13 / 17
2、【始まり】
*
しおりを挟む
帰宅後、すぐに夕飯の準備に取り掛かった。簡単にできるメニューで申し訳ないが、部長も好きだと言っていた和食を予定している。
まずは、きんぴらごぼうから。ピーラーでニンジンの皮を剥いていく。子供の頃はピーラーが苦手で野菜の皮と一緒に自分の皮まで削いでしまうことも。今では、一本剥くのにさほど時間もかからなくなった。
少しは料理の腕も成長しているということなのだろうか?
ごぼうに手を伸ばした時。携帯が静かな室内に鳴り響いた。──誰?
見覚えのない番号が表示されている。非通知ではないし、元カレの線は薄いかもしれない。恐る恐る通話ボタンをタップした。
「もしもし……」
「急に電話してすまない。俺だ」
これは……噂に聞く【オレオレ詐欺】というやつではないか!?
声にも聞き覚えがないような気もする。
「会社で問題が起きて」
金銭の要求に使われる手口だと詐欺の特集番組でやっていた。これは、確実に【オレオレ詐欺】。静かに耳元から携帯を離し、通話終了ボタンを押した。
これで一安心だ。もう掛けてくることはないだろう。しかし、本当に【オレオレ詐欺】はあるようだ。今まで被害に遭ったことがなかったから実感が湧かなかったが……。危うく、借金が増えるところだった。気を付けよう。
さて、ごぼうの皮むきを……とキッチンに行こうとしたら、再び電話が鳴った。それもさっきと同じような番号から。懲りない詐欺師だと思いつつ、電話に出た。一言文句を言ってやろうと思ったからだ。
「おい、人が話している最中に電話を切るな」
「何ですか、その偉そうな態度は! 詐欺師のくせに!」
「……木浪、誰が【詐欺師】だって? まさか、毎日顔を合わせている上司の声も忘れたのか?」
「え……あ、まさか──!?」
「分かったなら、名前を言ってみろ。間違えたら、明日の仕事量は三倍に増やす」
こんな鬼畜発言をする上司は一人しかいない。
「ごめんなさい、鬼頭部長!!」
姿の見えない部長に全力で頭を下げた。
「本当にごめんなさい!」
「分かればいい。名乗らなかった俺も悪い」
「でも、よく私の番号が分かりましたね」
「あぁ。履歴書のコピーがあったからな」
「なるほど! それで、ご用件は?」
「……イチゴとチョコ、どっちがいい?」
「え? 何ですか、急に」
「いいから、早く答えろ。イチゴとチョコ、どっちだ?」
「……じゃあ、イチゴで」
「分かった」
私の返答を聞くなり、一方的に切られてしまった。さっきの質問は一体何だったのだろう。
それにしても、毎日会っている上に一緒に住んでいる鬼頭部長の声を聞き覚えが無いと思うなんて……。口が裂けても本人には言えない。仕事量三倍どころじゃ済まされない、絶対。謝罪の気持ちも料理に込めて美味しいものを提供しよう。
まずは、きんぴらごぼうから。ピーラーでニンジンの皮を剥いていく。子供の頃はピーラーが苦手で野菜の皮と一緒に自分の皮まで削いでしまうことも。今では、一本剥くのにさほど時間もかからなくなった。
少しは料理の腕も成長しているということなのだろうか?
ごぼうに手を伸ばした時。携帯が静かな室内に鳴り響いた。──誰?
見覚えのない番号が表示されている。非通知ではないし、元カレの線は薄いかもしれない。恐る恐る通話ボタンをタップした。
「もしもし……」
「急に電話してすまない。俺だ」
これは……噂に聞く【オレオレ詐欺】というやつではないか!?
声にも聞き覚えがないような気もする。
「会社で問題が起きて」
金銭の要求に使われる手口だと詐欺の特集番組でやっていた。これは、確実に【オレオレ詐欺】。静かに耳元から携帯を離し、通話終了ボタンを押した。
これで一安心だ。もう掛けてくることはないだろう。しかし、本当に【オレオレ詐欺】はあるようだ。今まで被害に遭ったことがなかったから実感が湧かなかったが……。危うく、借金が増えるところだった。気を付けよう。
さて、ごぼうの皮むきを……とキッチンに行こうとしたら、再び電話が鳴った。それもさっきと同じような番号から。懲りない詐欺師だと思いつつ、電話に出た。一言文句を言ってやろうと思ったからだ。
「おい、人が話している最中に電話を切るな」
「何ですか、その偉そうな態度は! 詐欺師のくせに!」
「……木浪、誰が【詐欺師】だって? まさか、毎日顔を合わせている上司の声も忘れたのか?」
「え……あ、まさか──!?」
「分かったなら、名前を言ってみろ。間違えたら、明日の仕事量は三倍に増やす」
こんな鬼畜発言をする上司は一人しかいない。
「ごめんなさい、鬼頭部長!!」
姿の見えない部長に全力で頭を下げた。
「本当にごめんなさい!」
「分かればいい。名乗らなかった俺も悪い」
「でも、よく私の番号が分かりましたね」
「あぁ。履歴書のコピーがあったからな」
「なるほど! それで、ご用件は?」
「……イチゴとチョコ、どっちがいい?」
「え? 何ですか、急に」
「いいから、早く答えろ。イチゴとチョコ、どっちだ?」
「……じゃあ、イチゴで」
「分かった」
私の返答を聞くなり、一方的に切られてしまった。さっきの質問は一体何だったのだろう。
それにしても、毎日会っている上に一緒に住んでいる鬼頭部長の声を聞き覚えが無いと思うなんて……。口が裂けても本人には言えない。仕事量三倍どころじゃ済まされない、絶対。謝罪の気持ちも料理に込めて美味しいものを提供しよう。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました
utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。
がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる