こう言えばきっとわかってくれます。
ですがそれよりも。
「バ、バカな!? そ、その輝きは〝聖力〟!? な、なぜだ!? なぜ魔物の貴様が!?」
対するザバンは驚愕するあまりに足まで引かせていました。
さすがに彼ほどの力があれば消滅には至りませんが、警戒させるには充分だったのでしょう。
そう、今のはただの警告に過ぎません。
わたくしという危険な存在を報せるための。
「しかもその力の異様な大きさはなんだ!? まるで、あの、あの――ハッ!? まさか貴様はあああ!!!??」
そしてその効果は絶大だった。
ザバンは身をたじろがせ、顎まで震わせている。
この聖力の強さを知る彼だからこそ気付けたのでしょうね。
「そ、そんなはずはない! 貴様は二百年も前に死んだはず! 我らの呪いを十二分に受けたはず! そして人間どもの手によってむごたらしく惨殺されたはずだああああああ!」
「ええそうですね。〝彼女〟はもうとっくに死んでいますとも」
「そうだ、生きているはずがない! なのに、なのになぜ貴様がここにいる!?」
彼がザバンであるとわかった時から、こう怯えることはわかっていました。
なにせこの輝きを見せたのは一度ではないから。
二百年前にも一度、彼に嫌というほど浴びせて差し上げたのですから。
「〝聖滅の乙女〟ネルル=エリス=ティエラ!!!!! たった一人で魔族を殲滅せし女!!!!! 貴様がどうしてここにいるのだぁぁぁあああ!!!???」
それにしたってこの怯えよう。
本当に二百年前の出来事を覚えているのでしょうね。
まぁ無理もありません。
二百年前では一方的に攻撃され続け、成す術もなく聖滅させられたのですし。
「なぜかと言われれば理由はわかりません。ですが根本は貴方と同じですよ」
「え"ッ!?」
おや、さすがに彼らも転生までは知らないようですね。
魔物に生まれ変わったのもてっきり彼らから受けた呪いのせいかとも思っていましたが、そういう訳では無さそうです。
しかしそんなことなど今は関係無い。
そう言わんばかりにザバンを睨みつけ、胸に充てた右腕を振り下ろします。
「ですが魔物に産まれたからこそ魔物の気持ちもわかって、彼らも守ろうと思えました」
「ううっ!?」
「しかし貴方はその想いすら踏み躙り、お友達のグモンさんにまで手を掛けた!」
「ヒッ!?」
「よって、貴方はもう一度聖滅させられるべき存在だと認識いたしました……ッ!!! ですが今度は容赦しません。思念体ごと消し去って差し上げましょうッ!!!」
もう許すつもりは微塵もありません。
元の体がどうなろうと彼を止めなければなりません。
それがひいてはブルーイッシュウルフたちを救うことにもなるから。
「う、う、ウオオオオ!!! こうなったら貴様を先に殺してやるウウウ!!!!!」
ザバンが性懲りもなくわたくし目掛けて走り込んできました。
すぐ傍だからこそ間に合うとも思ったのでしょう。
でもねザバン。
わたくしの力はもう、既に溜め切っているのですよ。
「――ッ!!!??」
故に右手から放たれていた光が瞬時にして収束。
拳を彼へと向けた瞬間、極光の槍が遥か暗空を穿ちました。
その名を【神霊槍エンヴォルク】。
かつて聖女として戦ったわたくしの力の一端です。
ですがザバンは間一髪で空へと飛び跳ね、脇スレスレで光の槍をかわしていて。
「ぐううう!? こうなったら一度撤退して――」
しかし関係ありませんね。
それならわたくしはただ右腕を薙ぎ払えばいいだけ。
ただそれだけでザバンは光に飲まれ、容易く消し飛んでしまったのですから。
「……今は貴方のために祈りましょう。その魂の素子がいつか浄化され、世のためになりますよう」
光の槍はさらに森をも包み、周辺が反射する光で溢れかえります。
そんな光の薙ぎった痕には無数の花々が咲き誇っていました。
強力な聖力によって類稀なる生命力が与えられた結果でしょう。
「「「ザ、ザバン様負けた!?」」」
「「「俺たち勝てる訳ない!」」」
「「「ひ、ひいいい!?」」」
そんな最中にも怯え声が周囲から溢れ、赤い眼たちがまばらに消えていく。
頭領を失い、統率を維持できずに逃げてしまったようです。
「チッパーさん、御無事ですか?」
「お、おう。なんだかよくわからねーが凄かったな!」
良かった、チッパーさんは平気だったようですね。
彼に聖力が向かないよう意識していて正解でした。
ですが……。
「グモンさん、ごめんなさい、貴方を守れなくて……!」
グモンさんの亡骸の前で膝を突き、頭を下げます。
そうしたら涙まで零れてきました。
せっかく巡り合えたお友達だったのに……!
「ぐもん?」
「「へっ?」」
でもそんな声と共に、崩れていた岩片が時を戻すように浮き上がります。
そうしてピタピタとくっつくと、元のグモンさんの姿に戻りました。
なんということでしょう。
どうやら彼、無機物なので不死身みたいです。
「バ、バカ野郎! 死んでねぇなら死んでねぇって言いやがれぇ! 泣いて損しちまったじゃねぇかあああ!」
「ぐ、ぐも~~~ん……」
チッパーさんの言い分はちょっと理不尽ですが、まぁ結果的には良かったのでいいでしょう。
流した涙がお友達として大切に思っていたことの証明にもなりましたから。
何にせよザバンは消すしかなかった。そう割り切ることにします……。
ミネッタさんもまだ眠ったままですし、これで何事もなく万事解決。
おかげでいつも通りの朝が迎えられそうですね。
そんな安堵を覚えつつ、チッパーさんとグモンさんの続くやりとりを見てフフッと笑うのでした。
その輝きを前にザバンが恐れ戦きます。
なにせこの輝きは並みの魔物なら浴びただけで消し飛ぶほどに強力なもの。
チッパーさんとてわたくしの背後にいなければ瞬時に浄滅していたでしょう。
「チッパーさん、そこを決して動かないでください」
「ネ、ネルル……お、お前……!?」
「大丈夫。すぐに済みますから」
チッパーさんは賢いですから、こう言えばきっとわかってくれます。
ですがそれよりも。
「バ、バカな!? そ、その輝きは〝聖力〟!? な、なぜだ!? なぜ魔物の貴様が!?」
対するザバンは驚愕するあまりに足まで引かせていました。
さすがに彼ほどの力があれば消滅には至りませんが、警戒させるには充分だったのでしょう。
そう、今のはただの警告に過ぎません。
わたくしという危険な存在を報せるための。
「しかもその力の異様な大きさはなんだ!? まるで、あの、あの――ハッ!? まさか貴様はあああ!!!??」
そしてその効果は絶大だった。
ザバンは身をたじろがせ、顎まで震わせている。
この聖力の強さを知る彼だからこそ気付けたのでしょうね。
「そ、そんなはずはない! 貴様は二百年も前に死んだはず! 我らの呪いを十二分に受けたはず! そして人間どもの手によってむごたらしく惨殺されたはずだああああああ!」
「ええそうですね。〝彼女〟はもうとっくに死んでいますとも」
「そうだ、生きているはずがない! なのに、なのになぜ貴様がここにいる!?」
彼がザバンであるとわかった時から、こう怯えることはわかっていました。
なにせこの輝きを見せたのは一度ではないから。
二百年前にも一度、彼に嫌というほど浴びせて差し上げたのですから。
「〝聖滅の乙女〟ネルル=エリス=ティエラ!!!!! たった一人で魔族を殲滅せし女!!!!! 貴様がどうしてここにいるのだぁぁぁあああ!!!???」
それにしたってこの怯えよう。
本当に二百年前の出来事を覚えているのでしょうね。
まぁ無理もありません。
二百年前では一方的に攻撃され続け、成す術もなく聖滅させられたのですし。
「なぜかと言われれば理由はわかりません。ですが根本は貴方と同じですよ」
「え"ッ!?」
おや、さすがに彼らも転生までは知らないようですね。
魔物に生まれ変わったのもてっきり彼らから受けた呪いのせいかとも思っていましたが、そういう訳では無さそうです。
しかしそんなことなど今は関係無い。
そう言わんばかりにザバンを睨みつけ、胸に充てた右腕を振り下ろします。
「ですが魔物に産まれたからこそ魔物の気持ちもわかって、彼らも守ろうと思えました」
