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第一章
第5話 どうやら来客は一人だけではなかったようです
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わたくしの話を聞いたミネッタさんがポカンとしてしまいました。
どうやらあまりに唐突過ぎたようで現実を受け入れられていないご様子。
確かに、目的地に偶然辿り着けたというのは出来過ぎですよね。
とはいえそれだけの素養があるからこその必然だったとわたくしは考えています。
「び、びっくりだね、まさかここが封印の地だなんて。じゃあネルルちゃんってこの聖地を守る守護者とかだったりするの?」
「いえ違います。わたくしとチッパーさんは一ヵ月前くらいにここへ流れ着いた新参者ですよ。グモンさんはここ出身ですけどね」
「ぐも!」
「それとですが、封印の地が聖地というのは少し違います」
「えっ?」
伝承とは時を置けば砂文字のように掠れて消え行くもの。
雰囲気的に見てミネッタさんも封印の地が何かを知らないようですし、せっかくですから教えて差し上げるとしましょう。
「封印の地とはいわば異界とこの現世を繋ぐ〝扉〟のある場所を指します」
「異界って?」
「異界とはすなわち魔物の祖である魔族の故郷。かつて彼らは現世を手に入れるために扉を作り、侵略の足掛かりとしたのです」
「はぇ~~~……」
「そうしてこの世界の人間と魔族で争ったのが〝越界大戦〟という伝説にもなった出来事ですね」
「ああ~それ名称だけ知ってるー!」
「その戦時中にとある神の遣いが扉を封印して回ったために〝封印の地〟と呼ばれるようになったのです。つまりどちらかと言えば邪悪な土地と言えるでしょう。禁足地となったのはそれが理由かと」
やっぱりここまではミネッタさんも知らなかったようですね。
またしてもおめめを見開かせてポカンとしてしまいました。
……ううん違う。
まんまる瞳に〝思考読み込み中〟と流れているのが丸見えですね。
ちょっと情報量が多かったでしょうか。
「ですがもう危険はありません。扉は既に自然消滅したようですから」
「あ、そうなんだ。じゃあこの封印の地にはもう何も残ってないんだね」
「ええ。それでわたくしたちが一ヵ月前にこの地へと訪れた際、守護者だったセイントゴーレムたちはその事実を教えられたことで役目を終えたと悟り、天へ還りました。この地に充満していた聖力と共に」
「それが一ヵ月前に見た光だったのかぁ……納得したわー」
ミネッタさんもようやくわかってくださったようですね。
もっとも、説明しようもない事由もあるので多くは語らないつもりですが。
この地が元々聖力に溢れていたから素行の良いミネッタさんが導かれた、とか。
聖力とは本来、神が与えたもうた力ですからねぇ。
故に性質上、こういう運命を強く引き寄せたりすることはよくある話です。
「じゃあもしかしてこのグモン君もそのゴーレムの一人だったり?」
「ええそうです。厳密には彼らが造り出した独立式の防衛装置みたいですが」
「へぇ~、じゃあまるでネルルちゃんを守るために産まれた存在みたいだね~」
「あ、あはは……そ、そうかもですねぇ~」
あらま、余計な閃きまで引き寄せてしまったみたい。
仕方ないので笑って誤魔化すとしましょう。
「ってことは私の家柄の役目も終わりって訳かぁ……お父さんたちにどう伝えたらいいものか」
「ふふっ、別に終わりって訳でもありませんよ。〝封印の地があった〟という話を言い伝えることもまた大事だと思いますし」
「そっか。じゃあ適当にそう言って誤魔化しておくよ。特にあの傲慢な兄貴たちに説明するのはすごく面倒だしね」
あらあら、そうやって問題を先送りにしたらお兄様方が増長し続けるのでは?
ミネッタさんがその辺りをわかっていないとは思えませんが。
ま、身内の話に深く切り込むのは無粋な話ですね。
「さて、もう夜ですしそろそろお休みしておいた方がよいでしょう。体調も万全にしておかないとですし、帰るのは明日の朝でも遅くはありませんしね」
「うん、そうさせてもらうよ」
かまどの火もだいぶ収まってきていますし、丁度良い頃合いでしょう。
すっかり話し込んでしまいましたが。
こう伝えるとミネッタさんは眠たそうにお家へと戻ってすぐにスヤスヤと床へ。
催眠術の効果がようやく出始めた感じですね。
……さて。
「いつまで隠れているおつもりですか? そろそろ出てきては如何でしょう?」
そっと立ち上がりながら周囲へ向けて声を張り上げます。
すると途端、周囲の森の闇間に無数の赤い輝きがブワワッと浮かびました。
どうやら〝彼ら〟は既にこの地を取り囲んでいるようですね。
でも先ほどからずっと殺意を向けてきていたことには気付いていました。
ミネッタさんが不安にならないよう顔には出しませんでしたが。
「小娘、まさか貴様が人語まで扱えるとは思わなかったぞ?」
そしてより強い殺意を向けた者が一人で堂々と歩いてやってきました。
それもひと際大きい狼の魔物が。
あの青と白の毛並み。
四足でありながらも人間並みの背丈。
そして殺意にまみれた赤く鋭い目付き。
現れたのはやはりブルーイッシュウルフ、この周辺地域を支配する魔物。
しかもわたくしたちの前に姿を見せたのは一回り大きい個体。
きっと彼らの頭領的存在でしょう。
まさかの存在の登場に緊張を禁じ得ません。
久しぶりに肉球に汗を握ってしまいました……!
