目覚めの悪い朝も嫌いじゃない

望月おと

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1、【再出発】

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 狭い室内の中央に置かれた長テーブル一台とパイプ椅子。その向こう側には、鋭い切れ長の目に銀縁の眼鏡をかけたオールバックの男性が腕を組み、パイプ椅子に腰かけていた。まるで、刑事ドラマで見たことがある取調室のようだ。

「木浪と申します。よろしくお願いします!」
鬼頭きとうです。どうそ、お掛けください」
「失礼します……」

 椅子に腰かけてから、鬼頭さんは私に名刺を手渡した。そこには、【部長】の文字。通りで……威圧感があるわけだ。

 ピリピリした空気が室内に立ち込めている。永峯さんから情報を得ていてよかった。何も知らずに扉を開けていたら、緊張と彼が放つこの空気に打ちのめされていただろう。

「……以前も、うちと似たような仕事を?」
「はい。主に事務作業を行っていました」
「……なるほど」

 そう言って、ちらりと私を見たが、すぐさま履歴書に彼は視線を戻した。なかなか飛んでこない質問。無音のまま、時間だけが流れていく。……私に興味がないということなのだろうか。これまで受けた面接は、企業側からの質問攻めがほとんどで、会社を後にする頃にはクタクタになっていた。しかし、目の前の彼は一向に口を開こうとはせず、履歴書を穴が開くほど見つめているだけ。

 いつまで、この沈黙は続くのだろう……。この部屋に時計は無いらしく、正確にどのくらい時間が経ったかは分からないが、体感で言うなら十五分は経ったように感じる。

「……意外としぶといんだな」
「はい?」

 急に飛んできた会話に、思わず聞き返してしまった。

「これまで面接をした奴らは俺との沈黙に耐えられず、すぐさま部屋から出ていった」
「……そう、なんですか」
「お前、少しは骨がありそうだな。上には俺から話しておこう」
「……え? つまり、それって──」
「まぁ最終的には上が決めることになるが、おそらく【採用】されるだろう」
「本当、ですか!? 嬉しいです!! ありがとうございます!!」

 立ち上がってお礼を伝えた私に「気が早い。まだ採用が確定したわけじゃ──」と苦い顔を鬼頭さんは向けたが、あまりにも喜ぶ私を見て「……言った手前、責任は取ろう」と約束してくれた。

 怖い顔はしているが、心はやさしい人なのかもしれない。
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