「ううっ!?」
「しかし貴方はその想いすら踏み躙り、お友達のグモンさんにまで手を掛けた!」
「ヒッ!?」
「よって、貴方はもう一度聖滅させられるべき存在だと認識いたしました……ッ!!! ですが今度は容赦しません。思念体ごと消し去って差し上げましょうッ!!!」
もう許すつもりは微塵もありません。
元の体がどうなろうと彼を止めなければなりません。
それがひいてはブルーイッシュウルフたちを救うことにもなるから。
「う、う、ウオオオオ!!! こうなったら貴様を先に殺してやるウウウ!!!!!」
ザバンが性懲りもなくわたくし目掛けて走り込んできました。
すぐ傍だからこそ間に合うとも思ったのでしょう。
でもねザバン。
わたくしの力はもう、既に溜め切っているのですよ。
「――ッ!!!??」
故に右手から放たれていた光が瞬時にして収束。
拳を彼へと向けた瞬間、極光の槍が遥か暗空を穿ちました。
その名を【神霊槍エンヴォルク】。
かつて聖女として戦ったわたくしの力の一端です。
ですがザバンは間一髪で空へと飛び跳ね、脇スレスレで光の槍をかわしていて。
「ぐううう!? こうなったら一度撤退して――」
しかし関係ありませんね。
それならわたくしはただ右腕を薙ぎ払えばいいだけ。
ただそれだけでザバンは光に飲まれ、容易く消し飛んでしまったのですから。
「……今は貴方のために祈りましょう。その魂の素子がいつか浄化され、世のためになりますよう」
光の槍はさらに森をも包み、周辺が反射する光で溢れかえります。
そんな光の薙ぎった痕には無数の花々が咲き誇っていました。
強力な聖力によって類稀なる生命力が与えられた結果でしょう。
「「「ザ、ザバン様負けた!?」」」
「「「俺たち勝てる訳ない!」」」
「「「ひ、ひいいい!?」」」
そんな最中にも怯え声が周囲から溢れ、赤い眼たちがまばらに消えていく。
頭領を失い、統率を維持できずに逃げてしまったようです。
「チッパーさん、御無事ですか?」
「お、おう。なんだかよくわからねーが凄かったな!」
良かった、チッパーさんは平気だったようですね。
彼に聖力が向かないよう意識していて正解でした。
ですが……。
「グモンさん、ごめんなさい、貴方を守れなくて……!」
グモンさんの亡骸の前で膝を突き、頭を下げます。
そうしたら涙まで零れてきました。
せっかく巡り合えたお友達だったのに……!
「ぐもん?」
「「へっ?」」
でもそんな声と共に、崩れていた岩片が時を戻すように浮き上がります。
そうしてピタピタとくっつくと、元のグモンさんの姿に戻りました。
なんということでしょう。
どうやら彼、無機物なので不死身みたいです。
「バ、バカ野郎! 死んでねぇなら死んでねぇって言いやがれぇ! 泣いて損しちまったじゃねぇかあああ!」
「ぐ、ぐも~~~ん……」
チッパーさんの言い分はちょっと理不尽ですが、まぁ結果的には良かったのでいいでしょう。
流した涙がお友達として大切に思っていたことの証明にもなりましたから。
何にせよザバンは消すしかなかった。そう割り切ることにします……。
ミネッタさんもまだ眠ったままですし、これで何事もなく万事解決。
おかげでいつも通りの朝が迎えられそうですね。
そんな安堵を覚えつつ、チッパーさんとグモンさんの続くやりとりを見てフフッと笑うのでした。
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