どうやらあまりに唐突過ぎたようで現実を受け入れられていないご様子。
確かに、目的地に偶然辿り着けたというのは出来過ぎですよね。
とはいえそれだけの素養があるからこその必然だったとわたくしは考えています。
「び、びっくりだね、まさかここが封印の地だなんて。じゃあネルルちゃんってこの聖地を守る守護者とかだったりするの?」
「いえ違います。わたくしとチッパーさんは一ヵ月前くらいにここへ流れ着いた新参者ですよ。グモンさんはここ出身ですけどね」
「ぐも!」
「それとですが、封印の地が聖地というのは少し違います」
「えっ?」
伝承とは時を置けば砂文字のように掠れて消え行くもの。
雰囲気的に見てミネッタさんも封印の地が何かを知らないようですし、せっかくですから教えて差し上げるとしましょう。
「封印の地とはいわば異界とこの現世を繋ぐ〝扉〟のある場所を指します」
「異界って?」
「異界とはすなわち魔物の祖である魔族の故郷。かつて彼らは現世を手に入れるために扉を作り、侵略の足掛かりとしたのです」
「はぇ~~~……」
「そうしてこの世界の人間と魔族で争ったのが〝越界大戦〟という伝説にもなった出来事ですね」
「ああ~それ名称だけ知ってるー!」
「その戦時中にとある神の遣いが扉を封印して回ったために〝封印の地〟と呼ばれるようになったのです。つまりどちらかと言えば邪悪な土地と言えるでしょう。禁足地となったのはそれが理由かと」
やっぱりここまではミネッタさんも知らなかったようですね。
またしてもおめめを見開かせてポカンとしてしまいました。
……ううん違う。
まんまる瞳に〝思考読み込み中〟と流れているのが丸見えですね。
ちょっと情報量が多かったでしょうか。
「ですがもう危険はありません。扉は既に自然消滅したようですから」
「あ、そうなんだ。じゃあこの封印の地にはもう何も残ってないんだね」
「ええ。それでわたくしたちが一ヵ月前にこの地へと訪れた際、守護者だったセイントゴーレムたちはその事実を教えられたことで役目を終えたと悟り、天へ還りました。この地に充満していた聖力と共に」
「それが一ヵ月前に見た光だったのかぁ……納得したわー」
ミネッタさんもようやくわかってくださったようですね。
もっとも、説明しようもない事由もあるので多くは語らないつもりですが。
この地が元々聖力に溢れていたから素行の良いミネッタさんが導かれた、とか。
聖力とは本来、神が与えたもうた力ですからねぇ。
故に性質上、こういう運命を強く引き寄せたりすることはよくある話です。
「じゃあもしかしてこのグモン君もそのゴーレムの一人だったり?」
「ええそうです。厳密には彼らが造り出した独立式の防衛装置みたいですが」
「へぇ~、じゃあまるでネルルちゃんを守るために産まれた存在みたいだね~」
「あ、あはは……そ、そうかもですねぇ~」
あらま、余計な閃きまで引き寄せてしまったみたい。
仕方ないので笑って誤魔化すとしましょう。
「ってことは私の家柄の役目も終わりって訳かぁ……お父さんたちにどう伝えたらいいものか」
「ふふっ、別に終わりって訳でもありませんよ。〝封印の地があった〟という話を言い伝えることもまた大事だと思いますし」
「そっか。じゃあ適当にそう言って誤魔化しておくよ。特にあの傲慢な兄貴たちに説明するのはすごく面倒だしね」
あらあら、そうやって問題を先送りにしたらお兄様方が増長し続けるのでは?
ミネッタさんがその辺りをわかっていないとは思えませんが。
ま、身内の話に深く切り込むのは無粋な話ですね。
「さて、もう夜ですしそろそろお休みしておいた方がよいでしょう。体調も万全にしておかないとですし、帰るのは明日の朝でも遅くはありませんしね」
「うん、そうさせてもらうよ」
かまどの火もだいぶ収まってきていますし、丁度良い頃合いでしょう。
すっかり話し込んでしまいましたが。
こう伝えるとミネッタさんは眠たそうにお家へと戻ってすぐにスヤスヤと床へ。
催眠術の効果がようやく出始めた感じですね。
……さて。
「いつまで隠れているおつもりですか? そろそろ出てきては如何でしょう?」
そっと立ち上がりながら周囲へ向けて声を張り上げます。
すると途端、周囲の森の闇間に無数の赤い輝きがブワワッと浮かびました。
どうやら〝彼ら〟は既にこの地を取り囲んでいるようですね。
でも先ほどからずっと殺意を向けてきていたことには気付いていました。
ミネッタさんが不安にならないよう顔には出しませんでしたが。
「小娘、まさか貴様が人語まで扱えるとは思わなかったぞ?」
そしてより強い殺意を向けた者が一人で堂々と歩いてやってきました。
それもひと際大きい狼の魔物が。
あの青と白の毛並み。
四足でありながらも人間並みの背丈。
そして殺意にまみれた赤く鋭い目付き。
現れたのはやはりブルーイッシュウルフ、この周辺地域を支配する魔物。
しかもわたくしたちの前に姿を見せたのは一回り大きい個体。
きっと彼らの頭領的存在でしょう。
まさかの存在の登場に緊張を禁じ得ません。
久しぶりに肉球に汗を握ってしまいました……!
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